私は、むつみちゃんが好きだった。
どれくらいかなんて自覚してるわけじゃなかったけど。
きっと、自分が思っている以上に、大事にしたい、大切な存在だった。
放っておけないし、他の人に自分以上になつくと不満だし。
むつみちゃんが傷ついたり、苦しんでると。
自分のことのように、動かずにはいられないぐらいには。
それはCRYCHICだからなんだろうか。
CRYCHICじゃなかったら、私にとって彼女は『若葉さん』なんだろうか。
分からない。そんなイフに、どちらにしろ意味はない。今さら変わりはしないのだから。
でも。それって運命なのかな。
バンドを組もうが組まなかろうが。
交われば仲良くなれるから、運命じゃないのかな。
私とむつみちゃんの運命って、なんだったんだろう。
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「……」
学校のお昼休みに、校庭に出てむつみちゃんと合流する。
いつもむつみちゃんが中庭で園芸部の活動をしてるところで。
今日から一緒に、野菜を育てるのだ。
私がむつみちゃんの誕生日に贈った、野菜の種を植えるところから。
初まりも始まり、記念すべき共同作業だというのに。
「むつみちゃん、何か不機嫌? どうかした?」
パートナーの口数がいつも以上に少ない。
心なしかいつもの無表情は口元をへの字にしてるように見える。
「……別に。そよは相変わらず、誰彼構わず優しい八方美人だな、って」
「あー……。クラスの子の相談乗ってたの、見てたんだ? ごめんね、私だって早くこっち来たかったけど……」
「……仕方ない。それがそよだから」
許すようなことを言っても、まだその表情は変わらなかった。
どうやら少々本気でムスっとしてるらしい。
私はむつみちゃんが私のことで妬いてくれることに、クスっと笑ってしまった。
「……なんで笑うの。ちょっと感じ悪い」
「だって、むつみちゃんが私絡みで嫉妬するなんて思わなかったんだもん。さきちゃんやたきちゃんのことならともかく」
「……本気で言ってるの? 親友が自分より他の人優先してたら、誰だってモヤっとする」
「それはそうだよね。ふふっ、でもやっぱり珍しくて、嬉しくなっちゃった♪」
「……そよの愛は厄介な形してる」
溜息をつきながら、むつみちゃんは種を植木鉢に飢える準備を始めた。
園芸部らしい手際の良さに、あまり手伝うこともなかったけど。
それでも何かできることがないか注視しながら、ふと思ったことを口にしてみる。
「でもむつみちゃんはさ。CRYCHIC結成してなかったら、私たちってどんな風になってたんだろうね?」
「……CRYCHICがなかったら?」
種を植えた土に水をやる手を止めて、私に大きく目を開いた顔で見つめてきた。
そしてしばらく宙を見上げてう~んと唸る。
「……上手く、イメージできない」
「まぁそうだよね。CRYCHICが始まってから、学校でもそれ以外でも、一緒にいるのが当たり前だったもん。今さらそうじゃない私たちなんて想像できないよね」
正しくは、したくなかった。
イメージできないのは私も一緒。
そして、イメージできないのは……もしかしたら……
「……今みたいには、なってなかったかもしれない」
考えたくもなかった続きを耳にして、どっちが発した言葉か一瞬分からなかった。
恐る恐るむつみちゃんを見ると、植木鉢に再び水をやるその顔は、出会ったばかりの頃に戻ったようだった。
「……そもそも私は祥以外、まともな友達を作れなかった。CRYCHICがなかったら、それはきっと、何も変わらなかった」
すくすく育てるための水と共に、むつみちゃんのもしもがボトボトと土に沁み込んで重くなっていく。
そんな哀しくて認めたくないイフを肥料にされる野菜が可哀そうで。
いや、そうじゃない。
悲しいもしもを考えてしまうむつみちゃんに、黙ってられなかった。
「私はそう思いたくない。だってそんなの、運命じゃない」
「……運命? でもそれってバンドを組んだから共にしたんじゃ……」
「違うよ。逆に考えてみて、バンド組んだからって、みんながみんな仲良くなるわけじゃないでしょ?」
「……確かに」
「だからね、元々私たちは運命で繋がってたの。この世界じゃたまたまバンドって最高の形で巡り合って、他のみんなとも親友になれたけど。バンド組まなくても、私とむつみちゃんはきっと仲の良い友達になれたよ?」
「……それは、ちょっと自信ない。祥に巻き込まれたから私はそよに関われた。それがなかったら、きっと私はみんなに好かれる人気者のそよとは接点持てなかった。……私なんかとは真逆で、いつも周りに囲まれてるそよには……」
「持てたよ」
「……どうして?」
私の断言に納得できないのか、伺うようにこっちを見てきた不安そうな親友に。
真正面から私らしく答えを示す。
「私が誰にでも優しく接する、八方美人の偽善者だから。1人ぼっちのむつみちゃんを必ず見つけて、お節介焼いてたんだよ。それで結局、今みたいに仲良くなってたの」
昔は醜くて見ないようにしていたけど、むつみちゃんたちのおかげで乗り越えることができた側面が。
今、目の前の大事な友達を助けるために、頼もしい説得力となって支えてくれていた。
「…………」
呆けた顔で黙っているむつみちゃんに、普段CRYCHIC以外に向ける取り繕った笑顔をわざと向けてあげる。
そういう笑顔って分かってるむつみちゃんは、困ったように破顔してくれた。
「……参った。ご機嫌取りの巧い長崎さんには勝てないね」
「ふふっ、人付き合いの下手な若葉さんにはこういうところじゃ負けられないからね~♪」
水やりの邪魔にならないよう気を付けながらむつみちゃんに抱きつく。
さっきは半分以上意地で出まかせみたいに言ったけど。
こうやって誰よりも近い距離でくっついてると、本当にどんな形でも仲良くなってた気がして来た。
「……そよと同じ学校で良かった。そよと幼稚舎から一緒にいたかったくらい。CRYCHICとか関係なく」
「うん、うんっ! 私も、月ノ森に来て良かった! もっとむつみちゃんと一緒にいてみたかったな♪」
「……そしたら、幼馴染3人組か。仲間外れは可哀そうだから、燈と立希も入れてあげたい」
「そうだね。ってそれじゃ結局どんな形でも私たち、CRYCHICやってそうだね」
「……それが良い。そんな運命が良いな」
むつみちゃんは水やりの手を止めた。
そのまま私に寄り添うように、身を預けてくれる。
運命、か。CRYCHICに出会って分かった気がしたけど、またちょっと分かんなくなりそうかも。
まぁいいか。むつみちゃんがいれば、みんながいれば。
今と違う運命でも、行きつくところは一緒って思えるから。
「……大事な作業を忘れてた」
「えっ?」
「……あと1つだけ。これやらないと終わらないし、私達の共同作業として始まらない」
そういってむつみちゃんは手荷物を漁り始めた。
そこから取り出したのは、私がよく知ってる物。
だって、私からむつみちゃんに贈ったプレゼントだから。
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「動物のオーナメントだ! 確かに、これを飾らないと、私たちの植木鉢ってならないよね!」
「……せっかくだから、2人で飾ろう」
「うんっ♪」
そうして私たちは飾り方にお互い拘り、言い合いながらも納得の決着がついて。
植木鉢をバックにむつみちゃんと写真を撮る。そのままCRYCHICのグループチャットにあげた。
「ふふっ。私とむつみちゃんのラブラブっぷりにたきちゃん嫉妬しちゃうかな~?」
「……それはそれで満更でもないけど。それより先に怒って突進してくる幼馴染がいるから」
「……あ」
そうだ。すっかり構ってもらいたがりのお嬢様のことを忘れていた。
校庭から私たちのクラスの方を見上げると、廊下を水色のツインテールが猛スピードで駆け抜けてるのが見える。
2人して顔を見合わせ、苦笑いする。どうやらしっとり落ち着いた時間はここまでらしい。
やがてダダダダッという元気で力強い足音が徐々に聞こえてきた。
その音の方へやれやれと同時に振り向きながら、私たちは月ノ森組で唯一仲間外れにされて憤慨する財閥のご令嬢をどう宥めようかと身を寄せ合って、笑い合いながらこしょこしょと検討したのだった。