いつも3000〜4000字に対してこの回6000字と長めです。
そよ「……私の親、小学校のときに離婚したの。それが原因で、私は人との繋がりが怖くなった。家族ですら一生の繋がりは保証されない。私もいつお母さんに捨てられるか、分からない。そう思ったら、嫌われないよう相手の顔色を伺いながら話すようになってたの」
太陽に照らされて光る雨の中、色とりどりな秋色の山々を見ながら。
後ろにいるCRYCHICのみんなへ、誰にも話すつもりのなかった過去を曝け出す。
そよ「学校の子たち、先生とかの大人、……特別仲良くなったバンドメンバーだけじゃなくて、一緒に暮らすお母さんにすら。全ての人に本音より相手に嫌われない言動を心がけてきた。そんなことを続けてるうちにいつの日か、優しい自分を演じることに慣れてた」
立希「……嫌われないように優しく? だいぶ私だけおちょくられてたと思うけど……」
睦「立希、めっ」
立希「分かってるよ、小言ツッコミぐらいさせてって」
そよ「そんな歪な生き方に縋るくらい、嫌われることが怖かったの。誰かに受け入れられない感覚を味わないよう、必死に逃げてきた。でも、今は何よりもCRYCHICのみんなに嫌われて、居場所を失うことが怖くて。だから余計に偽善に頼りたくなるんだけど、仲間に偽善を張るのは許されない、友達って認めてもらえないから。もうどうしたらいいか、分かんなくて……私はこういう生き方しか知らないから……」
偽善という外面を張れば、裏で何考えてるか分からない人間と忌み嫌われる。
外面を張らなければ、優しくない私なんて受け入れてもらえる気がしない。
どっちにしろ詰んでる。どっちにしろ、みんな離れて行く。
そよ(あぁ……私は、どうすればよかったんだろう……)
ひとしきり話し終えた私は、何度目か分からない苦悩に逃げ込んだ。
流れのままに話したけど、こんな面倒な話をされたみんなの反応が怖い。
だからみんなの方へ振り返れないし、これ以上話しかけることもできない。
自分の世界に閉じこもって黙るなんて、みっともない独りよがりは不本意極まりなかったけど。
それくらいどうすればいいのか、本当に分からなかった。
燈「偽善って……そんなに許されないことなの?」
純粋な疑問の声が背中に投げかけられる。
そんな前提を聞かれるとは思わなくて、思わず振り向く。
そもそも偽善というものを考えないようにしてたから、何がどう悪いか明確にしてこなかったけど、悪いに決まってる。
だって、偽善者って言葉は罵倒で使われるものなんだから。
偽りの善と書いて、偽善なのだから。
そよ「だって、偽りなんだよ? 嘘っぽいっていうか、……演じてるっていうか……騙してるみたいに感じるでしょ? 偽善者って呼ばれるのって、そういう人たちでしょ?」
燈「そよちゃんは、嘘で私達と仲良くしてたの? 何か騙してたの?」
そよ「違う! そんなこと絶対ない! でも、みんなみたいにありのままの自分で接してない! 嫌われたくないからみんなの顔色伺って優しい振る舞いを作って……そんなの、私が本音じゃ何考えてるか分からなくて、信じられないだろうから……」
燈「私は……もともと人とズレてて、全然人間じゃないから。人の気持ちとか考えるの苦手だから……そよちゃんが何考えてるかなんて、分かってなかったと思う……」
そよ「……人間……」
いつか、さきちゃんが言ってた。
ともりちゃんが歌詞に書いてた人間っていうのは、普通に友達を作って普通に楽しそうにしていた周囲の人たち、ともりちゃんから見た『みんな』じゃないかって。
その『みんな』に誰とも馴染めなかった自分は普通じゃないと悩んだから。
普通への憧れと自虐を込めて、人間になりたいって書いたんじゃないかって。
ともりちゃんは……それくらい感性が独特な子だから、納得してしまう。
祥子「そよ。そもそも偽善が許されないのは、そこに相手を騙そうとしたり利益を求める意思があるからですわ。貴女は私達にそのようなことを1度でもしましたか?」
そよ「……するわけないよ……」
祥子「まぁ聞くまでもないと思ってましたが。だから、いいんですのよ。確かに人の顔色を伺って言動を決めるのは、おためごかしな側面があるかもしれません。でもそれだけですわ」
そよ「それだけって……それがみんなは嫌なんじゃ……」
立希「……まぁ確かにね。出会った頃そんな話聞いたら絶対うさんくさく思うよ。ホントは何考えてんだって怪しむだろうけどさ。でもこの半年間付き合ったけど、お前何も騙してないし裏切ってもいなかったじゃん。だから、今更聞いたってめんどくさいこと考えるヤツだなって思うくらいで、わざわざ嫌いになるほどじゃない」
そよ「……たきちゃんは、外面張る人なんて絶対信用できないって思ってた……」
立希「見くびんな、私だってそんな単純じゃない。あと偽善者って言えば、勝手に決めつけて押しつけがましいことしそうなイメージあるけど……そんな自己中だって、したことないでしょ? ならやっぱ気に病むようなことじゃないんだよ」
そよ「どうして……? それでも本心を隠して優しくする人なんて、それだけで怖いし、気味悪いじゃない! うさんくさい人って怪しむのは当然だよ! なのにどうして寄り添うようなこと言うの? 嫌なら嫌って言ってもらった方が……本心でどう思ってるかわからない方が、やっぱり怖いよ……」
後半は嘘ではないけど、本心を守るための建前だった。
本音じゃみんなの言葉を素直に信じたい。
でももしそれが嘘だったら? 同情から言った上辺だけの慰めだったら?
特別に大好きな人たちから裏切られることは、その人たちに殺されるようなもの。私には耐えられない。
そよ(私自身が本心隠して偽善で優しくしてたくせに、人の優しさは受け取れないなんて……何て勝手なこと言ってるんだろう……)
矛盾だらけの自分なんて、死んで欲しいくらい大っ嫌いだった。
立希「だから、勝手に決めつけるなって。それに本心なら今聞いた。後は、そよが私達を信じるだけ」
燈「でも、そう思っちゃうの分かる。私にそんなこと、言ってもらう資格あるのかなって、不安になるときもあるから」
祥子「だからと言って引けませんわ。そよは私達にずっと優しくしてくれたのに、いざというとき私達の優しさがそよに届かないなんて、悔やんでも悔やみきれません! そよ! 私達を信じなさい……いえ、信じて欲しいですわ!」.
睦「……祥の言う通り。私達が今そよを気遣ってるのは、そよがいつも優しく気遣ってくれてたのと同じなんだよ。そよが優しくする体で何かを要求したことがないように、私達だって何か裏があるわけじゃない。もらった分返してるだけ」
そよ「……みんなと、同じ……」
睦「……だから、例え自分が嫌われないためって目的で優しくしてたとしても。そよはそのまんまでいいんだよ。だって、いつも一緒にいる私達が嫌に思ってないんだから。……やっぱり、自分の振る舞いくらい、自分の好きに決めてよかったんだよ」
そよ「……!」
『いつも一緒にいる仲間がそう思ってるなら、そのままでいいんだよ。だって……自分の振る舞いくらい、自分の好きにしたいじゃない』
夏の合宿で、たきちゃんに無表情と言われ落ち込むむつみちゃんに私が言った言葉だ。
まさかあの時の言葉が返ってくるなんて、夢にも思わなかった。
みんなは私の2歩手前まで歩み寄る。
そしてまずともりちゃんが、1歩分手を差し伸べてくれた。
燈「分かりきってたけど、例えそよちゃんが偽善だったとしても誰も嫌わないよ? それでもそよちゃんはもしかしたら自分が好きになれないかもしれない。でも大丈夫なんだよ」
そよ「大丈夫って……何が?」
燈「そよちゃんが嫌う以上に、私達が大好きだからだよ。そよちゃんが辛くならないように、私達が一緒にいて、守るから。だから、大丈夫なんだよ」
睦「……自分が信じられなかったら、そよが好きな私達を信じて。……こんな事言うのも不謹慎だけど、私もあんまり自分のこと好きじゃなかったから。そよが同じ悩み抱えてるって知って、ちょっと嬉しかった」
そよ「むつみちゃん……」
立希「まぁ、このバンドがまとまってこれたのはそよのおかげだし。……お節介でもあったけど、夏は私もそよのおかげで馴染んだところはあったしな。だから……偽善だろうがお前がいないと、CRYCHICは困るんだよ。そよが偽善者だったおかげで、CRYCHICは成り立ってたんだよ」
そよ「偽善の、おかげ……?」
偽善は悪だと思ってた。認められることじゃないと思ってた。
だから嫌味や皮肉もなく、お前が偽善者でよかったと言われたことが、衝撃だった。
祥子「そよ。私たちはあなたを必要としてますわ。あなたに助けられてますし、あなたが好きだからです。そんな私達に嫌われるかもしれないと恐れるのは、ナンセンスではありませんか?」
4つの手が私に差し伸べられ、私はともりゃんの傘を畳む。
そして、ようやく1歩踏み出しみんなとの距離を埋める。
私は両手でみんなの手を抱きかかえる。逃したくないから、離したくないから。
みんなの温もりで心の鍵が開いたように、一番強く大切にしてきた想いが湧き上がる。
それは胸から喉を通り越して、鼻や目にまで熱い衝動が駆け巡り、滲んで零れる。
そよ「……CRYCHICは、私が初めて居場所だと思えた大切なグループなんだよ? 誰にでも外面張ってばかりで心細かった私が唯一満たされる、かけがえのない居場所だったの! みんなが仲良くて、みんなCRYCHICが好きだから余計嬉しかった! だからこの居場所がずっと続くよう大切に守ってきた! みんなが仲良いままでいられるように、みんなにとって居心地のいい場所であるように! 見守って、お節介焼いて、助けになろうとしてきた! それくらいCRYCHICのみんなが好きだったから! だから……そんなみんなにだけは、嫌われたくなくて……何より怖くて……みんなが優しいって分かってたはずだったのに、……いつの間にか自分と一緒にみんなを信じられなくなってて……みんなとの絆を、見失ってた……」
燈「そんなにCRYCHICのこと考えてくれてたんだ……」
立希「たまには悩んで見失うときもあるでしょ。いつもいつもいい恰好しようとし過ぎ」
そよ「……たきちゃんに、格好つけるなって言われてもね……」
立希「はっ、調子出てきたじゃん」
そよ「空元気だよ」
睦「……空でも、悩むよりずっと良い」
そよ「そうかな? ……でも、ちょっと分かったかも」
祥子「何にですの?」
そよ「ずっと親の離婚が胸につっかえてたから、怯えてきた。だからいつまでも偽善に頼ってた。でもまずは、そこから離れなきゃいけなかったんだ。過去の傷にばっかり囚われてたら、いつまでも前に進めないよね」
燈「もう……怖くないの?」
そよ「まだ怖いところもあるかな。でも、私と一緒にいてくれるみんなを信じたいから。怖さよりもみんながさっき言ってくれた言葉の方が、ずっと強い」
睦「……よかった」優しく微笑む
立希「まぁ、そよが悩まなくなったなら私としては何でもいいけど?」
祥子「どうしてそう憎まれ口を叩くんですの……いえ、思い遣りの心が隠せてませんわね」
立希「妙な茶々入れなくていいんだよ!」
そよ「ふふっ」
私は涙を浮かべながらも久々に自然と笑みが漏れた。
そのことに心が温かくなって、涙を拭い今度こそ笑顔を作る。
外面だろうと胸張って見せれる、満面の笑顔を。
そよ「ありがとう、みんな。もう大丈夫だよ。でもいつかみんなには本当の優しさでも接するようになりたい。それを探してまた迷って見失うこともあるかもだけど……そのときは、また助けて?」
そうだ。1人で悩むだけだったからこうなった。
私は、私達は困ったら相談すべきだったんだ。
もう忘れない。自分1人ではなく、大切なみんなと生きてることを。
燈「もちろん!」
祥子「当たり前ですわ!」
立希「しょうがないな」
睦「……私達に、任せて」
それぞれの笑顔で快諾してもらった私は4人ごと抱きしめる。
たきちゃんは上辺では暑苦しそうにするけど抵抗せず、さきちゃんは抱き合ったままスマホをインカメで構える。
ちゃんと後ろに山頂からの景色を映す構図で。
ちょうとそのとき雨が止んで、辺りを照らす夕陽の光が一層眩しく感じた。
やっぱり天気雨だったらしい。そういえば、秋にすぐ止む雨には名前があったんだっけ。
そよ(まぁ何でもいっか。だって、もう雨は上がったんだから)
さきちゃんが撮った写真は、みんなで見た秋らしい色合いの山々が、夕日に照らされてより鮮やかに写っていて。
私も含め、5人の最高の笑顔がその写真をより素敵に映えさせていた。
受け入れてもらえる訳ないと思ってた内面をみんなに晒して。
温かく受け入れてもらえた私は、ガラス製だった心がもっとしなやかで丈夫なものに作り変えられたように感じている。
失うことばかり恐れて自分を守ることしかしなかったけど。
ここまでみんなに受け入れてもらえた分くらいは、強くなれるかもしれない。
みんなにだけは、自分を守らずみんなのためだけを考えて、優しくできるかもしれない。
いや、そうしたい。せめてみんなにだけは、本当の優しさを与えられるようになりたいから。
後日談、サークルのスタジオにて
祥子「聞いてくださいまし燈、立希も! そよってば、今まで宿題見せてくれてたのに見せてくれなくなったんですのよ!? それも私だけ!」
そよ「宿題は自力でするから意味あるんだよ? さきちゃんは真面目だからたまにだったけど、甘やかすのもよくないからこれからは一切見せません。手伝いはしてあげる♪」
睦「……私なんて、授業中寝かけてたらヘアゴム飛ばされて起こされた」
そよ「授業中に寝るのは普通にダメでしょ? むつみちゃんの寝顔可愛いからちょっともったいないけど、もう見逃してあげないから。夜寝れないなら相談してね♪」
燈「ふふっ、そよちゃんちょっと厳しくなったね」
そよ「これが本当の優しさなのか自信ないけど……迷いながらも、まずはやってみることにしたんだ」
祥子「あぁ……前までのそよが恋しいですわ……」
睦「……カムバック、甘々そよママ」
立希「でもまだその優しいお姉さん的なキャラはやるんだな。それだってそよ的には作ってるみたいで嫌なんじゃなかった?」
そよ「うん。でも考えてみたら、私って優しい人ではいたかったみたいだから。みんながこのキャラ嫌じゃないなら、これは変えなくていいかなって。私はみんなに認められればそれでよかったんだ」
燈「なんだか、そよちゃんらしさを見つけたみたいだね」
そよ「うん! これからもこの外面張ったまま、でも大事なときは本当の優しさでCRYCHICを、みんなを守るから! よろしく♪」
睦「……じゃ早速、学校で寝れなくて寝不足だから膝枕して」
そよ「はいはい、バンドの練習終わった後にね~♪」
立希「やっぱ甘いところは変わらなさそうだな」
燈「それもそよちゃんらしくていいと思うな」
祥子「——さて! それじゃあ練習始めますわよ! 今日はまず、つい先日できた新曲から……」
時は流れ、ある日のライブイベントにて。
「次の曲は、秋に雨の中紅葉を見たときのことを歌にしました。聞いてください……『
※後書き※
次回、(自分の)気分転換回です。