大法廷は、公判を一目見ようと
傍聴人のための椅子にも空白ひとつなく、人々が放つ熱で場内の風はむわりと重苦しい。
しかし、そんな人でごった返している大法廷に入ったAが、いの一番に感じたのは、ねばつくような温度ではなく、凍りつくような清閑だった。
物音ひとつ耳に入らぬほどの、その清閑――。
視界には大勢の人間が映っているのに、こんなにも静かだというのは、ちょっとした異常事態だった。
傍聴人たちは、音を出すことそれ自体が罪かのようにじっと居座っていた。その瞳だけを爛々と光らせながら。
通路を抜けて弁護人の横の椅子へ腰かけたAは、そこで初めて、ゆっくりと大法廷の中を眺めてみた。
遠くには、暗がりに沈む傍聴人の群れ。近くには、光井戸から注ぐ太陽のスポットライトに照り映える法廷。見る者と見られる者とを厳格に隔てている木製のバリケード。
そして、そのどちらをも睥睨することが可能なように、一段高く聳えている法壇――。
それらすべては、四方の石張りの壁にかけられた、聖火のトーチにも似た蛍光灯から放たれるオレンジの光を受けて、晩秋を迎えたイチョウのように色づいていた。
……判事は、開始時刻ぴったりに姿をみせた。
場内の人間が一斉に立ち、一礼をする。
全員が座り直したのを確認してから、判事が口を開いた。
「それでは、審理を開始するわ。被告人は証言台へ」
その重々しい声に導かれ、Aは今回のために特別に設えられた証言台へと立った。
淡々と発せられる人定質問にAが答えたのち、検事から、今回の公判における公訴事実等の朗読が始められた………………。
検事T「公訴事実。被告人は令和6年9月12日午後11時ごろ、被告人の祖母所有の蔵において、バンドメンバーの香澄から告白を受けたのに対し、なんら誠実な返答もせず、一週間にわたり同人との接触から逃れ、答えを保留し、同人に精神上の苦痛をもたらした。真剣恋愛法違反、同法10条の4、第1項1号、27条。……以上」
判事R「一つ注意しておくけれど、被告人には黙秘権が認められているわ。よって、この公判を通じて終始、口を噤んでいることも可能だし、答えたくない質問には答えないことも認められている。ただし、この法廷で話すことは、被告人に有利かそうでないかを問わず証拠になるわ。分かったかしら?」
被告人A「……はい」
判事R「では、そのうえで、検事の述べた公訴事実について意見をどうぞ」
被告人A「……すべて、事実です」
判事R「弁護人の意見は」
弁護人M「被告人の述べた通り……かな」
その言葉を受けて、にっと笑みをこぼした検事を、Aは横目でするどく睨みつけた。
文句の一つでも言おうかと思った刹那、弁護人から落ち着いてと信号を送られ、すんでのところで耐える。
そうだ、怒っても仕方がない。頼れる友人を信じるしかない。
この瞬間にも爆発しそうな感情を押しとどめ、Aがもとの椅子に戻ると、判事の宣言で審理は冒頭陳述へと移った。
検事T「事件の経緯についてもう一度説明するよ。令和6年――」
香澄「ねぇ~、おたえ~」
検事T「ん? どうしたの香澄?」
香澄「そろそろ私も発言したいよ~」
検事T「うーん……。これは私の仕事なんだけど……。でも、香澄の事件だし、香澄が話したほうがいいかもね。はいこれ」
被告人A「おい、ちょっ……! 全然よくねぇから!」
香澄「えぇ~けち~」
被告人A「どう考えてもおかしいだろ! ってか、大体なんで香澄がここにいんだよ!」
香澄「何もおかしくないよ~。この頃は、被害を受けた本人も審理に加わっていいんだって」
被告人A「それ絶対意味違うからな! 自由に発言していいわけないからな!」
香澄「ってことは……ダメ?」
判事R「認めるわ」
被告人A「認めるな!」
香澄「いぇ~い。……え~っと、どっから話せばいいのかな。なんていうか~、とにかくそこにいるワルいひとが、ず~~~っと告白の返事をくれなくて~。ちょ~~~っと時間をくれって言ってたのにぃ~」
被告人A「うっ、それは……」
香澄「でねでね。それからなんども話しかけようとしたのに、クラスでも蔵でも話せなくて……もしかして、迷惑だった?」
被告人A「別に、迷惑ではねーけど……」
香澄「なら嬉しいってこと!?」
被告人A「そうは言ってねー!」
香澄「えぇ~、むずかしいな~。……でも、私と
弁護人M「そのことについては、私から説明するよ」
香澄「ミッシェル!」
弁護人M「はーい、ミッシェルだよ~。って、ちがうちがう」
嘆息をこぼした弁護人が、会話に割りこんで冒頭陳述を始めた。無法には無法を、香澄との対面で面食らった被告人を助ける形だ。
「たしかに被告人は、告白に返事をしなかったかもしれない。でもそれは、意地悪のためとか、軽んじたとか、そういうのとは少し違うんだ」
弁護人は、検事に対してというよりもむしろ、この審理を統治する判事の方へ向かって、祈るような口調で、被告人が、高校の生徒会活動に尽力し、模試の結果も良い優等生だと示しつつ、事件の経緯を説明した。
そもそも、『
すなわち、今回の審理における重要な争点は、告白を受けてすぐに返事をしたか否かで、その点では、弁護人の発言――たしかに被告人は、告白に返事をしなかったかもしれない――という冒頭陳述は減点もいいところだった。
本来ならば、弁護側は、被告人の行動が罪にはならないのだと主張しなければならない。
だから例えば、この刑を弁護する他の弁護士は、告白のタイミングにちょうど風が起こって分からなかったというライトノベルパターンとか、突然の眠気に襲われていたという鈍感系主人公パターンとか、そもそも告白自体を認めないという方針で弁護することが多い。
ほかにも、一か月ならすぐの範囲内だから問題ないはずだとか、態度で人知れず返事をしていただとか、とにかく色々な方向から、被告人が無辜だと証明しようとするのだ。
だが、今回の審理において、弁護人はそうしなかった。
……なぜか?
それは、被告人が絶対に告白の返事をしたくないと願ったからだった。
もし、告白を認めないというスタンスでいくならば、仮に今回無辜だと認められたとしても、その
よって――
「……それでも被告人には返事が難しかった。その理由は、被告人所属のバンドに関係してる。被告人は、このバンド内に
弁護人のとれるただ一つの方針は、告白を受けたことを認めつつ、けれど告白の返事はどうしても無理――という方針だけだった。
もちろん、そう主張したとしても、法律の構成要件という観点では無意味で、むしろ、被告人が罪を犯したと認めることにほかならない。
だが、それでよかった。
弁護人が狙っているのは、ずばり、これ。
被告人も告白の返事がしたい。けれども、バンドに恋を持ち込めば崩壊するかもしれない、だから返事をしない。すべては香澄のため、バンドのため。
こういう流れにもっていくことで、判事の心を動かし、なんとか温情を得たいと弁護人は考えていた。
「バンド内での
告白の返事をすればバンドが崩壊する――。
被告人がその事実を信じていれば、この弁論は成り立つ――そして、恐らくは大幅な減刑に繋がるだろう。
それにしても……と、弁護人は隣に座る被告人をちらと見た。
要するに、告白の返事をしてバンドが崩壊するのが怖いということは、彼女の心の内は、少なくとも、人間関係にかなりの変化をもたらす答えだということだ。
その想い――言いたくないということは、恐らく……。
そう考えてから、弁護人は推測の向こうに見えたものを打ち消した。被告人を弁護する上でその本心を知ることは大事だが、彼女の心のすべてを蹂躙していいわけでもない。
(……これで、いいんだよね)
それでもなお、心の奥底に澱みを残しながら、弁護人は椅子に座った。
弁護人が冒頭陳述を終えたことを確認した判事は、今回の公判で、事件当日に被告人が告白を受け、その返事をしていないということについては対立がなく、告白の返事によってバンドが崩壊するという、被告人が返事をしなかった理由が正当なのかどうかが、本件の争点になることを告げたのち、検事に証拠調べを促し、それに応じた検事によって、証人が呼ばれた。
証言台に立った女生徒は、「良心に従って、真実を述べ、何事も秘匿せず、何事もつけ加えない」と宣誓書を朗読したのち、これに署名と捺印をした。
判事が氏名及び年齢、職種を尋ね、それに答える形で、証人尋問が始められた………………。
蘭「蘭……美竹蘭。17。2年」
モカ「モカちんでーす。同じく17の、ぴちぴちの高校2年生でーす」
判事「……では、検事の質問をどうぞ」
香澄「はいはーい。私から! えー……そうだ! 朝食はなんだった?」
モカ「ごはん~」
蘭「悪くないハンバーグかな」
香澄「私と一緒だ! もしかして、お昼ごはんも同じ?」
検事T「……香澄。
香澄「そうだった……ごめんおたえっ、お願い!」
検事T「うん。それでは、一個目の質問。……蘭とモカは、同じバンドににいるんだよね」
蘭「だね」
モカ「そのと~り~」
検事T「しかも、
モカ「えぇ~そうだったの~? びっくり~」
蘭「……は? モカがそんなんなら、べつに別れてもいいんだけど」
モカ「ひー。うそうそー。しっかりラヴラヴでーす」
検事T「いつごろからその関係になりはじめたの」
蘭「……夏が終わったくらいだよね」
モカ「めいび~」
検事T「それから、バンド活動に何か支障はでた?」
モカ「とくには~」
蘭「なかったかな」
検事T「みんなの反応はどうだった?」
蘭「おめでとうって……それだけ」
モカ「うつくしい友情ですな~」
蘭「それに、ほかにもいたしね」
ほかにも、という意外な言葉にAがばっと証言台のほうを見ると、笑みを湛えたモカが「それではよんでみよ~」と大法廷の入口へ腕を広げていた。
扉越しに響いてくる「えぇっ」と驚く声。それからしばらく、ばたばたと忙しく支度をするような音がして――大法廷に飛びこんでくるピンク髪。
証言台へつかつかと寄ったそのピンク髪は、蘭とモカ同様、宣誓と署名とをして、この尋問に加わった。
上原「モカ! 突然呼ばないでよ!」
モカ「ごめんごめん~。……それにしてもワンピースなんて、本日はハイカラ女子ですな~」
上原「ホントっ!? これ、おろしたてなんだ! 私もこんなところに来るの初めてだから、どんな格好がいいのか分からなかったんだけど、第一印象は大事かな~って」
蘭「もしかして、インタビューかなんかと勘違いしてる?」
上原「えぇっ!? ……違うの?」
蘭「……もう」
モカ「似てはいるかも~」
検事T「……ねぇ、そろそろ質問していい?」
モカ「どうぞどうぞ~」
検事T「ならするよ。誰かと
上原「う、うんっ! してるよ!」
検事T「恋人は誰なの?」
上原「……ともえ」
モカ「お~。おかおが~」
蘭「……りんごみたい」
上原「だって恥ずかしいんだもーん!」
判事R「静粛に!」
上原「はい……」
検事T「……えー。
上原「いつも通り……かな」
検事T「ってことは、バンド内で恋をしても、何も問題はないってことだよね?」
上原「う、うん……」
被告人A「でもそれって……偶然告白が成功しただけだろ」
上原「そんなことないよ! だって、つぐが――」
蘭「つぐみのことは、つぐみが話したほうがいいと思う」
上原「そう……かもね」
モカ「それではもう一度よんでみよ~。お~い、つぐ~」
モカの声に反応して、大法廷の入口の扉がゆっくりと開かれる。その向こうから姿を見せたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだつぐみだった。
その隣にいるのは氷川日菜。こちらも、水色のウェディングドレスの装いだった。
スーパースロー映像のように、ひとつひとつ確かに歩を進めてゆく日菜とつぐみ。
彼女たちは、証言台へとたどり着くと、宣誓と署名と捺印とをした………………。
上原「つぐー、カワイイよー!」
モカ「およよよよ。こんなに大きくなって……」
蘭「悪くない……」
つぐみ「みんなからお祝いしてもらえるなんて、すごく嬉しいな」
検事T「私からも、おめでとうつぐみ」
つぐみ「うん」
検事T「つぐみは、ものすごいハッピーみたいだけど、むかし告白に失敗してるんだよね?」
つぐみ「そうだよ。実は私、一度断られてるんだ」
被告人A「え……?」
つぐみ「告白して、ダメだよって言われたの」
上原「私に……だよね。ごめん、つぐ。告白を受けたタイミングには、もう巴と
つぐみ「私こそ、見抜けなくてごめんね。でも、その経験もいい思い出になってるんだ。だって、私には……日菜先輩がいるから」
日菜「ええ。そのおかげで、私たちは
被告人A「ん? 何かおかしくねーか……?」
日菜「そうでしょうか? ……要するに、私が言いたいのは、誰か一人にこだわる必要はないということです。一つの恋がだめでも、別の恋を見つければいい……。現に私も告白に失敗した身ですし」
検事T「なら、こくはくがせいこうしてもしなくても、ばんどがほうかいすることなんかないってことだよね?」
日菜「その通りです」
そう言って日菜がつぐみを抱くと、場内は俄かにどよめいた。
ガベルのかわりに、カリヨンベルが高らかにに
……盛大なセレモニーが終わると、大法廷は先刻の喧騒がうそのように静かになった。
「ほら、これで分かったでしょ。告白の返事をしても、ポピパは平和だよ」
検事から勝ち誇ったかのような笑みを向けられて、Aは思わず手に力を入れた。手のひらのなかで、投げそびれた造花の花びらが粉々になった。
「……それは他のバンドの話で、ポピパがどうなるかはわかんねーだろ」
Aがぼそりとこぼしたその反論に、一連の流れを静観していた弁護人は、いけないと歯噛みした。被告人がするだろう反論なんて、検事は当然予測している。下手な抵抗は判事の心証を悪くする。
「そう言うと思ってたよ。それなら、こっちも奥の手を出すよ」
検事がとどめとばかりに証人を呼び寄せた。それが誰なのかを、弁護人は知っていた。
それは――
「……牛込りみです! Poppin'Partyのベース担当です」
被告人が所属しているバンドのメンバーその人だった………………。
被告人A「香澄っ! 告白のこと、りみにも話したのかよ!?」
香澄「うぇえ!? 違うよ~誰にも話してないって~」
たえ「香澄のいうとおりだよ。……正確には、香澄経由で知ってはいるんだけどね」
被告人A「どういうことだ?」
たえ「香澄が蔵で告白したタイミングで、私たちも同じ場所にいたんだ」
被告人A「……は?」
りみ「練習が終わった帰り道でね。私が忘れ物を思い出したから、みんなで蔵に戻ったの。そしたら、階段の扉越しに……」
たえ「ホントにびっくりだったよ。りみなんて、ショックで持ってたバッグを落としたくらいだもん。バレたかなと思ってハラハラした」
りみ「バッグ? びっくりはしたけど、私何も落としてないよ?」
たえ「え? でも私でもないから、りみのはずだよ」
りみ「そうなのかな?」
たえ「どっちでもいいよ。……とにかく、香澄の告白を、私たちは初めから知ってたんだよ」
被告人A「だからか……ずっと様子がおかしかったのは……!」
りみ「よくないことだし、言おうとは思ってたんだけど……ごめんね」
被告人A「……しょうがねーだろ、それは。場所を考えない香澄も悪いんだし」
香澄「考えてるよ……蔵なら防音もばっちりだしいいかなって」
被告人A「大体……そもそも告白なんて! こんなっ……ポピパがバラバラになるかもしれねーんだぞ!」
香澄「そんなことぐらい、私だって……!」
りみ「誰も悪くないよ! ……想いを伝えたくて、でも怖くて、色んなことを考えて……それでも頑張って伝えたその想いを、私は応援したいな」
香澄「りみりん……」
りみ「もちろん、告白の返事をするのだってすごく難しいことだと思う。だけどね、本当の想いで返事をしてほしいなって、後悔してほしくないなって」
被告人A「香澄とは
りみ「……うん。それが本当なら、私はその想いを尊重するよ。もしかしたら、それでポピパがバラバラになるのかもしれないけど……それでも、みんなで乗り越えていけばいいんだよ」
たえ「私もりみと同じ。ずっと想いを隠し続けてるほうがよくないと思う。だから、ポピパを信じて」
そういって微笑むりみとたえ……。彼女たちとなら、どんな困難にも打ち勝つことが可能なのかもしれない……それがポピパなのかもしれない。
……違う。そんなこと、初めから分かっていた。
でも、でも、でも、それでも――。こころ「あら、どうしたの有咲? そんないや~な顔のままじゃ、秋のおひさまもふわ~っと逃げちゃうわよ?」
弁護人M「……ってこころ!? なんでこんなところにいんの!?」
こころ「そうね~。幸せそうな雰囲気を感じたから……かしら?」
こころ「でも、来てみたらなんだか落ち込んでる人がいっぱいいるじゃない。パーティーはみんなで楽しむべきだわ!」
弁護人M「パーティーではないんだけどね……」
こころ「それで、有咲は何を悩んでるの?」
りみ「……へ? その……えっと……」
弁護人M「こころ……それ、りみだけど」
こころ「ん? おかしいわね~、さっきまでは有咲だと思ったのだけれど、どんな魔法を使ったのかしら。」
弁護人M「こころ、みんな真剣に話をしてるんだから、妨害だけはしないで」
こころ「もちろんあたしも真剣よ! 今までの話もちゃ~んと聞いてたもの!」
弁護人M「ホントかな……なら、なんで告白の返事ひとつでこんな考え込んでるかも分かるはずだよ」
こころ「うーん。それが、よく分からないのよね……。有咲の本当の気持ちを伝えればいいだけじゃない。」
弁護人M「だから、それが無理なんだって。もし告白を断ったりしたら、人間関係にヒビが入るでしょ」
こころ「そうかしら? それに、有咲は香澄のことが好きなんだから、そんなことにはならないと思うわ。」
被告人A「なっ! んなわけねーだろ!」
こころ「どうして嘘をつくの? 好きって言って何か問題があるのかしら。すでに付き合ってる人は……いないはずよね。」
被告人A「そんな周知の事実みたいに……なんで知ってるんだよ」
こころ「このまえ言ってたじゃない。いま付き合ってる人なんていないって。」
被告人A「そんなこといったか?」
こころ「この前の……土曜日だったかしら。ショッピングモールのカフェで言ってたわ。」
被告人A「覚えてねーし」
こころ「そう? でも証拠もあるのよ。ほら、このレシート。間違いなく有咲がカフェに行った証拠だわ。……それにしても、あんみつを二つも食べるなんて、すっごくお腹が空いてたのね~。」
被告人A「……」
こころ「どうすれば素直に返事ができるようになるのかしら。どんな返事をしてもバンドは壊れなくて、恋人もいなくて、香澄も有咲も両想いで……あ!」
こころ「もしかして、あのことが気になっているのかしら。でも何も心配いらないわ。だって――」
弁護人M「こころっ! それ以上はダメ。ルールに従って!」
こころ「分かったわ、ミッシェル」
弁護人M「よかったよ~。一緒にがんばろ~」
こころ「そうね、ルールは大事だわ。証拠能力のない話をしてはダメだもの」
香澄「ねぇねぇ、こころんの言ってた話って、本当なの?」
こころ「ええ、しっかりした事実よ」
香澄「なら、どうして返事をしてくれないのかな」
こころ「なぜかしらね……。でも、これで証拠はすべて出揃ったのだし、もう一度みんなで考えればいいと思うわ」
たえ「告白してもバンドは崩壊しない」
つぐみ「失敗してもいつも通り!」
りみ「ポピパも応援してるよ」
こころ「そして、香澄と両想い! 恋人もいないし、他に告白も受けてない。これでどうかしら」
被告人A「でもっ!」
こころ「でも? なにかしら。それは事実として成立してるの? 推測ではなく、証拠が備わっているの? 証拠がないなら、事実ではないわ。考えなくていいことだわ」
被告人A「……なら、いいのかな」
蘭「もちろん」
上原「いいと思う!」
被告人A「返事をして、いいのかな」
日菜「問題ないです」
弁護人M「みんなを信じて」
被告人A「その……かすみ。この一週間、ずっと話せなくてごめん。ここからでも、いいかな」
香澄「うん」
被告人A「香澄っ! 告白……すげー嬉しかった! 私と、
香澄「うんっ!」
香澄の答えに、大法廷中の人間が一斉に直立する。誰もが笑顔で手を叩いている。その口からは順々に祝いの言葉が放たれる。世界は陶酔に沈んでいる。
宇田川「おめでと!」
若宮「おめでたいです!」
花音「おめでとう」
こころ「おめでとう!」
「おめでとう」
氷川「おめでとー!」
検事T「おめでとう」
つぐみ「おめでとう」
巴「おめでとう」
日菜「おめでとう」
上原「おめでとう」
弁護人M「おめでとう」
モカ「めでたい~」
蘭「おめでとう」
りみ「おめでとう」
判事R「それでは判決を言い渡すわ。被告人
声高に唱えられたその判決に、拍手はより一層激しくなった――。