CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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対1話後奏 本来の悲劇と奇跡な出来事

 

 

 side そよ

 

おじいさん「……ふぅ。これで、少しは時間が出来たかね」

お父さん「上手くいったようで何よりですね」

 

 さきちゃんが部屋から出て行った後。

 哀愁さえ漂っていた2人の表情は真面目なものに変わっていた。

 

おじいさん「今日みなさんを招いて、祥子に席を外すよう誘導したのは、話を聞いてもらいたかったからなんだ」

立希「話……ですか?」

お母さん「私たちが、どれだけあなたたちに感謝してるか、という話よ」

 

 お母さんは私達に微笑みかける。

 その笑みは優しくも眩しいものを見るように目は細められていて。

 その声には言葉にならない重みを感じて、胸が少しだけ締め付けられた。

 

おじいさん「少々重い話になるが……。本当ならね、今のようにはなってなかったのだと、思うのだよ」

そよ「それって……どういう……」

睦「……」

お母さん「実は私……祥子が高校生になるのを見届けられない、はずだったのよ。お医者様からの話ではね」

燈「……え」

 

 医者からの話でそう覚悟している、ということは。まず命に関わる状態だったはず。

 少々どころじゃない重い話に、さっきまでの緩い雰囲気はどこかに消えてしまっていた。

 そんな空気を嫌ってか、さきちゃんのお父さんがぎこちなく笑う。

 

お父さん「そして今でこそなんとか最低限認めてもらってるが。昔は私も未熟過ぎてね、瑞穂の状態が危うくなればなるほど、どうしてもしっかりできなかった。今思えば、財閥を没落させかねないような人間だったよ」

おじいさん「それは本当に笑い話ではないのだがね。まぁつまり、瑞穂が医者の言う通りになって、それでこの男がさらに不甲斐なくなって切らざる終えなかったかもしれなかったんだ。そうしたら親思いの祥子はきっと……追い出される父の後を追った、だろうな」

睦「……たぶん、そうだと思います。まだCRYCHICに入る前に一度だけ聞いた。もしお母さんに何かあったら、お父さんは私が守る、って」

 

 幼馴染として事情を知っていたらしいむつみちゃんが相槌を打ってくれる。

 人の、それも大事な友達の家族の生死に関わる話に、私は何も言えなかった。

 親の離婚を経験してそれなりに人生経験は同年代よりあると自負していたけど。

 言葉に詰まるくらい動揺するなんて……さきちゃんの大事な話をしてくれてるのに、情けない。

 

お父さん「でもね。そうなるかもしれないくらい追い込まれていた私達家族の状況は、変わったんだ。CRYCHICというバンドができてから」

立希「わ……私たち……ですか?」

お母さん「CRYCHICを結成してからのあの娘は前以上に明るく、充実そうにしてたの。そんな幸せそうな祥子を見てたら、元気をもらってね。不思議な話だけどその元気が少しずつ症状の悪化を弱めて、止めてくれたの。今では無事回復に向かっているわ」

そよ「そ、それじゃ去年会ったときは無理をされて……!」

 

 あのときは少しも気づかなかった。

 そんな状態の人が私たちに会うために、間違いなく無理してただろうに。

 申し訳なさ過ぎて思わず叫んでしまった私に、お母さんが優しくかぶりを振る。

 

お母さん「いいのよ、時間にすると30分程度だったでしょう? その時にはそれくらい無理できるようにもなっていたのだから」

お父さん「どうか気にしないでくれ。本当だったら、去年の時点じゃ立って歩くことすらできないはずだったから」

燈「立つことすら……」

 

 つまり寝たきり状態まで衰弱していたはずだったのだ。それが、私たちが出会っただけで、変わった。

 本当にそんなことがあり得るのだろうか。

 心因的な病気なら分かるけど、生命レベルの話を覆す程に元気をもらった、なんて俄かには信じれないけど。

 そんな私たちの不信は顔に出ていたんだろう。さきちゃんのお母さんが目を伏せながら、もう少しだけ打ち明けてくれた。

 

お母さん「元気、だけでは語弊があるかしら。……死ねなくなったの。貴女達のことを話す祥子は今までで一番楽しそうだったから。自分の道を共に歩んでくれる運命共同体だ、なんて誇らし気に語るあの娘を置いて去るなんて。親としてできるわけない、これからもずっとずっとそんな幸せそうな娘を見守らないと。それこそ死んでも死にきれない、って思ったの」

燈「死んでも、死にきれない……」

おじいさん「医者も容態が変わった原因は未だによく分かってないらしいがね。結局はそこだったんじゃないかと、私達は考えている。だからね、今私達がこうして笑いあえているのは、君たちのおかげと言って過言ではないのだよ」

 

 おじいさんが背筋を伸ばしたかと思うと急に頭を下げ、後に2人も続いて来た。

 さっきのふざけた会話で忘れかけていたけどこの人は財閥のトップ。

 流石に私たちは焦って制止ようとしたけど、切実な思いが滲む言葉に口を挟めなかった。

 

おじいさん「ありがとう。祥子と出会って、一緒にバンドをしてくれて。一家の運命を変えるくらい孫の人生が輝いたのは、きっと君たちが共に歩んでくれたからだろう。財閥の娘として取り入るのではなく、対等な友として、バンド仲間としてぶつかってくれたこと、心よりお礼申しあげる」

お父さん、お母さん「ありがとうございます」

立希「……頭を上げてください」

 

 たきちゃんが財閥の人間を相手にしてるとは思えないほど無遠慮な声で3人を制する。

 怒りすら感じさせる彼女のらしい声に思わずと言った様子で顔をあげるおじいさんたち。

 そんな3人に、たきちゃんは気の強い瞳をぶつけて続けた。

 

立希「お礼をおっしゃいたい気持ちはよく分かりました。でもそれを受け取るわけにはいきません」

 

 それはそうだ。

 さきちゃんとバンド()()()()()ありがとう?

 私たちは、そんなこと言われるような関係じゃない。

 それは当然、みんな分かってることだった。

 

睦「私達は祥のためにバンドしてるわけじゃありません。それぞれがぞれぞれの意思で、一緒にいたいから、バンドしたいからやってます」

そよ「その結果、さきちゃんのお母さんがご快復されたなら本当に喜ばしいことです。でも、好きでやってることなのに恩と思われるのは違うと思います」

おじいさん「し、しかし私達は……私の娘は……」

燈「そ、それにっ!」

 

 さきちゃんのお母さんの命が救われた、と続けたいだろう話をともりちゃんが声を張り上げ遮る。

 いつも弱気なその表情は、これがけは譲れないとばかり確固たる想いを滲ませていた。

 

燈「祥ちゃんに出会えてよかったのは、私たちの方です! 祥ちゃんが引っ張ってくれたから、みんな出逢えました! 私は、初めて居場所と思える人たちに逢えて……救われたのは、私の方です! 命ってほどじゃないですけど、祥ちゃんのおかげで人間にしてもらえたから! その感謝を返せてないのに、逆に感謝されるなんて、認められない、です」

 

 おじいさんたちは呆気にとられたように黙る。

 いや、お母さんだけは目尻に浮かんだ涙を拭いながら席を立ち、ともりちゃんを抱きしめた。

 

お母さん「……良かった。貴女たちも、祥子が大好きなのね。あの娘が思うのと同じくらい、貴女達も祥子を大切に思ってくれて。お互い両想いで、本当に運命共同体で、私は……娘にそんな友達ができたことが、これ以上なく嬉しいわ……」

燈「えへへ……でも、本当に良かったです。さきちゃんのお母さんが無事で、さきちゃんの家族が温かく守られてて……。私が、お礼を言いたい、くらいです」

お父さん「こちらがお礼を言う立場なのにそれは……って、なるほど。こういう気持ちだったわけか」

おじいさん「それなら仕方ないな。だがせめて、君たちのことも祥子と同じくらい大事に思わせてくれ。何と言っても、孫娘の運命共同体なのだからね」

立希「財閥のトップからそんな扱いされるなんて恐れ多いんですが……その言葉を出されると、参ります」

お母さん「改めて、祥子のことこれからもよろしくね?」

そよ「ふふっはい! あっ、無事完治されたときはお祝いさせてください♪」

睦「……ナイスアイディア。流石CRYCHIC自慢の気遣い上手」

燈「えへへ、そのときは私たちの親も呼んでも、いいかも……」

お母さん「親同士の懇親会なんて素敵じゃない! これは一層頑張らないとね♪」

お父さん「ははっ、この勢いはその懇親会を開くのもそう遠くないみたいかな?」

おじいさん「うむ、いつでも予定を空けれるよう常に気を配らないとな……」

立希「また張り切り過ぎて祥子に気持ち悪いって言われないようにしてくださいね」

おじいさん「うっ……忘れていたことを思い出させてくれるね、立希君は……」

 

 困ったような笑みで茶化すたきちゃんにおじいさんが渋い顔で嘆いて、みんな笑った。

 私は少し大げさに笑って目尻を拭った。まるで今笑ったせいで涙が出たように見せかけるために。

 

(良かった。さきちゃんのお母さんが生きててくれて、この温かくて優しい家庭が守られて。さきちゃんが変わらず明るく元気でいられて、本当によかった……)

 

 そんなところで、急に扉がバタンと開かれて焦ったような声が1つ部屋に入って来た。

 

祥子「ちょ、ちょっと! 私抜きで何を楽しそうに盛り上がってますの!? 1人だけ除け者なんて酷いじゃありませんの!」

 

お父さん「いや祥子……」

立希「お前自分から出ていたんじゃん」

お母さん「いえね、私が本当は死ぬはずで、清告さんもクビを切られるくらい落ち込むはずだった、って話をしてて……」

おじいさん「いきなりぶっちゃけ過ぎじゃないかね我が娘よ!」

祥子「って豊川家の重いプライベートを、私のいない間に話したんですの!?」

そよ「え、え~っと……」

睦「……祥のお母さん、口が軽いなんてレベルじゃなかった」

お母さん「それでね、祥子とバンド組んでくれてありがとう、って言ったら間髪入れずに立希ちゃんがね……」

立希「うわぁああ! 祥子のお母さん、ストップ、そっからはこっちが恥ずかしいんで勘弁してください!」

燈「あと、そろそろ離してもらってもいい、ですか……?」

祥子「えーい、戻って早々カオス過ぎますわ! 何をどこまで聞いたか、白状してもらいますから! あとお母様はどうして燈に抱きついてるのですか! それは私の特権ですわよ!」燈に抱きつく

立希「お前の特権でもないだろ! どさくさに紛れて勝手な特権作るな! ほら2人とも……離れて……!」燈から親子を引きはがす

睦「……といった感じでいつもやらせてもろうてます」

お父さん「そ、そう。いつも賑やかなのは、よく分かったよ……」

おじいさん「……ふむ。燈君と立希君と祥子に、何かトライアングルな気配を……」

お父さん「お義父さん。娘周りでいかがわしい妄想は御止めください。キモいです」

おじいさん「キモい言うなこの未熟者!」

 

 なんだか本当に収集つかなくなってきた状況に。

 私はニッコリ諦めてカップの紅茶をすすった。

 そして、さっき勢いで言ってしまったことを後悔する。

 

(あぁ、私が完治祝いなんて言い出したから、親同士で懇親会なんて話が実現されるかもで……。さきちゃんの家族だけでこれなのに、みんな集まったらもっと収集つかなくなるんじゃ……せめて私たちがいないところでやってもらおうかな……)

 

 カップの紅茶は財閥の家に振る舞われるにふさわしい高級茶葉のはずなのに、なぜだか味覚が働いてくれなかった。

 

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