CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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*前書き*

合計4万字オーバー。この章はなっがいです。
あと、「花は咲く、修羅が如く」という作品とクロスオーバーしてます。
彼女達が本格的に登場するのは、5番以降になりますが。


【3月イベント】 誰が為に『こえ』をあげる
前奏曲 理由と傷


 

 

 

 睦side

 

 3月31日

 

 私達が高校生になって初めての春休み中。

 2年生に進級する直前のこの時期は、何か新しいことを始めるに丁度いいんじゃないかと思う。

 だからなのか、初めて朗読に挑戦しようと頑張る燈を、公園に咲いてる満開の桜も華やかに応援しているように感じる。

 だというのに、そんな晴れやかな雰囲気へ陰湿に水を差す声がのんびり投げかけられた。

 

「君はなんのためにこの詩を読むん?」

 

 燈が朗読会の前に、最後の通し練習を終えたところだった。

 京都の学校の放送部顧問という糸目の男性が、にこやかな顔のまま燈に切り込んでくる。

 聞き馴染みの無い関西弁は、端からでも嫌味ったらしく聞こえて癪に障った。

 

「教わった技術を活かそうという意思は伝わったよ? でもその詩を選んだ君自身の思いを読みから感じひん。まるで誰かにその詩を読んでと言われたから読んでるみたいや」

 

(瀬田さんも似たようなことを言っていたけど、それってそんなにネチネチ責められるほど悪いことなの?)

 

 朱く獰猛なエネルギーが頭に上ってくる。珍しく怒った私は陰険男を睨みつけた。

 燈は私を慮って朗読へ挑戦してくれた。それがおかしかろうがなんだろうが、その優しい思いやりを今日会ったばかりの知らない人にとやかく言われたくない。先生だから何言っても許されるとか思ってるのだろうか。

 衝動のままに口を挟もうとする私より一瞬早く、問われた彼女がどもりながらも答える。

 

「き、きっかけは、その通りでした。その人に言われたから、この詩を読もうと思って、練習してました……」

「やっぱりなぁ。読んでる詩やなくて違う対象のこと考えてるから、感情が籠ってるように聞こえてもその実()()。何かを表現したい自分やなくて誰かのためってだけなら、君が朗読する意味がない。そんな読みは美しないよ?」

「それでも」

 

 燈は初対面の人にダメ出しなんてされたらすぐ怖気づくような気弱な子、なのに。

 この場面は、違った。少しの間もおかず一言切り返す燈。

 そして大人の男性相手に毅然とした顔で、まっすぐ言い放った。

 

「それでも私は、大切な友達のために詩います。確かに間違ってるのかもしれないですけど、何が正しいとか私にはいつも分からなかったから。そんなものより、大事な人への想いを込めます」

 

 自己主張の弱い燈らしからぬ気丈さからどれほどの覚悟かを窺い知る。その重さが私の胸にズシと乗しかかった。

 申し訳ないという心苦しさと、だからこそ私が燈を支えなければ、という責務感でいっぱいになる。

 

 私は、燈に()()詩を感情込めて読んでもらうことで、私と同じ傷を抱えてるんだと感じていたい。

 同じ苦しみを共有する同類であり続けて欲しい。

 

 そんな歪で身勝手な願いから口にしてしまった勧めが原因で、ここまで燈に背負い込ませていた。

 それは春休み初日にテレビで聴いた朗読がきっかけだったけど。

 朗読というよりはあの詩によって心の傷を抉られたのが、そもそもの始まりだった。

 

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 若葉睦という女の子にはギターしかない。

 

 両親共有名な芸能人の娘として生まれた女の子は、一個人として自認し辛い環境にいた。

 幼少期から溢れる財力で全て用意され、他人からは有名人の娘として認知されるばかりで、何か成してもその称賛は両親に向けられてばかり。

 昔の女の子には、自身で認められる『何か』なんて持ち合わせてなかった。

 

 しかし転機が訪れた。ある日、女の子はギターに出会ったのだ。

 以来、()()()()()()()()()()()()()()()()女の子は夢中になって『それ』だけに打ち込んだ。大きくなった今でも弾き続けるほどに、自分のものとしたのだ。

 弾けば弾くほど上達はした。例え自分が納得できる演奏ではなくとも、ギターは彼女が唯一掴んだ宝物だった。

 ギターさえあれば、彼女は人として自分を認められたのだ。

 

 でも、逆に言えば。『それ』がなければ何の価値もない存在、ということなんだろう。だとしても彼女はいいと思った。

 この世にはそんな人未満も含めて、いくらでもいるだろうから。それにギターを奪われるような漫画地味たことだって起こりやしない。だから別に、ギターがなくても認められる存在になりたい、だなんて望まない。

 彼女は自身にそう言い聞かせ、心をスッと軽くさせながら哀れに思う。

 

 自身を満たす大切な居場所のギター担当になった以上、そこに居続けるためにも尚更手放せなくなった。

 ギターによって()()()()と幸せが保たれていて、まるでギターに生かされてるみたい。人生において『それ』が占める割合が、他の人とは怖いくらい違うのだ。

 だから万が一、億が一でも。ギターを弾く自分が脅かされるようなことがあれば、彼女はあらゆる意味で死ぬだろう。

 そのもしもを想うだけで、彼女は奈落に落ちるような恐怖を覚える。歪な精神性が絡むこの怖れは、大好きな友人達にだって打ち明けれないから、孤独に抱えるしかなかった。

 

 だから。若葉睦にとってギターとは、存在意義そのものでもあり。

 『自分にはこれしかない』という傷でも、あったのだ。

 

 ※ ※ ※

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