1月1日、早朝5時。
香川県観音寺市、高屋神社がある稲積山近辺の宿に泊まったCRYCHIC5人は、まだ真っ暗な早朝に起床する。
睦は布団に籠って逃げようとしたが、張り切る幼馴染によって叩き起こされた。
この時間帯から元気に騒ぐ祥子のおかげもあり、みんな意識を覚醒させ登山の格好に着替える。
そして宿を出て、高屋神社の麓まで歩いて向かい始めた。
睦「……さ、寒い……寒すぎて……サムスになった、わね……うぅ……(泣)」
立希「泣きながらボケんな……こっちも眠くて、ツッコム元気ないんだから……」
そよ「こ、今回は前ほど登らないみたいだし、頑張ろう2人とも?」
燈「う、うん。いざとなったら、今度は私がっ、支えるよ!」
立希「だ、大丈夫大丈夫! 愚痴ってるけど私も睦もちゃんと登るって!(燈に登山で助けられてたら、格好つかないし……)」
睦「…………ちくしょう。どうして祥のバカはこんなアホみたいなことしたがるの……?」
祥子「そこに山が! あるからですわ!」登山を前にしてメラメラ燃え上がる
そよ「な、なんかバンドより登山の方が熱入ってそうだね」
立希「もう祥子は登山家にでも転向する? なら新しいキーボード探さないとな」
睦「……私の広くて深い家のコネで、すぐ見つける。祥、バイバイ」
祥子「なんでそんな酷いこと言えるんですの〜〜〜!? 終いには泣きますわよ!?」
燈「さ、祥ちゃんCRYCHICやめちゃうの!? お願いだから、離れていかないで……」
祥子「やめませんっ! やめませんし燈からも離れません!」ヒシッ
立希「おい、燈から離れろ! 前から思ってたけどお前は燈にベタベタし過ぎなんだよ!」
睦「……はぁ。こんな話してたら、もう麓の下宮に着いちゃったよ……」
そよ「ここから登るんだよね?」
祥子「そうですわ。ですがここからは今までよりさらに暗くて足元が危ないですから、渡しておいた懐中電灯を」
立希「こんなものが必要な山登りは金輪際勘弁して欲しいんだけどな」
睦「……右に超超超超チョー同意」
そよ「ネタ古いなぁ。それ私たち生まれる前の曲でしょ?」
燈「それじゃあ……行こう、祥ちゃん!」
祥子「気合い十分ですわね、燈! いざ、高屋神社ですわ!」
燈「おぉー!」
睦「……おぅ……」
立希「おーお……」
そよ「お、おー♪ 2人とも、往生際悪いよ?」
祥子「まぁ登ってる間にハイになるでしょう。それでは、出発お進行〜♪」ズンズン……
燈「ま、待って祥ちゃん! 自分で登るけど置いては行かないでよ……!」タタタッ……
立希「おてんばお嬢じゃないんだからハイにならないし。でもまぁ、そよの言う通りか。ここまで来てウダウダ言っても仕方ない、行くよ睦。せめて無事にここへ戻ってこよう」スタスタ……
睦「……うぅ。なら無事に戻ってこれるように立希が傍で支えて……」トボトボ……
そよ(前の登山から思ってたけど。2人にしかない友情が芽生えてるなぁ)スタスタ……
こうして、5人は天空の鳥居と呼ばれる高屋神社本宮を目指し、稲積山を登り始めた。
スタート地点である下宮の鳥居からは、舗装された道から山道に変わっている。
しかし100m程で進むと、早くも整備されてないような歩きづらい山道になってきた。
睦「……出た。高尾山と一緒、山道ですらない道。どこ歩けばいいの?」
立希「暗い中だから余計怖いよな。人間の歩く道じゃない感じ」
祥子「まさに冒険してる感じがしますわよね!」
そよ「冒険ってほどじゃないけど……ちょっとだけドキドキするかな? 未知なる道に踏み込む感じかも」
立希「そよってそんなわんぱくなやつだったっけ?」
睦「……微妙に張り切ってる気がする」
そよ「その〜……。前は全然楽しめなかったから、自分探しするともりちゃんと一緒に私もリベンジしようかなーって」
燈「そよちゃん。一緒に頑張ろうね」
そよ「うん♪」
睦「……そもそも疑問だった。登山して悩みって解決するの?」
祥子「(ギクッ)な、何言ってますの睦! 前はあの登山があったからそよは悩みを解決できたじゃありませんか!」
祥子(実は私も『何となく解決しそう』くらいの認識なのですが。今更言いづらいですわね……)
そよ「あ、あはは……私の立場じゃなんとも言いづらいけど……」
立希「でもさ。あのときのそよを振り返ると、登山した結果というより、山頂での会話でふっきれたような……」
睦「……登山し終わったときのそよ、まだ無理してる笑顔のままだった。つまり……登山自体に意味は無いのでは?」
祥子「ギククッ!? ……そよ~!」
そよ「え、え~っと~……あの山頂からの景色が心に効いたのもあるよ? ……いくらか」
立希「おまけ程度みたいだな」
睦「……というかあのときの景色、絶景って程じゃなかった」
祥子「あ……あぁ……一部の隙もなかった完璧な趣味が……みんなのためにもなる趣味が……崩れていきますわ~!」
立希「高尾山のときから祥子の趣味でしかなかったでしょ」
睦「……崩れるほどの完璧さなんて最初から無かった」
そよ「ま、まぁあのときはさきちゃんの提案のおかげで救われたから! ありがとね?」
祥子「そよ~! そよお母さま~!」
そよ「でも私、お母さん扱いも登山もあんまり好きじゃないから、ほどほどにしてね?」
祥子「ちゃんと釘を差してきました! もう甘々そよお母さまは、いなくなったんですのね……」
そよ「ねぇ。そのお母さん扱い、いい加減やめない? どうせならお姉さんがいーなー♪」
睦「……優し過ぎてバブみがあるからね……しょうがないね」
立希「甘すぎるそよが悪い」
そよ「うぅ……お母さん扱いされない塩梅って難しいよ……」
燈(……でも確かに。登山すれば悩みが解決するなんて、そんな簡単なわけないよね。むしろ安直に期待して、考えることから逃げてたらそれこそ無意味、かも。よかった、今の内に気付いて……)
5人はそんなお喋りをしながらもさらに登る。
つづら折りの山道や転落防止の柵がつくほど狭い橋を越えつつ、中宮の鳥居まで登ってきた。
頂上まで残り半分、ということなんだろう。
燈「ふぅ、ふぅ……。結構きつい坂だけど、高尾山ほどじゃないから、これなら頑張れそうかな?」
祥子「燈に合った難易度、ということですわね。私的には少々物足りませんが、燈がいいなら良しとしましょうか」
睦「……ハァ……ハァ……。燈、うそ、でしょ? 同じ体力無い仲間だと、思ってたのに……」
立希「燈の言う通り前ほどじゃないのに、もうヘバってんの?」
そよ「むつみちゃんの場合は低血圧が効いてそうだけどね」
燈(私も朝あんまり強くないんだけどな……)
睦「……何か……気が紛れる話、を……」
そよ「う〜〜〜ん、急に言われると難しいねー」
立希「んじゃさ。前から聞いてみたかったんだけど、睦の7弦ギターっていつから使ってんの?」
睦「……みんなの会話を、ラジオ代わりに聞きたかったのに、まさかの私への質問?」
立希「いいでしょ。要は気が紛れればいいんだし」
睦「……これ以上、反論も疲れる。……あのギターは、小さい頃買ってもらったギター」
そよ「それを今までずっと使ってたの?」
祥子「確か定期的に修理に出したりしてたんですわよね?」
立希「それにしたって物持ち良すぎでしょ」
睦「……細かくパーツ交換すれば、ギターに寿命は無いらしい」
燈「でも……ちょっと納得、かも。あの可愛いピンク色、今の睦ちゃんとイメージ違ったから。ちょっと疑問だった」
睦「……まだ小さかった私向けに買ってくれた。私が凄く喜んでいつも触ってたから、お父さんが細めにメンテナンスし出してたんだって。私も他のギターが欲しいとか思わなかったから、ずっと使い続けてる」
そよ「いつも入念にボディ磨いてるのは、その愛着の現れだったんだね〜」
立希「それに、最初のギターから乗り換えずに使い続けるのってなんかロックだな」
燈「うん。睦ちゃんカッコいい」
睦「……ちょっと元気になった」
祥子「現金な幼馴染ですわね〜」
そよ「いいじゃないさきちゃん。エネルギーに変えれるならなんだって♪」
そんな会話をしながらひたすら山頂の本宮を目指す5人。
燈も少しずつしんどくなってきて余裕がなくなるが、それでも頭から離れない会話があった。
燈「睦ちゃんは、そんな小さい頃から変わらないものも持ち続けてるのに。夏の合宿から言った通りに変わって、凄いな、って思う。変わらないものと変わったものが噛み合ってて、これが睦ちゃんなんだ、って存在証明してるみたい」
睦「……こっぱずかしい事を、と言いたいけど。今の私があるのは、夏にみんなが受け入れてくれたから。最初なんて祥に流されるままバンドにいただけ。……あのときは、本当に人形みたいに弾いてたな」
立希「もう違うんでしょ?」
睦「……もちろん。私は誰に流されるわけでもなく、自分の意思でCRYCHICのギターやってる」
そよ「ふふっ、小さい頃からむつみちゃんがギター弾き続て辿り着いた結果だもんね。なんだか誇り高くてカッコいいな♪」
睦「……私も、そう思う」
そよ「まぁそんな睦を見出したのは私ですけどね!」
立希「いい話だったのに台無しにする幼馴染だなー」
そよ「さきちゃんがここまで空気読めない幼馴染だったなんて……」
睦「……どうしてこんな幼馴染を持ってしまったのか……」
祥子「じょ、冗談のつもりでしたのに……」
燈「変わったって言えば。立希ちゃんも、出会ったときは今と凄く違かった……」
立希「私? 私は……まぁちょっとだけ今よりキツかったかもだけど」
祥子、そよ、睦「ちょっと~?」
立希「ちょっとって言ったらちょっとだよ! ……それはともかく、私はもともと1人でいることが多かったんだよ。学校でも部活でも人とあんま上手くいかなかったのに、学校も違う連中となんて余計絡み方分かんなかったから」
祥子「思えば立希は出会った当初はもっと真面目臭かったですわね。夏の合宿のように練習練習とばかり言ってましたし。それは振る舞いが分からないが故の堅さだった、ということですのね」
立希「うっさいな。それは私も気づいてたから。夏の合宿じゃ私なりに頑張って歩み寄ろうとしたんだよ」
そよ「ちょくちょく面倒見の良いところは見せてたけど。あれから丸くなっていったもんね」
立希「上から目線でムカつくんだけど」
睦「……でも、あれから立希と絡めるようになった。立希が勇気出してくれたおかげで、私はCRYCHICに馴染めた。……あれは大事な思い出にして、最初のきっかけ」
立希「……まぁな。出会った頃じゃ考えられないくらい睦とは絡むようになったんだ。あのとき変に意地を張らなくて、本当に良かった」
そよ「……私たちお邪魔なんじゃなーい、さきちゃん?」
祥子「その雰囲気がありますわね。2人を見てるとなんだか……妙な興奮を覚えるような……」
立希「おい! 変な邪推すんな!」
睦「……祥はなんか変な扉開こうとしてるし……」
立希「てか変わったっていうなら、一番ホットなのはそよでしょ」
そよ「うっ……。私のはデリケートなんだからあんま触れないでよ~」
睦「……確かに。一番面倒くさかった」
そよ「むつみちゃん? 直球やめてくれない? シンプルに傷つくんだよ?」
睦「……あんな面倒くさいそよ、初めてだったから」
祥子「そうですわね。そよの内心を打ち明けてもらう機会もほとんどなかったんです。貴重な面倒くささですわ」
そよ「あのね……あの悩みは私の中で一番深い問題だったんだけど……」
立希「いいでしょ、そよの弱ってるところなんてレアもレアなんだから。ただ、今度からはあそこまで重くなりすぎる前に話してよ」
そよ「……分かってる。1人で抱えこむより、みんなに話す方がよっぽど良い方向に進むってことは」
睦「……とかいって、あんまりそよは自分から話さそうだけど」
祥子「まぁそのときはこちらから踏むこむだけですわ。それでも曝け出してくれなかったらそれまでということで……」
そよ「話すよ! 今度はちゃんとみんなには話すから、見放すようなこと言わないでよ~!」