CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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11番 名残りの語らい、星冴える夜から

 

 

 手鞠沢駅から電車に乗って。今日も全員、同じ駅で降りた。

 今回のアカペラ騒動のこととか、古城先輩から貰った曲のこととか、これからのこととか。話すことが多くて、消化不良だったから。誰が言うまでもなく、さきちゃん家の最寄り駅から前にたむろした公園まで歩く。

 着いた頃にはすっかり日が落ちていた。さきちゃんはブランコに乗って上機嫌で揺らしてる。シリアス終わったらホントお子様だなー。

 

祥子「素晴らしい音楽体験になりましたわ! なんて学びの多かったことでしょう!」

立希「ガキっぽいことしながらじゃ説得力ない、って言いたいけど……」

 

 ブランコを囲む銀のガードレールに腰掛けるたきちゃんは、後半濁す。

 ていうかそれはブランコ漕ぐ人とぶつからないための柵なんだから、さきちゃん側に座らないの。あのさきちゃんだよ? 勢い余って蹴られるよ?

 

立希「音楽表現の奥深さは思い知ったな。ただ演奏が上手いだけじゃ、到達できない領域を垣間見た気がする」

睦「……みんなで映画見てイメージを共有するのは、確かに有意義だった」

祥子「楽しかったですしっ!」

立希「うわっ、飛んでくるな危ないなっ」

睦「……飛んでこられる位置にいる立希が悪い」

 

 言わんこっちゃない。さきちゃんがいない側のガードレールに座っていたむつみちゃんが正解です。

 それはともかく、面白そうな話に、近くのベンチに座っていたともりちゃんと私も3人の元に寄る。

 

そよ「そういえば、まだみんなで映画館行ったことなかったね。今度行こうよ」

祥子「睦のスタジオで見たよりも大迫力の画面なのですわよね? 楽しみですわ~!」

睦「……どのジャンル見るか、迷いますな~」

立希「できれば4DXみたいに反動凄いやつとかいいかも」

燈「そっか、そういうのも……って、立希ちゃん?」

 

 ともりちゃんが聞き返すのも非常に分かる。私たちもどうかしたのかと一斉におかしな発言の元を見つめる。

 

祥子「ど、どうしましたの貴女!?」

そよ「いつもみたいに『それより練習が大事』って言わないのっ?」

睦「……もしかして、繭森さん意識してる?」

 

 なるほど。最後まで犬猿の仲みたいだし、大いにあり得る。

 でも、彼女なりに真面目で、それでいて素直な理由を主張してきた。

 

立希「そ、それもあるけど……さっき言った通りだよ。いくら演奏のレベル上げても、ただ上手いで終わる。私達のバンドにしかできない音楽するなら、そういうことも大事って思い直しただけ。……確かに、映画悪くなかったし」

燈「立希ちゃん……そうだよね。楽しかったよねっ」

3人「よーしよしよしよし!」

立希「だから私はアイツじゃないからそんなんで喜ばないって! てか私ら犬じゃないから!」

 

 うーん、こっちの方がまだ可愛げのあるワンちゃんに見えなくもなかったから撫でまわしたのに、お気に召さなかったらしい。せっかく素直になったご褒美でしてあげたのに。

 むつみちゃんが振り払われる勢いでクルクル回りながら、ブランコに座って漕ぎだす。

 

睦「……立希、小牧さんの『歌声から思考を読む』ていう超能力染みた才能のこと、話してたよね」

立希「ん? あぁ、そうだけど」

睦「……相対音感については?」

立希「そうたいおんかん?」

祥子「名前の通りですわ。相手の音に対して自分の音を決めてる感覚、ですわね」

そよ「相手の音を基準にする……伴奏とか周りを頼りに歌う感覚かな?」

燈「それが、普通じゃ、ないの?」

立希「絶対音感持ちは、なくても歌えるんだってさ。んで、それに対して相対音感がなんだっていうの?」

 

 絶対音感は有名だからよく聞くけど、相対音感はあまり話題に挙げられない。

 その感覚が小牧さんにどう繋がるかも含めて、確かに興味あるかも。

 

睦「……相対音感が優れてる人は、周りの音……つまり歌声がどう変わるかまで聴いているんだって。そこから情報を読み取ってる、らしい」

燈「情報……例えば、どんな?」

睦「……ごめん。音から思考を判別するような、複雑な情報を言語化しづらい」

 

 かぶりを振るむつみちゃんの言う事はもっともだと思える。それを専攻してる人じゃないと、口だけで誰にでも分かりやすくかみ砕くのは難しそう。

 その音感を持ってるだろうあの子も、上手く説明できなさそうなイメージだし。いや、学力的には賢いらしいから馬鹿にしてるわけじゃないけど。

 

睦「……とにかく。絶対音感持ちの繭森さんは、周りに頼らず譜面通り歌える。対して相対音感が人より凄い小牧さんは、1人じゃ正確じゃないけど、周りの歌声に超常的な共感が働く。顔色伺う性格も、多分にあるだろうけど」

 

 なるほど。理論的に最適な音の距離感さえ掴めば、小牧さんは誰とでもハモりやすいボーカリストってことか。最後のとも合わせて、納得できる話だった。

 

睦「……以上が、AI教授と共同研究した成果です」

そよ「一気にうさんくさくなったなぁ」

祥子「まぁ、一考に値する程度には説得力ありますわ」

睦「……ところで燈。私達楽器バンドだと、絶対音感と相対音感、どっちの方が大事だと思う?」

燈「……絶対音感?」

睦「……そうだね」

 

 絶対音感のある人は、楽器バンドに当てはめると(かなり大雑把に言うと)譜面の音が正確に再現できる。アカペラみたいに周りへ微細に調整するよりも、音が決まっている楽器では重要視されるよね。

 まぁたぶんだけど、ともりちゃんは『繭森さんと小牧さん、どっちが楽器バンドのボーカル向きか』で考えたんだろうな。そう考えやすい前置きだったし。

 

睦「……でも。今回みたいに究極的なハーモニーを目指すなら……」

立希「譜面に囚われず、周りの音に合わせてこそ意義がある」

祥子「つまり、楽器バンドでもより良い音楽を目指す余地が、そこにあるということですわね」

睦「……私はそう、信じたい」

 

 ブランコを止めながら、彼女はそう締めた。

 せっかく味わったハーモニーだもん。楽器バンドでも再現したくなるのは当然。

 私たちの音楽を、もっと気持ちよくて楽しいものにするために。可能性の1つとして追いたいと、彼女は言った。当然反論する子がいるわけじゃない。

 それに私も、今までにない音楽の方向性を見つけた気がしていた。

 

そよ「ねぇ、古城先輩からもらった曲データにある、メンバー紹介みたいな曲なんだけど。みんなも聴いた? あれ良いと思わない?」

祥子「聴きましたわ! 個人の特徴を歌詞と歌声で表現しつつ、曲全体でバンドを表す……何より、世界で唯一無二な感じがいいですわ!」

そよ「そう、そういうことが言いたかったの! まさしく、私たちの曲でしょっ!」

燈「うん。面白そう……」

 

テンション上げてキャイキャイ騒ぐけど、これには待ったがかけられてしまう。

 

立希「メンバー紹介はMCでやってるでしょ」

そよ「うっ……」

睦「……曲としては面白そうだけど、MCでやってることをわざわざ、とは思う」

祥子「楽しそうだとは、思いましたのに……」

燈「うん。もしよかったら、みんな自分が歌うところの詞、書いてみて欲しい」

立希「しょうがないな……」

睦「……こら立希。せっかく私が味方してあげたのに、一瞬で裏切るんじゃない」

祥子「作るだけ作ってみましょう! 息抜きに演奏するだけでも楽しそうですわ!」

そよ「うんっ!」

 

 何はともあれ、前向きに受け入れてもらえて満足な私だった。

 

祥子「その紹介曲も、思い出話も素敵ですが。私は特にもう1曲が気に入りましたわ」

睦「……今の時期にぴったりだった」

立希「思い出話以上にしっとりしてて、それでいて勢いありながら綺麗さも健在だったもんな」

燈「もしかして、祥ちゃん……」

そよ「その曲、演りたくなっちゃったの?」

 

 暗い夜闇の中でも分かるくらいキラキラしてる目は、今回のアカペラ騒動の始まりを思わせる。つまり、感銘を受けてるのだ。

 

祥子「えぇ! この曲を預けてくださった愛莉さんに胸を張って顔向けできる、私たちの演奏を届けたいですわっ!」

 

 あぁ、もう夜だっていうのに。相変わらず眩しいお日様だなぁ。

 そんな顔を見せられたら、乗ってあげる気しか起きないよ。

 ただ。1人気掛かりを抱えてる子はいたらしい。

 

立希「燈はいいの?」

燈「え?」

立希「ほら、この歌詞。一人称は、僕じゃないし……」

 

 ともりちゃんはいつも、僕で歌詞を書いていた。確かに心の叫びを歌詞にして歌ってきた彼女的には、気持ちを込める意味でも大事かもしれない。

 まぁ……正直、今更だとも思うんだけど。

 

睦「……ガーネットなんて、あたしだった」

立希「そうなんだよ、それは分かってたんだけど。私たちの本業でも、燈のらしさからブレて大丈夫かなって心配してさ……」

そよ「まぁ歌うのはともりちゃんだし、気になるんだったら確かに考えたいね」

燈「ううん」

 

 ともりちゃんはスマホを出して、曲を再生する。静かで澄んだ音の風が、天へ向けて流れていく。

 

燈「この歌詞……古城先輩の、嬉歌ちゃんの、テトテのみなさんの。今が凄く楽しいって気持ちが詰まってて。凄く、好き。込められた想いを少しも損なわずに、歌いたい。だって……私も、同じだから」

祥子「燈……」

 

 さきちゃんは泣きそうなくらい目を細める。それはたぶん、さきちゃんが一番好んだところだったから。言葉にせずとも分かち合っていたから、嬉しかったんだろうな。

 まぁもちろん? 私もそう思ってましたけど?

 

祥子「ともり~! だいっすきですわ~!」

立希「あっまたお前は燈に抱きついて!」

睦「……私も寒くなってきた。とうっ」

立希「なんでお前は私に抱きついてくるんだっ、てかブランコしてたのに寒くなるもん?」

そよ「私も寒い~♪」

燈「そよちゃん、こっち空いてるよ?」

立希「空いてたのっ!?」

睦「……どうせなら5人で密着した方が、温かい」

立希「ぐぇっ、私をサンドイッチにするなー!」

 

 私たちは5人寄り添った、しばらくわちゃわちゃ騒ぐ。

 その内、ともりちゃんが急に空を指さした。その方を見やった私たちに、ともりちゃんのスマホから流れていた曲が最後のサビを歌う。タイミングの良さも相まって、私たちは笑い合った。

 煌めく星々。単体じゃ瞬くようだけど、集まることで光を重ね合わせて、どこにも負けない輝きを放つ。まるで、私たちみたい。

 私は自分のスマホを星空へ構える。きっとこの時感じたことが、この曲を演奏する上でとても大切なことだから。後々みんなでイメージを共有するのに、役立つよね。

 みんなで同じ景色を見て、想いを共有して、同じ方向見ながら演奏を洗練させて。その先で思い切り叫ぶ私たちをイメージしながら。

 私はこの時この瞬間しかない今を、大好きなみんなに囲まれながらシャッターを切る。この一瞬を抱きしめて、永遠へと生きていく。

 みんなもきっと同じ、気持ちでいたらな。

 そんな願いを残して、星が煌めくようなサウンドは、冬の澄んだ夜空へ遠のいていった。

 

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