素敵だったのでまた読みたいので、どなたか教えていただければ助かります。
ピンク色のリボンがそよいでいる。
街中のフェンスや手すりや木々の枝、ブロック塀から突き出た鉄筋、時には側溝の金属のあみあみにも。結びつけられて、散ってしまった桜の花のかわりにそよいでいる。
【1】
私は中学三年生で、図書委員長で、文学サークルの部員だった。
実際のところは最近はやっている少年誌のオカルト漫画に熱をいれあげていて、たくさん本を読む口実にそういうところに入ったのだった。
でも読むだけでは活動実績にはならない。勉強をし、怪しい暗い趣味を隠しながら、“私の街の歴史”みたいな冊子を作って学祭にだすことにした。そうすれば後輩たちたちにも実質オカルトだとか漫画だとかサブカルのサークルと化している文学サークルを後輩に残してあげれると思ったのだ。
唐突に「先輩、ピンクのリボンの都市伝説の噂、どう思います?」
一年生の噂好きな後輩がいった。そのときは下校前で、カビ臭い、みんなで原始的本喰い昆虫、紙魚とかが湧く文芸室の掃除をしていた。
「ピンクのリボン?」
「そうです。女子のあいだで流行っている、ピンクのリボンの都市伝説です」
後輩曰く。
桜が散った頃から街中のフェンスや柵やブランコに、たくさんのピンクのリボンが結びつけられるようになった。
そのミサンガみたいなリボンをほどいて手首や足首に結びつけると、願いが叶うらしい。でも怪我とか、なにか痛い目を見ることもあるらしい。最悪、寿命が縮むらしい。
「バチがあたるのは時々らしいですけれどもねー」と一年生が笑う。
私は色々と心当たりを思い出した。
でも、この噂好きな新入生の後輩をちょっと脅かしてみたくて、あと守ってあげたくて「本物の、結んであるのをほどいたら、本当にバチあたっちゃうからやめときなさいね」と小さく言った。
「その噂も知っています!だからみんなピンクのビニールロープとか、ヒャッキンの偽物のリボンを自分で買ってくるんです」
「それなら良かった」と私は言った。
【2】
桜や梅雨や夏なんか思い出だ。
だらだら本と漫画とを読み。でも、勉強動画だとかもみて宿題を役割分担で解いて教え合い、受験には受かりたかった文学サークルたち。
同時にサークル存続のための実績も欲しくて、合間合間で“私の街の歴史”の冊子の取材をして「みんなでなにかお洒落なの、立ち食いしたい!」とか「学校近所の売店の、おばーちゃんの。今日はたくさん歩いたし、クーラーが恋しいですし」とか「ポカリポカリ、あつい…。」とか。
そんな感じで夏休みをすりつぶしていった。
噂好きの一年生が「そういえば、転校生が私たちのサークル入るらしいですよー。二年生だって」と言った。ショッピングモールのフードコートのうどんを上手くすすれず、モグモグしている。
私は「人数増えれば、サークルの存続できる確率あがるな」とか「あわよくば素敵な人だったらいいな」とか不純に思った。
【3】
私は図書委員長の仕事をしていた。
そろそろ夏もいなくなる。セミの声が変わってきて、秋の虫の声に変わっていく。
「あの図書委員長の方ですか?」
虫かごで一人ぼっちの、秋の虫みたいな声が聞こえた。顔をあげると、小柄で私たちと違う制服の女の子がたたずんでいた。
「うんそうだよ」
「私、二年生で文芸サークルに入ることになって」
「ああ、二年生の転校生さん。歓迎します」
【4】
学園祭が終わって、それなりに“私の街の歴史”の冊子で評価をもらって、文芸サークルは存続できそうだ。
そして、私は文芸サークルと、図書委員長をやめた。
受験をして進学して、この部屋や図書館や街から出ていかないといけない。後輩に仕事を受け継がせないといけない。
結局、二年生の転校生とはそれなりに仲良くなれた、気がする。
セミのような祭り囃子でもなく、秋の虫の群れみたいな必死さもなく。静かだけれど、とっても近寄りやすい雰囲気をまとっていた。
きっと、それがいけなかったのだろう。
春も夏も秋も終わろうとしているのに、紫外線で色の抜けた桜色のリボンが街中でそよいでいる。
【5】
私は学校の勉強だけでは足りなかったので、近所の図書館で机とノートとペンにかじりつき、無料の電波で画面中の先生を睨みつけ、そいつのやたらにいい声をイヤフォンで聞いていた。
ふと、図書館の窓に転校生の姿が見えた。彼女を絡め取るように、あせたピンクのリボンが風にそよいでいる。
窓の外の彼女はその一つにふれると、手品のように魔法のようにリボンをほどいた。
「ああ、これはいけない」と私は思って、大量の学習道具や資料をスポーツバックに詰め込んだ。マナー違反だと思いながらも走り出し、転校生の背中を追いかけた。
上っ面だけリフォームしたオンボロの役場やら、ススケた病院やら。撤去された遊具の公園。それらのフェンスやベンチや柵や、そういったものに結びつけられているリボンをあっという間に解き、別の場所に結び直す。
スキップみたいに軽やかに、どんどんと街のハズレに進んでいく転校生。
だめだ。冬服が汗ばむ。息が切れる。
視界がひらけた。星空の街だった。
小高い丘の公園の、フェンスや壁や蛇口だとかから、ピンク色のリボンがそよいでいる。
子どもみたいな小柄な転校生が、薄暮の町並みを背中に、展望台のフェンスのリボンに手をかけている。
「委員長さん、見つけてくれたんですね」と彼女は言って、すこし微笑み、また魔法みたいにフェンスのリボンをほどいた。
「このリボン、魔法とか呪がかかっているんですってね」と転校生。
つづけて。
「私、超能力をもっているみたいなんです。壊れやすいところや危ういところ、そういったものが桜色のリボンみたいに見えるんです。だからこうやって、ピンクのリボンをほどいたり、結びなおしたり。そうして危険をみんなに教えているんです」
私は「嘘ついちゃいけないよ」と諭した。
「私は本とか漫画とかインターネットとかたくさん見てて。何より“私の街の歴史”で知っている。そのピンクは工事のお仕事している方たちが”怪我しそう”な場所に巻き付けるリボンだ。足を踏みまちがえたりして鉄骨に頭をぶつけてたり、壊れたフェンスにもたれかかって橋から落ちたりしないためのものだよ」
「ばれちゃった」
【7】
それから私は彼女と雑談した。
“私の街の歴史”を書くためにとか、大好きなオカルトを追い求めているついででピンクのリボンを調べたこと。
ピンクのリボンを結んでいる大人の人に偶然出会って、ただの安全確認のためだったのだと聞いたこと。
【8】
「でも、委員長さん。このリボン、なんで女の子が大好きそうなヒラヒラしたピンクなんでしょうね。」
【9】
次の日、転校生は学校に来なかった。
その次の日も来なかった。
冬が来そうだ。
【10】
一年生の噂好きな後輩が私にいった。
「先輩、転校生のあの子、死んじゃったみたいです。街を見下ろせる公園のフェンスにもたれかかって、そしたらフェンスが壊れて、はるか下の用水路におっこちたんだそうです。でも、自殺かもって。左手の薬指にピンクのリボンがむすばれていたそうです」
"多分あのフェンス"
冬が来る。
ボロボロのピンクのリボンは秋の虫たちを狂わすハリガネムシみたいに、黒く汚れて、ながくながく、そよいでいた。
X(Twitter)で見かけた怪談だったか都市伝説を男性サラリーマンから女子学生にRemixした感じです。
ただ、どなたのご本だったのか思い出せず、人探し的に二次創作してみました。
素敵だったのでまた読みたいので、どなたか教えていただければ助かります。