CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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※前書き※

この話では高尾山を登ってますが、自分が金華山を登ったときの経験を参考に話を書いてます。
なので実際の高尾山と違いはありますが、ご容赦ください。



3番 CRYCHIC VS 高尾山 〜そして絶景へ〜

 

 

 これは、思ってた以上に厳しい試練となった、みんなの激登(げきとう)の記録である。

 

 

 しょしんしゃのるーとせんたく(初心者はちゃんと初心者向けルートを選びましょう)

 

祥子「さぁスタート地点に着きました! ここから登山スタートです!」

睦「……一応聞くけど。一番易しいルートだよね?」

祥子「何言ってるんですの睦? そんなコースじゃ苦労しないじゃありませんか。まぁ……本当は上級者向けを考えてましたがそよに止められましたので、無難に中級者向けですわ」

睦「……」ジト目で睨む

祥子「そんな顔してもダメですわ! いい機会ですから、ひ弱な貴女はこの登山で強くなりなさい!」

立希「おいおい……。一番の仲良し幼馴染自称する割に、酷い扱いじゃない?」

祥子「一番の仲良し幼馴染だからこそですわ。私は睦の可憐すぎる脆弱性を心配して言ってますの」

睦「……特大のお節介だよ」

燈「む、睦ちゃん! 私も体強くないから、一緒に頑張ろう?」

睦(……この恨み、いつか絶対祥に返してやる……)

 

 

 

 ふり

 

燈「わっ! 葉っぱが頭に降ってきた!」

祥子「ふふっ、11月ですから、すっかり落ち葉の季節ですわね。風情を感じますわ」燈の頭を払う

睦「……その内虫も降ってきたりして」

燈「ひっ!?」

立希「適当言って燈ビビらせんな。大丈夫だよ、燈、虫なんて滅多に降ってこない——」

 

 ボトッ 立希の肩にムカデのようなものが……

 

立希「ギャー!」ジタバタ

睦「……現実になっちゃった」

 

 

 

 マジでビビった

 

燈「う、うわぁああ!?」

立希「燈!?」

祥子「悲鳴を上げて腰を抜かしてますけど、どうしたんですの!?」

燈「い、今小鳥が私の手にとまろうとして……足と羽で、指をバサバサされて……」

睦「……あの木に止まってる小鳥? 小鳥が寄ってくるなんて、可愛いシーンだと思うけど……」

立希「燈のリアクションを見ると、そんな微笑ましいもんじゃないらしいな」

燈「わ、分かってたらこんなにびっくりしないと思うけど……いきなりは困る……襲われたかと思った……」

祥子「何事も体験してみないと分からないものですわね」

 

 

 

 ルートと言うには、配慮が足りないと思うのです

 

睦「……登山ルートって名前なのに、獣道すら怪しいレベルだし、別れ道もどっちがルートなのか分かりにくいし。人間が歩くルートとして成り立ってない。遭難したっておかしくないよ……」

 

 全体の一割しか歩いてないのに、早くも疲弊してきた睦。

 

祥子「山なんですのよ? 自然を感じていいじゃありませんか」

立希「そう言う祥子はお嬢様として逞しすぎるけどな。むしろ、睦の感覚が普通なんじゃないの?」

燈「睦ちゃん、迷子になってもみんな一緒だから心配要らないよ?」

立希「いや心配どころの騒ぎじゃないから」

睦「……燈、本当に不吉な事言わないで」

 

 

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 道じゃない。岩なんだけど

 

睦「……何、この……岩が隆起してるみたいな道……どうなったらこうなるの?」

祥子「確かにこんな道見た事ないですわ。面白いですし、ワクワクしてきますわね!」

立希「祥子。睦から心底理解できないみたいな目向けられてるよ」

燈「こういうとこで石拾うのは、流石に危ないかな……」

睦「……まさか本当に登山しながら拾う気だったなんて……」

立希「燈にもその目向けるのやめたげなよ、燈の石拾いは今更でしょ」

 

 

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 至言看板 その1 若葉睦は葦である

 

燈「人間は考える(あし)である、って看板がある」

祥子「どういう意味なんでしょう?」

睦「……パスカルって思想家の言葉。人間を葦という、植物の中でも1番か弱く細い存在に例えたらしい。人は自然の中じゃそれくらい儚いって言いたいんだって。……ごもっともだよ」

立希「息切れし始めてる癖によくその場でググれるな……(てか今の睦が正に考える葦って感じだな)」

 

 

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 陰と陽

 

祥子「下りてくる人とすれ違うとき、結構挨拶されますよね」

燈「うん。登山する人たちって、そういう人が多いのかな?」

立希「気持ちがいい人たちだね」

睦「……必死に歩いてるときに……知らない人に気遣って……挨拶なんてしてられない……」

立希「まぁ、そう思っちゃう睦とは相容れない存在だな」

 

 

 

 至言看板 その2 (クライミング)ハイ論破

 

燈「今度は、『もともと地上に道はない』って看板だ」

立希「え~っと……(スマホでググる)、お、続きがある。歩く人が多くなればそれが道になるのだ、らしいよ睦」

睦「……おかしい。この登山ルートも、たくさんの人が歩いたはずなのに、全然道らしくない。だから、その言葉は嘘っぱち」息切らしながら

祥子「恨みがましい反論ですわね」

燈(この歩きづらい山道見てると……睦ちゃんの言う事も、分かるかも)

 

 

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 幼児でもいい。これ以上厳しくなるのを回避できるなら

 

祥子「別れ道に注意書きが……『こっちのルートは幼児、老人には無理です』、なら私達は行けますわね!」

立希「おい、そっちは明らかに上級者向けルートなんじゃ……」

睦「……バブー。祥お姉ちゃん、私幼児だから死んでも無理バブー」

祥子「む、睦! 服が伸びるくらい引っ張るのはやめてくださいまし! (ヘロヘロのくせに凄まじい執念を感じますわ……)」

燈「む、睦ちゃん。それじゃあ幼児じゃなくて赤ちゃんだよ……?」

立希「燈のツッコミ珍しいな」

 睦のなりふり構わない抵抗は、無事功を奏して上級者ルートは見送られた。

 

 

 

 私は一体、何のためにこの地獄を歩んでるんだろう……

 

睦「……はぁ……はぁ……うわぁ!?」ズルッ

 

 岩から足を滑らせバランスを崩したところを、すぐ後ろにいた立希が支える。

 

立希「あっぶな!? ……いつかやると思ってついてた甲斐があったな」

睦「た、たき……ありがと……。でも私達、バンドグループなのに……どうしてこんなことしてるんだろう……」涙目

 

祥子「ふぅ、ふぅ……この辛さが癖になりそうですわ~!」ズンズン

燈「さ、祥ちゃん……あんまり先行かないで……」

 

立希「まぁ、あいつがいるからだろうな」

睦「……さぁ~きぃ~~~!」歯ギリギリ

立希(ホントは燈についてあげたかったけど……見るからにひ弱なコイツもほっとけないしな。燈は祥子がフォローするでしょ、同じ登山反対組のよしみで最後までついてやるか)

 

 

 

 至言(?)看板 その3 当たり前過ぎてググる余地がないんだけど

 

燈「『それでも地球は動いている』……」

祥子「ここに来て随分シンプルですわね」

立希「『それでも地球は動いている』?……うるせぇ! はぁ、はぁ……」

睦「……そんな当たり前の薄っぺらい言葉、イライラするだけ……! ぜい、ぜい……」

祥子「怒りがシンクロしてますわね……」

燈「立希ちゃんも睦ちゃんを付きっ切りでフォローしてるから、結構疲れてるんだね……」

 

 

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 マジで道じゃない。岩登ってた

 

祥子「さ、流石にここまで傾斜のきつい岩場だと、厳しいですわね。燈、フォローしますからゆっくり慎重に登って頂戴?」

燈「あ、ありがとう祥ちゃん。でもなんか……登山といより、ロッククライミングみたいだね……」

祥子「そう思うと、なんだかアスレチックみたいで楽しいですわね!」

燈(そ、そうかな……?)

祥子「っと、睦たちは大丈夫でしょうか……」チラッ

 

立希「睦ー! 体を起こすな! 這うような姿勢で両手も使え! 岩を掴んで登れー!」

睦「……立希。たった半年の付き合いだったけど……私は、結構楽しかった……」

立希「マジで遺言みたいなこと言うなー! 生きろー! お前は美しいぞー!」

 

燈「本当に生死をかけて崖登ってるみたい……」

祥子「というか立希のセリフは、こんな場面で使うような名言なのでしょうか……」

 

 

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 無事なのがめでたいくらいの激登(げきとう)だったの!

 

燈「あ、お社だ」

祥子「あぁ、この社まで来たらもうほぼゴールらしいですわ。今までのような山道も岩場もないでしょう」

睦「……私達が無事にここまで来れたのは、一重にあなた様の加護があったおかげです」パンパン

立希「我らをお守りくださり、誠にありがとうございます」パンパン

祥子「お祈りではなく、感謝を捧げてますわね……この上なく真剣に」

燈「お参りって本来はそういうものらしいけど……信心深いわけじゃない2人がするなんて、よっぽど本気なんだね」

 

 

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 さきちゃんの言う通り山登りは社までらしく、あとは舗装されたなだらかな坂道を少し歩くだけみたいだった。

 

祥子「それにしても、思ってた以上にハードでしたわね! なかなか登り甲斐がありましたわ!」

 

燈「うん……1人じゃ無理だったな……手伝ってくれてありがと、祥ちゃん」

 

祥子「いいんですのよ。それに、友達と協力して登るなんてとっても青春らしいじゃありませんか!」

 

睦「……立希、とりあえず」

 

立希「だな」

 

 パシッ! 手のひらを合わせてハイタッチする2人。

 この2人は途中から一心同体といった感じで登ってたから、苦楽を共にした分友情も育まれたみたい。

 

立希「文句垂れつつも頑張ったじゃん」

 

睦「……本当にありがと、立希。立希がいてくれなかったら……うぅ……」

 

立希「もう終わったんだから元気出せって! 祥子の言う絶景でも見て気分転換しよう」

 

睦「……ここまで頑張ったからには、否が応でも期待する」

 

そよ「……」カシャ

 

 難所を超え、すっかりゴール気分の4人をスマホで撮る。

 14時から登り始めて、途中で休憩も挟んだのもあって2時間近く経とうとしていた。

 晩秋のこの頃になると16時前でもすっかり夕方なのか、辺りに黄昏色の光が差している。

 

 暗くなる前になんとか登り終えた私達は、ゴールである紅葉が見える展望台へ向かっていた。

 厳しい山道にみんなも疲れてるはずなのに、笑顔だったり、安堵の表情だったりしている。

 私はというと、思った以上に厳しかった登山に体は疲弊していて。

 ……何だかんだ騒ぎながらも楽しそうだったみんなの輪に、1人だけ混ざれなくて心も冷たく沈んでいた。

 

そよ(……って、自分から避けたくせに何悲劇ぶってるんだろう。ふざけるのもいい加減にしてよ。私は、本当にどうしたいんだろう……)

 

 さきちゃんが言うには、苦労した先で見る絶景が、このぐちゃぐちゃな心を洗ってくれるらしい。

 心底期待している。私がそんなことで元気になるような、単純な人間であることに。

 前までみたいに、何も悩まずにみんなと居られるなら。もう何でもいい。

 

そよ(……でも。もし綺麗な景色を見ても、何も変わらなかったら。この先どうやってみんなに接すればいいんだろう……)

 

 一緒にいるのにどんどん距離を置いて絡まなくなってる私が、どうすれば立ち直るというんだろうか。

 以前として何も答えが出せないから、その景色を見るのがどんどん怖くなってくる。

 まるでみんなとの関係が終わるタイムリミットみたいだから。

 

そよ(みんなにここまで苦労させたのに、私がこんなままだったら……流石に失望される、よね。きっとその場で見放されて……最悪嫌われるのかな……)

 

 秋の紅葉を広く見渡すという絶景スポット。

 私はそこへ、ちっぽけな希望と真っ暗な絶望を抱きながら重たい足取りへ向かう。

 希望が外れていたら一転して処刑場に変わるような場所に、ただただ恐怖する。

 昨日散々苦しめてきた悪夢が、音を立てて追って来るようだった。

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