インタビューだったのに自分の名前を言い忘れた小牧さんは置いといて。お次は部長の古城先輩だった。
〇名前の由来は?
睦「……質問考えた人は、相当人の由来を訊くのが好きらしい」
立希「質問一発目に趣味とか好きなものとかじゃないもんな。そこまでか、って思うけど」
祥子「ですが人となりや、ご家族なども伺えて面白いじゃありませんか」
燈「ずっと思ってたんだけど、そよちゃんの由来は、やっぱりそよ風から来てるのかな?」
そよ「だと思うだけどね……。今度お母さんに聞いてみるよ」
安直過ぎて聞きづらかったので、あまり触れてこなかったのだ。ひらがな名なんて珍しいのにキラキラネームってほどでもないし。どうしてこんな名づけにしたのかな……。
——名前の由来は知らない。多分響き重視じゃないか。あと、「Aから始まる名前が好きそうな親」と思う——
CRYCHIC「……」
親に由来を聞かなかった私が言えることじゃないかもしれないけど。そこはかとなく家庭の闇を感じる。
燈「Aが好きなのかな? どんな人なんだろう……」
そよ(ともりちゃん。ストップ)
闇の深淵にお花畑くらいの気軽さで踏み入ろうとしないの。
愛莉「ん?」
祥子「い、いえ、お気になさらず」
睦「……好きな文字を由来にする親なんて、珍しくないです。立希の家だって、姉妹どっちにも『希』入れてますし」
立希「そ、そーですね。そういうことで」
愛莉「そー言われるとそうかもねー」
閏(す、スゲー! 初っ端闇深ネタだったのに、なんとか自然に躱したー!)
結(ちゃんと引いてたけどね、1人以外は)
嬉歌(で、でも確かにそんな程度の話かも。ウチもそうだし)
〇嫌いな食べものは?
CRYCHIC(なんで好きよりそっちなんだろう……)
——アボガト。買ったときの当たりはずれが大きく、果物なのに醤油かけて食べるところが違和感——
祥子「口に合わない、というわけではなく、そもそもそれ以前の理由でしたわね」
睦「……なかなかに奇特」
立希「別におかしなことじゃないでしょ。私だって味で嫌いになったわけじゃないし」
燈「私も……」
そよ「あれ? 嫌いなものってそういうものだったっけ?」
閏「や、絶対違う」
玲音「いや、これに関してはアボガドが悪いね」
結「そう思うのは無条件で部長肯定なアンタだけでしょ」
〇自分の性格を一言で言い表すと?
なかなか答えにくいことを聞いてくる質問者さんだった。インタビューの質問としては妥当なのかもしれないけどさ。
——寂しがり屋?——
こっちはこっちで、疑問形ながら赤裸々な回答してるし。
祥子「ま、まぁ人はみな寂しがり屋ですわ!」
燈「う、うん。ずっと1人は、寒い……」
睦「……1人ぼっちは、寂しいもんな」
令「あ、そのアニメ最近テレビで再放送されてたね。有名タレントが実況してた」
立希「なにっ!? 睦のネットミームについてこれる人が、存在する!?」
愛莉「レイレイは私と一緒にアニメも見るからねー。これってひと昔前に凄く流行ったんでしょ?」
睦「……今も尚、変わらず愛されてます」
そよ「たきちゃん、むつみちゃんの相手役取られて不満そうだね?」
立希「……んなわけないでしょ。楽できて清々するよ」
祥子「清々するってセリフ吐く人、決まって清々できてないですわよね」
燈「だ、大丈夫だよ立希ちゃん! 睦ちゃんのボケに一番突っ込めるのは、立希ちゃんだよ!」
立希「燈……気遣ってるとこ悪いんだけど、心の底から全然喜べない……」
睦「……またまた。照れ隠し乙」
立希「お前のせいでいっつも疲れてんの! 労うくらいなら10分の一まで抑えろ!」
結「めっちゃ分かるわー」
閏「何々? 珍しくどこに共感してんのーおむすび」
結「……はぁー。アンタ達、相手してもらってるだけ感謝しなさいよ?」
閏「なんのことー?」
嬉歌(2人はあれでいつも仲良さそうだよね)
くま(やっぱり、そう見えるよね)
〇ついやってしまう癖は?
——1年生になんの意味もなく嘘つくこと——
そんな息をするように嘘吐いてしまう人にはなりたくないなと、心の底から切実に思う私だった。
……まだ大丈夫、まだこの人ほど嘘に抵抗なくなるまで堕ちてないはず。
立希「まぁ何の中身もなくてくだらないネタしょっちゅうほざくやつもいるし」
睦「……そんなしょうもない人とつるんでるの? 友達選んだ方がいいよ、立希」
立希「お前じゃい!」
そよ「ノリいーねー」
閏「おむすびは……なりふり構わず作った方がいいよ。フレンズ」
結「興味ない人間のこと覚えられないって言ってるでしょ」
閏「ってことは、覚えてくれてる私のこと、興味深々ってこと!? ヤダおむすびってば、大胆~♪」
結「気色悪いこと言うな!」
〇最近買ったもので一番高価なものは?
立希「なんじゃそりゃ」
そよ「なんでそれ聞こうと思ったんだろうね」
睦「……なんか生々しい」
祥子「人の家の経済状況が伺えますからね」
燈「そう考えると、ちょっと怖い質問だね」
このときの私たちは、まさか回答の方が不気味さを孕んでるとは、思ってもいなかったのだ。
——言われないと分からないくらい小さいカメラ。画質もいい。使用意図を問われ、笑顔で黙秘——
そよ、立希、祥子、睦「……」
燈「カメラが好きってことは、そよちゃんと一緒だね」
そよ「………………私、隠しカメラは趣味じゃないよ?」
愛莉「私も隠しカメラを趣味にしてるわけじゃないよー?」
燈「それじゃ、何に使ってるんですか?」
4人(流石燈! こういうヤバいネタでも臆せず突っ込んでいく!)
闇深ポイントだったけど、主にアカペラ部のみなさんのプライバシーを守る目的で私は止めなかった。
そんな心配をしていたけど、意外にもまとも(?)な使われ方が伺える。
愛莉「例えばねー。ムスブちゃんが授業とか学校行事サボってるとこ押さえるため、『とか』かな~」
結「アンタそんなことしてんの!?」
閏「いやそれ絶対おむすびが悪いから! おむすびにだけはとやかく言う権利ないから!」
嬉歌「で、でもわざわざそんなもの撮っておく理由って……」
くま「いざというときの、切り札みたいな……」
令「結はただでさえ、学校態度悪いの愛莉にフォローされてるしね」
結「あーもう分かった分かりましたよ! なるべく、なるべくサボらないようにしますから!」
愛莉「そもそも冗談だったんだけどなー」
結「部長ならやりかねないんですよ……」
あはは、と乾いた笑いを漏らす私たち。不良っぽい繭森さんを見てると説得力がそれなりにあるお話には聞こえた。
……というか、それじゃなかったら本当に何の目的なのか。決して晴れないモヤモヤを抱えたまま夜眠るのも嫌だったので、努めて忘れようと頭をからっぽにする私だった。
〇今までやったことある習い事は?
——ピアノ、英会話、クラシックバレエにダンス、日舞、水泳。実家が太いから豊富だっただけ——
祥子「こういうところは親近感ありますわね」
睦「……お金持ちの家に生まれた定め」
愛莉「……でも、祥子ちゃんは嫌々やってるイメージないなー」
祥子「? それは勿論。豊川家の娘として、当然の使命ですもの」
愛莉「立派だねー」
愛莉(そーゆーところが、相容れないような……受け付けないところ、なんだよねー)
玲音「……ていうか睦も、お嬢様だったんだね」
結「意外」
閏「お嬢様にしては、ムッツン濃いからなー」
嬉歌「一般市民の私たちより俗っぽかった」
くま「言葉遣いも普通だから……」
睦「……なんかモヤっとするような、でもホッとするような、嬉しいような……」
立希「どんな複雑感情してんの」
そよ「むつみちゃんはお嬢様学校に在籍してるだけのネット民だから」
睦「……否定はしない」
燈「そう言われて嬉しそうなのが、睦ちゃんらしいね」
テトテ(なんでお嬢様らしく見えないって言われて喜ぶんだろう……)
訝しる表情してる皆さんは、彼女が有名芸能人を両親に持って自身も芸能歴のある、『あの若葉睦』ということに、やっぱり気付いてないみたいだから。その境遇故に苦悩してきたことを、察せなくても仕方なかった。
〇タイムマシンがあったら何する?
——今年度の4月に戻ってまたアカペラ部やる——
祥子「……」
この回答が、さきちゃんが思い出話のライブで感じた『気になること』のヒントになったのは言うまでもない。
それはともかく。
睦「……タイムマシン、何に使う?」
立希「何急に。てかまず自分から言ったら?」
睦「……ツッコミ禁止で。とある時期にとある活動やらされるの、何としてでも逃げる」
立希「……私は、吹部に入るのやめる」
そよ「私は……どうしようかな。戻る時期は決めてるけど、使っても何もできなそう……」
祥子「ちょ、ちょっとみんな。暗いですわよ?」
立希「そういう祥子は?」
祥子「私は戻りたい過去なんてありませんもの」
そよ「いかにもさきちゃんらしい」
睦「……祥はそれでいいよ」
愛莉(……)
祥子「燈はどうですの?」
燈「私は……初ライブ」
そよ「えっ、どうして?」
燈「私だけ、あのときのことあんまり覚えてないから。今度はちゃんと、みんなと楽しみたいな、って」
睦「……いいね。私もついてく」
祥子「あのときのライブは一際忘れられませんわ!」
そよ「そりゃあなんといっても、私たちの初ライブだもん」
立希「あれだけでも動画か何かで残ってたらよかったな」
閏「初ライブかー。いい思い出みたいで羨ましいなー」
結「アンタね。自分で3割くらい悪いって言ってたくせに」
くま「でも、あのライブがあったから、成長できた」
嬉歌「う、うん! 成功とは言いづらいけど、大事な初ライブだよね」
玲音「……そうだね」
愛莉(……やっぱり、本当にもう一度やり直したいなぁ)
〇アカペラ部の好きなところは?
——みんなが変なところ。アカペラ部特有の色合いがお気に入り——
似たもの同士が自然と集まることを表すことわざが頭に浮かぶ。
まぁ、私だけじゃないよね。
睦「……立希」
立希「断る。自分で言え」
そよ「わざわざ言わなくていいんだよー」
祥子「古城先輩も随分変わってらっしゃいますわよね」
3人「言っちゃうんだ……」
愛莉「豊川さんが言うー?」
祥子「そ、そうですわね。私も世間一般の普通とは流石に離れて……」
立希「いや、いい。もう止めておこう祥子。私達にも飛び火する」
そよ「そうそう。この話はここまでにしとこ?」
祥子「そ、そうですか?」
睦「……ノーコメント」
燈「わ、私が言えることじゃないから……」
祥子「? なんだか釈然としませんわね……」
嬉歌「類は友を呼ぶ……」
閏「やめようウータン。それ言い出したら、私達もだから」
〇アカペラの好きなところは?
——アカペラでハモるためには、相手のことをしっかり見つめないといけない。だから、お互いのことを分かろうとしなきゃいけない。そうやってできるアカペラが好き——
なるほどー、と相槌を打つ私たち。ここから何か会話が広がったわけではない。
それでも、色んな意味で重要なインタビューだったから。後にああいう流れがあったわけでした。