CRYCHICのみんなと帰っていた途中、偶然マスコミ関係者に絡まれた日から次の日。
土曜日で学校も休みだから、午前中にそよの家から帰宅した私は家でのんびりすることにした。
帰って早々地下のスタジオに下り、お決まりのパイプイスに腰掛ける。
すると、やれやれといった感じの声が投げかけられた。
祥子「相変わらず睦はこのスタジオが好きですわね。帰って早々入り浸るくらい」
睦「……祥は、どうして自分の家に帰らなかったの?」
なぜか私の家までついてきた祥は、スタジオのソファに寝っ転がっている。
……ここまでだらしない姿をさらすことは、CRYCHICでもなかなか無い。
珍しいくらい遠慮しない幼馴染に違和感を覚える。
いや、この感じは変というより……甘えてる?
祥子「……悔しかったんですの」
睦「……え?」
立希「昨晩寝る前はあれだけ傷心してたのに、今朝はもう元気になってたでしょう? 一番心配してた私が睦を助けたかったのに、その役目を立希に奪われましたわ!」
睦「……奪われた、って……」
やはり甘えてる、というかダダをこねている祥だった。
というか昨晩立希と私が2人で話しているのを聞いていたんだろうか。
混ざらず遠巻きに覗き見するなんで、やはりはしたないご令嬢であった。
祥子「もちろん、立希には感謝してますし……睦の痛みを、私以上に理解できるところがあるのも認めますわ。でも!」
ガバッと起き上がって膝立ちでこちらをキーッと睨む祥。
一体何を怒ってるというのか。
祥子「前々も前々から思ってましたが! 私が睦と一番付き合いの長い幼馴染ですのよ!? なのに苦しんでる貴女を助ける役目すらぽっと出の友人に取られるのは納得いきませんわぁー!」
睦「……ぽっと出って。もうちょっとで2年の付き合いになるよ?」
祥子「貴女と私は幼稚舎からの付き合いですから、もうかれこれ10年になるんですのよ!」
睦「……10年」
そう聞くと長い。人生の3分の2を祥と歩んでることになるのだ。
一緒にいるのが当たり前で、そんなに途方もない時間を共にしていた実感が湧かないけれど。
睦「……その10年一緒にいてくれた人が、一番私を守ってくれたよ? 決して簡単なことじゃないだろうに、私のために何の躊躇いもなく家の力を振るうと覚悟して。私と親の関係を唯一知る人間として、みんなに変な気を遣わせないようにしてくれた。ちゃんと、祥にだって助けられてた」
祥子「……でも。立希みたいに、睦の笑顔を取り戻せませんでしたわー。決定的なところで貴方を救うどころか、励ましの言葉すら碌にかけれませんでしたわぁー」
睦「……仏頂面で拗ねないでよ。祥が私を追い詰めないように細心の注意で気遣ってくれたこと、ちゃんと伝わってるんだから」
仕方ないので私はイスから立ちあがり、ソファまで歩み寄る。
いつもは姉のように引っ張ってくれる幼馴染の頭を、よしよしと撫でた。
睦「……冗談でもお世辞でもなく。私を守ってくれてありがとう。今までみたいに、ただ私を想って助けてくれる祥が、心強かった」
祥子「……そこまで言うなら、仕方ありませんわね~」
にへら、と破顔する祥にこちらも苦笑で応える。
仕方ないのは構ってちゃんに真正面から構ってあげてるこちらなのだけど。
祥子「……でも。寂しい、と思っているのは、本当なんですの……」
私の撫でていた手を両手で包みそっと下ろしながら、急に真面目な顔して俯く祥に。
何の話かついていけず黙って先を促す。
祥子「今まで私だけが睦の手を引いて助ける役目を、唯一担ってましたのに。もうそうじゃなくなったことを痛感して、幼馴染としてなんだか……切ないの……」
睦「……何を言い出すかと思えば」
神妙な顔で大真面目に言ってるのだったら。
こっちにだって、言いたいことがある。
睦「……祥だって。ずっと私だけを引っ張って、守ってくれてたのに。CRYCHIC結成してからは燈にばっかり気を取られて、燈ばっかり世話焼いてた」
祥子「そ、そんなことは……」
睦「……CRYCHIC結成したての頃だって。燈が歌えないときにわざわざ2人っきりになってたし。燈の歌詞になるといっつも目を輝かせて、夢中になって。何かある度に燈にべったりするし高校生になってからは——」
祥子「わ、分かりました! たまにちょ~っと燈贔屓になったときもあったことは認めますから……」
観念したように肩をすくめる祥にクスッと笑って、私は続けた。
睦「……前までは祥がいれば十分だった。でも、もうお互い共通の、大切な仲間ができたから。私達の関係だって、前とは変わる部分もあるよ」
祥子「そうですわね……。私達はもう、2人から5人に変わったんですものね」
その変化に対する喜びも充足も寂寞も名残惜しさも。
全て分かるよ、と伝えるために。
寂しがるように私の手を覆う両手を、今度は私が抱きしめる。
睦「……いくつになっても。どこにいても。周りがどうなっても。私と祥は幼馴染。お互いの一番で在り続けたい、大切で特別な親友だよ」
祥子「睦……。えぇ、えぇ!」
睦「……昔から口下手な私をいつも祥が代わりに言ってくれたから。そのお返し、できたかな?」
祥子「出来てましたわ。これ以上ないほどに……出来てましたとも……!」
私に手を抱かれてたまま祥は身を寄せてきて、コツンとおでこをくっつけ合う。
私達はどちらからともなく笑った。
祥子「睦。私はこれからだって、貴女を一番に心配して、一番に助けに行きますわ。絶対の絶対、何よりも大切なCRYCHICに誓って」
睦「……私だって。何があっても、祥についていくよ。祥のためじゃなく、私の意思で。何かあれば私が支える。かけがえのないCRYCHICに誓って」
離れ難くなった私達は、手を繋ぎ身を寄せ合ったままソファで横になった。
昨晩は良い時間を過ごせたとはいえ、あまり睡眠時間を取れなかった私は。
これまで長い時を過ごし、これからも永い年月共にする幼馴染の傍で。
伝わってくる温もりに包まれながら、穏やかな微睡に誘われた。