CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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番外編6番 繭森結へのインタビュー動画

 

 

 動画に映る彼女は、なんと近衛先輩へのインタビュー番が終わるまで寝ておられた。本当に1年生の後輩か疑わしいほどふてぶてしい繭森結様の応答が、今始まろうとしていた。

 

閏「おむすびって、絶対縦社会で生きていけないよなー」

結「何言ってんの? 年だけ上のやつに媚びる必要のない実績出して黙らせればいいでしょ」

睦「……超高校生級の図太さしてる」

立希(クソッ、コレでそれなりの才能も持ち合わせてるから、マジである意味羨ましい……!)

 

 たきちゃんの複雑な表情に触れたら、いつまでもインタビューに入らなさそうな展開になるのでスルーしてあげた。

 

〇名前の由来は?

 

——親に聞いてない。努力が実を結んだり、成果を得られるという、結実から取ってると思って生きている——

 

嬉歌『親に聞かないの?』

結『背負うのは自分でしょ? 自分の名前に意味を持たせられるのは自分だから』

 

 動画内でこともなく言ってのけるその人は、自分という軸に芯が通ってる、どころじゃない。大理石の柱でも入ってそうだった。

 

睦、そよ、燈「か、かっこいー……」

立希「なかなかいいこと言うじゃん」

祥子「確かにとてつもなく強い自我を感じますが。せっかく親が考えてくれた由来なんですし、ご両親の想いが軽んじられてるようであまり……」

結「ハッ、幸せなんて意味の字つけられるお嬢様は言う事違うわ」

睦、燈、そよ「……」

 

 彼女は確かにカッコイイ。でもその立派さをひっくり返しても尚おつりが溢れて止まらない程、私たちは怒りを覚えた。

 あんなに娘思いで温かな家族のもとで育ってきたさきちゃんのこと、その家族が奇蹟的に今も一緒に居れてること、なんにも知らないくせに。あのともりちゃんですら眉を吊り上げてるのは、相当だよ。私は雰囲気を壊さないよう、口も表情も目つきも凍らせてるむつみちゃんと一緒に黙るので精一杯だった。

 平穏な空気が保たれたのは、サバサバ系を気取ってるのか平温な声で何でもなさそうに窘める彼女のおかげだった。

 

立希「初めて会った相手に、流石にライン越えてる。そういうとこだから」

結「うっ……確かにちょっと、言い過ぎたわ……」

閏「そーだそーだー! 反省しろおむずび!」

結「変なあだ名で私の生き様汚してるあんたにだけは言われたくない!」

嬉歌「それはちょっと分かるかも。私も自分の名前気に入ってるから……」

閏「あれ? なんでいつの間に私が責められてるん?」

くま(私もしあだ名つけられてたらどうなったんだろう……)

 

 私たちは和んだ会話に息をついて、流すことにした。謝る機能なさそうな人が省みただけでも、良しとしてあげよう。

 

〇好きなスイーツは?

 

——特にこたわりがない。蜂蜜が使われてるのは喉に良いメージがあるから選ぶ。そういう意味で、辛いものは選ばない——

 

睦「……ってことは、勝負の日が近づいたら、晩御飯はトンカツ?」

結「ゲン担ぎするほどじゃないから」

閏「おむすび、健康飲料の営業には気を付けな? 家に押しかける系は基本詐欺だからなー」

結「そこまでイメージに囚われてないっつーの」

立希「とか言って。飲んだら歌世界一上手くなるって言われたら迷いなく飲むんじゃないの?」

結「ハッ、アンタは努力して培った中身のある力じゃなくて、安易なものに頼りたいってわけ?」

立希「グッ……!」

玲音「結、してやったりって顔してる」

愛莉「さっき窘められたの悔しかったんだねー。自分が悪いのに」

結「次! 次行って!」

祥子「た~きっ! 私は嬉しかったですわよ、先ほどの♪」

立希「はぁ? 別に、お前の為に言ったわけじゃないんですけど???」

そよ「いやいやたきちゃん……ムリあるでしょ……」

睦「……なんてステレオタイプなツンデレセリフ。この令和の時代に、貴重過ぎて博物館に飾れるレベル」

立希「人を化石扱いするな!」

燈「ふふっ。たきちゃんみたいな優しい石、見つけられたら大切に保管したいな」

立希「燈はどんな石想像してるの!?」

 

 心底嬉しそうで、楽しそうな顔のともりちゃん。彼女ならいつか本当に見つけそうだなと思わせるのが、不思議系少女の地を這って石探してる、我らがボーカルだった。

 

〇趣味は? 〇特技は? 〇長所は?

 

——音楽、音楽、音楽——

 

〇苦手なことは?

 

——音楽以外——

 

 彼女の世界では、音楽かそれ以外かで分けられてるらしい。極端過ぎて、どうしてか可哀そうに思う。

 

睦「……立希は下手に才能持ってたら、こうなってた可能性が微レ存」

立希「くっそハラたつけど、自分でもそう思う。コイツを戒めにして生きていこう」

結「ハ? 凡人のやっかみ?」

立希「多少優れてようが痛々しい尖り方するくらいなら、凡人のまま極めた方がマシ」

嬉歌「はい、ストップ! インタビューに戻ろう!」

燈「嬉歌ちゃん、喧嘩しないように頑張ってる」

玲音「こういう形で強いのは珍しいかも」

そよ「ちなみにたきちゃんは世間一般的にはまだ尖ってるよ?」

立希「少しは丸くなってるでしょ」

祥子「それはそれで、最初のトゲトゲ立希が懐かしいですわ~」

睦「……一理ある。あれはあれで味わい深かった」

立希「やかましいわ!」

愛莉「私は昔のウタちゃんが面白くて懐かしいな~」

閏「確かに、味わい深すぎて吐くほどでしたもんねー」

嬉歌「吐いてたの、私なんだけど……」

 

 ちょくちょく思ってたけど。華の女子高生として、嘔吐に抵抗を覚えない生き方はどうかと思う。彼女の少しでもマシな女子高生活を、密かにお祈りする私だった。

 

 

〇新しい能力を得られるとしたら?

 

——喉を壊さない能力——

 

睦「……はい、CRYCHIC」

祥子「私は音の色が見える能力なんて、一度持ってみたいですわ!」

そよ「作曲家ならではって感じだね。私は……温度操れるように、かな? 紅茶とか淹れるのに便利そう」

立希「すっかりこの流れ定着したし。私は……なんだろ。周りの音消せる能力かな」

祥子「どうしてですの?」

立希「静かそうでしょ。煩わしくないし、集中しやすそう」

燈「私は……言葉の色が見えたら、自分の詞がどんな風に見えるのか、見て見たいかも」

睦「……それは私も見て見たい」

立希「いいね。って、睦は?」

睦「…………立希のイジリ方に、無限のパターンを編み出す程度の能力」

立希「私ら真面目に考えたんだから、お前も真面目に答えろ!」

睦「……死ぬほど真面目に考えましたー」

燈「そっか。睦ちゃんにとって、そのパターン尽きるのが、死活問題なんだね」

立希「すぐに尽きてくれ! いや、そのパターンをゼロにする能力を寄こせ!」

睦「……なら、こっちはその能力だけはなんとしても打ち消す能力を……」

 

玲音「あの2人は特に仲良いねー」

愛莉「こっちにも似たコンビいるでしょ?」

 

閏「いやー、夢とか浪漫が足らんぞ~! 空飛ぼうや、ビーム出そうや!」

結「そっちの方が現実味なくて下らないでしょ」

くま「でも、個性が出て面白い質問だよね」

嬉歌「うん。ずっごいムスブちゃんらしい回答だったもん」

閏「確かに! 真面目過ぎてつまらないとこが、ザ・おむすびって感じ!」

結「アンタみたいにふざけて生きてないだけだっつーの!」

 

玲音「確かに。あの子たち入って、前までが信じられないくらい騒がしくなったもんね」

愛莉「楽しくて良いでしょ?」

玲音「愛莉が楽しいなら、勿論」

 

〇チャームポイントは?

 

——知らん。アカペラ部メンバーによる他己評価としては『吊り目』とか『長い黒髪』があがる——

 

睦「……不思議と共感を抱く」

そよ「ねー。どうしてか分からないけど、どっちも可愛いって思っちゃうよねー」

祥子「どうしてその2つに愛着が湧いてるんでしょうねー」

立希「こっち見ながら言うな」

燈「どっちも立希ちゃんのチャームポイントだもんね。可愛くてかっこよくて」

立希「……そ、そう?」

 

 ともりちゃんのお褒めには素直に反応するたきちゃん。そんな流れのあと、彼女の2Pキャラみたいな子が、水差すように一言。

 

結「別に見た目褒められても嬉しくないけど」

立希「純粋な賛辞も素直に受け取れないの? このツンデレは」

結「ウタ! 鏡持ってきて! コイツの顔全部映るくらい大きいの!」

立希「私はツンデレちゃうわ!」

3人「……(ニマニマ)」

立希「ち、違うよね、燈!?」

燈「え、えっと……」

3人「インタビューに戻ってくださーい」

燈「つ、次の質問、楽しみだね。立希ちゃん……」

立希「うぅ……燈にも味方になってもらえなかった……」

 

 そりゃそうだよ。ともりちゃんはツンデレな石探そうって本気で思ってるんだから。なのに否定できるわけないでしょ?

 

〇最近爆笑したことは?

 

——8オクターブ出るっていう歌手の動画を見て、凄すぎて爆笑した——

 

睦「……繭森さんを爆笑させるという意味でも、是非見て見たい」

 

動画視聴中。動画タイトルは、『宇宙最強歌手Dimash、ライブでD8(hihihihiD)を出してしまう』

 

立希「これは……ここまでだと笑っちゃうのも分かるわ……」

そよ「2オクターブから徐々に上がっていくからこそ凄さが分かるよね」

祥子「男性でそこまで出せるというのも度肝を抜かれますが」

睦「……超音波だった」

結「ね、凄いでしょ! トンデモ無さ過ぎて声出たわ!」

立希「うわっ、急にテンション上げてくるな!」

燈「面白い、のかな……」

クマ「私とは真逆な世界過ぎて、なにも思わない」

嬉歌「凄いけど、笑いどころ分かんないよね」

立希「そう?」

睦「……人外なところが笑える」

そよ「想像できなかった8オクターブが想像以上なヘルツでちょっと面白いんだよね」

祥子「私はここまでの音が人によって出せることに感動しますわ!」

玲音「よかったね結。珍しく共感してもらって」

結「なんか小さい子扱いされてるみたいでムカつくんでやめてください」

閏「よーしよし、よかったなーおむすび!」

結「んだから頭ワシャワシャすんなヤメロッ!」

 

〇アカペラの好きなところは?

 

——『まだ』好きじゃない。楽しいというところまで来てない——

 

睦「……懐かしい」

立希「は? どっか懐かしむ要素あった? 私は全然覚えがないんですけど?」

睦「……絶対覚えてるくせに」

そよ「あー、中学の頃、夏合宿でたきちゃん言ってたね」

祥子「そういえば、少し似たことを睦に言ってましたわね」

燈「バンド楽しめないって打ち明けてくれた睦ちゃんに、立希ちゃんが一番最初に励ましたんだよね。『まだ』楽しめてないだけでしょ、って」

 

 ずっとずっと後、それこそ高校時代の黒歴史を笑い話にできるくらい年を取った頃。この『まだ』はまた別のエピソードで既に交わされてたことを、『人気芸能人』から暴露されるのだった。だから妙に白々しさが過剰だったわけだ。

 

玲音「凄い。同じ言葉と思えない程、思い遣りが籠ってるね」

愛莉「優しいムスブちゃんかー。うらやましーなー」

閏「うらやましーっすー」

結「はいはい、優しくなくて悪かったですね」

クマ「でも、繭森さん。たまに気遣ってくれるよ?」

嬉歌「結ちゃんなりの優しさを、感じることも増えたよね」

立希「なんだ、丸くなってんじゃん」

結「なってない! 私は優しくもないし丸くもない!」

愛莉「素直に受け取ればいいのにー」

睦「……そういうところが一番似てる。ププッ」

2人「似てないから!」

 

 完璧なハモりに2人は顔を見合わせて、私たちは爆笑するのであった。

 宴もたけなわ、というわけでもないけれど。丁度いいオチでもあったため、私たちはアカペラ練習を再開するのだった。

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