〇ニート探偵のアフターサービス
冷房がほどよく効いた店内で涼みつつ、5人でフェケテリコのライブを振り返っていると、玄関側の端で座っていたむつみちゃんがスマホをスイスイしながら黙り始めた。その隣からたきちゃん、さきちゃん、私、ともりちゃん、という順。
その表情が怪訝なものに見えたのが気になる。
そよ「むつみちゃん、難しい顔で何調べてるの?」
睦「……SNS。ライブ関連のツイート漁ってたんだけど……」
立希「何、なんか嫌なモンでも見つけた?」
睦「……今心配になったんだけど。私のこと、騒がれてないかなって」
祥子「そう……そう、でしたわね。流石に、あれだけの人数に晒されたら……」
燈「大騒ぎ、されちゃう?」
今までは小さな箱だったからか、別に騒ぎ立てる人もいなかったし、いたとしても大きな話題にまでならなかった。でも今回は10万以上の人たち相手に大歓声をもらったライブ。
流石にネットでの大騒ぎは避けられない。
はずだった。
睦「……でも、私関連のツイート、全然見つからない」
立希「そ、そう? 良かった、じゃん?」
睦「……自意識過剰かもしれないけど。おかしい。今までのライブよりも見当たらない」
そよ「Ringとかの箱でやったよりも? それはちょっと……」
祥子「規模の差を考えると、不自然ですわね」
睦「……たまたま私のアカウントに引っかからないだけかもしれない。みんなも、ちょっと調べてみて」
燈「う、うん」
一応、みんなSNSアカウントは持っていたのでそれぞれむつみちゃんの名前で検索をかける。でも、同じだった。
そよ「確かにほとんど見つからないよ」
燈「検索の仕方、合ってるのに……」
祥子「あっ、それらしきものを見つけました……あら?」
立希「何」
祥子「いえ、そのツイートをタップする寸前で、ツイートが流れてしまった、と言いますか……」
睦「……たまにあるね。タイムラインが更新されたみたいな感じ」
祥子「しかし、インプレッション……ツイートの表示数は見ましたわ。他のライブ関連のツイートよりも、明らかに少なかったです」
立希「睦には嫌な言い方になっちゃうけど、話題性のありそうなツイートなのに?」
睦「……自分で言うのも凄く嫌だけど、何か違和感、というか……」
そよ「作為的なものを感じなくもないね。考え過ぎ、にも思えるけど」
燈「作為……誰かの手で意図的に
睦「……無理。運営側ならできるかもだけど、利益的には逆により目立つようにさせるはず」
好ましい状況なのになぜそうなっているのか分からない話で、私たちはうーん、と唸り合った。
そこで、厨房でアイスを作っているミンさんが話に混ざってきた。
ミンさん「そのSNSって、ネット上のことなんでしょ?」
睦「……はい。ソーシャル・ネットワーク・サービスの略ですから」
ミンさん「じゃあ。1人いるでしょ。ネット上で好き勝手できる薄気味悪いガキが」
燈「……あっ」
私たちは店内からビルの308号室がある方へ一斉に顔を向ける。去り際、彼女は確か言っていた。『仕事がある』『友人の友人までは助ける』、と。
ネット上ではまるで不可能がなさそうなハッカーなら、確かに納得だった。
私たちの表情が緩む。
燈「依頼、してなかったのに。そこまで、やってくれたんだ……。ありがとう、
祥子「アフターサービス、というものでしょうか」
睦「……あの子が一番親のことで嫌味言ってきたけど」
そよ「そのお詫びかもしれないね」
立希「ハッ、殊勝なチビ探偵なこった。……まぁ、恩には着るけどさ」
祥子「えぇ、そうですわね」
睦「……ニクい真似を。憎めなくなっちゃった」
ミンさん「そういう
燈「はい。だから私、友達になれて、よかったです」
ふんわり微笑むともりちゃんに、私は頭を撫でて喜びに寄り添う。こういうところは、誰より心優しい彼女の友人として相応しいと、私も素直に思えた。
〇ラーメンはなまるの由来
ミンさん「アンタ、あの偏屈と友達になれるなんて、かなりの変わりモンだな」
立希「あいつは確かに偏屈で変わり者だけど、燈はただ優しいだけです。あとは私も変わり者じゃないです」
ミンさん「誰もアンタのこと言ってないだろ」
そよ「あの子に散々言われたから意識してるんだと思います」
睦「……真実なのに」
立希「ちゃうし! てかお前の方がよっぽどだし!」
睦「……絶対立希には負けるし」
隣同士でいがみ合う2人を余所に、さきちゃんがジュースを飲みながらミンさんに訊ねる。
祥子「ミンさんはアリスさんの母親代わりとう感じですわね。いつ頃から面倒見てましたの?」
ミンさん「わたしは母親って年じゃない。あいつが8年くらい前に来てからの付き合いだよ」
そよ「長い付き合いですね。なんだか、その頃からラーメン屋やってそうなイメージあります」
ミンさん「8年前なんてまだ10代だよ。ラーメン屋継いだのは5年前」
祥子「親御さんから継がれたんですか?」
ミンさん「そうだよ。元々継ぐつもりなんてサラサラなかったけど。まぁ……守ってやるか、って」
燈「? そう、なんですね」
なんだか店が無くなりそうだったから継いだ、みたいに聞こえる。なんでもなさそうに料理しながら言うものだから、繊細そうに感じたのが気のせいに思えてきた。
むつみちゃんもそうだったのか、そういう点よりも家業を継ぐ、という点について触れた。
睦「……親の仕事を継ぐのって、なんか……納得、できるもの、ですか?」
ミンさん「アンタは複雑そうだな。私はそんな事情じゃないけど……。なんだかんだ、この店の雰囲気とか客とかが好きでさ。腹がストンって決まった」
睦「……なら、よかったです」
ミンさん「ありがと」
お互い踏み込み過ぎない、距離のある微笑み。言外に交わした言葉以上に通じ合ったのを、穏やかな沈黙から察した。
まぁ、このままというのはミンさんも困るだろうから。あえてKYする私。適当に話題を思いつく。
そよ「そういえば、この店はどうしてはなまるって店名なんですか?」
祥子「シンプルで
ミンさん「親父のフルネームが花田勝なんだ。で、それをそのまま店名にしようとして、お袋にダサいって言われたんだよ」
立希「当前ですね」
ミンさん「で、ダとサを抜いたのが……」
睦「……ラーメンはなまる」
そよ「オチも含めて、なんだかほっこりするエピソードですね」
燈「お父さんは、ラーメンやめちゃった、んですか?」
触れるべきじゃないと思っていた点に触っちゃうのがともりちゃんだった。内心ヒヤッとしつつ、少し声のトーンが落ちたようなミンさんを伺う。
ミンさん「いや、急に消えやがった」
燈「消える……?」
ミンさん「私が氷菓職人目指して修行してる最中に、突然失踪したんだ」
祥子「そ、そんな……」
さきちゃんが何か言いかけた口を、グッと飲み込んで引き結ぶ。家族愛を大事にする子の思考的に、奥さんのことが気になったんだと思う。
お母さんらしき人も、この店で一度も見かけてないし、気配も感じたことはない。
ボウルの中をメレンゲでかき混ぜながら、ミンさんは心ここにあらずな目でぼうっと語る。
ミンさん「当時はホントに腹立ったな。店のことも、わたしのこともどうでもよくなったのか、って。一時期はわたしに継がせようってしつこかったくせに」
睦「……氷菓職人目指してるのに、継がせようとしたんですか?」
ミンさん「んー。わたしが製菓学校通い始めてからはパッタリしなくなったから、どこまで本気だったんだろ。最期まで何考えてるかわかんない親父だったよ」
燈「さいご、って……?」
ミンさん「あー、悪い。つい口滑っちゃったな」かき混ぜる手がハタと止まる。「……亡くなったよ。去年」
私たちは人の死に慣れていない。だから、いつも賑やかで温かなラーメン屋は重たく冷たい沈黙に沈む。
その空気をなんとかするのに、子どもらしく大人に甘えてしまった。
ミンさん「しょうがないな、じゃあ別の話に変えてやる。さっきわたしの結婚騒動してたろ? その頃のことなんだ」
確か、香港マフィアのやくざさんが、ミンさんと結婚しようとした、って話だっけ?
と、私はさっきの話を要約しつつ相槌打ち、ミンさんは「そう」と返しながらアイス作りを再開した。
ミンさん「最初は
祥子「なかなか……込み入った話そうですわね」
ミンさん「その辺は省略するからつっこむなよ?」
私たちはまだ子どもだけど、この数日間で相当ヘビーかつディープな話を聞いたり体験してきた。そのせいか、父親が殺しの容疑者だった、ぐらいでは大きく動揺しなかった。何者かは当然気になるけど、話の本題じゃないと割り切って流せる程度には、度量がついてしまった。望んでいた成長ではないのだけど。
複雑な気持ちで、軌道修正を図る私。
そよ「えーっと……これまでの話的に、それが代理じゃなくて本当にその、ミンさんを……」
ミンさん「そう。
燈「さっきも、言ってた……。納得、できたんですか……?」
人の勝手な都合で居場所を奪われることに敏感なともりちゃんが、悲し気に訊く。
ミンさん「できるわけないよ。だから、あの馬鹿どもに依頼した。婚約潰せって」
立希「そんなことも引き受けるんですね」
ミンさん「アリスはその依頼自体は突っぱねたけどね」
以前私たちが依頼したときは探偵の矜持だの、死の匂いだので断ろうした彼女を思い出す。婚約破棄の依頼を断るのは、イメージ通りだった。
祥子「ですが、今こうしてラーメン屋を続けている、ということは……」
ミンさん「あぁ。依頼通りぶっ潰したよ。命がいくつあっても足りない手段に、ろくでもない企みを混ぜてな」
睦「……ニート探偵団らしい」
立希「納得していいのか?」
いいんじゃない? あの人たちのことだし。
すぐそこの勝手口にたまっているので、口にはしない私。
燈 「そういえば、さっき学校にドレス姿で来た、って……」
そよ「確か、披露会から抜け出してそんなとこ行ってたとはな、とも言ってたような……」
祥子「も、もしかしなくても! 定番の花嫁を攫うシチュエーションですか!?」
読書好きがドラマティックでロマンティックな匂いに色めきだつ。
ミンさん「マフィアが何十人と詰めてるビルでな。一歩間違えば、平坂組とあのバカ共は全員ただで死ねなかったよ」
血と死の匂いで塗りつぶされてしまった。現実(?)じゃあこういうものなのかな。
ここでミンさんは「ちょうどいいや」と独り言みたいに呟いた。それから、今までより真面目くさった表情になる。
ミンさん「アンタらが今回のことで妙な耐性つけないためにも言うけどさ。やくざやマフィアっていうのは、ホントに容赦ないやつらなんだ」
それは嫌ってほど思い知らされた。でも、私たちが経験して方向性じゃない部分も、ミンさんは語ってくれる。
ミンさん「そういう直接的な制裁はもちろん、表向きには角の立たない陰湿なやり口も躊躇わない。例えば、この店の仕入れ先を根こそぎ脅し回る、とかな」
立希「何それ……いや、裏社会の組織なら、そういうもんか……」
祥子「しかし、そんなことをされたら、お店としてはかなり痛手だったのでは?」
ミンさん「あの時は色々こたえてさ。店、閉めかけようかとも思ったよ」
そよ「そういえば、紅雷って人は店潰そうとしてた、って……」
睦「……ラーメン屋潰せば、従うと思った」
ミンさん「だろうな」
燈「あの人……自分はそこまでしたのに、有子ちゃんには酷いこと言って……!」
ミンさん「燈」
目を怒らせるともりちゃんに、真面目な口調が挟み込まれる。彼女は眉を寄せながら、友人を長年見てきた保護者的ポジションの人を見る。
ミンさん「
燈「有子ちゃんは……!」
立ち上がって怒鳴るともりちゃんに、ミンさんは少しも優しい微笑を崩さなかった。
ミンさん「でもね。最後には、ちゃんと報われるんだよ。重いのにどうにも片付かなくて辛かったのが、少しだけ軽くなる。こいつら頼ってよかったなって締めに、いつもなるんだよ」
死者の代弁者。人を真実で傷つける墓荒らし。葬送という言葉が思い浮かぶ。人の死を悼み、痛んだ心が涙を流して、また明日を生きていく。
そんな痛ましい彼女が率いる探偵団を見守ってきたラーメン屋の店主が、晴れやかな声色で言い切った。
ミンさん「だから余計に思うんだ。あいつらがくだ巻く居場所でもあるこのラーメン屋を続けられて、よかったってさ」
燈「……私も、ミンさんがはなまるを守ってくれて……よかったです。怒って、ごめんなさい」
ミンさん「ダチが悪く言われたんだ。怒ったら怒鳴れ。だよな、そよ」
そよ「ふふっ、はい♪」
ミンさんは、格好いい大人だ。私も、小事を流して大事なことを守れる女性になりたいと思いながら、まだ少し気にしているような弱々しい微笑のともりちゃんをヨシヨシした。
立希「てかそよ、燈のこと撫ですぎ。そろそろ席替えしよう」
祥子「貴女ね、良いオチが台無しなことを言うんじゃありませんわ」
睦「……燈が欲しいなら普通に言えばいいだけ」
立希「いかがわしい言い方すんな!」
素直に言わないから聞こえないフリして譲らない私だった。
その後すぐミンさんがシューアイスを出してくれて、私たちは焼き立てふわふわさくさくなシューの中で溶けていくアイスに色めきながら楽しんだ。
〇ベン・ハー~主人公と親友が酒を飲み交わすシーン~
「辛気臭い話は終わったか? 打ち上げなんに、しょうもない話が好きなやっちゃで」
勝手口の方から、久しぶりにわざとらしい大阪弁が聞こえてくる。
ともりちゃんが、弾かれたようにそちらを向いて、嬉しそうに声をあげる。
燈「錬次さんっ!」
錬次さんはサングラスを額にずりあげた状態で、店内にやってきた。手にはどこかから持ってきたらしい椅子、顔は赤い。たぶん酔ってるんだろう。
その椅子をともりちゃんの横に置いて座られた。ともりちゃんは私の方へ詰めて、スペースを空けてあげる。
乱入してきたニートに、たきちゃんが声をとばしてきた。
立希「アンタ、ライブ運営にも関わってない無関係者でしょ。何で打ち上げに参加してんの」
錬次「ニートに宴する理由なんて要らへんねん。んなことより……お前、めちゃくちゃ凄かったやないか。なーにが『火はない』や、そんなやつの歌で何千何万も湧くかっちゅーねん」
燈「えへへ、ありがとう、ございます」
錬次「やし、お前はもう、ちゃんと燈や。最後の大歓声なんて、俺も
燈「あの時は、有子ちゃんのために、必死で……え?」
睦「……今、何か聞き捨てならないこと聞いたような……」
祥子「言葉の綾ですわよね? いや、それでも到底見過ごせませんが……」
立希「燈の兄貴分ってなに!? 私の許可なく何ほざいてんの!」
反対側からキツい声が飛んでくる。全く、みんな過敏に反応し過ぎなんだから。
せめて私がスマート且クールに対応してあげよう。
そよ「ちょっとお喋りしただけのニートが、ともりちゃんの兄ぶらないでください。通報しますよ?」
錬次「なんやお前ら」
燈「そ、そよちゃん。錬次さんも助けに来てくれたのに、言い過ぎだよ……」
あれ、そんなにヒドいこと言ったかな。かなりマイルドに抑えたつもりだったのに……。
錬次「あ、そうか。まだ儀式してなかったもんな。認められんのもそらそうか」
燈「儀式?」
錬次「マスター。御神酒と盃くれ」
ミンさん「出すか馬鹿。こいつら未成年だぞ」
錬次「俺らそんなん気にしてんかったやんけ。まぁええわ、俺のだけで」
ミンさん「ったく……」
しかめっ面ながらミンさんは日本酒と底の浅い盃を出す。そして錬次さんは盃にお酒をとくとく注いで、ともりちゃんに「自分のコップ持ってこっち向け」と促す。
何する気なのかよく分からなくて、口を挟めずに静観する私たち。ミンさんのため息だけは聴こえた。
燈「えっと、こう?」
錬次「そうや。そのまま俺の腕とお前のを絡ませて……」
燈「う、うん……」
錬次「で、腕組んだまま飲む。そしたらほら、お互いの腕と肩と頭でできた2つの輪が鎖になるやろ。これで俺らは兄妹や。見届け人はマスターと、そこのションベンくさいガキ4人な」
4人『ちょっと待ったー!!!!』
4人で2人へ飛び掛かった。
たきちゃんは錬次さんの盃の中身を錬次さんの顔面にぶちまけ、さきちゃんが錬次さんの腕をはがし、むつみちゃんが2人の間に体を割り入れ、私がともりちゃんの後ろから抱きしめて距離を取らせる。
祥子「汚らしい言い方にも文句を言いたいところですが、それよりも何よりも!」
そよ「何義兄妹の儀式なんておっぱじめようとしてるの! それどうせやくざ世界のしきたりでしょ!? ともりちゃんをこれ以上そっちの世界に染めないで!」
立希「第一、私を差し置いて何兄なんてなろうとしてんの! 私を通せ! 絶対認めないけど! その前に私が燈の姉になる!」
睦「……どさくさに紛れて何宣言してんの。まず私が燈の妹になってから。他は全部後」
祥子「燈と一番最初に出逢って見出したのはこの私! 有象無象が何をおっしゃいますか! ファーストは私以外ありえません!」
そよ「あのね、この5人の中で私以上にお姉さんに相応しい人いないよね? 自称なら自分の中で勝手にやって、ちゃんとお姉さんできないなら意味ないでしょ」
立希「喧嘩売ってんの!?」
祥子「高くつきますわよ!」
睦「……姉の座は譲ってあげる。ファーストシスターは誰にも渡さない」
3人『こっちの台詞ー!』
燈「えっと……」
錬次「身内がアホやってる内や、腕失礼するで妹よ、ほらジュース飲め」
燈「う、うん……錬次お兄ちゃん」
錬次「うっ……恥ず過ぎるわ、呼び方は今まで通りで頼むわ」
4人『あーっ!?』
4人で言い合っていたら、2人が腕絡めて飲み合ってる!
すぐさま引き剥がし、勝手なことをするだらしないニートの頭を4人でタコ殴りにした。女子としてはしたない? 相手が喧嘩の強い不良? 知らないよ、ウチのともりちゃんの身内に勝手になって……!
燈「あ、あの、みんな……。お兄ちゃんを、虐めないで……」
弱々しい咎めに、ピタッと止まる。そして、4人でさめざめと泣きながら席に戻った。
立希「燈が……私のともりがぁ~!」
祥子「私の燈が、どこの馬の骨とも分からない凡夫に、とられましたわ~!」
そよ「うぅ、私のともりちゃんが、どんどんニートの方向に引きずられていく……」
睦「……私の燈を奪った罪、一生覚えておこう。何なら、借金取りの人に調べ上げて教えてあげなきゃ…‥」
錬次「残念やったな。壮に泣きついてチャラにしてもらったわ」
ニカッとした笑みに、大きな舌打ちが4つ重なる。それにも全く気にした様子はない。チッ。
1人だけ、真面目くさった妹みたいに振る舞う子がいた。
燈「お兄ちゃん。ちゃんとお礼、言った?」
錬次「あー、言った言った。それとな、壮のことは叔父貴って呼び」
燈「壮の、叔父貴……?」
錬次「上出来や。ククッ」
意地悪そうに笑う錬次さんを見ていると、どう反応するか楽しんでいる節すらあった。まったくこのお調子者は、良い性格してるよ。
ともりちゃんがこの人に会うときは、絶対付き添って見張らないと。億が一ヤンキーっぽくなったりでもしたら、さきちゃんに頼んで闇に葬ろう。
4人でアイコンタクトし合い、さきちゃんが闇色の微笑みで頷く。私たちで通じ合ったことを確かめ合った瞬間だった。
〇一週間ボクサー速成ギブスっていう名前らしい。文字通り、一週間でボクサーを倒すようになるためのギブス。
落ち着いてから、ライブ前まで錬次さんが何していたかを聞く。「ゴミ拾いのボランティアや」という話を深掘りした。
実はライブハウスにちょっかいかけてるやくざを見つけては相手をして、手を引くよう『説得』をしていたらしい。
配信準備のとき、会う度にアザや傷が増えていたのはその過激な『話し合い』の代償、というわけだった。
燈「じゃ、お兄ちゃん。平坂組に、戻る……の? 戻るん、だよね?」
錬次「……それは流石に無理や」
燈「そっか……。けじめ……」
錬次「……燈」
しょげるともりちゃんに、錬次さんはポケットから何か出して見せる。スマホだ。操作して、連絡先を出す。勿論、彼への連絡先。
錬次「『あのお節介にこれ以上気ィ回させるわけにいかねぇだろ』って。同感や思ってな」
燈「……よかった」
ともりちゃんは目を細めて笑う。まぁ、確かに。いつでも言葉が届くなら。最低限繋がっているからね。
立希「最初からそうしとけば、あんなに思い悩む必要なかったのに」
睦「……恰好つけ」
祥子「殿方というのは妙な意地を張るお馬鹿さんですわね」
そよ「ここまで意固地に突っ張るのはこの人らくらいだと思うけど」
3人『違いない』
錬次「俺が身内のダチまでは優しい男で命拾いしたな、お前ら。ホントなら女相手でも容赦せんで」
燈「お兄ちゃん、メッ」
錬次「……兄妹なるんはやっぱ早まったやろか……」
兄になりたての男は、金メッシュの髪をガリガリ掻いた。ウチのともりちゃんは案外強く出るの。ざまぁ見なさい。
と、4人でクククッと心地よい笑いを重ねているときだった。勝手口の方から、ファイティングポーズの変態が現れた。
ナルミ「錬次さん、本当にその子たちとも面識あったんですね」
錬次「3日で3回会った、腐れ縁や。そしてパンツ一丁のお前は腐れ変態や」
ナルミ「違いますよ! これがさっき話にあがった、ボクサー矯正ギブスです」
錬次「どうでもええわ。俺の義妹に貧相な体見せんなや」
ナルミ「こっちこそ知りませんよ、僕だって罰ゲームでつけさせられてこっちに運ばれただけなんですから!」
藤島さんが上半身裸、下はスボンなしで勝手口に立っていた。ベルトとバネみたいな器具を体に巻き付けながら。その後ろではニート探偵団がニヤニヤしている。あ、忍び足で外に出て行った。見捨てるつもりだ。
燈「あの……服、着てください」
立希「ホントだよ。誰も望んでないのに」
ナルミ「だから! ギブスがきつすぎて、自分じゃ一ミリも動けないんだよ! 錬次さん、これ取ってください!」
錬次「当然、おもろいから放置や。燈は見んな。メシマズなるで」
燈「うん……」
そよ「見苦しいので除去して欲しいんですけど~」
ナルミ「もうちょっと言葉選んでもいいんじゃないかな……」
ちなみにさきちゃんは男性の半裸に耐性がないのか、ずっと背を向けている。私たちも、小学生のプールとかぐらいでしか見た事ないけど。むつみちゃんはまぁ、芸能界のバラエティとかであるか。
と、錬次さんが想い出したように言い出した。
錬次「そや。確か話じゃ、どれだけ張り倒しても勝手に起き上がるんやったっけ」
ナルミ「やめてください! それミンさんに散々やられて意識失いかけたんですかr……」
言い切る前に張り倒される藤島さん。しかし倒れたと思ったらバネがしなって逆再生みたいに立ち上がり、ファイティングポーズを取り直した。立ち姿は勇ましいのに、ピヨピヨした表情がギブスに翻弄されている図を物語っていた。
錬次「ほー、おもろいやんけ。そーいえば、俺ってお前にボコボコにされて追い出されたってことになっとったな」
ナルミ「そ、そんな根も葉もない噂で僕に八つ当たりしないでください!」
錬次「ある意味間違っとらん。俺はお前に痛い目に遭わされたんや、忘れたとは言わさんで」
ナルミ「いやっ、あれはっ、アリスがっ、全部っ、指示したっ、ことでっ……」
燈「よく分からないですけど、有子ちゃんのせいにしないでください。有子ちゃんは優しい子なんです」
ナルミ「君がっ、知らないだけでっ、あいつはっ、ちっともっ、優しくなんてっ、ナイ……」
倒される度に跳ね上がり、跳ね上がる瞬間張り手に押し返される。こんなバネ仕掛けのおもちゃ、なかったっけ? 人間では初めて見るけど。
ついに喋れなくなるくらい意識が遠のいたらしい彼は、白目をむいていた。バネに揺られてぐわんぐわんするおもちゃから満足そうな笑みで離れた錬次さんは、ともりちゃんに言う。
錬次「燈。お前はこんな情けなくてしょうもない男と付きおうたらあかんで」
燈「付き合うって……」
錬次「恋愛や。そうやな……俺か、百歩譲って壮並みのヤツ捕まえ。こいつは見た目に反してそれはそれはモテるらしいけどな、あかんあかん」
立希「アンタに心配される間でもなく、燈に近づく輩は全部排除するから」
そよ「ともりちゃんの意思も尊重してあげなよ。問題のある人だけ裏で間引けばいいでしょ」
祥子「方法はいくらでもありそうですわね」
睦「……手始めに、兄を自称する男から試そうか……」
錬次「お前ら確かエエトコの令嬢やったな、洒落にならんからやめい!」
〇ちなみに壮は、錬次がいる可能性に賭けてヨシキを騙して連れてきた。「アイツならもう東京から出て行った」と言って。
「何女に張り付いてんだテメェ」
玄関側から、呆れ塗れな鋭い声が飛んでくる。今日もお世話になった、ライブ運営トップ様のやくざだ。
錬次「なんや、やっぱ来たんか。エラい来るの遅かったが、あれか? これが重役出勤っちゅーやつか?」
錬次さんはわざとらしいくらいそっぽ向いて、盃をあおりながら負けじとやれやれ声を張る。
だから、四代目以外にもう1人いるのにも、気付かない。
四代目「人を迎えに行ってたんだよ。自力でここまれ来れねぇからな。——お前も知ってる通り」
錬次「ハァ? 何の話——」
燈「あなたは……ヨシキ、さん?」
四代目が引いてる車椅子に乗っていたのは、わかぎ手芸店で会った店主、ヨシキさんだった。歩けないほど体が弱かったなんて、知らなかった。
ヨシキさんが、私たちに話しかける。——苦味を堪えたような顔で。
ヨシキ「CRYCHICのみんな。ライブ、お疲れ様。大成功だったね。衣装も凄く似合ってて、綺麗だったよ」
祥子「ヨシキさん。改めまして、衣装の件は誠にありがとうございました」
そよ「きっとライブが成功したのは、ヨシキさんが助言してくださったおかげです♪」
睦「……それは、間違いない」
立希「あの衣装が、これからの勝負服になりそうです」
燈「……お兄ちゃん……」
ともりちゃんの、心配そうな声で私たちはふとヨシキさんから視線を巡らす。
錬次さんが、呆けた顔でヨシキさんの方を見ていた。呆けた、というのは大雑把な印象でしかない。
驚愕、困惑、感激、哀愁。色んな感情が節々を駆け巡って、色合いが定まらない。盃が、手から落ちて床に響いたとき。
ヨシキさんが、一瞬目を伏せた後、彼に応えた。
ヨシキ「ヒナの知り合いかな。ヨシキです——」
錬次「馬鹿にしてんのか。俺が、俺がお前を分からんって、本気で思うとるんか?」
ヨシキ「……」
ついにヨシキさんの微笑が崩れた。観念したようにため息ついたとき、錬次さんは駆け出して、ヨシキさんを……その人を抱きしめた。
少しずつ屈んで、膝つきながら、車いすごと抱きしめる。どう見ても、同性にするような抱擁じゃなかった。
錬次「俺が……俺が、どんだけお前に逢いたかった思っとんねん。どんだけ、どんだけ……」
ヨシキ「……ごめん。でもやっぱり、会いたく……なかった」
酷いことを言いながら、ヨシキさんは抱きしめ返した。そっと、割れ物に触れるような手つきで。
黙り込む私たち。全員、同じ話を思い出していただろう。『女は腹を刺されだけど、手術は成功して生き延びた』『その代わりに内蔵を何個も取って、歩けなくなって、性別も名前も変わった』。
そして。わかぎ手芸店の近くで隠れるように立っていた錬次さん。間違いなんだろう、きっと知っちゃいけないことなんだろう。でも、しらばっくれるには、重過ぎた。
そして、ただの感動の再会という純粋なシーンにも成り得ない光景を前に、空気を読んで退出する、という行動も取れなかった私たちは、やがてヨシキさんの苦しそうな声を耳にする。
ヨシキ「錬次、苦しい」
四代目「今度こそ殺す気か、程度を考えろアホ」
錬次「っさいわ、この6年ずっと一緒だったお前に、俺の気持ちなんか分かるか」
涙声の錬次さんはフッと体を離して額のサングラスを目に下ろす。意味ないと思うけどな。
さて。客席にはCRYCHIC5人と、錬次さん、四代目さん、ヨシキさん、そして変態的置物の藤島さん。5人席しかない狭いカウンター席に、9人は飽和状態だから、私たちは席を外そうかな。
その流れに持って行く寸前に、席から立ち上がる子がいた。
〇咎
燈「やっぱり、ヨシキさんが、錬次さんの言っていた、女だったんですね……」
それを口にしてはいけなかった。それが分からない子じゃないはず。
でも咎められなかった。声色に、憤りが滲んでいたから。ヨシキさんの前に進んで行く足取りがゆっくりなのに力強くて、生半可な言葉では止まらないと思わされる。
錬次「とっ、燈、どないしてん。お前が怖い顔しても、誰もビビらんで」
燈「どうして下らない嘘ついたんですか。そのせいで、2人がどれだけ傷ついて、失って。お兄ちゃんが、錬次さんがどれだけ苦しんだと思ってるんですか!」
錬次「やめろ燈!」
燈「錬次さんが、今も平坂組に戻れないのはっ、この人が嘘をついたからなんですよ!? どうして許せるんですか!っ?」
大きな声がぶつかり合う。ヨシキさんは、何も言い返す意思がないと示すように、目を閉じている。覚悟していたような佇まいだった。
ともりちゃんの顔は紅潮していて、息も荒くなっていた。眉は釣り上がっているけど、歪に歪んでいる。錬次さんを想って怒っているのは確かなんだろう、でもきっと、心の中がぐちゃぐちゃだ。
大きな想いが複雑に混ざり合って飲みこまれているのは、錬次も分かったんだろう。兄らしく、厳しくも落ち着いた声で窘める。
錬次「なら、こいつが悪い言うんか。何も悪いことしとらんのに一方的に刺されて死にかけたヤツが悪いんか」
燈「……ッ! ならっ、どうしたらよかったんですか! そんなこと言ったら、どうなっても2人が喧嘩して離れ離れになるのは、避けられなかったじゃないですかッ!」
駄々っ子みたいな叫び声が店内に響く。どうしても、2人の別離に整理をつけきれなかったみたい。もしかしたら、これが昔の彼らだったのかもしれない。
だから彼は、ともりちゃんに目を合わせるように中腰になって、頭を撫でることができた。
錬次「俺のせいや。俺が壮を信じ切れずに、上辺の言葉だけ受け取って、殴るだけやったからアカンかった。言葉もぶつけなあかんかった。お前みたいに、納得いくまで向き合うべきやったんや」
誰への懺悔なのか、分からなかった。途中から下に向かってボトボト落とされる声が、過去か未来か、どちらに向けられているさえ。
それすら言葉に上手く彫り上げられなかったのかもしれない。あるいは言葉によって切り捨てられたか。
だからともりちゃんは、形にならなかった想いごと抱きしめるように、義兄の項垂れた頭を胸に寄せた。
その愛情を、強がった情けない自称兄はデコピンで遠ざける。
錬次「兄貴分と、死ぬほど会いたいと思ったヤツとの、感動の再会や。妹として祝ってくれや」
4人「だから認めませんて」
四代目「おいテメェ、さっきっから思ってたけど、甲斐性なしのくせに妹なんて作ってんじゃねぇ。5分の盃交わした俺まで同類に思われんだろ」
周りから責められながら、カラカラと明るく笑う錬次さんだった。流石にその意図を察してしまい、それ以上はある程度言葉を選んで罵る私たちだった。
〇
燈「ヨシキ、さん。本当に、ごめんなさい。私、最低なことを……」
ヨシキ「……気にしないで。こちらこそ、ごめんなさい」
車いすのまえで膝ついて、真摯に頭を下げるともりちゃん。ヨシキさんは控えめな微笑でその肩に手を置いて、やめるよう暗に伝える。
ともりちゃんは、流石に笑えない。2人の微妙な空気を変えたのは、意外(?)な人の、意外な発言だった。
四代目「おい、燈」
ともりちゃんは声にふと顔を上げて、その方へ向く。その額に、白い小箱がぶつかった。山なりにとはいえ、投げてよこされたのだ。
立希「燈に乱暴な渡し方しないでください! 傷とかついたらどうすんの!」
四代目「ンな固い箱じゃなぇ。それより箱開けろ」
燈「は、はい……」
律儀にも巻かれていたリボンをほどき、立方体の天井が開かれる。中から革製の袋が取り出された。
四代目「アリスから聞いた。お前、石拾うんだろ。それを入れる袋にでも使え」
燈「刺繍が、してある……」
四代目「それはヨシキさんがやったやつだよ。なんかしたいっていうから、デザイン含めてやってもらった……」
燈「わぁ……!」
四代目の話を遮って、急にともりちゃんの声色と顔がパァッと明るんだ。何かと思って、私たちも彼女に寄り添って見てみる。
まず、7色使ったCRYCHICの文字がアーチをかけていた。その虹を下から見上げているのが、お座りした2匹の狼。片方はご丁寧にもサングラスをつけている。つまり——
燈「四代目と、お兄ちゃん!」
四代目「あ? おいヨシキさん、何刺繍したか頑なに話さなかったけど、マジで描いたんだよ」
錬次「なになに……ハァ!? まさかこれ、俺と壮か!? こんな仲良く寄り添ってたらホンマにホモどころやないやないけ!」
四代目「あぁ!? てめぇくだらないボケをいつまでも言いやがって……!」
錬次「てめぇが寄こしたホモネタやろが! やるんか!?」
四代目「上等だ、またボコボコにして——」
ミンさん「お前ら店ン中で騒いだら2人とも本気で殴るぞ!」
ミンさんに怒鳴られて、胸倉掴み合う兄弟たちはすごすご離れ合う。
そんな2人を余所に、ともりちゃんはヨシキさんに「ありがとう、ございます」と笑いかけた。まだぎこちない笑みだったけど、気持ちは十分伝わったから。相手も「どういたしまして」と綺麗な笑顔で応えた。
〇義兄弟写真
そよ「せっかくなので、家族写真を撮りましょう」
何か綺麗に締める案はないかと考えていた私は、そう提案した。
四代目「家族写真って…‥」
そよ「ヨシキさんは四代目のお兄さんみたいなものなんですよね。じゃあ、ここにいる4人とも家族みたいなものですよ。ともりちゃんはどう?」
燈「うん。是非撮りたい、です……」
ヨシキ「……分かった。でも、SNSにはあげないでね」
そよ「やくざの組長がいるのにあげませんよ」
冗談なのかどうか微妙に判断しづらくて、私も微妙な笑みで返すのだった。まぁ、ともりちゃんとヨシキさんが綺麗に別れるための写真撮りなのは汲み取ってもらえたので、それで十分だった。
5分の兄弟組はしかめっ面を合わせた後、溜息をついてしょうがない感を演出している。実に面倒くさい男って感じだった。
私がヨシキさんの前でスマホを構えて、4人に寄るようお願いしているときだった。
勝手口の方から声がする。
テツ「家族写真ってことなら、この変態も入れなきゃだよな、四代目」
燈「? なんで、ですか?」
ヨシキ「知らなかった? ナルミくんはヒナの義理の弟だよ。盃交わしたって」
燈「えぇ!? この人とも家族!?」
ナルミ「本気で嫌そうな声止めて! 僕だって傷つくんだよ!」
ともりちゃんからこれほどまでに拒絶される人を初めて見た。私たち4人は笑いを堪えきれずにクスクス交わし合う。
並び順は手前から車椅子のヨシキさんと隣にともりちゃん。その後ろに四代目と錬次さんで、2人の間に変態が運ばれた。
四代目、ヨシキ「なんでパンツ一丁でギブスしてんの?」
錬次「そういう趣味に目覚めたんやと、露出癖と縛られ願望のハイブリッドや」
ナルミ「んなわけないでしょ!」
ヨシキ「なんでもいいけど、仲良く撮ろうね。特に2人」
燈「じゃあ、2人の手、こうして片方ずつもらって……」
彼女は四代目の右手と錬次さんの左手を掴んで、2人の手でヨシキさんと自分を包むように繋ぎ合わせる。仲良くお手て繋ぎ合った2人はめちゃくちゃ不機嫌な顔になって、空いた片手でお互いの顔面へ張り手を伸ばす。しかし2人の間にいるのは半裸の弟なので、ファイティングポーズに縛られながら顔を潰される可哀そうな高校生の図が完成する。
見ようによっては2人の手でハートマークが描かれているように見えなくもない、5人の家族写真。誰一人血が繋がっている者がいない、不思議なファミリーの画を、私はスマホで切り取る。
まぁ。殺し合っても言葉を交わし合うほどの兄弟の手を、ヨシキさんと一緒に両手で包む幸福そうなともりちゃんが撮れただけで、私としては大満足なのでした。
店から外に出ながら。私は1つだけ、どうしても納得できなかったことを心中で整理づける。
『俺のせいや。俺が、壮を信じ切れんかったから——』
あれは、詭弁だと思う。少なくとも、そういう面もあるんじゃないだろうか。
だって錬次さんは、四代目を信じ切っていたからこそ、言葉1つであっさり騙されたんだ。ただの言葉じゃない、自分の言葉でもあったから、簡単には疑えなかった。2人ほどの絆だったからこそ、あの悲劇は避けようが無かった。
だからこそ。私は、私たちは、お互いの何を信じるべきか、明確にしなければならないんだ。独りよがりなやり方でみんなが傷つき苦しむことにならないように。
他とは交わさないものがある仲だからこそ、上辺の言動を疑えなくて、隠された本当の想いを見過ごすことが、あるのだから。
そんなことを痛感した一幕だった。他人事じゃない。
私たちだって、運命なんておもいものを共有する仲だからね。