今井リサと恋愛したい人生だった

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本作品は、as⭐︎know様主催の「ハーメルン秋のバンドリ祭」に参加させて頂いた位置付けとなっております。
他にも色んな方が参加されていますので、是非タグ経由で閲覧してみてください!

……ギリギリセーフ(投稿時間が〆切一分前)
どうして締切ギリギリにレポートを出す限界大学生ムーブを繰り返すのか


The North Star is close by

人生にはターニングポイントなるものが存在する、らしい。

 

この瞬間に勇気を振り絞っていたら。あの時に別の選択肢を選んでいたら。人生を振り返った時に誰もが脳裏をよぎる、もしも。

今更過去に遡ろうとするなんて不可能なのに、過ちを知った今ならやり直せると言わんばかりに嘆くのだ。

そうして浪費している時間が新たな後悔に繋がるかもしれないことには気がつかないというのに。

 

まぁ、御高説を垂れたが結局のところ結論として簡潔に述べるならば。

 

 

「もっと前から勉強しておけばよかった……」

 

 

なんてことない。一人の馬鹿による愚痴を無駄に壮大にしただけだ。

今日の授業で返却された定期テストの解答用紙は、それはもう悲惨だった。赤点のボーダーを下回ることはなかったが、平均点のラインを追随する程度には低飛行だった。

平均点近くまで点数が取れているなら十分だと思わないでもないが、その理論は母上には通じない。頂点を取れとまでは言わないが、明確な力量不足があるのであれば指摘するのが常だった。

少なくとも、手抜きの姿勢でこの成績ならば雷霆が降り注ぐのは想像に難くない。

 

 

「今度やれは馬鹿野郎、ってか。できたら世話ねえよ、馬鹿野郎」

 

 

ネットで見た有名な格言を鼻で笑う。自堕落な性分はこの年までくれば手遅れだ。よっぽどがなければ生涯このままだろう。

どれだけ嘆いても変わらない現実に、何度目かの溜息を吐く。それを誰かが拾ってくれることもなく、やがてそれは寂しく霧散した。

そうだ。この答案を母へと渡せば叱咤されることも、来月の小遣いが更に減らされるであろうことも。現時点となっては避けようがない、確定してしまった未来なのだ。

 

全く、救えない。後悔しているのが成績低下に対してではなく、軍資金が損なわれてしまうことである時点で救いようがない。

 

 

「夏休みも終わったってのに、最高気温が30度を超えるのはいくらなんでも馬鹿だろ……」

 

 

季節は秋である筈の9月に、俺はお天道様のことを睨みつける。時刻は夕暮れに片脚を踏み込み始めた頃合いだったが、太陽のポテンシャルが未だに発揮されているのは疑いようがなかった。

地球温暖化の影響か知らないが、秋服の出番が訪れることもなく。最高気温が30度を下回る日は当分実現しそうになかった。

 

真夏日と評しても差し支えない日差しが容赦なく肌を刺激する。日差し避けで被っていた帽子も、あっという間に汗を吸い上げてびしょびしょとなっていた。

改札口から出て炎天下の道をちょっと歩いただけでこの有様である。もう少し手心を加えてほしいものだ。

 

 

「油断したわ、ちくしょう。電車代ケチらずに最寄り駅まで乗ればよかった」

 

 

己の軽率さに溜息が際限なく零れ落ちる。まだまだ在庫は切れなさそうだった。目先の欲に釣られた末路がこれだ。

こんな地獄の行進を敢行しているのは、ただ単に趣味に対する浪費によって交通費を捻出できなかっただけである。

ただでさえ次回以降のお小遣いが減るのは目に見えているというのに、残金すらも十二分にあるとは言えない。

電車賃をケチることで小手先の誤魔化しで泡銭を稼ごうという魂胆だった。

 

これも全ては魅力的なグッズばかり提供してくる販売側が悪いのだ、うん。自業自得なのは百も承知だが、物欲というのは抑制しにくいものだ。

シリーズ物のライトノベルで最新刊が発売されたり、前シーズンに放送していたアニメのフィギュアが予約開始したりするのも。自分からしたら避けようがないトラップだったというだけ。

ソシャゲに関しては年齢による課金制限がなければ即破産とだけ事実を挙げさせてもらおう。

 

 

「塾の模試も成績ビミョーだったし、これまた親にドヤされるかもなぁ」

 

 

道端で無造作に転がっている小石を蹴り飛ばす。角張った先が不規則に跳ねて、やがて排水溝の溝へとドロップアウトした。

かもしれない運転を期待している口振りだが、長年の付き合いから淡い希望的観測なのは理解していた。つまりはただの現実逃避だ。

 

趣味活に勤しんではいるが、何を隠そう自分は立派な高校2年生。あと半年も経てばすぐに受験生へと繰り上がる崖っぷち生徒だった。

成績は中の中。夏期講習に勤しんだ結果、そろそろ中の上に昇格を果たせそうなレベルの凡庸。それが今の自分だ。

1学期の期末試験によるお説教大会の果てに無理やり入塾させられたが、まさか夏休み明け以降も継続させられるとは。息子の目を以てしても見抜けない巧妙なトラップだった。

 

自分としては別に有名大学に行きたいという功名心はないが、社会人になった時にオタ活で金銭の苦労をしない程度には稼げる学歴がほしいとは思っていた。

そんな考えがある上に親がお金を捻出して環境を整えてくれているのだから、普通は必死に勉学に取り組むのが定石だろう。だろうが、妙に集中できない日々が続くままだった。

 

目的が曖昧だからだろうか、それとも現実が見えていないからだろうか。きっと両方で、それでもまだ足りないのだろう。

甘えかもしれないが、未だ社会の荒波に揉まれた事のない青二才では、理解には程遠かった。

だって知らないのだ。これが本当に将来役に立つかなんて。確信が持てないものをどうして受け入れられようか。

……結局、自分はまだまだ精神が育っていない幼稚な存在なのだ。あれこれ屁理屈をごねて人生のモラトリアムを浪費するだけの負け組。

 

 

「……だっさ」

 

 

思考がぐるぐるする。堂々巡りだ。暑さのせいで論理的な発想が浮かばない。気分が落ち込んでいる時に夏のように熱いとはいえ日没の時間は着実を早まっているようで。ぼんやりと路地を歩いていれば、いつの間にか月が出番交代と言わんばかりに姿を露わにしていた。

直接刺してくるような暑さがなりを潜めた代わりに、湿気となって纏わりつく熱気が鬱陶しい。じんわりとかく汗を幾度と拭っても尚延々と湧き出てくる。べたつく表皮をひっぺがしたい気分だった。

 

公園の入り口にあるポールを横切る。通りからは外れるが、地元の住民であればよく用いるショートカットだ。

向かいからは二人組の女子高生が歩いてくる。天真爛漫と評するのが似合う子と、優等生の印象が強い子だ。知り合いでもないから、すれ違えども何か起こることはない。

けれど、そんな当然を崩すように。

 

 

「わー、お星様だ!キラキラしてる!」

「ん?……お、本当だ」

「何かの星座かな!?」

「くっつくなっての!……多分カシオペア座だろ」

 

 

背後にいるであろう女子高生が空を見上げて天を指差す。ガードレールにぶつかりそうになるのも厭わないで、ただただ夢中で夜空を。

もう一人もそれに釣られるように倣うと、感心したように頷いた。

それが妙に眩くて。それから目を背けるように天を仰げば、そこには。

 

 

「あっ……」

 

 

五つの点が宙を彩る。大きい星が、小さい星が。まるで寄り添うように煌めいていた。

珍しい。この都会で星が観測できるのは稀だ。ネオンの灯がぎらつく街で相まみえることになろうとは。

たまたまこの公園だけが抜け落ちたかのように、何故か星々は姿を晒していた。

太古の人々は星々から星座を見出したというが、なんとロマンチストなことか。

 

 

「……コンビニでも寄っていこっと」

 

 

事実として星を見上げた直後とは思えない感想を呟いていた。いや、だからこそか。貧乏気取って歩いていた筈なのに、無駄な浪費をしようとしているのだから。

多分、この感動は数日経てば忘れてしまう。灰色の日々に比べたら随分と素晴らしいものだが、結局はまた何気ない日々に埋もれていくのだろう。

故に、今日ぐらいは感傷に浸りたかった。この名もない感情に、ジュースでも捧げてやりたい気分だった。やけ食いしてやりたかった。

 

確か、裏路地を抜けた先に目的地がある。明日には後悔しているかもしれないけど、それはそれで自分らしいだろうさ。

ルートを変更して歩みを再開する。自宅に到達するのがより遅れてしまうが、先のことなんてどうでも良かった。

 

自分も人生をかけても良いと思える何かと巡り合えるだろうか。見つけたら、ちゃんと日常を生きようと思えるだろうか。

 

 

「ま、無理だろ」

 

 

 

★★★★★★★★★★

 

 

「いらっしゃ、え……?」

「いらしゃーいませー」

 

 

空調が効いた空間が火照った体に心地好い。気分はさながらセーブポイントに駆け込んだ勇者だ。万能感に酔いしれそうだ。

そのまま流れるようにドリンクコーナーが並ぶ奥側へと歩みを進める。ブランドは違えど、コンビの配置は大抵共通だから助かる。

 

冷蔵庫の扉を引いて、お目当ての炭酸飲料を取り出す。やっぱり、こういう時はコーラだろう。程よい甘さのカラメルと微炭酸を、からっからの喉が求めていた。

特にそれ以外は求めていないから、そのまま真っすぐレジへと向かう。

レジには茶髪のアルバイトが佇んでおり、迅速な会計が期待できそうだった。

 

 

「お願いしまーす」

 

 

軽く一言かけて商品を台に乗せるが、反応がない。疑問に思って店員の表情を確認すると、何故かぽかんとした表情で固まっていた。

 

 

「……」

「……」

 

 

なんだ、この時間。店員さん―――名札には今井さんと書かれている―――はなんで鳩が豆鉄砲をくらったかのような状態でいるのだろうか。

特に面識があるわけでもないし、何が彼女をそこまで摩訶不思議な状態にしてしまったのだろうか。

首を傾げるが、やはり何かに思い至ることはない。もしかして塾で居眠りしている時に誰かに落書きされてしまったか?

いよいよ斜め45度からチョップをかますべきかと検討し始めた時に、彼女はようやく復活した。

 

 

「―――はっ。し、失礼しました」

「あっ、はい。別に大丈夫ですよ……」

「一点で合計130円になります」

「……これでお願いします」

「丁度ですね。こちらレシートになります」

 

 

小銭と引き換えに渡されたレシートを財布にしまう。個人的にはさっさと捨てたいが、母親に小遣いのやりくりを家計簿のようにまとめないといけない関係上、渋々持ち帰ることにした。

ぱんぱんな財布はレシートまみれでぐしゃぐしゃだった。いい加減整理しなければと、過去何度決意したことか。

今日も性懲りもなく決意を重ね塗りしたが、多分数分後には忘れていることだろう。

 

……そして、いい加減謎を解消するべく容疑者に疑問を投げかけた。

 

 

「あの、すみません?」

「は、はい!なんでしょうか!?」

「……なんで俺のことじっと見て固まったんですか?」

「……あたし、フリーズしてました?」

「はい」

「……」

 

 

あ、顔を隠した。けど、隙間から見える頬が林檎のように熟れてしまったのはバレバレだった。

しかし、機を逃すわけにはいかない。彼女には申し訳ないが畳みかけることにした。

 

 

「どこかで面識とかありましたっけ?申し訳ないんですけど、こっちは覚えがなくて……」

「あー、えっと。一方的というかぁ……、個人的というかぁ……」

「えぇ……」

「あっ!そういえばコラボで今貴方の推しキャラがモチーフのスイーツ販売してますけど、買っていきます?」

「何で知ってるの!?買いますけど!?」

 

 

この人、ストーカーかもしれない。ぱっとしない男子高校生にそれやる人いる?

思わずレジから後ずさったが、購入したコーラが台に置きっぱなしな以上、また近づく必要があるのが辛かった。

 

 

 

 

あ、コラボスイーツは買いました。とても美味でした、まる。

 

 

★★★★★★★★★★

 

 

「いらっしゃいませー。あっ、キミじゃん!」

「こんちは~」

 

 

気がつけば常連になっていた。なんでさ。

いやでも待ってほしい。ファーストインプレッションがおかしかっただけで、その後は至って普通だったのだ。

なんで推しキャラのことを把握していたのかも、何故初対面じゃなさそうなリアクションしていたのかを教えてくれなかったが。

……いやごめん。やっぱりだめかもしれない。

 

初対面の時のように後ずさりそうになったが、会計前の商品を抱えている身としては万引きのレッテルを避ける他なかった。

そっとお菓子の山をレジ台に乗せる。付け合わせでしょっぱい枠の肉まんを組み合わせたかったが、予算オーバー故の戦力外通告だった。戦力外なのはお前の財布だろというツッコミは禁止だ。

 

ギャルっぽい見た目とは裏腹に、今井さんは手慣れた動作でバーコードリーダーをかざしていく。無駄のない動きというのは見ていて飽きないものだ。

 

 

「今日はあの作品のコラボファイル探しているの?」

「そうそう。近所のコンビニだけだと全て揃わなかったの」

「大変だね~。というかチョコばっかりで飽きないの?」

「そう思うなら、コラボの交換対象商品をチョコ以外にしてくれない?」

「アルバイトにそんな権限ありませ~ん」

 

 

けらけらと彼女は笑う。全く。顔面偏差値が高くて絵になるから困る。最もダメ元で冗談を言っただけだから、採用されなかろうが構わないのだが。

しかし、彼女からしたら何か不満だったらしい。眉を吊り上げて、こちらへびしっと指を向けた。

 

 

「全くさぁ、こんな食生活してたらあっという間に不健康になるよ?」

「大丈夫、うちは甘党一家だからな。父親への贈賄に使っているよ」

「ちなみに、勝率は?」

「……0割。母は偉大なり」

 

 

一家のヒエラルキーの頂点に君臨する女傑に小手先のテクニックなど通用するはずもなかった。むしろ父親の健康診断がひっかかって大目玉くらうことになっただけだった。正直、すまんかった。

あまりの惨敗具合に今井さんは呆れた表情を隠そうともしない。それを否定できないのが悔しいところだった。

 

 

「まぁ、キミの食生活の話は置いといて。今週の土曜日、暇?」

「今週?特に何もないけど、それがどうしたの?」

「丁度チケットが余ってるんだよね~。だから一緒にライブハウスでデート、しない?」

「……え?」

 

 

★★★★★★★★★★

 

 

正直、舐めていた。未知の分野であるが故に、程々のレベルしか想定していなかったのだ。

だが、それも。入場口で今井さんから貰ったチケットを消費して。ドリンクを交換してライブが始まれば。

そんな余裕はいとも簡単に吹き飛ばされた。

 

ライブの熱狂。肌にビリビリと伝わってくる音楽の波。眩しい逆光が映えるバンド。

境界線が曖昧になって一体となっていく奇妙な感覚が己の内側を満たしていく。

それに僅かな焦燥を覚えつつも、やはり興奮が全てを塗りつぶす。

 

1曲目があっという間に終わる。矢継ぎ早に2曲目の演奏へと繋がっていく。

浮かんだ感想を振り返る時間すら与えてくれない。疾走感のあるセットリストが自分たちを手離してくれない。

ただ見ているだけなのに、どんどんと体力を吸い取られていくような感覚。否が応でも期待感が高まっていく。

 

 

「Unstoppable!」

「フロア、盛り上がっていけるか!」

 

 

3つ目を過ぎてから、ようやく会話パートが挟まれる。各バンドメンバーの挨拶が述べられ、それがちょっとクールタイムと化す。演奏している時の真剣な表情が嘘のように、演者たちは和やかに言葉を交わしていた。

とは言ってもそれは最低限。それすらも余分だと、遊びはおしまいだと言わんばかりに彼女たちは楽器を荒ぶらせる。

 

4、5、6。カウントすることも億劫だ。もうやめてしまおう。

もっと、もっと。こんなものじゃない筈だ、彼女たちは自分たちを更なるステージへと誘ってくれる筈だ。

だから。まだ、終わらないで。お願いだから。この刹那が永遠に昇華されてくれたらいいのに。

 

瞬間的な感情が腹の底から浮かんでは、弾けて霧散してしまう。あれ、俺は今何を考えていた?きっと周回遅れだから、捨て置いてしまおう。

おしまい?それは嫌だ、許せない。最高のステージの終わりがこんなあっけない筈がない。もう一度があってもいいじゃないか。

流石だ、分かっている。ああ、これがアンコール。テレビで見た時は揃ってコールしているのが理解できなかったが、当事者となれば理解は容易だった。この緩急が、ライブを完成させる。

惜しいけれど、これが終わりか。

 

 

「―――でした。皆さん、今日は来てくれて本当にありがとうございました!」

 

 

アンコールまで一気に駆け抜けた今日の主役たちは、誇らしげに自らのバンド名と感謝を告げる。

息が荒げた上に汗は滴り、満身創痍なのは誰が見ても一目瞭然。だからこそ、眩しいぐらいに曇りのない笑顔だった。

全力で音楽に情熱を注いで、彼女たちは出し切ったのだろう。その在り方はとても眩しかった。

 

万雷の喝采でライブハウスの地下室が充満する。むせ返る様な拍手と口笛の中で、俺が見ていたのは。

クールに手を胸元に添えるベースボーカルでも、観客に向けて律儀に頭を下げるギタリストでも、飄々とした表情を崩さないドラマーでも、優雅な仕草でお辞儀をするキーボードでも、DJブースに乗り上げて煽るDJでもなくて。

 

 

「最高だったよ~!」

 

 

純粋にライブを楽しんでいる今井さんの横顔だった。

彼女はただひたすらに真っすぐ正面のステージを見つめていて。俺が堂々と見ていることなんて気がついていないのだろう。

演者に一通り声をかけ終えた彼女は、ようやく同伴者の方へと話しかけた。

 

 

「ねっ、来て良かったでしょ?」

 

 

きっと自分の顔は真っ赤だろう。ライブに対する高揚と彼女への恋慕による二重苦で。

けれど、その事実を認めるのが恥ずかしくて。今井さんにばれるのが恐ろしくて。

だから、俺はニカっと笑った。

 

「……そうだね。今日ここに来れて良かったよ!」

 

本当にここに来れて良かった。

だって、貴方の横顔をずっと見ていても許されるからね。

 

 

★★★★★★★★★★★★★★

 

 

「かんぱーい!」

 

 

自販機で買ったあったかいココアの缶をぶつける。プルタブを捻って中身を流し込めば、仄かな甘味が心地良かった。

今井さんもくぴくぴと美味しそうに飲んでいた。愛嬌がある彼女が片手に持てば、何でも似合う気がした。

 

ライブが終わって即解散とするには惜しく感じて、気がつけば近所の公園にあるベンチで2人きりの打ち上げと洒落込んでいた。

11月になってから遅れてやってきた寒波が肌を刺すが、それすらライブの高揚を諌めるには丁度良い塩梅だった。

堰を切ったように今井さんがライブの感想を語りだす。

 

「ねぇねぇ!5曲目とか凄くなかった?」

「素人目線でもベースボーカルのカッコ良さが異常だったよ」

「だよねぇ〜。でもベーシストとしては負けてられないなぁ」

 

内側に燻っていた感情を吐き出すように語り合う。やれあの時のハモリが最高だっただの、やれ合間の楽器パートが上手だっただの。

肩書きが素人、或いは音楽家であるかなんて関係ない。一観客として、ただただ目を輝かせて想いを共有していた。

 

 

「食わず嫌いはやっぱり良くないね。今井さんに誘われなかったら一生来なかっただろうと思うと、不思議な縁だったよ」

「でしょでしょ?キミだったらこのバンドの良さが伝わるって思ってたんだ」

「次は今井さんのライブを観に行かないとね。確か、Roseliaだっけ?」

「そう。うちのバンドも負けてないから、絶対楽しめるよ!」

 

 

彼女は自信満々に胸を張る。積み上げた実績と練習量が彼女の自負なのだろう。

ならばいつか彼女の雄姿を拝みにいかねばならないだろう。今日の演者たちに引けを取らないライブを提供してくれるだろうと、素直に信じられた。

 

ふと思い出したように、夜空を見上げる。薄雲が張り巡らされた宙にはいつぞやの点々は見えなかったが。

それを貫くように極星が煌めいていた。周囲に取り巻く星々がいたとしても、頂点に君臨したであろう導きの一番星。

こんな都会でまた星が見えるなんて思わなかったけれど。今日この瞬間に邂逅したことにこそ、何か意味がある様な気がした。

 

 

★★★★★★★★★★★★★★

 

 

またまた自分は今井さんのバイト先を訪れていた。特にコラボ商品もなかったが、とある人に呼び出されての来店だった。

 

 

「しゃいませ~。お、リサさんの彼氏さんだ~」

「こんばんわ、青葉さん。いや、彼氏じゃないが?」

「またまた。満更でもないくせに~」

「そりゃ、あれだけできた子だったら誰だって喜ぶでしょ」

「おお、素直だ~」

 

 

容姿は対面した人たちが満場一致で可愛いと断言するレベル。内面は家庭的であり、好物は筑前煮や酢の物。

男子には堪らない可憐さとギャップを兼ね備えている逸材だ。誰だって好ましく思うのは当然のことだろう。

 

それにしても、相変わらず掴みどころのない少女だ。ぼんやりしているようで、意外と人のことを見ている。

こうして対面するのは片手で収まる程度なのに、発言は芯を食うのだ。

今も自分には視点が合わずにその後ろの商品棚を見ているように見えるが、何か意図があってのことだろうか。

 

己の怪訝そうにしている視線に気がついたのだろう。青葉さんはぱちくりと目を瞬かせたかと思うと、悪戯気に笑った。

 

 

「おっと。モカちゃんはお邪魔みたいだから、そろそろ退散するね~」

「はい?あ、ちょ。……いなくなった」

 

喩えるなら気まぐれな猫のように、するりと青葉さんはレジの奥にある部屋へと引き下がって行った。それでいいのかコンビニ店員。いや、パッと見た感じ他に客はいなそうだけれども。

けれど青葉さんの行動の意図はすぐに判明した。どたどたと慌ただしい足音が背後から聞こえてきた。

 

 

「ご、ごめん、お待たせ~。シフトカード押してきたから、もう上がれるよ!」

 

 

★★★★★★★★★★★★★★

 

 

彼女に呼び出された理由も分からないまま、二人横並びで歩いていた。彼女と一緒の時間過ごせるのは嬉しいが、意図が読めない行動をするのは相変わらずのようだった。

 

 

「ふふんふーん、ふんふーん」

「今井さん、ご機嫌だね。バンド周りで良いことがあった?」

 

 

鼻歌を奏でながら自分の横を歩く彼女。ご機嫌なのは直ぐに看破できたが、その要因までは思い至らなかった。だから、それ相応の推測を返す。

友人になって数か月程度しか経過していないが、彼女がRoseliaの仲間を大切に思っていることは十分に理解していた。特に幼馴染である湊さんはかなり溺愛しているのがエピソードの数々から容易に想像がつく。

 

核心をついたとばかりに自信満々な表情での指摘だったが、彼女はただきょとんとするだけだった。

やがて意味を理解したのかくすくすと笑いだした。

 

 

「残念、はずれ!」

「いつも楽しそうな時はバンドメンバー絡みだったから、てっきりそうだと思ったんだけどな」

「答えは、簡単だよ。―――キミと一緒に歩いているから」

 

 

どきりと胸に痛みが走る。不意打ちのそれはあっという間に自分の平常心を乱していた。

俺が、理由?そんな馬鹿な。それじゃあ、まるで自分が特別みたいじゃないか。

うぬぼれてしまいそうな衝動を必死に抑え込みながら、その真意をただす。

 

 

「そ、そんな訳ないじゃんか。だって自分たちは出会ってからまだ2、3か月しか経っていないしさ」

「……実はそれよりも前からキミのことを知っていた。としたら、どうかな?」

「え……?」

 

 

今井さんと、秋にコンビニで出会うよりも前に、面識があった?一体いつだ?

ぐるぐると記憶から過去を引っ張り出そうと必死になる。けどてんで思いだせなかった。

動揺が伝わったのだろう。今井さんは苦笑いしながら、その経緯を語り始める。

 

 

「あれはアタシがアルバイトを始めた頃なんだけどね。アニメのコラボ商品を探して君が来たんだよ」

「……マジで?」

「まじまじ」

 

 

そうだっただろうか。確かに自分は昔、好きな作品のタイアップでお菓子を買うとついてくるクリアファイル目当てでこの街を駆け巡ったことはある。

でも如何せん巡った店舗は二桁は超えていた筈だし、中には入店するや否や在庫の確認だけして回れ右をしたことすらある。ましてや数年前の店員の顔を思い出せるかと問われたら、指を横に振るしかないだろう。

これが今井さんに関連した記憶だというのなら、何が何でも思い出したいのだが。

 

それも織り込み済みだったのだろう。特に気にする素振りもなく、彼女は続ける。

 

 

「あの頃はちょこちょこミスを繰り返してて、挙句に大きめのポカをかましちゃったの」

「意外だな。今井さんしっかり者だから、そんな印象ないや」

「あたしも人間ですから~。で、それで内心落ち込んでいる時に駆け込んできたのが、キミ」

 

 

あの瞬間は今でも覚えていると彼女は言う。そっと、まるで宝物を取り扱うかのように今井さんはそのやり取りを紡ぐ。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

『いらっしゃ―――』

『すいません!今コラボしているクリアファイルって残っていますか!?』

『―――はいっ!?……あっ、申し訳ありません』

『そんなことよりも、在庫は!?』

『あっ、えっと……。このキャラクターだったら一枚だけ残っていますよ』

『……これこれ、探してたの!ようやく推しのファイル見つけたぜい!』

 

 

『じゃあ、ありったけの感謝を込めて対象のお菓子にしょっぱいポテチに付け合わせのジュースと今月のコミックを添えてっと』

『ちょ、そんな大量に買っちゃって大丈夫!?』

『いいのいいの!クリアファイルをようやくコンプリートできたことの前には些事よ!』

『えぇ……』

『あ、店員さん―――』

『はい?』

 

 

『―――ありがとうね!』

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「クリアファイルは全部なくなったのにお菓子の売り上げがいいのはなんでだって、店長が首を傾げていたのが面白かったな……」

「……れて。忘れて……」

「だーめ。急にきて驚かせてきた罰だよーだ」

 

 

舌を出して悪戯気に彼女は笑う。小悪魔のような仕草に思わずがっくりと肩を落とす。

なんとなく思い出してきた。確か翌日にアドレナリン不足と筋肉痛と財布の軽量化で一気に萎えた記憶があるぞ。やっぱり思い出したくなかったかもしれない。黒歴史は厳重に封印して二度と開封しないに限る。

 

 

「キミにとっては何気ない一日だったかもしれないけどさ」

「いや直ぐに闇に葬りたい黒歴史だが?」

「もう、茶化さないの。……あの感謝の言葉は、なんというかさ。凄い沁みたの」

 

 

別に茶化しているつもりはない。なんなら本気だが。そう言われてしまったら、もう勝てないじゃないか。ずるいなあ。

己が過去に繰り広げた茶番劇が彼女を笑顔にしたというのなら、道化冥利に尽きる。そう納得するしかないだろう。

 

 

「それからまた来店してこないかなー、ってソワソワしていてもキミは来ないし」

「まぁ、家があるの隣町だしね。普段は最寄りのコンビニに行くよ」

「また同じ作品がコラボしたから、さりげなくクリアファイルの在庫を残して置いたりしたのに」

「……その時には他のソシャゲにハマってたから、ぶっちゃけあの作品は放置してた」

「……浮気者」

「誤解されそうなこと言うのやめてくれないか!?」

 

 

ジト目で言葉のナイフを刺してくる彼女につい反論する。だって推しは増えるし、しょうがないじゃないか。

時間がそれなりに遅いこともあって、閑散とした夜の公園じゃなければ苦言を呈されているレベルの絶叫だった。

理不尽なことを言っている自覚はあるのだろう。これまた大きな溜息をついて、話を続ける。

 

 

「まぁ、またこうして会えたからいいけどね」

「けど、合点がいったよ。初対面じゃないから、推しのことを把握してたのか」

「そうそう。好きな人の好みは把握しておくものだからね」

「……え?」

「ずっと意識してた男子とデートして。こうして何気ないことを語り合って仲良くできていることが。―――たまらなく嬉しいの」

 

 

彼女はじっと俺の瞳を見つめる。またいなくなるのは赦さないと言わんばかりに、真っすぐと。

頬は暗闇でもくっきりと見えるぐらい真っ赤で。満月のように透き通った瞳は潤んでいた。

これが生半可な想いで発した言葉ではないことは痛いほど伝わってきた。

 

それに対して、俺は目を逸らすことができなかった。いや、したくなかった。

全く。ずっと前から自分は情けないとは思っていたけど、女の子から告白をさせてしまうとは。大胆な告白は女子の特権なのだろうか。

内心を整理するように、彼女に言葉を返す。

 

 

「俺も、今井さんのことずっと気になってた」

「うん」

「最初は何でここまでぐいぐい迫ってくるのか分からなくて」

「……うん」

「けれど友人として話しているうちに魅力的なところが沢山見つかって、気がついたときには手遅れなレベルで惚れてた」

 

 

震える肩に手を添えて、そっと抱き寄せる。力を今よりも強くしたらへし折れてしまいそうな程の華奢な体は容易に自分の胸元に収まった。

お互いの心拍音が反響する。どっちが、どっちだ。それすらも分からない。一つに合わさってしまったような、二つが折り重なったような。不思議な繫がりを感じていた。

 

 

「俺の方こそお願いします。俺の彼女になってください」

「―――うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 




本当は金土で余裕をもって書き上げる予定だったんです(精一杯の言い訳)
ただ、金曜の夜は友人から誘われて飲みからのカラオケ、土曜は休日出勤で一気に執筆時間が消えただけなんです!

……次のバンドリ祭はもっと余裕をもって書きますすみませんでした!!!!!!!!!!!!!

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