CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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※前書き※
 原作で立希がAfterglowのファンになった時期は『中学の頃』とだけ把握してます。
 なのでCRYCHIC解散以降にファンになった可能性が高いと睨んでいます。中学の頃初めてCRYCHICが集結の日、つぐみを見た顔は『学校で有名なバンドの人だ……』的に見えたので。そこからCRYCHIC解散を経て傷心状態だった時に出会ったからこそ、立希はAfterglowに特別脳を焼かれたのではないでしょうか。
 なので、そこまで傷つくこともなかった存続イフでは、高校に進学した時点でもまだ『名前と噂くらいは知ってる』だけの状態でした。今回は、そこから原作通りファンになるお話です。


光と影と、真っ赤な夕焼け
1番 初めてのライブオファーとAfterglowとの共演


 ※ ※ ※

 

 1人の女の子がいました。凄いお姉ちゃんを持つ、平凡な女の子です。

 そのお姉ちゃんがどれくらい凄いかというと。女の子が誰からも妹として見られるほどでした。

 それが嫌で。女の子は姉を避けるようになりました。疎ましい周囲も遠ざけました。自然、一匹狼の如く振る舞うようになった女の子は……ある日、姉を縁にして引き寄せられた流れ星みたいな子によって、バンドという運命に巻き込まれます。

 嫌なら突き放せばよかったはずです。けれど女の子はそうしなかった。自分を救ってくれた詞の天才に出逢ったから。できることなら自分が隣で支え、導きたかったぐらいでしょう。しかしその役目は、音楽的能力からリーダーシップまで、何もかも()()な流れ星子ちゃんが完璧に果たしていたから。それを認めつつも、女の子は面白くありませんでした。姉に向けるような複雑感情を、対等な仲間というラベルで包み隠しながら、女の子はドラムを叩きます。

 いつか全てが報われることを信じながら、いつか全てに認められることを夢見て。自分に厳しく、ついでにバンドメンバー(1人除く)にも厳しく。決して浮かれることなく、決して諦観に沈むことなく。自分を蝕む何かを叩き壊そうとスティックを握り込み、振るい続けました。

 そんな精進が実を結んだのか、転機が訪れました。高校生に進学したばかりの頃、バンドが初めてライブのオファーを頂いたのです。中学時代の学校で有名だったバンドも一緒という意味では、程度も低くない舞台です。

 

 それが女の子には——たきちゃんには。1年前の自分とはもう違うのだと、頬も気も緩ませるのには十分な、夜明けの兆しに見えたんだろうね。

 

 光に意味を見出すのは、いつだってその人の心次第。ライブオファーの栄光も、有名バンドや姉の威光も、太陽みたいに眩しいリーダーの優秀さも。月明かりみたいな穏やかな微笑みがもたらす優しさも、な。

 そして、全てを緋色に染め上げる夕焼けのような、鮮烈で熱い音楽の輝きも。

 

 

 ※ ※ ※

 

 立希side

 

「——はい、OKでーす! リハはこれで完了なので、本番もよろしくおねがいしまーす」

「ありがとうございます。こちらこそ、宜しくお願い致しますわ」

 

 初めて立つライブステージの上で、綺麗な声したヤツが代表してPAさんに挨拶する。私は天井ライトを反射させるドラムセットから離れて暗いステージ袖に引っ込んだところで、密かに息をつく。こちらのプレイに運営側の反応は悪くなかったから、見込み違いには思われなかったはず。リハがバンドの実力を見極めるものじゃないことぐらい頭では分かってるのに、心の底から安堵を覚えていた。それくらい気負っていたのが、少し情けない。

 

(……いや。高校に上がって初めてのライブってのもあるし。良いスタートにしたいんだから、意気込んで当然だよな)

 

 自分でしょげて自分で擁護する謎な心境の私に、左後ろからトトトっと早足の音が近づいてくる。そして、相変わらずの笑声で見透かしたようなことを言ってきた。

 

「たきちゃん、緊張してたー?」

「は? してないし」

 

 そよはニコニコ笑いながら「ホントかなー?」なんて揶揄ってくる。高校生になっても性懲りもなくお姉さんぶりやがって。()()してないんだから、無視でよし。

 けど、バンド一揶揄うのが好きなやつが、私の右後ろへ音もなく忍び寄って覗き込んできやがる。案の定、ソプラノボイスは意地悪くニヤついてるし。

 

「……嘘。ドラム、もたつきかかってた」

「かかってた、でしょ。緊張してたら持ち直せてない」

 

 今度の「ホントかなー?」は睦が加わったことでハモってやがるから、ムカつき度が2倍、いや20倍だ。これ見よがしに溜息ついて流す。無視だ無視。オール無視。

 

「私は、緊張した……。今回って、いつもと違って、呼んでもらった、んだよね? それに見合うよう、歌わなきゃ……」

 

 前言撤回。背中からおずおず聴こえる、か弱いフェアリーボイスだけは最優先でフォローしなければ。ていうか、こう思うのが普通なんだよ。おふざけお嬢様共がおかしい。

 180度体の向きを変えて顔を合わせ、後ろ歩きしながらさっきまでと声色を変える。

 

「燈は緊張しても本番で失敗したことないんだから。今日も自信持って歌えば、絶対大丈夫」

「そういう立希は相も変わらず燈にだけ優しいんですから。高校生になったことですし、その気遣いを(わたくし)達にも向けてはいかが?」

「高校生になっても変わらずふざけ倒すお前らに向ける優しさは持ち合わせてないんだよ」

 

 一番気を遣う気にならないやつが最後列から会話に混ざってきたので、クルッと背を向けて前向きにライブハウスの通路を歩く。まったく、去年から散々祥子(お前)の我侭聞いてきたってのに、良く言えるな。

 こいつが作曲家としてもリーダーとしても、確かな才能を持つヤツじゃなかったらな。

 ……どうだっていうんだろう。胸にわだかまった何かを、言語化できない。

 

(……まぁいいや。今日のライブで、私も1年前とは違うって証明できるわけだし)

 

 ライブの評判を認められて、オファーが来たんだ。その辺のバンドと一線を画したのは、間違いない。つまり昔の、何者でもない私じゃないってことでしょ? 昔の連中に教えてやりたい気分だ。そんなダサイことしないけど。

 ウズウズした気持ちをすまし顔で鎮めてると、後ろ4人がお喋りを続けていた。

 

祥子「1年経っても素っ気ない立希はさておき! ライブ、楽しみですわよねー!」

そよ「初めてライブするステージだし、ファンが増えるといいよね」

睦「……しかも、高校生になって初めてのライブ」

燈「なんだか、初ライブを思い出す、かな」

立希「初ライブか……なら今日も大成功にしないとね」

祥子「もちろんですわっ!」

 

 元気で力強い返しに、他の3人も笑顔を見せる。これが、1年付き合ってきた仲間共。私が運命を共同させられた、CRYCHICっていうバンド。……溜息が尽きない連中だけど、まぁ……いいや。

 やれやれって苦笑しながら歩いていたら、楽屋が見えてきた。

 と、そこで前方からやってきた5人組の1人から、声をかけられる。

 

「あれ……もしかして、ウチの喫茶店に良く来てくれる子たち、だよね?」

祥子「貴女は……羽沢珈琲店の、店員さん?」

 

 さっぱりしたショートの茶髪に人懐っこい笑顔なこの人は見覚えがあった。でも身に纏っているロック風な衣装で印象が変わっていたから、後ろからひょっこり顔を出してきた祥子が尋ねるまで気づかなかった。バンド結成後も寄っていた喫茶店で働いてるこの人は、私の中学校でも有名だったグループの1人。そうか、この人たちが——

 

「私たちも、Afterglowっていう名前でバンドやってるんだ。今日はよろしくね」

 

 ライブは聴いたことなかったけど、尾ひれついてそうな噂は聞いていた。高等部の噂が中等部の教室にまで流れては憧れとして騒がれている様子を、あの頃の私は1人冷めた心地で眺めていたっけ。注目度的には、少なくとも私達じゃ及びもしないバンドと認識してたんだけど。そんな人達と共演するまできてたのか、私。雲の上の存在だと思っていたら、気付いたらそこまで浮かび上がっていた感じがする。

 何となく浮ついた気分の自覚があったから、それを悟られないよう小さく咳払いして挨拶しかけたとき。向こうの人に、割り込まれてしまった。

 

「つぐ、この子たち羽沢珈琲店の常連なの? それじゃあ贔屓してくれてるお礼に、私たちが先輩としてフォローしなきゃだよね。暇だったらお喋りしようよ!」

「ひーちゃん、最上級生になったからって、早速後輩相手にヒマってるー」

「まぁいいんじゃないか、モカ。アタシたちも始めは緊張しただろ? そういうとき話し相手になってもらったらさ、心強いじゃん」

「巴、あたしたちはそうでも、向こうも同じかどうか分かんないでしょ。迷惑かもしれないし」

「蘭ひどーい! 迷惑なんて思ってないよね? ね?」

 

 口々に交わされるやりとりから、ピンクブロンドな髪の人にサドンパスされた先頭の私は「えっと……」と口ごもってしまう。こういう場面が得意なやつにスルーパスしようと、後ろを向く。

 すると、そいつが外面スマイルで「わぁー、嬉しいなー」なんて無難なこと言うもんだから。向こうも「ほらー、喜んでくれてるよ!」「うーん、そーみたいだねー」「それじゃあ、私たちの楽屋に案内しよっか」なんて話が進んでいく。

 ぶっちゃけ要らないお世話だったけど。私も今や高校生で、こっちは後輩。社交性ってやつを発揮すべき年でもあるか。こんなこと普段は思いつきもしないんだけど、今は機嫌がすこぶる良かった。向こうの先輩ごっこに付き合ってやってもいいか、なんて不遜なこと考えるくらい。

 一応、そよ以外の3人も様子見とく。苦笑いだったり戸惑ったりしてるものの、明らかに反対なヤツはなし、と。ならいいか。私は先輩5人組へと向き直って、提案する。

 

立希「あの。私達の楽屋、丁度目の前なんで。よかったら、入りますか?」

 

 珍しく人付き合いに主体的な私の発言。……なんか、首の裏に妙な視線が4本刺さってる気がする。

 確かにこんなこと言い出すタイプじゃないって、私ですら思うけどさ。いいでしょ別に。私はもう前とは違うんだよ。

 快く承諾してくる先輩たちを招き入れようと、私は楽屋の扉を意気揚々と開け放った。

 

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