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私と立希は出逢った頃、他のみんなほど話すような仲ではなかった。
でも時間をかけて関わると、思っていた以上に相性が良いことが分かった。
お互い口下手だからこそ、言葉足らずなことに理解が及んで親しみやすかった。
捻くれたところも似てるからか、素直に語り合うより冗談なコミュニケーションばかりなのが気楽で心地よかった。
音楽じゃ祥の好む上品なクラシック調よりは、激しいロック調が好きなことを、お互い演奏で共感しあった。
……1個人としてではなく、凄い人の家族という色眼鏡でばかり見られ勝手に騒がれる。そんな苦痛を分かり合える仲でもあった。
こう思っているのはきっと私だけじゃない。でなければ今の関係が築けてるはずがない。
そして、これからもそうありたいから。
私は立希に確かめたい事と、その上で伝えたい想いがあった。
※ ※ ※
動物園を巡った後、立希がお手洗いに行くと言って1人離れて行った。
全てのエリアを回り終えた。このまま何もしなければ、後は帰るだけだろう。
……そのために、この最後にして絶好の機会を逃すまいと口を開く。
睦「……3人とも。最後に1つだけ、お願いしたいことがあるんだけど……」
しばらくするとお手洗いから立希が戻って来た。
立希「お待たせ。これで一通り回ったし、もう夕方だから帰る?」
祥子「その前にですね。最後に観覧車に乗りましょう、と話してましたの」
そよ「テーマパーク、夕方、締めのアトラクションにぴったりだから♪」
立希「あぁ、それも定番っちゃ定番だもんな」
燈「それじゃあ、行こっか」
睦「……うん」
立希「? 睦、大丈夫?」
睦「……何が?」
立希「いや、なんかさっきまでより表情が固くなった気がしたから。もしかして疲れた? なら無理しなくても——」
睦「……疲れてない。立希の気のせい」
祥子、そよ(事情を知ってる私たちですら全く不自然に思わなかったのに……睦(ちゃん)の機微に敏感すぎでしょ)
立希「ならいいけど。あっ、耳赤くなってる。冷たいならホッカイロもってきたから——」
睦「……赤くなんてなってないから。それより陽が沈む前に行こう」ズンズン……
立希「お、おい! 自分じゃ赤くなってるかどうかなんて見えないでしょ、何ムキになってんの……」タッタッタッ……
ピンポイントに変化を見抜かれてくすぐったい感情が埋め尽くす中、私は逃げるように目的地へ向かい始めた。
燈「すごいね、立希ちゃん。私には
祥子「えぇ。今日の立希だからこそ、私達にも気づけない睦の変化に気づいたのかもしれませんわね」
そよ「どういうこと?」
祥子「あぁ、そよは軽食の買い出しにいませんでしたわね。後で教えますわ」
燈「とにかく。睦ちゃんのお願いを叶えて、文句なしの終わりを迎えよう」
そんなこんなで再び遊園地エリアに戻ってきた私たちは、観覧車の列に並ぶ。
そして、とうとう順番が回って来てしまった。
……上手くいってくれるかどうか、少しドキドキする。
『5人ですねー。ではどうぞ、お乗りくださーい』
そよ「むつみちゃん、お先にどうぞ。きっと向こう側が良いポジションだよ?」
立希「向こう側ってそんな景色良いの? まぁ真ん中よりは風景見やすいか」
睦「……それじゃお言葉に甘えて。立希、一緒に見よう」パシッ
立希「って、引っ張らなくても行くから……!」
立希の手を取って、強引気味にゴンドラへ連れ込む。
チラッと振り返ると、予想通りそよが愛想の良い笑顔でスタッフと何か話してるのが見えた。
その妙な様子に立希も気づいたらしく、声を上げるがもう遅い。
立希「ちょっと、何してんの——」
祥子「それでは、ごゆっくり~」
燈「2人で楽しんできてね、待ってるよ」
そよ「いってらっしゃーい♪」
立希「ちょ!?」ガタッ
睦「……」ギュッ
慌てて出ようとする立希の手を、さらに強く握って引き止める。
私を乱暴に引きずらないよう止まってくれた立希のおかげで、無事みんなへのお願い事は成就された。
『ドア閉まりまーす』
プシュー……バタン。
立希「……騙したな?」
これまた予想通り、仏頂面でドカッと座る立希の対面に腰掛ける。
まずは損ねた機嫌を直さないと、話どころじゃなさそう。
睦「……騙した形になったのは謝る。ごめん」
立希「私を騙してまで2人で観覧車に乗って、何のつもり? 正直気分悪いんだけど」
睦「……どうしても立希に伝えたいことがあった。でも2人きりじゃないと恥ずかしい。立希だってきっと困るだろうなって思って」
立希「……さっき
睦「……いつもみたいな?」
立希「いや、なんでもない。んで、お前がそういう配慮をするレベルで恥ずかしい話ってなに? ……どんだけ恥ずいのか、今度は怖くなってきた……」
確かに私は、みんなの前でしょっちゅう立希を恥ずかしがらせてる。
だからこう警戒されるのは仕方ないんだけど、そう構えないで欲しかった。
これから言うことは、そういう冗談とは違って真面目な気持ちなのだから。
睦「……私の誕生日のこと、ほとんど立希の提案って聞いた」
立希「……は? そんなこと?」
誕生日前日にサプライズでプレゼントすること。
バンドの練習削ってまで1日遊ぶこと。
テーマパーク未経験の私をここに連れて来ることまで。
それら全部、立希からの提案だった。
全部、心から嬉しいことだった。
睦「……立希にはそんなことでも、私には凄く凄く大事。だって、それくらい嬉しかったから」
立希「お前が素直にそう言ってくれたなら……私的にはなんでもいいんだよ」
睦「……でもどうして? どうしてそこまで考えてくれたの?」
想いを伝える前に、確かめたいことがあった。
燈関連ならともかく、誕生日祝いにあまり熱心じゃない立希をここまで動かしたのはなんだったのか。
私がそこに踏み込もうとした瞬間、立希は目つきを鋭くし声を怒らせ威圧してきた。
立希「何、私がそこまで考えちゃ悪い? 迷惑だって言いたいの?」
睦「……わざと凄んで煙にまこうとしないで。そんなのが通用するあっさい関係だって言いたいの?」
そして私は確信する。なんとなく当たりを付けていた理由で、どうやら正解みたいだから。
立希はキツい見た目の割にここまで攻撃的に振る舞うことなんてほぼない。なのに今そこまでして誤魔化そうとしたということは。
それ相応に言いづらい、と言うより口にすべきではないと思ってることなんだろう。
例えば……他人の家族関係について、とか。
立希「……ふぅ」
観念したように溜息をついて、後ろにもたれかかる。
そんな立希から話してくれそうな気配を察知して、私は黙って待つことにした。