2月6日
そよside
今日はバンド練習の日だったけど、用事があると言って私は後から行くことになっている。
その用事のために、今私はリーベのバックヤードにいた。
サロン係が4人とも揃っているこの日に、お願いしたいことがあったから。
バックヤードでそのお願い事を粗方話し終えたところで、美月ちゃんが話をまとめてくれる。
美月「……豊川さんの誕生日祝いに、協力して欲しい、ということかしら、そよさん」
そよ「うん。機材とかをロープウェイ使って山頂に運ぶから、人手が欲しくて……」
陽芽「うーん、豊松さんは私と誕生日同じだから親近感あるし手伝ってあげたいけど……。その機材って重いんでしょ? それをロープウェイ使うとはいえ、山頂まで運ぶの? しかも土日どっちも?」
すっかり外面を外して本音をぶっちゃけるようになった陽芽ちゃんに苦笑いしつつ、私はことわりを入れる。
そよ「もちろん無理にとは言わないから。もしよかったら力を貸してくれると嬉しいな」
果乃子「無理に付き合わないなんて当然ですよ。姉妹店とはいえ私達がそこまで骨を折る義理ないんですから。お願い事にしたって図々し過ぎます、見返りも提示しないのに……」
陽芽「果乃子っ! 言い過ぎでしょ!」
果乃子「……本当のことだよ、ひめちゃん」
陽芽ちゃんに窘められる果乃子ちゃんは、いつもならそっぽ向いて不満顔なんて愛想に欠ける対応は(陽芽ちゃんにだけは)しないのに。
……横目でこちらを睨むところを見るに、
純加「……果乃子ちゃんの言うことも分かるけどさ。みんな、できたら協力してくれないかな? あたしからもお願いするから!」
ここで純加先輩が陽芽ちゃんたちに手を合わせて説得してくれる。
現実で疑似姉妹になった私たちは、頻繁に電話でやりとりするようになったのだけど。
さきちゃんの誕生日祝い計画について話したら、リーベのみんなにも協力してもらおう、と純加先輩が提案してくれたのだ。
美月「私は手伝います。そよさんのお願いですから。そよさん、文句言ってる陽芽もちゃんと連れて行くから安心して?」
陽芽「ちょっ!? なんで矢野が勝手に決めてんの!」
美月「何よ、断るの?」
陽芽「いや橘さんにも言われちゃったら、もう手伝う流れだからいいけどさ! 果乃子もなんだかんだ手伝ってくれるんでしょ?」
果乃子「……………………ひめちゃんがやるなら、やるよ」
そよ「みんな……ありがとう」
渋々中の渋々といった感じで承諾してくれた果乃子ちゃんにも目を合わせながら、3人にお礼を言う。
陽芽「って夏八木さんと一緒にお願いしてきた橘さんはどうするんですか?」
純加「当然手伝うに決まってるでしょ?」
果乃子「そうですよね。当然手伝いますよね。夏八木さんのお願いだからって、私達の都合なんてお構いなしにズケズケ強要さてきたんですから。何よりも優先するくらいですよね」
純加「か、果乃子ちゃん……チクチクどころじゃない毒がめちゃくちゃ痛いんだけど……あと強要はしてないよ?」
果乃子「知りませんっ」ズンズン
陽芽「ちょ、果乃子どこ行くの……」
果乃子「お手洗いっ!」
ヒステリー気味に声をあげてバックヤードから出ていく果乃子ちゃん。
いい気味でもあるような、ちょっと申し訳ないような……。
純加「気にしないで、そよ。あたしたちでなんとかしとくからさ」
そよ「……純加先輩。本当にありがとうございます。思ってた以上に人手必要だったから、正直かなり助かりました」
純加「あたしたちの仲でしょ? 気にしないでよ」
そよ「はいっ! えへへっ♪」
頭を撫でてくれる純加先輩……純加姉さんに素直に甘える。
こんな優しくて素敵な人の妹になれたなんて、夢見たいだけど。
現実なんだよね。幸せ者だな、私。
陽芽「え~っと……。知らないフリしようと思ったけど、そんなに見せつけてたら、もういいのかな?」
美月「純加さんとそよさんが姉妹の契り交わした、という話のこと?」
純加「あれっ、2人には言ってなかったのになんで知ってるの?」
陽芽「果乃子から聞いたんです。……橘さん、妹として言わせてもらうと……怒るのも無理ないですよ?」
純加「まぁ……そうだよね。果乃子ちゃんにも折を見ていうつもりだったのに、去年のイブの内に勘づかれて白状させられたし」
そうだったんだ。あの日みんなと合流してからはあからさまな絡みは見せてなかったはずなのに。
やっぱり鋭いのは陽芽ちゃんのことだけじゃないみたい。
……今後、果乃子ちゃんと絡むときは大変そうだ。
純加「まぁともかく。祥ちゃんへのプレゼントライブ、絶対成功させようね、そよ! あたしたちも協力するからさ!」
陽芽「ま、関わるからにはできることさせてもらうね! すっごいライブ、期待してるから、夏八木さん♪」
美月「応援しているわ。何かあったら遠慮なく言ってね、そよさん」
そよ「うん!」
私は笑顔を返しつつもう一度お礼を言った後、店を出てCRYCHICへ合流しようと出発した。
果乃子(……純加さんも純加さんだけど……。どうせそのお人よしなところに付け込んで気を引かせたに決まってる。……むかつく……私の姉なのに……)
時はそよがリーベに向かう前まで遡って、立希が在籍している花咲川女子学園。
学校が終わったばかりの放課後。
立希の教室にて。
立希「海鈴。13日と14日、空いてる?」
海鈴「その日は……バレンタインとその前日の土日ですか。もしかして立希さん、泊まりでバレンタインデートのお誘いですか?」
立希「何訳の分からない妄言口にしてんの。そういうボケはもう間に合ってるんだよ」
海鈴「……ほう? それはそれは……。話を戻しますが、どちらもそれぞれバンドの予定が入っていて1日丸ごとは空いてません」
立希「そっか。時間については調整するけど、要はライブのリハーサルと本番の音響チェックを手伝って欲しい」
海鈴「そうですか。なら後で空いてる時間帯を伝えますから。その範囲内ならいいですよ」
立希「助かる」
海鈴「しかし珍しいですね。そんなこと頼むなんて」
立希「……身内に対しての、サプライズなんだよ。場所は高尾山の山頂だし、秘密裏に準備するし、こんなことライブハウスの人とかに依頼できるわけないし」
海鈴「……高尾山なんて人の集まるところでライブ、ですか? ロックにも程があるでしょう」
立希「許可もらえたんだからしょうがないでしょ。非常識な自覚はあるからあんま言わないで」
海鈴「それでも、私に頼ってまでなんとかしようとするほど大事なんですね。誰に対してのサプライスか知りませんが」
立希「だから、身内だって」
海鈴「さっきの、私のような冗談を言う人ですか?」
立希「ん……いや、そっちじゃないけど。そんなにサプライズ相手が気になる?」
海鈴「……貸し2つです」
立希「2つ? 2日も拘束するから?」
海鈴「それもありますが。2人ほど嫉妬を覚えた人がいる、という意味もあります」
立希「だから意味分かんないって。でもまぁ、貸しの件はその内、私にできる範囲で」
海鈴「えぇ。言質録音しましたから」
立希「粘着質で怖いんだけど」