CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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6番 生まれてきてくれて、ありがとう

 

 

 上昇するゴンドラから見える景色は高度と共に変わっていくのに、私はそれを楽しむどころか見向きもしない。

 観覧車で2人きりという、親密なシチュエーションにそぐわない張り詰めた沈黙の中。

 正面に座る立希を見据えながら、どうして私の誕生日計画に積極的だったか問い詰めている。

 対して立希は逃げられないと悟ったのか、風景を眺めるように私から顔を逸らし、ぼやくように白状し始めた。

 

立希「お前にさっきみたいな、()()()()無表情な顔させたくなかっただけ。特に今日だけは、誕生日関連だけは」

 

睦「……それでさっきはいつもより鋭かったんだ。でも遊びよりバンド練習優先な立希が、それを削るくらいそこに拘ったのはどうして? ……何が立希をそこまでさせたの?」

 

 私になるべく楽しい時間をくれようとしてたのは、そよからの話で分かってた。

 聞きたかったのは、なぜそう思ったかだ。

 

立希「……悪いけど、余計な勘繰りした。両親が人気芸能人なら……仕事の都合で、家族にすら祝われることが少ないのかもしれない。だから、あんなに誕生日に期待してたんじゃないか、って」

 

 やっぱりか、と小さく嘆息する。

 普通だったら他人のプライベートを憶測で決めつけないで欲しいけど。

 立希もそれがどれほど癪に触ることか分かってたから、嫌な態度とってでも胸にしまうつもりだったんだ。

 だから腹も立たなかったし、それどころか素直に嬉しかった。

 あの人たちの娘として好き勝手に扱われることは嫌というほどあったけど。

 あの人たちの娘という境遇だからこそ心配してもらったことなんて、ほとんどなかったから。

 私のことをそこまで真剣に考え、祝おうとしてくれた立希に。

 本来知られたくはない私の事情を、ある程度打ち明けてでも報いたかった。

 

睦「……立希の想像通りだと思う。私は親からまともに祝ってもらうことなんてあんまりなかった。嫌われてはない、と思いたいけど……2人共基本家にいないくらいには忙しいから。だから誕生日は小さい頃から一緒にいた祥にしか祝われない、代わり映えしない日だった。でも去年みんなに温かく祝ってもらってからは凄く楽しみな日になった。祝ってくれる人が、私にもできたんだ、って」

 

立希「……ならやっぱり私が……私らが目一杯付き合わないとダメだよな。バンド仲間なんだから。だからまぁ、これも結局はバンドのためでもあるんだよ。練習だけが全てじゃないってね」

 

睦「……バンドのためでも、か……」

 

立希「あー……やっぱ今のなし。認めるよ、バンド関係なく睦にずっと、飽きるくらい楽しくいて欲しかっただけって。それこそ、もう誕生日楽しみーってアピールしなくなるくらいさ」

 

睦「……なら良かった」

 

 天邪鬼め、とは思ったけど。

 言い直してくれるだけ、立希にしては素直になってくれた方だから茶化すのはやめた。

 ゴンドラが頂点近くまで達する。太陽を遮っていた雲が流れ、夕陽が差し込んできた。

 観覧車も残り半分だからだろうか、立希が目映い光に目を細めつつ話をまとめにかかる。

 

立希「まぁ何が言いたいかっていうと。いつもの無表情なお前も個性っちゃ個性だからさ、そこまで否定したくはないんだけど。年に一度の誕生日くらい休んでてもよくない? みたいなカンジ」

 

睦「……後半ギャル語みたいになってるよ?」

 

立希「うっさいな。んで、楽しかった? つまんなくなかった?」

 

睦「……CRYCHICのみんなと1日中テーマパークで遊んで? つまんないなんてあり得ないよ、そんなこと思う暇もなかった」

 

立希「なら良かった」

 

 私のセリフを淡白に返しながらも、風景を眺めるその横顔は晴れやかに微笑んでいた。

 本当にそれだけを願ってたんだろう。真面目というか、一途というか。

 穏やかな黄金色の光に彩られる立希が、特別綺麗に映って胸がときめく。

 立希にここまで感情的になるなんて、昔を思えば不思議なくらいだった。

 

睦「……出会った頃は、立希がここまで私のために考えてくれると思わなかったな」

 

立希「それは私も同感。燈のためならまだしも」

 

睦「……私、生まれてきてよかった。立希たちに出逢えたから。それまで祥しか友達いなくて、親にも全然祝ってもらえなくなくて。誕生日なんて、私にはただ年をとるだけの寂しい日だったのに。こんなにも満たされる日になるなんて、CRYCHICに出逢うまでは想像もできなかった」

 

立希「……(燈のくだりはボケたんだからツッコメよ……)」

 

睦「……みんなにも感謝してる。でもね、やっぱりこうなるように一番頑張ってくれた立希に、どうしてもこの気持ちを伝えたかった。本当にありがとう、立希」

 

立希「感謝してるのは私もなんだよ。祥子なんて眩しくて焼き焦げそうなやつと挫けずバンドやってこれたのは、気が合って音楽含めて通じ合うところがあって、自然と隣り合える睦がいてくれたおかげだから」

 

 立希が未だ眩しそうに見つめてる太陽のような存在に、憧れ惹きつけられるのは至極自然なことだと思う。

 でも月の光に安らぐような時間がなければ、その輝きを追い続けることはできないのだろう。

 立希にとって祥やお姉さんは太陽。でも、私だって必要な明かりだと言ってくれた。

 立希の隣が一番安心できて気兼ねなく振る舞える私と、同じようなことをやっぱり思ってくれていたんだ。

 密かに両思いと信じてたことが証明されたみたいで、安心と歓喜で心が華やぐ。

 

立希「お前がCRYCHICにいてくれたから楽になれた。お前が生まれてきてくれたから、私は救われたんだ。だから、誕生日おめでとう、睦」

 

 誰も彼も照らし尽くすような太陽から私に向き直り、心から向き合ってくれる立希。

 滅多に見せない優しい笑みで、私の誕生を自分の事として喜んでくれた。

 心を優しく抱き締められたみたいに、じんわりと温かい感情で満たされる。

 溢れそうになるこの気持ちを言葉で伝えようと思ったら、感謝じゃ足りないな。

 

睦「……大好き」

 

立希「……昨日からどんだけその言葉使うんだよ。流石に安売りしすぎ——」

睦「大好き。今日はどれだけ言ってもこの想いは軽くならない。こんな一言じゃ伝えきれないくらい、大好き」

 

立希「……フン」

 

 そっぽ向く茜色の立希が照れてるようにしか見えず、思わずクスッと笑う。

 鼻を鳴らして素っ気なく装うなんて、そんないじらしい態度取らないで欲しい。

 愛くるしくて余計に高ぶってしまうから。

 

睦「……分かった。だからキスがあるんだ」

 

立希「はぁ!?」

 

睦「この好きって気持ちは言葉だけじゃ伝えきれないから、もっと伝えたいと思ってするんだろうな。って」

 

立希「おいおい冗談だよな!? 私達そんな関係じゃないでしょ!」

 

睦「……いつかの日はしかけたでしょ?」

 

立希「あのときは冗談って言ってくれただろ隣に座り直して迫って来るな逃げられないように壁ドンすんな!」

 

睦「……どうして?」

 

立希「きょ、今日はお前の誕生日祝いに来てるんだから……お前がホントにしたかったら、拒絶できないし……」

 

睦「……プッ、あははは!」

 

立希「ってまた冗談かよ! なら顔寄せてまで雰囲気作るな! しかも観覧車で2人きりのシチュエーションなんて卑怯だろ!」

 

睦「……ごめん。でもよかった、私さえいいなら、立希は拒絶しないって分かったから」

 

立希「い、いや、だからさ! 私に同性どうしの気はないんだから悪ふざけはマジでやめて!」

 

睦「……分かってる。私達の関係は、今はそんなんじゃないからね」

 

立希「い、今って……お前なぁ——」

 

睦「……あ、観覧車一周した」

 

立希「あ」

 

 と間抜けな声が漏れたときにはプシューと扉が開き、CRYCHICの3人とスタッフにマジマジと見つめられる。

 私が立希に壁ドンしてる状態のまま。

 

『あのー、お客さん。もう着いたので、キスしそうなくらい身を寄せてないで出て頂けると……』

 

そよ「あ、大丈夫でーす、この人たち私たちともう一周しますから~」

 

祥子「お構いなく~」

 

燈「い、いいの2人とも? 私たちお邪魔なんじゃ……」

 

立希「ち、違うから燈! 変な勘違いしないで!」

 

そよ「いやいや奥さん~。そんな格好で勘違いも何もないですよ~」

 

祥子「本当ですわよ奥方~。さ、私達のことは気にせずどうぞ続きをなさってくださいまし?」

 

燈「は、はわわ……。ふ、2人がどんな関係になっても、私応援するからねっ!」

 

睦「……ありがとう、燈。末永く見守って欲しい」

 

立希「だから違うって言ってんだろー---!」

 

 5人じゃ少々手狭なゴンドラに立希の絶叫ツッコミが反響する。

 それが私の、人生で1番幸せな誕生日祝いのオチだった。

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