CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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5番 すももヶ丘高校放送部との顔合わせ

 

 

 睦side

 

 3月31日 9時頃

 

 ついに朗読会の日がやってきてしまった。

 先日以降も燈は朗読の練習をしていたらしいのだけど、私達の前では披露してない。

 

燈「みんなにも、本番で上手になったところを見せたいから」

 

 そう言って気丈に微笑む燈に、手助けになることも引き止めることも、何1つできなかった。

 

 本当は何度も言いそうになった。

 もう無理しなくていいよ、私に気を遣わなくていいからって。

 でも、その度に朗読会への参加を力強く表明した燈がフラッシュバックされて、苦味と共に言葉を飲み込んできた。

 

 結局、燈が無理をしてないか陰ながら心配してばかりだったけど、今日までそうはいかない。

 今まで燈を煩わせないようにと遠慮してた分、CRYCHICで集合してからとにかくお節介を焼く。

 

睦「……燈。ちゃんと眠れた? 朝ごはん食べてきた?」

 

燈「うん。ちゃんと寝て、ご飯も食べてきたよ」

 

燈「……そうだ。これ、のど飴。喉乾いたら水もある」

 

睦「あ、ありがと、睦ちゃん……でもそんなに気を遣わなくても大丈夫だよ?」

 

立希「ほら睦、いつになく張り切り過ぎてウザいってさ」

 

 ちなみに最近、立希から私に対するイジリはこんな感じであからさまだった。

 事あるごとに絡んできて、そっちこそウザい。

 

睦「……ウザいのは、いつも燈にだけ過保護な立希のことでしょ」

 

そよ(たきちゃん、好きな子の気を引きたい男の子みたいな絡み方してるな~。仕方ないから触れないであげるけど)

 

そよ「うんうん、不満顔のたきちゃんはともりちゃんの世話役取られたからって(ひが)まないの♪」

 

立希「僻んでないんだけど!」

 

祥子「まぁせっかくやる気なんですから、今日の燈のサポートは睦に任せましょう」

 

睦「……うむ、任せたまえ」

 

立希「サポート役のくせして無駄に偉そうだし」

 

 偉そうでもウザくても、いつもの私らしくなくても何でもいい。

 いくら燈が決意してくれたとはいえ、元々は私の身勝手で燈にプレッシャーをかける事態を招いた。償いになるか分からないけど、今日は私が1番に支えたい。

 そんな使命感から燈にピッタリ張り付きながら、イベントが行われる公園に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 その公園の広間には綺麗な薄桃色の桜が満開に咲いていて、文学的な催しをする場所として趣深い雰囲気だった。

 目的地に着いた私達は周辺を見渡すと既に着いていた瀬田さんを見つける。一緒にいる7人くらいの人たちが、例の京都から来た放送部だろう。ちなみに千聖さんは仕事で立ち会えないとのことだった。流石人気アイドルグループ。

 それはともかく、私達は大人の男性と話している瀬田さんに挨拶しようと近づく。

 

薫「……ということですので、くれぐれも初心者な彼女にはお手柔らかにお願いしますよ」

 

吉祥寺「嫌やなぁ瀬田君、私はそんな嫌な先生ちゃうよ?」

 

薫(だといいけどね……)

 

燈「薫先生、おはようございます」

 

4人「お、おはようごさいます……」

 

 口には出さなかったが、燈が瀬田さんを下の名前で呼んでることに、私達4人は顔を見合わせて驚いていた。

 あそこまで癖の強い人に、燈も随分馴染んだものだ。

 

薫「やぁ燈ちゃん達。紹介しよう、この子猫ちゃん達……と少年たちが、すももヶ丘高校の放送部だよ。あと、こちらが顧問の吉祥寺先生さ。先生、この大人しそうなショートカットの可愛い子が、今話してた……」

 

吉祥寺「あぁ、君が高松さんか。私が吉祥寺です。いつもは自分で詩を書いてるんやって? それを自分でも読もうとするんやから、よっぽと詩が好きなんやなぁ」

 

燈「あ、え、えっと……そういうわけでもなくて……。それに詩っていってもそんな大したものじゃないので……」

 

 東京に住んでれば珍しい京都弁の成人男性相手に、当然のように人見知りして恐縮する燈。

 早速どうやって緊張をほぐそうかと思案していると、金髪ショートカットな派手めの女性が燈に近づいてきた。

 

瑞希「いやいや、書けるだけすげぇって! あたしは薄頼瑞希! 2年生で放送部部長! よろしくな!」

  

 そして、そのまま燈の懐まで踏み入って馴れ馴れしく肩を組んだのだ。

 あまりの自然さに、間に入って庇う間もなかった。なんという陽キャ力……。

 

燈「は……はぃ……」

 

 いけない、圧倒されてる場合じゃなかった。ピアスまでつけてる不良っぽい年上に絡まれて、燈が蚊の鳴く声で震えあがってる。

 私もこういう人種は決して得意じゃないけど、今日だけは燈の盾とならなければ。

 縮こまってる護衛対象をイケイケ陽キャ先輩から引きはがし、安心させるように両肩を抱いて守る。

 

睦「……燈は内気で人見知りなので、距離感大事にしてください。あ、私は燈のサポートを務める若葉睦です」

 

瑞希「おっ、悪い悪い。睦も今日はよろしく! 燈はお互い良い読みしような!」

 

 間に割って入るなんで角立つことしても気にした様子もなくニカッと笑う薄頼先輩は、竹を割ったような性格の人らしい。

 さっきみたいなパーソナルスペースを無視した言動さえなければ、まだ好感を持てそうだった。

 燈から小さく「ありがと」と言われて笑みを返していると、さらにもう1人がトテトテと歩み寄ってきた。

 今度は黒のミディアムヘアーで真面目そうな子なので、薄頼先輩ほど警戒しなくていい、と思いたい。

 

花奈「あ、あのっ! 私、春山花奈っていいます! 同じ高校1年だよ」

 

燈「た、高松、燈……」

 

花奈「高松さんって、朗読始めたばかりなんだよね? 今まで経験なかったのに挑戦してるって聞いて、すごいなって思ったんだ! それで、よかったら友達になりたいって思ってて……」

 

 この春山さんは素朴な見た目通り大人しそうだけど、表情豊かな小動物味のある人で人懐っこさも併せ持っている。

 そういうところが馴染みやすいのか、燈も徐々に表情が和らいでいた。

 

燈「友達……いい、よ……」

 

花奈「よかったー! 燈ちゃんって呼んでいい?」

 

燈「う、うん……えっと、花奈ちゃん、でいい?」

 

花奈「うん! よろしくね!」

 

瑞希「花奈は相変わらず友達作りが好きだよなぁ」

 

花奈「えへへ……。1人でも朗読に挑戦しようとしてる燈ちゃんが、他人に思えなくて……」

 

 薄頼先輩に頭を撫でられて、頬を朱に染めながら嬉しそうにはにかむ春山さん。2人はただの先輩後輩という間柄よりずっと特別な感じがした。

 

瑞希「花奈は小学生の頃から1人で読み聞かせしてたもんな」

 

燈「そ、そうなんだ……凄い、ね」

 

花奈「そんなことないよ……。私よりも、自分で詩を書いてる燈ちゃんこそすごいなって思う!」

 

瑞希「そうだ! せっかくだからどんな詩書いてるか見せてくれよ!」

 

花奈「あっ、私も見たい!」

 

燈「え、えっと……」

 

 キャッキャと騒ぐ2人にオドオドと口ごもる燈。

 いい人たちとはいえ、会って数分でいきなり詩を見せるのは流石に抵抗があるだろう。

 またしてもサポート役である私の出番。ストップという意味合いで掌を突き出し、スマートに遠慮する。

 

睦「……もう少し、燈が2人に慣れてからにしてください」

 

瑞希「はは、睦はサポートっていうよりボディガードみたいだな!」

 

花奈「ボディガード……! かっこいいね、睦ちゃん!」

 

睦「……いつの間にか私も友達判定されてる……?」

 

 薄頼先輩だけでなく、この春山さんも距離の縮め方が独特な人らしかった。

 

 

 

 一方、4人のやりとりを見守っていたCRYCHICの3人。

 ちなみに立希は燈が瑞希に絡まれた瞬間動こうとして、2人に止められていた。

 

 

立希「……で。いつまで掴んでるわけ?」

 

そよ「あぁ、ごめん」

 

祥子「でも立希こそ今日ぐらい燈の保護者役は譲りなさいな」

 

立希「フンッ。……でも、2人とも内気なのに初対面の人達と結構盛り上がってるな」

 

祥子「お相手の2人が気さくなおかげみたいですわね」

 

そよ「良い人たちで良かったよ。燈ちゃんも過度に緊張しなくて済むし」

 

良子「そう言ってくれるのはありがたいけど、ウチの部長が強引に絡んでたのはゴメンね?」

 

 そこにおしとやかな眼鏡の女性が声をかけてきた。後ろには猫背のこれまた眼鏡な男性がついてきている。

 

立希「えっと……(この人、綺麗な声してるな……)」

 

良子「整井良子です。瑞希と同じ2年生なの。あなたたちは、高松さんの友達? 朗読をするわけじゃないの?」

 

そよ「はい。私たちは同じバンドグループなんです」

 

瀬太郎「ば、バンド……。大人しそうな子もいるけど、実際は陽キャの集まり、なんだ……」

 

立希(なんか日傘差してる、睦の数倍暗い雰囲気の男来たぁ……。でも声の低さはなかなか渋いな)

 

良子「瀬太郎君? 初対面の年下の女の子たちなんだから少しは言葉に気を遣いなよ。あ、こっちは箱山瀬太郎。私達と同い年だよ」

 

瀬太郎「でも、友達の朗読に付き添うなんて、仲、良いんだね……」

 

祥子「えぇ。私達は運命共同体ですから」

 

瀬太郎「う、運命!? おも……」

 

良子「(瀬太郎の口を塞ぎながら)素敵なグループね!」

 

そよ「あ、あはは…‥そちらも仲良いんですね」

 

良子「瀬太郎君とは中学の頃からの付き合いだから」

 

祥子「えっと……付き合い、と言いますと……その、お2人はやはり?(モジモジ)」

 

瀬太郎「あぁ、僕たちはそういう関係じゃないよ。ただの友達」

 

良子「それはそうだけど。そういうセリフは普通女性から言うべきじゃないかな?」

 

瀬太郎「えっ、良子ちゃん……怒って、ないよね?」

 

良子「ふふふっ」

 

瀬太郎「いやその笑顔は本当にどっちか分かんないから、はっきりして欲しい……」

 

 

 

 男女的雰囲気を察知した祥子が立希とそよをさりげなく引き寄せてコソコソ話始める。

  

祥子(お付き合いされてないにしても、何かイイ感じですわね! これがいわゆる、『友達以上恋人未満』というものでしょうか!?)

 

立希(祥子、恋バナしたいの?)

 

そよ(たきちゃん、女子高生はみんな恋バナが好きな生き物らしいよ?)

 

祥子(そう言うそよもあまり興味なさそうな口ぶりですわね! 私1人盛り上がってはしたないみたいじゃありませんか!)

 

立希、そよ(実際はしたないから)

 

祥子(うぅ……財閥の令嬢なのに庶民からはしたないと言われるなんて……)

 

 

 

 その内顧問の先生が朗読会前の練習を始めると号令をかけた。

 燈は放送部に混じって練習を始め、私達は邪魔にならないところで見守っていた。

 途中、燈がネチネチいちゃもんつけられるシーンもあったけど、ひとまず練習も落着し。

 イベント開始の時間が迫ってきて見物客が集まった頃。

 いよいよ朗読会が行われようとしていた。

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