ついに、高尾山の山頂に辿り着いた5人。
そのまま展望台に向かって、祥子お楽しみである『苦労の先にある絶景』を眺めるが……。
祥子「今は雪も積もってますから、さぞ凄い雪景色が見れる……と楽しみにしてましたが……」
立希「そんなでもなかったな」
そよ「あ、でも遠くの山じゃ雪積もってるよ?」
睦「……遠すぎて、地上からでも大して変わらなそうだけど……」
燈「で、でもその……眺めは良いよ?」
祥子「標高600mまで登って良くなかったらここまでハマってませんわ!」
そよ「まぁまぁ。眺めが良いのは確かなんだし、苦難を乗り越えた先で待ってるものもちゃんとあるから、元気だして?」
祥子「何ですの、意味深なことを言って……はっ、まさかサプライズ的な……?」
立希「まぁそんなところかな」
4人はそれぞれ鞄を漁って、ラッピング袋を取り出した。
燈「祥ちゃん、誕生日おめでとう! プレゼント、受け取って?」
睦「……標高600mでのプレゼント渡しなんて、乗り越えた苦労にふさわしいご褒美でしょ?」
祥子「……もう、粋なプレゼントの仕方するんですから……。最高のご褒美に決まってますわ!」
立希「んじゃ私から。誕生日おめでと」
祥子「立希からは……これ、ヘッドホンですわ」
立希「曲作るときでも、単純に音楽に浸りたいときでも。高音質で快適に聞ける方がいいでしょ? お嬢様ならもっと良いもの持ってるかもと思ったけど、まぁ……予備に私のおすすめがあってもいいかと思って」
祥子「何水くさいこと言ってるんですの? ありがたく愛用させて頂くに決まってるでしょう。曲もおすすめがありましたら、また教えてくださる?」
立希「……合わなくても、文句言わないでよ?」
眉尻を下げながらそれでも口角を上げて笑顔で応える立希だった。
そよ「それじゃ次私! はい、誕生日おめでと♪」
祥子「これは…ピアノの、オブジェですか?」
そよ「そう見えるかもしれないけど、もうちょっとあるんだ~♪」
そう言って、そよはピアノの裏側にあったゼンマイを巻いた。
ピアノから優しい音色が流れ、祥子は合点がいく。
祥子「オルゴールだったんですのね! それにこの音楽は……!」
そよ「星に願いを。ディズニーの有名な曲だね。こういうしっとりした曲好きかな、って」
祥子「えぇ、ピアノの形をした見た目も、色合いも、曲も、全部素敵ですわ! 流石そよですわね♪」
そよ「気に入ってもらえたなら良かった~♪」
プレゼントの成功を確信して、そよはニコニコ顔の祥子と心底嬉しそうに笑い合った。
睦「……次、私。誕生日おめでと、祥」
祥子「睦のは……ピアノに花が飾ってますわ」
睦「……花はドライフラワー。調べてたらこういうプレゼントが多いみたいだから。……コンクールでは」
祥子「コンクール?」
睦「……私は、祥の明るくて元気で、自分のしたいことに一直線なところも好きだけど」
ドライフラワーを囲う透明な包装にそっと手を添えながら、睦はいつになく切実に想いを口にする。
睦「……昔から一途にピアノが好きで、クラシックが好きで、心から音楽を楽しんでる祥も大好き。そんな誇りの幼馴染を、ピアノコンクールでたくさんの人に見てもらいたい。綺麗なドレスで1番大きな拍手を貰って、誰より輝いてる祥を、いつか見てみたいな、って。そう思ったら、これを渡したくなった」
祥子「睦、貴女そんなこと……」
祥子は睦からそんな大胆なこと、一度も言われたことなかった。
驚く。こんなにも大きい夢を自分に見てくれていたことに。
そして、胸に熱い種が蒔かれる。この種は芽吹き、花が咲くまで燃え続けるだろう。
祥子は目を伏せながら、静かに決意した。
睦「……っていう、私の願望。そっちより祥とバンドする方がずっと大切だから、あんまり気にしないで……」
祥子「誓いますわ。いつか貴女のために、ピアノのコンクールに出ると。そして1位を取って、誰よりも盛大な拍手を頂いて、トロフィーを手に貴女と写真と取ります。これは、幼馴染の約束です」
睦「……幼馴染の約束まで出しちゃったら、絶対だよ?」
照れたようにはにかみながら、睦は祥子と指切りした。
燈「そっか。ならその写真は、よかったら私からの誕生日プレゼントを使ってほしいな」
燈は祥子にプレゼントを渡す。祥子が包装を解いて出したものは、フォトフレームだった。
祥子「なんだか音楽アプリの画面みたいですわ」
燈「祥ちゃんと言えば、みんなもそうだったけど音楽だから。そしてこれからも祥ちゃんが色んなことを提案して思い出がいくらでも増えるだろうから、その度に写真を撮るかなって。それを飾れるものがあったら、良いと思ったんだ」
祥子「ふふっ、いいですわね。中学も高校1年生でもたくさん思い出作って、いっぱい写真を撮りました。それは2年生になってもきっと変わりませんわ。その度に撮った写真を納めて頂きますわね」
燈「あとね、これはついで。安物だから、ついでに受け取ってくれる?」
祥子「これは……」
学習ノートだった。
表紙にカブトムシの乗った、祥子と、そして燈に馴染みのノート。
祥子「……燈のお誕生日に、これの絵柄違いを贈りましたわね」
燈「うん。そのお返しをしないと、今年の誕生日は終わらないから。おめでとう、祥ちゃん」
ニコっと燈が笑う。これ以上の説明は不要だよね、というメッセージは、ちゃんと祥子に伝わっていた。
祥子「燈……みんなも。最高のお祝いを、ありがとうございますわ!」
もらったプレゼントを両手で抱え、満面の笑顔になる祥子。
登山に連れていってもらい、山頂でプレゼントをもらう。
祥子にとって、人生で一番満足した誕生日祝いだった。
——あくまで、ここまでの、だが。
そよ「(スマホを操作した後、しまう)
祥子「広場? あぁ、去年そこの売店で食事しましたわね」
立希「そこ寄ってから下山しよう」
睦「……頑張った後に食べるものは、おいしい」
燈「さ、行こう? 祥ちゃん」
祥子「えぇ!」
何も疑わず4人についていく祥子。
このときは何を食べようか、などと呑気に考え事に浸っていた。
♪ ♪ ♪
祥子side
そよがくれた、大きめの袋にプレゼントを詰めた私は4人と一緒に広場へ向かった。
そして件の砂利広場に着くと、そこには人だかりができている。
まるでイベントでも始まるかのような雰囲気が気になり、指さしながらみんなに話しかけた。
祥子「みんな、あちらで何かやるみたいですわ」
そよ「そうみたいだね。さきちゃん、ちょっと覗いてみようか」
祥子「えぇ。食事はその後で良いでしょう」
私はその人だかりに混ざろうとすると、4人は私を放ってさらに奥に進んでいった。
祥子「ちょっと、みんな?」
燈「祥ちゃんも、もっと奥に来て?」
睦「……人だかりの中じゃ、良く見えないでしょ?」
それはそうだけど、そういう睦と燈は人だかりを抜けても尚進み続ける。
何の遠慮もなく我が物顔でイベント事に突っ込んで行く4人についていきづらい。
と思ったら、なぜか人だかりを作っていた周りが訳知り顔で私に道を開けてくれる。
余計ついていけない。まるで私がこのイベント事に関わってるみたい。
何にも心当たり無いのに。
立希「ほらっ、こっち来れば分かるからっ」
もはや人の壁で見えなくなった立希の声が遠くから叫ばれる。
訳も分からないまま、恐る恐る進む。
そこには、見慣れた光景があった。
ギターに、ベース、ドラムセット。いや、バスドラの代わりはキックペダルを取り付けたキャリーバッグだろうか。そしてセンターにマイクスタンド。
アンプやエフェクターまである。
これが何をするイベントかはすぐ分かった、でもやっぱりついていけない。
何にも知らないライブセットの中で、4人が自分達のステージみたいに準備しているから。
祥子「あの……ライブ、ですか? 私聞いてないですわよ?」
立希「そりゃそうだよ、言ってなかったんだから」
祥子「なんで教えてくれなかったんですの! 私どの曲やるかも知らないのに、全然準備できてませんわよ!?」
睦「……それも当然。だって祥に演奏してもらうつもりないから。ほら、キーボードもないでしょ?」
祥子「どうしてそんな意地悪を、よりによって私の誕生日でしてくれるんですの!? 最高のお祝いが台無しですわ!」
そよ「それだよさきちゃん。今自分で言ったことが正解なんだよ?」
祥子「へっ? 意地悪? じゃないとして……誕生日……お祝い……えっ、まさか!?」
燈「祥ちゃん。これが本当に最後のお祝い。この日のために作った新曲、受け取って欲しいな」
祥子「まままっ、まさかのサプライズでライブですか〜!?」
あまりのサプライズの規模に喜びよりも驚愕が埋め尽くしていた。
というか、ツッコミどころが多すぎる。
それを指摘しなくては、素直に浸れるものも浸れなかった。
祥子「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! 機材はどうやって、いつの間に運んだんですの!? それ貴女達の楽器でしょう!」
そよ「これに関してはちょっとズルいとは思ったけど……さきちゃんの使用人さんたちに車とロープウェイで、私たちが登山してる間に運んでもらったの。『お嬢様のお祝いに、是非協力させてください』って言われてたから……」
祥子「あ、あの人たちは……。しかし、よく分かってないんですけど……山でライブってやっていいんですの?」
立希「浮世離れなお嬢様でも引っかかったか……。ちゃんと許可取ったよ。管理人さんが親切だったおかげが大きいけど」
そよが会釈した先で、中年の男性がにこやかに手を上げている。
なるほど、勝手にやってるわけじゃないことは分かった。
けどまだ引っかかるものがあるのを私の顔から察したのか、睦がチューニングしながら話しかけてくる。
睦「……昨日にリハーサルもした。ちゃんといつものライブくらい音作りはしてきてるから。そこも安心して?」
祥子「リハーサル!? 貴女達4人だけじゃ流石にリハーサルや、音響チェックだって客観的にはできないのでは……?」
リハーサル中に誰か音楽経験のある人間が、モニタリング等担わなければ、客席への聞こえ具合が正確に分からないはず。
燈「立希ちゃんが、クラスメイトの人に頼んで、協力してもらったんだよ」
燈の回答の後に、立希の近くにいた黒髪の女性がクールに手をあげながらライブセットから離れていく。
あの人に手伝ってもらったらしい。
(……周りの人達に協力してもらって、密かに新曲を作りながら、今ライブしようとしてる、ということなんですのね……)
気になってたことを聞き終わった私は、いよいよ目の前の現実を受け入れ始める。
脳も心も、徐々に活気づいていくのが分かった。
(本当に……私のために、ここまで準備して、ライブしてくれようとしてるんですのね……。夢じゃないんですのね……!)
立希「ドラム、オッケー」
そよ「ベースもオッケーでーす♪」
睦「……燈」
燈「うん。始めよう」
私の疑問に答えつつも準備を進めていた4人。
そして、ここからが本番とでもいうように。
各々の機材やスティックを手に持った4人は、私に不敵な笑みを向ける。
苦難を乗り越えた先に見る絶景を、私は夢見ていたけれど。
山を登った果てに、大好きな仲間達による標高600mのプレゼントライブが待っているとは、流石に夢にも思ってなかった。