CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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※前書き※

ムジカOP見て気に食わなかった部分の、カウンターSSです。
勢いのまま書き殴りました。
閑話と同じように、ある日のことの話だと思って読んで頂ければ幸いです。


幻想曲
対OP 人形の破滅願望 / 若葉睦は破滅できない


 

 

 スマホがひっきりなしに振動している。

 CRYCHICのみんなからの着信だろう。

 もうとっくにバンド練習の時間なのに、私がいつものスタジオに来ないから。

 私はそこに向かう途中の公園で1人、ベンチに座りこんでいた。

 

 もう12月の半ば。17時を過ぎればすっかり外は暗くなっている。

 街灯に白い明かりがつく。袖をまくって露になった私の素肌が光にさらされた。

 いつも長袖を好んできるから、陶器のように真っ白い肌。

 人形染みて気持ち悪いほどに。人間らしさを、感じない。

 ……さっき『あの人たち』が、言った通り。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あれ、睦じゃない?』

『ホントだ! おーい、睦! 無視しないでよ!』

『マジで人形になったわけでもないんだし、ちゃんと聞こえてるんでしょー』

 

 ……。

 

『うわ、相変わらず暗……若葉の娘じゃなかったら、話すらしてなかったよねー』

『ホントホント! お母さんはあんなに凄い役者さんなのにねー。その娘のくせに人間らしさ無さ過ぎ』

『いっつもつまんなそうな顔で、無口で、たまにしゃべったと思ったら空気読めないかウザいこと言うし』

『ま、今も独りぼっちで歩いてるんだから、昔となーんにも変わってないって証拠だよねー』

『アハハハ!』

 

…………………………

……………

……

 

 

 

 昔、親目的で近寄って来た子だちだ。

 でも。私も友達が欲しかったから。頑張って溶け込もうとしたけど、私は私だから、ダメになって。

 いつしか距離を作られ、ハブられるようになって。

 ……聞こえるように陰口を叩かれていたのだった。

 

 

 

 久しぶりに会ってしまった彼女達が満足するまで、あるいは興が冷めるまで、ひたすら黙って待って。

 声が聞こえなくなった後も、私は少しも動けなかった。

 あの頃の、冷たくて痛くて息苦しくて、ただじっと時が過ぎるのを待つことしかできない、冷たい牢獄に連れ戻されたみたいだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 気付いたらベンチに座っていた私は、ふと思い出して鞄を探る。

 いつか、聞いたことがあったのだ。

 辛いことや悲しいことを、痛みで誤魔化す人たちがいる、と。

 その時の私は怖くて想像することも嫌だったけど。

 今なら分かる。痛みに逃げてでも消したい苦しみがあるってこと。

 

 

「……これで、忘れられるなら……」

 

 日常生活で使うはずのない、もっと言うと人前で出したことのない柄を、私は掴んだ。

 

 

 

 好奇心もあった。

 忘れたままでいたかったトラウマを思い出した自棄もあった。

 彼女たちに何も言い返せなかった自分への怒りもあった。

 いや、それが一番大きいんだろう。

 今はCRYCHICのみんながいるのに。私は、みんなに出会えて確かに変われたはずなのに。

 なのに、昔散々味わった恐怖心に屈し、あまつさえ向こうの言ってることが正しいんじゃないかとも思って。

 

 だって私は……暗くて、つまんなそうな顔して。

 お父さんやお母さんみたいに凄い人じゃなくて。

 CRYCHIC以外、友達もいないから……

 

 

 

 お守りのようにいつも鞄に入れていた、折り畳みの果物ナイフを取り出す。

 畳んであった刃を露出させた。

 街灯の光を反射する銀色が、私の顔を映しながら腕に近づく。

 肌に冷たい感触があたる。やっぱり恐怖があるから、まだ刃は私を映したまま。

 その恐怖心が私に少し我に返させる。

 みんなをスタジオで待たせて、一体何やってるんだ、と。

 

 自分がとんでもなくおかしいことをしてるんだと、ようやく認知した。

 それが返って、私の理性をうやむやにさせた。

 

 もういいや。無自覚にこんなことする私は、やっぱり人として壊れてるんだ。

 だからこういうことを平気でする。なら、今更常人ぶっても仕方ない。

 それに一度だけ、一度だけだ。

 これをしたらもう過去のことに苦しまなくていいかもしれない。

 こんなことに悩まなくなるかもしれない。

 ……もう嫌だ。せっかく会わなくなったと思ったあの人たちにこれ以上脅かされるのも。

 もう嫌。何もかも嫌。嫌、嫌……。

 

「……ハハッ……」

 

 ナイフに映る顔が滑稽過ぎてつい笑ったら、そこには歪な笑みをした壊れ物がいた。

 あぁ……なんて味のある作り物だろう。楽しそうだ、傷ついても平気そう。

 そりゃそうだ。壊れてるんだ、ならいっそ壊しきった方が綺麗になって、楽しそうだ! 気持ちよさそうだ! 中途半端なんて余計気持ち悪いだけなんだから!!

 いっそ、イッソ……シ……

 

「アハハハハハッ!!!」

 

 もう何が何だか分からなくなった勢いに乗って刃を立てて振り上げる。

 これから私はどうなるんだろう。振り下ろした先で何が待ってるんだろう……

 

 

 

「馬鹿かお前っ!!!」

 

 振り下ろそうとした腕が強い力で固定される。

 聞きなれた声に、聞いたことのない怒気が孕んでいた。

 声の方に顔を向ける。見慣れた顔が、見たことないほど切迫した表情に追い込まれていた。

 怒りと、焦りと、安堵と、不安と。

 色んな色が入り混じった顔で、荒い呼吸をしている。

 

「立希……? な、なんでここが……」

 

「お前……ふざけんのもいい加減にしろよ!! 何かあったか知らねぇ、でも今度また同じことしようとしてみろ!! そんときは絶対絶交してやるっ!!」

 

「い……いや、これは、その……」

 

 リストカットしようとしてるところを見られて、私は口ごもって俯くしかなかった。

 誤魔化さなきゃいけないんだけど、上手く頭が回らない。

 いきなり現実に引き戻されても、心も脳も追いつかなった。

 黙っているとスマホのフリック音が目の前から聞こえる。

 それもたった数秒のこと。

 音が止んでスマホが仕舞われた後、

 

「睦! こっちを見ろ!」

 

 もう一度怒声がぶつけられる。

 ナイフをもぎ取られ、私の両肩がガシっと掴まれた。

 荒っぽい行動に、ついビクッとしながらも、立希に視線が向けられる。

 

「なんでこんな事しようとした!? しないといけなかった理由はなんだ!? なんでこんなことする前に私に、私達に相談しなかったんだよ!? お前……マジふざけんじゃねえよ!!!」

 

 声が途中から上ずってると思ったら、立希が泣いていた。

 悔しそうに、腹立たしそうに。唇を嚙みしめている。

 でも涙を流すその目は、ひたすら悲しくて。見てるこっちが……

 

 

「お前、もし私達の誰かが同じことしたらどうする!? 止めないのか? むしろ後押しするのか? 良いことだって認めるのか!?」

 

「い、いや……いや……」

 

「そうだろ! 嫌なんだよ! お前がそんなことしようとする時点で心が切り刻まれるくらい痛ぇのに! 万が一にも、臆が一にもやらせるわけねぇだろ! 大切な仲間が自分を自傷しようとしてるところなんて……自分が傷つく以上に認められねぇだろうが!!」

 

「……」

 

「……頼む。一生のお願いだから、そんなことしようと思ったらまず頼ってくれ。私でもいい。他のみんなでもいい。CRYCHIC以外でもいいよ。頼むから……もう1人でこんな悲しいことしないでくれよ……」

 

「……ごめん」

 

「本当は聞いてやりたくて仕方ないんだけどさ。お前がどうしてもこんなことしようとした理由話せないなら、今はいいよ。でも……」

 

「……ゴメン、立希……」

 

 立希の胸元に顔を押し付ける。

 みんなを身勝手に待たせて、心配かけて、なのに自傷しようとして。

 立希を泣かせるくらい傷つけて、心配させて、不安にさせたのに。

 その張本人の私が泣くなんて情けなくて、身勝手すぎて、恥ずかしくて。

 でも。涙を止められる気がしなかったから。

 せめてそんな顔を見せないようにするだけで、精一杯だった。

 

「私……わたし……むかし、あの人たちに……でも、それはわたしが悪くて……嫌、怖い、苦しい、でもわたしだから……」

 

「……私も怒鳴ったりして悪かった。怖がらせたなら謝るから。だから、もう無理にしゃべらなくていい……」

 

「私……こんなことしちゃうなんて、やっぱり普通じゃなくて……怖い……せっかくCRYCHICに出会って楽しくて幸せな日々をやっと送れてるのに……。なのに何でこんなことしようとして……やっぱり、私は私が、嫌だよっ!」

 

「………あぁ」

 

「嫌っ、嫌だから! たまに壊れてしまえばいいんじゃって思って! 元から壊れてるんだから、こんな私なんてどうなろうと一緒かって、むしろ何か変わるんじゃないかってバカみたいなこと想像して……どう考えてもおかしいのに、それを本気で思ってる自分はやっぱり終わってるんだってまた思って!!」

 

「………」

 

「なんて醜い、人の形をしただけの……あぁ……あぁぁぁああああああああ!!!」

 

 

 

 本当に壊れたように絶叫する私を、立希は黙って抱きしめてくれた。

 私が本当に壊れてしまわないように、遠くへ行ってしまわないように。

 まだギリギリ人の姿を保ってる今に繋ぎとめるように、力一杯抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

 その後。結局私は立希の家に連れられて泊まった。

 CRYCHICの3人には心配するな、とだけ伝えたらしい。

 それでいいの? と聞くと。

 

「お前が大丈夫になればな」

 

 と立希は答えた。

 立希はずっと私の傍にいれくれた。

 ご飯を食べるときも、お風呂に入るときも、立希の部屋で寝るときも。

 できるだけ離れないようにして。ずっと黙って触れ合ってくれた。

 私が人肌を感じて安心できるように、て考えてるんだろう。

 

「……私、今日だけで大丈夫になれるか、分からない……」

「なら大丈夫になるまで学校休めばよくない?」

 

 事も無げに即答する立希は、本当に学校を投げ捨てでも私の傍にいるつもりだろう。

 だから。立希のために意地になって、思いつくまでに吐き出した。

 

 昔から人付き合いが苦手だったこと。特に話すと碌なことにならなかったこと。

 でも親が有名人だからどうしても人が寄って来ては、私のせいで離れていったこと。

 その中にはイジメみたいに陰口叩く人もいたこと。

 今日、その人たちに会ったこと、

 私はCRYCHICに入って変われたはずなのに、嫌味をぶつけられるだけで何も言い返せなかったこと。

 イジメられたときのことを思い出して、スタジオに足が向かなかったこと。

 そして……あんなこと……

 

 

「……確かに、全部を一朝一夕で解決するのは難しいのかもな」

「……ごめん」

「いいんだよ。お前が1人で歪むより、何億倍もいい」

「……」

「睦。もし自分を傷つけたくなったら、それは私達だと思え」

「私達って……」

「CRYCHICの私達だよ。お前が傷ついたら、私達みんなにも傷がつくと思うんだよ。そう思えば、軽率にやろうと思わなくなるでしょ」

「……」

「分かってる。自傷行為をしなくなったところで、お前はお前に苦しむだけ。解決しないことなんて分かってんだよ。でもさ……ムリだよ、私。お前がまた自分で自分を壊そうとするかもって考えただけで、どうすればいいか分かんなくなっちまう。不安なんだよ、いつかお前が本当に壊れて、取返しのつかないことになっちまったらって」

「……」

「だから……責任取るよ」

「‥…?」

「お前に自傷行為を止めさせる責任、取る。お前が自分のこと壊したくなるほど嫌いっていうなら……私が、塗りつぶす。どんなことしてでも、お前を苦しめるやつを消し去る」

「……なくならないと思う。今までだって、消えてもまた現れて、その繰り返しだった」

「なら、その度に私が傍にいる。朝だろうと、学校だろうと、夜だろうと。いつだって駆けつける。いつだってこうして泊めてやる」

「……どうしたら……こんな情けない私じゃなくなるの……」

「ごめん。今の私じゃ絶対の答えを出してあげれない。だから、その答えが見つかるまで私がいるから。もう絶対、独りになろうとするのやめろ」

「……そうだね。それもまた、絶対の答え、だね」

「?」

「1人じゃなかったら……あんなこと、絶対できないから」

 

 私は横になったまま、立希にしがみつくように寄り添う。

 立希は私を抱きしめてくれた。

 今度はひたすら優しく包み込んでくれて、安心感に浸った私はいつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 

 その日以降。

 破滅願望を抑えられそうになくなったときは、立希の家に転がりこんだ。

 なるべく何に恐れてるのか、何が嫌か言葉にしろ、って立希に言われたから、その通りにして。

 吐き出しきったら立希に抱きしめてもらったまま眠りについて。

 そんな日々も季節が巡る度に減っていって、いつしか立希に頼らずともコントロールする術を身に着けたけど。

 

 こんなどうしようもない私にどこまでも尽くしてくれて、優しく抱きしめてくれた立希が忘れられなかった私は。

 何にもないけど立希の家に上がりこんで、鬱陶しがられながらも抱きしめてもらいに行くのだった。

 

 それが、私の破滅を禁じた立希の、責任だからね。

 




※後書き※

こういう書き殴りカウンター話はアニメ放送時期もします。
基本アニメの辛い話を塗りつぶすための話なので、他の話との繋がりは無視して頂けると助かります。
次回こそ楽しい楽しいリーベとの交流会の話を上げていきます。
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