なので実際の高尾山と違いはありますが、ご容赦ください。(コピペ)
お祝い前哨戦 前奏 CRYCHIC VS 高尾山 ハードモード
2月14日、11時頃。
高尾山麓、スタート地点
今日は祥子の誕生日祝いに、彼女が中学の頃好きになった登山に来ていた。
ちゃんと、4人からお祝いとして提案されてのことだったが……。
山が近づくにつれ、微妙にテンションが下がっていく睦を、そよと立希が励ます一幕は置いといて。
やがて登山のスタート地点に到着し、いよいよ登山が始まるというところで、祥子のテンション高々な声があがる。
祥子「久々に舞い戻って来ましたわ! 高尾山!」
睦「……まさか舞い戻ってくるとは、夢にも思わなかったけど」
立希「睦。今日くらい愚痴は控えてあげなって」
睦「……今年のアンラッキースポットは山だから。不運が私を暗くさせてるの」
祥子「暗いのは元からでしょう?」悪気ゼロ
睦「……帰ろうかな」クルッ
そよ「それはダメでしょむつみちゃん!」ガシッ
燈「ほ、ほら、せっかく今日のためにトレーニングして鍛えたんだから……」
祥子「そうでしたの?」
睦「…………祥が楽しめるコースに、ちゃんとついていけるように、って」
祥子「睦~~~♪」ダキッ
睦「ムグッ……力強くて、苦しい……」
立希「耐久的には軟弱なままか」
そよ「(さりげなくスマホでメッセージを飛ばしながら)さて、そろそろ行こうか!」
燈「うん。祥ちゃん、出発のかけ声お願い」
祥子「任せてくださいなっ! では高尾山上級者コース踏破目指して、CRYCHIC出発ですわ~!」
4人「おぉ~!」
普段こういう苦行には明らかに乗り気じゃない立希と睦(と密かにそよ)も、今回ばかりはノリ良く掛け声を合わせるのだった。
以降は、そんな5人が山頂に辿り着くまでの会話集である。
〇無敵のこじつけ
燈「あっ、山の中は最近降った雪が残ってるね」
そよ「地上じゃほとんど残ってなかったのに、やっぱり山の中だとなかなか溶けないんだね」
睦「……私、雪化粧の山好き」
立希「確かに、綺麗だよな」
祥子「なるほど! 睦は登山するなら冬が良いと——」
睦「——言うわけない。スマホも気軽に出せないくらい手悴む時期に、山なんて来たくないしそもそも登山なんてハードワークしたくない……」
そよ「はいはいむつみちゃん、今日の主役がテンション下がるようなこと言わないようにね〜」
祥子「いえ。雪の山が好きなら睦も登山に目覚めるのは時間の問題と分かって収穫でしたわ。これからも定期的に連れて来るべし、でしてよ〜!」
立希「テンション下がるどころか逆に上がってるんだけど」
燈「今日の祥ちゃんは、いつも以上に、無敵みたいだね」
〇燈のためなら木だってひっくり返す気だけど?
睦「……うわっ、木の枝に積もった雪が風で落ちてくる……」
燈「木が雪を降らしてるみたいで、なんだか新鮮だね」
祥子「雪の降る木、ですか……なんだな幻想的ですわね」
立希「せっかく雨とか雪を遮ってくれるのに、そいつらが敵に回っちゃ世話ないよ」
そよ「分からなくもないけど、たきちゃんて風情ないよね」
立希「現実主義なんだよ」
燈「そ、そっか……現実からズレたこと言って、ごめん……」
立希「いやでもたまには木から雪が降ってもいいのかも! 外から眺めてる分には綺麗……かもしれないし、うん、悪くないね!」
睦「……安定の手のひらクルクル立希でした、と」
〇ここからハードモード
そよ「この別れ道から上級者コースみたいだね」
祥子「えぇ。前回では睦が赤ちゃんになってでも阻止しようとしたコースに、ついに挑むときがきましたわ!」
睦「……あの時はもう2度と来ることすらあるまいと思ってたのに、まさかこいつに立ち向かうことになるなんて……」
立希「体力作りしてきたんでしょ。いざとなったら助けてやるから、頑張れ」
睦「……せっかく修行してきたし、確かに発揮しないともったいない」
そよ「戦闘民族みたいなこと言うね……」
燈「よし。行こう、祥ちゃん!」
祥子「燈も気合十分ですわね。ここからが本番ですわ、行きますわよ、CRYCHIC!」
4人「おぉ〜!」
〇と、その前に
燈「あ、リスだ!」
4人「え!? ホントだ!」
足元まで寄ってくるリスに、景気付けしたことも忘れ大はしゃぎの5人。
そよ「動物園でもないのに、こんなに近くで初めて見た!」
睦「……前は見なかったのに……季節が関係あるのかな?」
立希「それは分からないけど、やっぱ可愛いな。野生のリスなんて貴重過ぎるし」
祥子「あ〜もどかしいですわ! すぐ足元まで来てくれたのに、スマホ構えたらすぐ逃げてベストショットが撮れません!」
立希「邪念が通じてるんだろうな」
祥子「私にそのような邪なものはありませんわ! 立希じゃあるまいし」
立希「私こそそんなもんないから!」
睦「……じゃあ邪心の少なさを競うために、誰が1番良い写真撮れるか勝負しよう」
2人「その勝負、乗った!」
そよ「その目的自体がもう邪なんじゃ……」
燈「人の心って、難しいね……」
〇白い崖
5人「……」
伝わるだろうか。
崖一歩手前くらいまて反り上がった、山道と呼ぶにはおこがましいほどの急斜面が。
岩肌に積もる雪が、さらに難易度を高くしていると察して、5人は戦慄した。
睦「……あれ、いきなりこのレベル?」
立希「前回で1番厳しかったところと同じくらいか、いやそれ以上の勾配か……」
そよ「あの、さきちゃん? こういうレベルを求めてたんじゃなかったっけ? なのに私たちと同じくらいビビってるような……」
祥子「む、武者震いですわ!」
燈「わ、私は普通にビビってるけど……」
祥子「とにかく、雪のところは避けて、足だけでなく手でも登っていきますわよ。みんな、登山用に手袋は持ってきてますわね?」
前回でもこれに近い斜面はあったため、手を使って登れるようにと持ち物として共有されていたのだった。
全員が装着したのを確認して、祥子が先陣を切る。
祥子「ロッククライミングだと思うんですの。これを乗り換えた先にある絶景をめざして、ファイ、オー! ですわ!」
睦「……その後、CRYCHICの行方を知る者は、誰もいなかった……」
立希「そのジョーク洒落になってないから」
〇マナーよりも、いのちだいじに
そよ「前来た時は転落防止用のロープなんてほとんど見なかったけど……」
祥子「流石に急勾配の多いこのコースは基本ありますわね」
立希「おぉ、ロープ掴みながら登るなんて、睦冴えてるじゃん!」
睦「……使えるものはなんでも使わないと。1歩滑っただけで、本当に怪我じゃ済まないから……」
4人「……」
転落防止用のロープを引っ張って登っていいのか、ルールやマナー的な面で立希やそよは少しだけ引っかかった。
でもそれ以上に命が惜しかった。
そして何より、祥子以外の4人としては、山頂に辿り着かなければ全てがパァだ。
あまりの険しさに内心ビビっている祥子も含め、全員無言で睦の真似をした。
〇休憩前奏 さて、このへんで一発音楽でもいってみようか
立希「休憩できそうなところだし、ちょっと休もう」
睦「……大賛成」
5人は座れそうな岩場で円になって腰掛けた。
祥子「しかし睦。前と比べるとそこまで息切れしてませんし、本当に鍛えていたのですね。あのひ弱で引きこもりがちだったもやしっ娘の睦が……」
睦「……フフン。後半罵倒の連続だったけど流してあげる。もっと褒めて」
祥子「偉いですわよ〜私の可愛い幼馴染! 努力して逞しくもなった、世界一の幼馴染ですわ!」
睦「……ちなみに煽てても登山を好きにはならない」スマホスイスイ
祥子「……ッチ」
そよ「月ノ森のお嬢様が舌打ちしないの」
燈「睦ちゃん。スマホで何調べてるの?」
睦「……調べものじゃなくて、音楽かけるの。この登山を乗り切るための、とっておき」
立希「あぁ、アレか。テンション上がってくるし、いいな」
そよ「たきちゃんそれだけでよく分かったね」
立希「最近2人で見つけた曲だから」
燈「そうなんだ。どんな曲なの?」
睦「……洋楽ロック。高尚な音楽を好む祥には響くか分からないけど、分かりやすくアガる」
祥子「外国のロック系、ですか? まぁ睦の気分が上がるなら、好きにかけてくださいまし?」
睦「……じゃ、お言葉に甘えて」
睦が音量を上げて4人にも聞こえるよう中心にスマホを置く。
軽快なドラミングから、
やがてざらついた男の声が語るように歌い出した。
燈「英語の歌詞だから意味はわからないけど……元気になってくる曲だね。なんていう曲?」
睦「……Born to Run」
立希「名前の通り、『人は走るために生まれてきたんだ』っていうテーマの曲だよ」
祥子「まぁ確かに、悪くはなさそうですわね。ロックというよりブルースを彷彿させるような落ち着きがありますし、ささやかに添えられた煌びやかなピアノが調和してますわ」
そよ「悪くないどころかリズムに乗って楽しそうだよ、さきちゃん♪」
5人が睦のスマホから流れる洋楽ロックに身を寄せ合って浸る。
英語だから祥子とそよ、燈には何を歌ってるか具体的には分からなかったが。
しゃがれた声の男が叫んでいるのは、こんなものだった。
——いつの日か、いつかは分からないけど
俺たちが本当に望み、陽光の中を歩ける。その場所に辿り着けるだろう
でもそれまでは、こんな風に彷徨い続けなきゃいけない
〇休憩後奏 今走り出さなくて、何のために生まれたんですの!
祥子「tramps like us! Baby, we were born to run~♪」
立希「早速影響されてるし」
祥子「最後の同じ歌詞繰り返すところがキャッチーで耳に残るんですもの。仕方ないでしょう(密かにウズウズ)」
睦「……私はあそこが好き」
立希「2番のサビ終わった後の、サックスソロでしょ?」
そよ「あぁ、高速で小気味好く吹かれてるところだよね? 確かにあそこ気持ちいいよね~」
睦「……ギターで再現の練習してるから、今度合わせて、立希」
立希「しょうがないな」
そよ「ベースも良い味してるから、私も混ぜて♪」
燈「私は歌詞が気になるかな。でも英語だから、何度聞いても分からなそうだけど……」
立希「ネットで和訳された歌詞もあるから、後で送るよ」
燈「ありがと、立希ちゃん」
祥子「ん~~~! もう我慢できません! 立ち止まってるのももどかしいですわ!」
立希「どうした急に!?」
今にも走り出さんばかりで立ち上がる祥子。
祥子「こんなテンションの上がる曲を聞いたら体がウズいて仕方ありません! さぁ、Come on with me,ですわ~!」
暴走の予感に、4人は一斉に立ち上がって身構えた。
そよ「ちょ、ちょっとさきちゃんっ! 落ち着かないと危ないよ!? ただでさえ危険なコースなのに……」ガシッ
祥子「うおぉぉぉぉ! Come on with me! tramps like us! Baby, we were born to run~!(さあ行こう! 俺達みたいな流れ者は! ベイビー、突っ走る為に生まれてきたんだ~!)」
立希「だから落ち着けって! あとお前も和訳歌詞読め、とんでもなくお嬢様から外れてるから!」ガシッ
燈「祥ちゃんっ! おたけび上げちゃお嬢様が台無しだよ、みんなで歩いて行こうっ?」ガシッ
睦「……ここで突っ走られたら色んな意味で私達が奈落に振り落とされる……鎮まって、このじゃじゃ馬お嬢様……!」ガシッ
全員でお嬢様風暴走機関車サーキコにしがみつきながら宥め、なんとか落ち着かせた後、再び出発したCRYCHICでした。
〇現代風過ぎる看板
左から登った睦を待っていたのは、明らかに登山ルートじゃない岩肌だった。
ルートが分かりにくくて勘で判断したけど結局間違いと悟って、苛立ちMAXの睦は思わず悪態をつく。
睦「……クソッ、こっちじゃなかった」
立希「口悪いよお嬢様」
そよ「たきちゃんが1番言えないと思うけど」
燈「でも、本当にどこに登っていけばいいか分からないね」
祥子「まぁ上級者コースですから。そういった人たちには無用の問題なんでしょう」
そよ(じゃあ私たちにはやっぱり荷が重いコースだったんじゃ……まぁ今更か)
立希「でも、せめて目印みたいなのがあれば助かるんだけど」
燈「あと早めにこっちじゃないよって教えてくれる看板、欲しいな。ルート選択凄く重要だから」
睦「……やばい。『残念、ハズレコースで〜す! 回れ右♪』って煽る看板想像して腹立ってきた」
立希「どんだけ被害妄想逞しいんだよ……」
〇意図も望みもしてなかった成長
睦(……燈も言ってた通り、ルート選びから勝負は始まってる。総合的にどこが登りやすいか、事前に見極めて……)
そよ(1歩ずつ、どこに足を置くか。先を見ながら考えて選んで……)
燈(窪んでるところとか、足跡あるところとか。どこが無難な着地ポイントかわかってきた)
立希(下手に立ち止まるより、勢い活かしてグイグイ行った方がいいときもあるな。バランスを崩さないようにストップと使い分けて……)
4人(……あれ?)
祥子「みんな、なんだか山登りが上手になったというか……熟練してきましたわね」
立希「ほ、ホントだ。祥子の趣味に付き合ってただけだったのに……」
そよ「慣れって怖いね」
睦「……ホントだよ。私達、ただのバンドグループだったはずなのに……」
燈「なんか、高校生で山登り大会があったら活躍できそう、だよね」
睦「……」
立希「待て睦! 『そんな大会、本当にありそう……』なんて気になるのは分かったから、ここでググるな! こんな不安定な急斜面でスマホ弄ってたら落っことすぞ!」
そよ「スマホ取り出す前からよくむつみちゃんの思考が読めるね〜」
祥子(……密かに調べておきましょうか……)
born to run、名曲ですよ