自分の名前を言いつつ、間に入った声主である古城先輩まで紹介する近衛先輩。インタビューが始まる前からどんな人か窺い知れてしまう。まぁ本編では流石に自己に専念するだろうな。そんな期待を抱いていた私だった。
〇名前の由来は?
——両親の玲王(れお)と音葉(おとは)から一文字ずつ貰って、玲音(れい)になったとか。……葉王って名前の可能性もあったかもね——
そよ「近衛先輩の爽やか王子様な見た目で、覇王なんて響きは流石に似合いませんね」
玲音「私が男だったらそうなってたかもしれないけど」
愛莉「私は嫌だなー。呼びづらいから」
結「確かにそうですけどそこですか?」
令「愛莉が嫌なら性別も名前も変えたから。安心して」
くま「せ、性別って……」
玲音「去勢すれば変わるんじゃないかなぁ」
嬉歌「さらっとグロいこと言わないでください~」
睦「……凄い。古城先輩のためなら、本当になんでもできそう」
玲音「なんでもするんじゃない?」
立希「その軽々しい感じがまたガチっぽくて怖いです」
燈「そっか。幼馴染ってこういう感じなんだ」
祥子「一括りにしてはいけませんわ、燈」
睦「……同じく10年来の幼馴染だけど、こうはなれない」
〇一番古い記憶は?
——愛莉。小さい頃から両親が仲良かったから一緒だった。隣でお昼寝してる愛莉を憶えてる——
そよ「自我芽生えた頃から一緒にいたら、それからも一緒にいるのが自然になるのかもね」
祥子「家族ぐるみで付き合いあると、もはや姉妹ですからね。分かりますわ」
玲音「姉妹か。私が妹かな」
愛莉「そうかも。私が全部決めてるもんね」
立希「姉妹、か?」
睦「……姉妹というより、主と従者?」
閏「そう見えるよなー」
燈「お姫様と、近衛騎士」
くま「私も、似たように見えてた」
結「そりゃこの人がそういう風に部長を扱ってるからね」
燈「凄く絵になってて、綺麗でかっこいい。物語みたい」
玲音「燈は素敵な目をしているね。その世界は何も間違ってないよ」
嬉歌「レイレイ先輩はその世界観にノリノリですよね」
結「ところで部長は恥ずかしくないんですか」
愛莉「慣れちゃった」
〇宝物は?
——愛莉。かけがえのない友人にして人生の一部。あらゆる思い出に愛莉がいて、愛莉がいなければ人生は虫食いのようになる。決して壊してはいけないという意味の宝物——
睦「……これに関しては、あまりふざけられない。私も祥がいなかったら、だいぶ穴空く人生だから」
祥子「それはお互い様でしょう? きっと幼馴染とは、本来そういうものですわ」
閏「こう聞くと幼馴染って尊いなー」
玲音「? もう私と愛莉っていう幼馴染見てきたから、今更でしょ?」
結「だから先輩達のは幼馴染の枠超えてるんですって」
〇無人島につれて——
——愛莉かな?
睦、立希「知ってた」
——愛莉を救わなければというモチベーショノンで脱出できそう——
睦「……私も小さい頃は祥しかいなかったから大概だけど。こうはなりなくない」
祥子「なんて言いますけど、小さい頃はいつも私が手を引いて、引っ張ったじゃありませんか」
玲音「ふふっ。美しい幼馴染愛だね。よく分かるよ」
2人「いえ、お2人ほどではないので」
愛莉「どうして私まで引かれてる感じになるんだろ」
とまぁ。半分くらい愛莉先輩愛で埋まったインタビュー動画だった。
睦「……これはこれで、近衛先輩がどんな人かよく分かる」
玲音「だよね」
結「だよね、じゃないんすよ。アンタのインタビュー動画なのに全然アンタのこと分かんないでしょ」
立希「今のところ、古城先輩とはずっと一緒にいて離れ難い存在ってことしか分かんないな」
玲音「それで十分なんだけどなぁ」
閏「それじゃインタビューにならないから、ここからはアイリさん禁止にしたんすよー。ってことで、みんな安心してな!」
そよ「ここまで古城先輩命な人がそれ禁止されたら、それはそれで心配だけど。ちゃんと中身あるかな……」
祥子「あらそよ。もうかまとと振るのやめたんですの?」
そよ「その言い方やめて。もう何度か外れかけたし、学校じゃないからいいかなって」
燈「そよちゃんが会ったばかりの人たちに素を晒せるなんて。やっぱり優しくて、良い人たちなんだね」
テトテ(ただ面倒になっただけって聞こえたんだけど。よくそんな良いことみたいに受け取れるな)
アカペラ部の皆さんの微妙な顔した沈黙は気になったけど。私はともりちゃんをよしよししながら、ニコニコ笑顔でその空気を流すことにした。
〇近々挑戦してみたいことは?
——髪を伸ばしてみたい。ちなみにショートなのは愛莉とコントラストになるから——
そよ「イメチェンかー」
立希「何、そよは髪短くしたいの?」
睦「……バブみが薄れる」
そよ「余計切りたくなってきたかもー」
祥子「燈は髪伸ばしたら、きっと素敵ですわ!」
立希「それは分かる!」
そよ「うんうん! 月ノ森に通うお嬢様みたい♪」
燈「そ、そうかな。でも髪伸ばしたら、きっと石拾うとき汚れそう……」
閏「お、おう? 聞き間違いか?」
嬉歌「え、えっと。ともりちゃんは、石拾うの?」
燈「うん。この学校でも、拾った」
結「マジで?」
くま「ど、どういう石拾うの? 珍しい石?」
燈「可愛い石」
テトテ(石に、可愛い……?)
祥子「昨日今日会ったばかりでは飲み込めづらいものですわ」
立希「そんなことないでしょ。おかしな趣味じゃない」
結「じゃあアンタは可愛い石がどんなのか説明できるの?」
立希「……私ごときじゃ燈の世界を言語化しきれないんだよ」
睦「……立希。それ、フォローしきれてるか微妙だよ」
燈「あ、さっき拾った石は……」
愛莉「出さなくていいよー。次行こっかー」
〇周囲からどんな性格と言われる?
——クール、落ち着いてる。愛莉には外ではカッコつけてるって言われる。意識はしてないんだけどね——
そよ「近衛先輩は男女問わずモテるって言えちゃいますもんねー」
玲音「うん、モテるよ。老若男女問わず」
立希「自分で肯定して、しかもより凄いレベルでモテてた」
睦「……ということは、誰かとお付き合いを?」
祥子「本当にしてると思いますの?」
そよ「今想像してみると、付き合っても続かなそう」
立希「優先順位がブレなさそうだからな」
当たり前のように恋人より古城先輩を優先してるうちに、気付いたら自然消滅してそうだった。
玲音「今まで誰かと付き合ったことなかったけど。確かに、付き合ってたらそうなったかも」
燈「古城先輩とは、考えなかったんですか?」
8人(ぶっこんできたー!?)
令「愛莉と? 考えたこともなかったな」
愛莉「家に帰っても一緒にいるから、そんな関係になるまでもなくずっと一緒だもんね」
燈「そっか。夫婦みたいなもの、かな」
8人(……グイグイ止まらないなぁ)
玲音「ふふっ、熟年夫婦みたいなものかもね」
愛莉「確かに一緒にいるのが当たり前みたいになってるけど、私たちまだ学生だよ? おばさんじゃないんだから……」
8人(そういう問題かなぁ)
言われてみると。カップルみたいな甘々感がなく、水のように自然な関係性を見てると、長年連れ添った老夫婦っぽいけれど。齢16歳にしてそこまで熟するのもどうなんだろう。少なくとも高校生らしさは感じられないし、だからなのか憧れもしなかった。
〇理想のタイプは?
——男性は紳士的、女性だと逆に振り回してくれる人——
結「部長も結構振り回す人だから、納得」
後輩が言うのだから、今までの流れもあって説得力もある。納得しかけたときだった。
古城先輩が、考え込むような顔で、言った。
愛莉「……
玲音「えっ」
愛莉「だからホイホイ釣られたんだ。なるほどねー」
玲音「ちょ、愛莉……?」
愛莉「へぇー。ふーーーん。そーーーですかーーー」
そっぽ向くその顔は、笑みなんて1ミリもない無だった。昨日みたいに地雷が大爆発したのか、彼女から静かな凍気が一瞬で広がり、部屋の暖房さえ感じられなくなる。
そして、基本凛々しい様子を崩さなかった近衛先輩が、カッコいいのカの字もないくらい、オロオロ狼狽し始める。
令「ち、ちちち違うんだ愛莉! 別に愛莉よりあの人の方が大事なんてことはこれっぽっちもなくて……!」
愛莉「って言う割に、Parabolaに入るとき相談もなかったなー。私がどう言おうとあの人についていく気だったってことだよねー」
令「い、いや、いやいやそんなことは……」
必死で言い訳を並べてご機嫌を取ろうと近づく近衛先輩。その人に背を背けて徹底抗戦の構えな古城先輩。
人はこの状況を何と呼ぶか。適切な言葉を答えよと問われて、正解を外す方が難しかった。
睦「……修羅場、急に始まったね」
立希「ダメだ。その言葉が合い過ぎて突っこめない」
祥子「ちなみに、どういうことですの?」
結「レイレイ先輩はテトテだけじゃなくて、去年の暮れ頃から大学のアカペラサークルにも所属してる。メジャーデビューが目標の、ガチなアカペラバンド」
そよ「高校生なのに引き抜かれたってこと? す、すごい……」
燈「でも、テトテやめなかったってことは、それだけここも大事なんですね」
玲音「そ、そういうことだよ! 聞いた愛莉?」
愛莉「聞こえませーん」
祥子「完全にへそ曲げてますわね」
嬉歌「色々あったから……」
CRYCHIC(……何があったんだろう……)
閏「気になるだろうけど、そこはほら、触らぬ神にタタリなし、ってことで……」
CRYCHIC(祟りレベルの騒動だったんだ……)
宮崎さんの忠告を真に受けるしかなく、頃合いを見て移った次の質問に意識を頑張って向けた。
〇アカペラの好きなところは?
——一筋縄でいかないところ。1人でできることは、割とスムーズにできるから。だからこそ、みんなで力を合わせないといいものにならないアカペラは面白い——
結「なんて言ってるけど。手品下手じゃないですか」
玲音「ホントにね。だから面白いんだけど」
そよ「へぇ、意外です」
睦「……様になりそうなのに」
玲音「そう? もしよければ披露するよ?」
祥子「なんだか気になりますわ。是非お願いします!」
と、いうことで。近衛先輩のマジックショーが行われた。
……なるほど。繭森さんが堂々と下手って言うのに、残念ながら納得した。
玲音「今はまだへたっぴだけど。胸張って自分の『武器』って言えるまで、極めたいんだ」
そよ「へ、へー……」
祥子「す、素敵ですわね!」
睦「……先が長そ」
立希「流石に先輩相手に失礼すぎ!」
燈「でも、どうして苦手なマジックを極めようと思ったんですか?」
玲音「よく聞いてくれました。これ、なんとクマちゃんからのプレゼントです」
立希「そうだったんだ、熊井さん」
クマ「う、うん。いつも朝練に、付き合って貰ってるお礼に」
閏「けどレイさん、全然上達しないっすねー」
玲音「うん。だから楽しいよ」
燈「それを楽しいって言えるなんて、凄い……」
愛莉「私の自慢の友達だからねー」
愛莉(……なのに、どうして寂しいままなんだろうね……)
近衛先輩が小道具を片付けてる間に、最後のメンバー紹介に移った。その人はその人で、近衛先輩とは違う意味でまともなインタビューになるか怪しかったけど。