1月31日。
日付が変わったばかりの深夜。
私は机の電気だけを頼りにして、いつも通り机にかじりついていた。
ノートに言葉を書いては消して、選び直してはまた没にして。
あちこち黒ずんだ跡が主張して、ヨレヨレになったページからそれでも逃げ出す気なんてさらさら湧かない。
なぜなら、今書いてる歌詞は特別大事な叫びだから。
「祥ちゃんの誕生日まで、ちょうど2週間……」
その日にこの歌詞を届けるため、まず立希ちゃんに歌詞を贈って曲を完成させて。
4人で密かに練習して、演奏を仕上げなきゃいけない。
そのために、立希ちゃんからせっつかれていた。
『燈。あいつに私達の全部をぶつけるには、明日までに歌詞が欲しい。ぶっつけ本番なんていい加減なことしたくないんだ』
いつも優しい表情で話してくれる立希ちゃんが、珍しく焦りと不安を隠さないでぶつけてくれた。
それだけ、立希ちゃんもこの曲に本気なんだ。
私にそれを対等な仲間として要求してくれたことが、嬉しかったし誇らしかった。
「……ふぅ」
なのに行き詰って完成させられない自分に焦りながらも、席を立ってベランダから外に出る。
上手く言葉が浮かばないときは、よくこうしていた。
祥ちゃんのための歌詞を考えてたから、余計にベランダに来たかったのかもしれない。
中学の頃を思い出す。
初めて歌詞を書いた後、祥ちゃんが家に来て五線譜のことを教えてくれて。
その後、2人でベランダに出て、話をしたこと。
今でも鮮明に思い出せる。
私が望遠鏡を覗き込もうとしたとき、祥ちゃんはその声と表情を暗闇でもはっきり分かるくらい輝かせていた。
『毎日が楽しくて、練習が待ち遠しくて』
心で歌うように、紡がれる想いには情感が溢れていて。
初めて会った日の祥ちゃんを思い出させる。
『この5人でCRYCHICをできることが、本当に幸せで』
幸せと言いながら切なげに瞳を細める君から目を離せなかった。
星を見ようとしていたことすら忘れて聞き入る。
『バンド名の通り、私達の歌を聞いてー! と叫び出してしまいそう!』
なんて言われなくても、手すりから身を乗り出しそうな貴女を見てれば。
どれほど心が叫びたがってるかなんて、心が騒ぐくらい分かるのに。
それくらい君は眩しかった。ビルの電飾看板や街頭なんか目に入らないくらい。
そして、胸に広がる幸せはきっとこんな色をしてるんだと、祥ちゃんの笑顔から識ったんだ。
「……祥ちゃんは……幸せ……」
今でも、あの時と同じくらいの熱を持ってくれてるだろうか。
私たちの想いにぴったり同じくらい共感してくれるだろうか。
「祥ちゃんは……今でも幸せなのかな……」
祥ちゃんに救われた私たち4人と、同じくらい幸せにいて欲しい。
星が瞬く夜空に縋って、心の中で心から願って、気づく。
「違う。私たちが幸せにするんだ」
答えを得た気がして、それを見失う前に形にしようと急いで部屋の机に戻る。
想いを届ける。どれだけ私達が君と一緒にいたいか、どうして一緒にいたいか。
私たちと同じくらい分かってもらう。
伝えなきゃ嘘だ。だって、言わなかったら無かったことになるから。
「祥ちゃんの祥は……私たちの幸せだから」
CRYCHICを創ってくれた恩人に、親友に、特別で大切な運命共同体に。
今までで一番、生まれてきてよかったと思ってもらいたいから。
その一心で再びシャープペンを走らせた私は。
月光も陽光も届かない青白い夜明け前に、何よりも大切な心の叫びを完成させた。