生まれ変わったら赤髪の幼馴染ができました   作:お米大好き

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誤字報告ありがとうございます。


14.最悪な1日です。

 

 

 

 

「……あれ?」

 

思わず足を止め、首をかしげた。

 

 記念すべき退院日、病院の玄関を出た先で待っていたのは、胡桃色の長い髪を持つ女性が1人、この場合は一神、一柱?と言うべきでしょうか。

 

「どうかしたかしら」

 

 優しげな声とともに、その女性──アストレア様が微笑んだ。

 

 

 誰かしら来てくれるとは思っていたけれど、まさか自分の退院に主神が直々に来てくれるとは思っていなかった。

 

「……えっと、てっきりアリーゼたちが迎えに来るのかと」

 

「ふふ、あの子たちなら2日前に遠征へ出たわ」

 

「遠征…ですか」

 

 

そうですか。遠征に……納得と言うか、ここ数日誰も見舞いに来なかったんですね。

 『教えてくれてもよかったのでは…』と呟くと『あの子達はあなたが着いてこようとしないか心配だったのよ』とアストレア様が教えてくれた。

 

 行きませんよ。強くなりたいとも冒険したいとも思いますけど、命を投げ捨てるような事をしたいとはまだ思いません。

 

「いったいアリーゼ達の中で僕はどういったイメージを持たれているんでしょう…」

 

 そう言うと、アストレア様はふふっと小さく笑った。

 

「あなたは、あの子たちにとって“特別”な存在になりつつあるのよ。誰も口には出さないけれど……私には分かるわ」

 

「……それって、良い意味ですか?」

 

「どうかしら? 少なくとも“心配の種”という意味では間違いなく特別ね」

 

 微笑まれながらそんなことを言われ、思わず苦笑いを漏らしてしまう。まったく、僕はこのファミリアでどんなポジションに収まりつつあるのだろう。

 

「さて、帰りましょうか。あなたの荷物は……ふふ、身軽でいいわね」

 

 アストレア様がくるりと背を向け、街へと歩き出す。僕も少し遅れてその後を追いかけるように歩き始めた。

 

 石畳の道を歩きながら、通りすがりの人々がちらちらとこちらを見ているのに気づく。

 神様と並んで歩いているのだから、ある意味当然だ。ましてやアストレア様のような気品と美しさを備えた存在が一緒なら、注目されないわけがない。

 

「……タクト」

 

「はい?」

 

「アリーゼたちが帰ってくるまでの間、少しだけ“あなたの立場”について話し合っておきましょうか」

 

「立場、ですか?」

 

「ええ。あなたの身に起きたこと、これから起こりうること──そして、周囲の目に着いても」

 

 思わず足を止めた。

 その言葉に、心臓が小さく跳ねる。

 

「……何か、問題が?」

 

 問い返すと、アストレア様は振り返り、優しいけれどどこか厳しさを秘めた眼差しでこちらを見つめてきた。

 

「あなたが“どこで”“何をしたか”、もう情報は広まり始めているわ。あなた自身は、まだそれに自覚がないでしょうけれど」

 

「あの、爆発事件のことですか?」

 

「ええ。そして、あなたがその現場で“誰かを救った”ことも」

 

 その言葉を聞いた瞬間、体がびくりと反応した。

 

「あなたは、自分の選択で動いた。それは素晴らしいこと。だけど──」

 

 アストレア様は一歩だけこちらに近づき、そのまま静かに続けた。

 

「それは“責任”も背負うということ。あなたが“誰かを救った”という噂が広まれば、同時に“なぜ他は救えなかったのか”と問われることもあるわ」

 

「……」

 

 言葉が出なかった。

 まさに、それは僕が遠くない未来で抱えるであろう悩みの一つだったから。

 数年後の大抗争で起きる輝夜とライラに対する市民達の掌返し。

 守ってきたものを守れなかった時、追い詰められた人たちの感情の矛先は僕らへとやってくる。

 彼女が言っているのはそれに類する事だろう。

 

 

「もちろん、私はあなたの行動を否定しない。むしろ誇らしいと思っているわ。だけど、世界はそう単純ではないのよ」

 

「……はい」

 

「今後、あなたには選択の連続が待っているわ。その一つ一つに、自分なりの“理由”と“覚悟”を持ちなさい。それができるなら、あなたは──」

 

 そこで一拍置いてから、アストレア様は微笑んだ。

 

「きっと“誰かにとっての光”になれるわ」

 

 その言葉は、まるで僕の心の奥に灯をともすようだった。

 

 歩き出す彼女の背を見つめながら、静かに息を吸い込んだ。

 

 遠征へ行った仲間たちに負けないように。

 自分の無力さに、怯えてばかりで終わらないように。

 

(……僕にできることを、やらなきゃ)

 

 静かに決意を胸に抱きながら、僕は再びアストレア様の後を追って歩き出した。

 

 

 

◆◆◆○

 

翌日。

 

 

 朝の光が差し込む部屋で、僕はゆっくりとベッドから起き上がった。

 

 退院したとはいえ、まだ数日は療養扱い。無理な運動は禁止だが、街を歩くくらいなら問題ないとアストレア様からも許可は出ている。

 

「…ん」

 

 支度を整え、扉を開けると、どこか懐かしい空気が肌を撫でた。

 

 

 石畳の路地に朝日が差し込み、家々の屋根に淡い光を反射させている。どこか柔らかくて、穏やかな光景だった。

 

 この二週間、ずっと病室の窓からしか眺められなかった風景。

 

 今、自分の足でこうして歩けるだけで、少しだけ世界が広く感じられる。

 

(……さて、どこへ行きましょうか)

 

 

 街の中心へと続く通りを、のんびりと歩く。

 

 店の開く音や、人々のざわめきが少しずつ増えていく中、僕は久しぶりのオラリオの朝を噛みしめていた。

 

 そのときだった。

 

 

「おっと、ごめんよ」

 

 不意に横から誰かがぶつかってきた。

 

 反射的にバランスを崩しかけたが、すぐに体勢を立て直す。

 

「あ、すいません……僕がぼーっとしてたので」

 

 謝りながら相手を見る。

 

 男は薄汚れた外套に身を包み、見るからに生活に困っていそうな風体だった。髪はぼさぼさで、目元には隈のような影。まるで何日も眠っていないような表情だ。

 

 だが、男はすぐに手を軽く挙げて立ち去ってしまう。特に絡んでくるわけでも、名乗るわけでもなく。

 

(……うーん、ここにもああいう人がいるんですね)

 

 ポケットの中から財布を取り出す。もちろん僕のじゃない。

 

 ()()()()()()()()()

 

 ぶつかってきたときに、すられたからすり返した。ただそれだけ。

 

「……まったく、子ども相手にスリなんて、悪い大人ですよね」

 

 つぶやきながら、財布を指先でくるくると回す。

 

「生活に困ってそうではありましたけど、やっていいことと悪いことの区別くらいはつけてほしいもんです」

 

 財布を軽く開いて中を覗く。250ヴァリス。

 僕の手元にあったのは、たったの10ヴァリス。

 

「……なるほど。差し引き、240ヴァリスの儲け、と。……ふふ、いい朝だ」

 

 自分でもあきれるほど軽口を叩きながら、再び財布をポケットに押し込んだ。

 

「さてと……」

 

 財布を指で弾きながら、僕は足を止める。

 

「軽食でもとりましょうか。でも貯蓄っていう選択肢も捨てがたい……」

 

 街角から漂う香ばしいパンの匂いが鼻をくすぐる。

 お腹は空いているし、正直、朝から何も食べていない。目の前にある誘惑はあまりに強い。

 

けど──。

 

 

「……」

 

 自分の額に手を当てて、ため息をひとつこぼす。

 

(僕、アストレア・ファミリアなんですよね。正義の眷属ってやつに所属しちゃってるわけで……)

 

 ふと見上げた空は、雲ひとつない快晴だった。

 それでも、胸の中はどこか曇っている気がした。

 

「これ……使っていいんですかね?」

 

 拾った財布じゃない。盗られたのを、すり返しただけ──理屈では正当防衛の延長戦。

 でも、それを“自分のもの”のように使っていいかと問われたら、返事に詰まる。

 

「正しさって、ほんと割に合わないですね……」

 

 そうぼやきながら、僕は財布をポケットにしまい、踵を返した。

 

 腹は減ってる。でも、それ以上にモヤモヤが晴れない。

 このまま気分を拗らせたまま過ごすくらいなら、少しばかり動いた方がまだマシだ。

 

 気づけば足は、ダンジョンへと続くバベルの塔へ向かっていた。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

──というわけで。

 

今、僕はダンジョンの1階層にいる。

 

 動きやすい軽装(私服)に身を包み、薄暗い通路をのんびりと歩く。

 散歩の延長線上、というには少し物騒な場所だけど、訓練がてらの軽い探索くらいならそこまで怒られない……はず。

 

 そして今。

 

「おとなしく、寝てなさいってば……!」

 

 背後からゴブリンを羽交い締めにし、思い切り首を絞めている真っ最中だった。

 

「ガ……グ、ガッ……!!」

 

 ジタバタ暴れる腕を封じ、細い喉元に力を込める。

 小さな体がじたじたと暴れるが、数秒と経たずに動きが鈍り、やがて力なく崩れ落ちた。

 

 ふぅ、と息をついてゴブリンを放す。小さな体が地面に転がった。

 

「やっぱ……しんどいなぁ……」

 

 自分でも思う。なんだこの朝は、と。

 

 モンスターとはいえ、生き物を絞め落とすってのは精神的に地味にくる。

 さっきまで『財布使うの道徳的にどうなんですかね』とか悩んでた自分が、今や怪物の喉元に指を食い込ませてるのだから、なんとも言えないギャップだ。

 

(まあ……これも散歩の延長、ということで)

 

 自分にそう言い聞かせて、ゴブリンの胸元へしゃがみ込む。

 ポケットから、2()1()0()()()()()()()()果物ナイフを取り出した。

 

「えーと、魔石はこの辺……っと」

 

 ゴブリンの胸に刃を突き立て、ぐっと押し込む。

 硬い手応えのあと、内部に埋まっていた魔石が姿を見せる。

 

 

指先で器用に魔石を引き出そうとした、その瞬間──

 

──ビキッ

 

 

「……あっ」

 

 嫌な感触と、鈍い音が指先に伝わる。

 見れば、ナイフの刃先が──欠けていた。

 

「……マジですか」

 

 呆然とつぶやいた声が、虚しくダンジョンの壁に吸い込まれる。

 

 魔石に当てた際、角度が悪かったのか、それとも力を入れすぎたのか。

 どちらにせよ、安物には過酷だったようだ。

 

「ま、今さら戻るのも癪ですし……せっかくだから、もうちょっとだけ歩いてみますか」

 

 そう呟いて、僕は暗がりの通路を進んでいく。

 剣も盾もない。魔法は自己強化一つきり。

 それでも今は、ほんの少しだけ、体を動かしていないと気が紛れなかった。

 

(……魔石一個、解体用としてならもう少しやれると思ったんですけどね)

 

 失ったのはナイフの刃先と、それを購入したお金だけ。

 この程度の損失で済んでいるなら、まだ運が良い方かもしれない。

 

 そんな風に自分を納得させながら、僕はダンジョンの奥へ、慎重に、でも気まぐれに歩を進めていった。

 

 

 後にこの選択を後悔するとも知らずに。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「……ん?」

 

モンスターを絞め落とし続けて、数時間が過ぎた。

 

 未だ二層にいる為かゴブリン以外のモンスターに遭遇することもなく、のんびりと歩き回っていた僕の前に、それは居た。

 

 

 最初に感じたのは『違和感』だった。

 

 

 どこからか湿ったような、鉄の匂いが漂ってくる。

 続いて、ひたりひたりと粘つくような足音が、静かな通路に響いた。

 

 視界の先、薄暗い通路の角から、誰かがゆっくりと現れる。

 

 赤黒い布のようなものをまとい、肩で息をしているその姿──。

 

 その手には、血に濡れた長剣。

 顔には笑み。けれど、その目は……笑っていなかった。

 

 その目だけは、まるで壊れた玩具のように焦点が合っておらず、何かを探すようにゆっくりと動いていた。

 

「……あれ? おや、これは……迷子かな?」

 

 狂気を孕んだ声が、じわりと空間を歪める。

 

「まさか、こんなところで“新しい友達”に会えるなんて……今日は、運がいい」

 

 ゾクリ、と背筋を冷たいものが這い上がる。

 

 逃げた方がいい。いや、逃げなきゃいけない。けれど、()()()()()()()。数年間の旅の経験、生存本能が目の前の男に背を向けるなと告げている。

 

「……わかりませんね。ここはまだ二階層ですよ……」

 

 

 ようやく開いた口は声を震わせ、不安を演出する。

 

 目の前の男が纏っているのは、明らかに異常だ。

 

 三層(正規)へのルートから少し外れているとはいえ──この浅さで、殺人なんて。

 

 

「こんな浅い層で……殺しなんて、“見つけてください”って言ってるようなもんじゃないですか……」

 

 それが抑えきれず、皮肉のように口をついて出る。

 だが、男は眉一つ動かさず、笑ったままだった。

 

 ただ、笑いながら──考えていた。

 

 その表情には知性があった。狂気に覆われていながらも、そこには明確な“計算”があった。

 

「……しかし、そうだなあ。君、よく分かってない」

 

 男の口元がゆっくりと吊り上がる。

 

「“冒険者”ってのはね──わざわざ低層なんざ探索しないのさ」

 

 ぞわりと、声の温度が下がる。

 

「だから僕は、ここにいる。見つかりにくくて、逃げ場が少なくて、油断した駆け出し(初心者)がちらほら迷い込む……とても素晴らしい場所だと思わないかい?」

 

 静かな狂気が、まるで霧のようにあたりに滲む。

 

「……で、君はどっちだ?」

 

 男の目が僕を射抜く。

 好奇心と──狩人の目。

 

「“つまらない小魚”か、それとも……意外と“拾いもの”か」

 

 血に濡れた剣が、ゆらりと持ち上がった。

 

「ま、待ってください……っ!」

 

 思わず声が裏返った。

 視線を逸らし、両手を前に差し出して、僕は必死に頭を下げる。

 

「な、なにも見てません……っ。誰にも言いません。忘れます、全部忘れますから……っ!」

 

 焦り、混乱、恐怖──それらを“装って”僕は命乞いを続ける。

 だが、近づかれるごとに、脚が震えた。これは演技じゃない。体が勝手に反応している。

 

「うん、うん……いい子だ」

 男がにこりと笑う。

 

 けれど、その目はやはり笑っていない。

 薄暗い通路の中、血濡れの剣が僕の目の前でゆらりと揺れる。

 

「君みたいな子はね、好きだよ。無様で、弱くて、足をすくませて……」

 

 ──ズリッ。

 

 思わず、僕は尻餅をついた。

 

 腰が抜けたように力が入らない。這うように後退しながら、口元を震わせる。

 

「ひっ、や、やめて……!」

 

 男は一歩ずつ、愉快そうに歩を進める。

 

「ふふ……おやおや」

 

 立ち止まった男が、僕を見下ろしてニヤリと笑う。

 

「……それ、本当に心からの声かい? 魂の奥で叫んでる、本物の願いかい?」

 

 その言葉に、心臓が跳ねる。

 

「た、助けて……お願い……僕、死にたくない……!」

 

 縋るように、必死に顔を上げ、潤んだ目を向ける。

 

「……へぇ」

 

 男が愉快そうに目を細めた。

 

「いいねぇ。最高だ。生き汚くて、醜くて──そういうの、大好物なんだ」

 

 剣先が、ゆっくりとこちらへ向けられる。

 あと数歩。もう少し。近づけ──もっと。

 

あと一歩──

 

 

 その距離を測った僕は、震える手でポケットに差し込んだ指先に、ひんやりとした金属の感触を探る。

 刃こぼれしたナイフの柄を掴み、そっと息を呑んだ。

 

(今しかない……!)

 

 「っ──!!」

 

 刹那、全身のバネを解き放つように、僕は勢いよく体を起こし、右手に握ったナイフを下から振り抜く。

 狙いは男の脚。倒すつもりはない。ただ、その動きを一瞬でも封じる、それだけでいい──それだけで、逃走への可能性が生まれる。

 

 だが──

 

 カンッ!

 

 甲高い音が通路に響いた。

 金属同士がぶつかり合う、乾いた衝突音。

 

「……へぇ?」

 

 男の手に握られた長剣が、刃こぼれしたナイフの切っ先を正確に捉え、弾き飛ばしていた。

 

「反撃?いいねぇ……まさか、この距離で出すとは思わなかったよ」

 

 男の声は驚きと、そして──心底愉しげな色を帯びていた。

 

「でもね」

 

 バキィッ、と嫌な音がした。

 砕けたのは僕の武器。ナイフの刃が根本から折れ、柄だけが手の中に残った。

 

「その程度じゃ、僕の興を削ぐには足りないなぁ」

 

「……はは、ふざけろ……」

 

 自嘲気味に笑いながら、僕は小さく後退した。

 武器は失った。男との距離もすでに近すぎる。

 魔法は……ある。だが、使えば確実に、男は遊びをやめる。

 

 ゲームで例えるなら武器も道具もなし、加えて魔法を使えば難易度が上がるボス戦…。L()V().()()()()()()()()()()()()()()()()…。

 

 僕はゆっくりと膝を曲げ、拳を握り、深く息を吐く。

 恐怖を飲み込み、逃げ道を捨てて、覚悟を一点に集中させる。

 

「ふふ……いいじゃないか」

 

 

 男がにんまりと口を歪め、血塗れの剣を肩に乗せた。

 

 

「やっと顔が変わった。やっと“生きる気”になったね?」

 

 

 その目に宿るのは、歓喜と──期待。

 

 

「さあ、踊ろうか。“冒険者”くん──」

 

 

 

 

 





2人ともシナリオの外の人間です。

主人公の持ち物↓

壊れたナイフ、小さな魔石複数。

所持金40ヴァリス。

元々使用していた武器は破損、道具は一時的に没収されています。
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