CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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4番 美景、天気雨、告白

 

【挿絵表示】

 

 

祥子「おぉ~~~……おぅ……」

 

立希「紅葉がないわけじゃないけど……ポツポツって感じだな。半分くらい緑っぽいし」

 

睦「……絶景っていうから、当たり一面の紅葉を期待してた。祥、どういうこと?」ジロリ

 

燈「む、睦ちゃん! ちょっと時期が早かったんだよ! 祥ちゃんは悪くないよ!」

 

そよ「……」

 

 展望台からの景色は、4人の反応通り微妙なものだった。

 紅葉は部分的だし、標高600mなりに眺めが良いだけ。

 正直絶景というほどじゃない。

 紅色の景色も、他所の方が立派だろう。

 

そよ(でも……この景色も、悪くないと思うな……)

 

 山の葉っぱはほとんど緑だけど、秋らしい黄色もそれなりにあって、紅葉と合わせると色合いに風情を感じる。

 そんな山々も地上の建物と共にいつもは見下ろしてくる側だけど、今は私達が見下ろしていた。

 2時間かけて、広大に見渡せる高さまで登ったんだという高揚感がある。

 疲れた体に、達成感のような心地良い感情が沁みる。

 昨日さきちゃんが言ってたことも、あながち間違いじゃないらしい。

 でも、この光景を眩しく思うのは他にも理由があるからだろう。

 

祥子「で、でも! ここまで頑張って見た景色としては悪くないのではなくて!?」

 

燈「う、うん! 一面紅葉じゃないからこそ、緑に黄色に赤色に、彩り豊かだよね!」

 

立希「……まぁ、良い眺めではあるんだし、この妙に清々しい気分も……悪くはないか……」

 

睦「……街が小さく見える。飛行機とかじゃなくて、私の足でこんな高いところまで上ってきたんだ……」

 

 同じ苦行を乗り越えた先で、同じ景色を見て、同じような感想を抱いてるみんな。

 混ざれなくても、それだけで満たされる。みんなとこの瞬間を共有してるんだって、思えるから。

 まるでお気に入りな映画のワンシーンを見てるみたいに、1人離れたところでみんなと景色を眺めていた。

 と、そこでポツっと服に雫が落ちてきた。

 

燈「あ、雨降って来たよ」

 

立希「ホントだ。でも太陽は出てるのに、変な雨だな」

 

睦「……天気雨、かな」

 

祥子「何にしても、そよの言う通り折り畳み傘持ってきて正解でしたわね」

 

 どんどん強くなる雨脚に、みんな傘を差し始める。

 私も鞄を漁るけど、なかなか見つからない。

 おかしいと思って記憶をたどると、みんなにメッセージ飛ばしてから寝て以降、用意してなかったことを思い出す。

 

そよ(自分で言っておきながら忘れてくるなんて……どれだけ抜けてるんだろう……)

 

 呆れて苦笑いになる私は、ほとほと嫌になって視線が下がる。

 辺りは日差しで明るいのに、冷たい不快感がまとわりつく。

 みんなは寄り添って暖かそうなのに、私だけ寒い。視線はさらに下がる。

 雨に打たれながらつまらない地面を視界に映していると、ボツボツという布を叩く音と引き換えに雨の感覚がなくなった。

 顔を上げると、ともりちゃんが私に傘をさしてくれてる。

 そんなともりちゃんを、3人の傘が守っていた。

 

燈「そよちゃん。傘、忘れてきちゃった?」

 

そよ「……うん。私から言ったのに、恥ずかしいよね」

 

立希「確かに、そんなミスするそよは珍しいな」

 

祥子「そよ、濡れてますわ。ハンカチで拭きますわよ?」

 

そよ「……ありがとう」

 

 さきちゃんが近寄って、髪や肌、服を拭いてくれる。

 いつもなら笑顔でもう少し何か返してるのに、私は一言礼を言うだけで俯き黙ってしまう。

 気を遣われてるのにいつまでもウジウジして、嫌悪感が募る。

 

そよ(もう絶景は見たんだから。いつまでもこんな調子じゃダメなのに。みんな私のためにここまで登ってきたのに……)

 

 いっそ偽善を開き直る? いやみんなだけは裏切りたくない。じゃあ優しくするのやめる? そんな私って受け入れてもらえるの? 万が一にもみんなにだけは嫌われたくない、じゃあどんな私を演じれば……違う、演じたら偽善と同じで……なら私は、どうやって生きればいいんだろう……。

 

そよ(ありのままでなんか生きれないのに。それしか認められないなんて、息苦しい……)

 

 こんな私は、CRYCHICのみんなと一緒にいられないのかな。

 

睦「……夏の合宿。最初私はみんなに馴染める気しなかった。でも祥がやるって言うから、期待もせずに流されるまま参加してた」

 

 むつみちゃんが急に何を言い出したのか、よく分からなかった。

 だから相槌を打つこともできないのが、今の私には救いだった。

 ただ黙って聞いてればいいから。

 

睦「でもそよがずっと気に掛けてくれて、話しかけてくれて。落ち込んだら励ましてもくれた。そのおかげもあって、徐々にみんなと仲良くなれた」

 

そよ「……」

 

睦「私はそんなそよに感謝してる。だからそよが落ち込んでたり困ってたら力になりたいのに、友達が悩んでるって経験なくて、どうすればいいか分からなくて。結局、祥の意味不明な迷案に乗るしかなかった」

 

そよ「……」苦笑い

 

祥子「そ、そこまで言わなくても……」シュン

 

立希「祥子。後で慰めてやるから、今は口挟まないの」

 

睦「……そよ。言いたくなかったら無理して言わなくてもいい。でももし何か吐き出したいことがあったら、いつでも聞くから。言っても言わなくても、私達はいつでも味方」

 

立希「なんかそよ、明らかに何か抱えてるのに言えなくてだんまりって感じだからな。一応言っとくけど……ちょっとは私ら信頼しなよ。話す気になるまで気長に待つけどさ」

 

燈「うん。あ、あと紅葉もあんまり凄くなかったから、気を遣って元気出さなくてもいいからね? なんだか無理してそうだから、気楽にいて欲しいな」悪意ゼロ

 

祥子「うわ~~~ん! そよが絶対元気になると思って提案しましたのに~~~! 大失敗ですわ~~~!」

 

立希「燈、えげつないトドメ差すじゃん」

 

睦「……まぁこの仕打ちで少しは許してあげよう」

 

燈「え、えっ、祥ちゃん!? あ、別に祥ちゃんを責めてるわけじゃ……」

 

 わんわん泣くさきちゃんをともりちゃんが慌てて慰めて、たきちゃんむつみちゃんはしょうがないな、って顔で見合わせた。

 私を励ましてたはずなのに結局ギャグになる、どこまでもらしい雰囲気の4人に。

 1人シリアスにウジウジ抱え込んでるのが馬鹿らしく思えてきた。

 息苦しかたった体が呼吸を思い出したように、少しだけ楽になる。

 

そよ(……どう振る舞っていいか分からなくて、迷ってるうちに嫌われるかもしれないなら。吐き出しても、確かに一緒なのかな)

 

 偽善的な私を知ったら、みんなは嫌悪感を抱いてもう今まで通りには仲良くしてくれないだろうな。

 それでも、私に一歩踏み込んでくれたむつみちゃんやみんなに応えなくちゃいけない。ここで逃げたら、本当に仲間じゃなくなってしまう。

 私は意を決して、重く閉ざしていた口を開いた。

 

そよ「……昨日ね。クラスの子たちが話してるの、聞こえちゃって。私が優しくするのが、わざとらしいって……」

 

 4人は私の声に反応してこちらに注目し、静かに話を聞き始めた。

 昨日学校のお手洗いで聞いた会話のこと。

 よくよく覚えていた私は、言われたまんま再生する。

 

立希「それって影口でしょ。そんなやつらの言うことなんて……」

 

そよ「違うの。私を悪く言うつもりじゃなさそうで……だから、悪意がないからこそ、流せなかった」

 

祥子「ど、どうしてですの? 優しさがわざとらしいとか拘ってるなんて、個人的な感想を通り越して言いがかりですわ! そんなこと言われたって、どうしようもないじゃないですか……」

 

そよ「……心当たりが、あるから」

 

祥子「え?」

 

そよ「あまり意識してこなかったけど……。違うかな、意識しないようにしてたんだけど。これは、昔から私が積み重ねてきた偽善なの」

 

睦「……偽善……嘘で優しくしてたってこと? 春からずっと一緒にいるけど、そんなこと一度も感じたことない」

 

そよ「騙す意思も打算もなかったし、何か企んでたこともない。ただ……相手に嫌われたくなかっただけ。受け入れてもらえるように、そのために優しくしようとして、優しく振る舞ってた。……認めたくなかったけど」

 

燈「私も、嫌われるのは怖いし……そんな、おかしいことじゃ、ないと思う……」

 

 確かにともりちゃんはそう思いそう。

 そうやって私に共感してくれるともりちゃんに、吐き出そうとしてる言葉がある。

 頭のどこかで警鐘が鳴っている。それは言い過ぎだし、触れなくてもいいことだって。

 でも溜め込んだ悩みを1度打ち明け始めた私の口は、堰を切ったように止まらなかった。

 

そよ「ともりちゃん。私ね、ともりちゃんの歌詞が……苦手だった」

 

燈「え……」

 

立希「……っ!」

 

 一瞬で怒り顔になるたきちゃんをむつみちゃんとさきちゃんが肩に手を置いて止めていた。

 たきちゃんどころか、みんな怒らせるくらいの覚悟はしてたんだけどな。

 現に、たきちゃんを止めながらさきちゃんは複雑そうな表情をしている。

 いつもの私なら、ともりちゃんの歌詞も上手く心を整理して()()()()()のに。

 自分の心を曝け出してるときに、彼女の詞から目を背けるのは難しかった。

 だって……ともりちゃんの叫びは……

 

そよ「心がむきだしみだいな歌詞に受け入れ難いところがあったんだ。でもそう感じるのは、ともりちゃんの叫びが私の叫びでもあったからなんだろうね。目を逸らしたい私の心に……偽善な私に向き合わされそうで……キツかった」

 

燈「それでもそよちゃんは、私にも優しくしてくれた。私もそよちゃんが好きだし、騙されたことも、傷つけられたことも一度もない」

 

そよ「……そんなの当然だよ。大切な……仲間、なんだから」

 

 仲間、と言おうとしてどうしても口籠る。

 今の私は、CRYCHICの仲間として認められるんだろうか。

 

燈「そんなそよちゃんを苦しるのは嫌だよ。何がそんなに怖いの? そよちゃんの優しさは誰も傷つけてないのに、何がそこまでそよちゃんを追い詰めるの? それを知れば、歌詞だって変えれる。ううん、いっそ私が歌詞なんて書かない方が……」

そよ「やめてっ!!」

 

 反射的に叫んでともりちゃんを遮る。

 ヒステリックな悲鳴みたいになったけど、恥や外聞を気にする余裕もなかった。

 

そよ「……そんなこと言わないで。そんなの望んでないし、そうなっても良いことなんて1つもないよ」

 

 落ち着いて言い直し、体裁を整えるけど焼け石に水でしかない。

 ともりちゃんも他のみんなも、こんな私に驚いた顔している。きっと引いてるんだろう。

 そりゃそうだ。こんな見苦しい姿、見せないように立ち回って来たんだから。

 

そよ「……CRYCHICの作詞は、もうともりちゃん以外ありえないよ。それにともりちゃんの歌詞は心の叫びなんでしょ? 誰かに気を遣ったら、ともりちゃんの叫びからズレちゃう。そんなのともりちゃんの、CRYCHICの歌じゃなくなっちゃうよ。だから私に気を遣ってブレようとしないで」

燈「でも……!」

 

 尚も食い下がろうとするともりちゃんは、こういうとき頑固。

 だから、納得してもらえるよう更に曝け出さなきゃいけなかった。

 

そよ「話すから……私のこと。でも、聞いても楽しくない話だよ?」

 

燈「そよちゃんが少しでも怖くなくなるなら。そよちゃんに少しでも寄り添えるなら」

 

そよ「……そっか。ともりちゃん、申し訳ないんだけど傘借してくれる?」

 

燈「うん……」

 

 私は厚かましくも傘を受け取りつつ前に歩いてみんなの間を通り過ぎる。

 そうすることで、私の視界には高尾山から見下ろす風景しか見えない。みんなを気にせず話せる。

 空は晴れてるのに雨が降るという滅多に無い風景を眺めながら、私は昔のことを話し始めた。




次話、6000字と長めです。
この話が4500字くらいです。
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