ライブがあった日の、次の日。
睦の家に集まった私達は、地下のスタジオで練習しようってところで。
始める前に、私はキーボードを準備していた祥子に歩み寄る。
立希「祥子。頼みがあるんだけど」
祥子「頼み? 何ですの?」
私から改まってこう切り出すのも珍しいので、祥子はキョトン顔を向けて来る。
私は、密かに緊張というか、ドキドキしながらも、意を決して言った。
立希「これから曲作るとき、さ。編曲として……私も混ぜてくれない?」
祥子「編曲、ですか? 立希が?」
立希「……そう」
今までメロディからベースライン、コード進行なども含めて。ほとんど全部祥子任せだった。
私達はできあがったものを、経験則からちょっとアレンジしたりする程度。
でもそのほとんど完成した状態からじゃなくて、作成段階から絡んで、意見を交換したかった。
立希「DTM、勉強することにした。今はまだ学び始めだから、ほとんど力になれないだろうけど。そのうち、お前のアイディアを広げたり新しい視点が見つけられる手助けに、なると思う。いや、なるよ。必ず」
祥子「立希……。昨日言ってた答えというのは、そういうことですの?」
立希「ごめん。お前が凄いやつだって認めてた。それでもあんなことほざいたのは、燈の詞を完璧に活かす曲が作れる祥子が、羨ましかったからなんだよ。お前みたいに、良い曲が作れる人間に、憧れてた」
祥子「貴女、私をそこまで……」
立希「もう二度とあんな風にお前を傷つけない。そのために、お前の才能に向き合う。向き合って、追って……いつか、追い抜いてやる」
私は意識して、これ以上なく不敵に笑った。今の言葉にふさわしい自分を目指すために、精一杯見栄を張って退路を断った。
私は音楽が好きだ。だから、お姉ちゃん絡みで嫌な思いしても、やめなかった。
なら、本気で学んでみよう。目標は、今言った言葉を現実にすること。それが一番の償いにもなるから。
なぜなら、こいつは。豊川祥子って女は……。
祥子「嬉しいですわっ! そんなこと言って貰えたの、初めてです!」
やっぱりな。目に痛いくらい顔を輝かせて、私の両手を握ってきやがる。少しも脅威に感じてないところが面白くなくて(当たり前だな、分かってるよ!)、私はフンと鼻をならして丁寧に祥子の両手を解く。
しょっちゅう楽しいことしたがって、はっちゃけて、無気になって、いつだって全身全霊で生きてて。
そんなやつが、全力でぶつかり合うような、対等な相手を望まないはずがない。って予想してたんだけど……読みやすくて単純なヤツ。
ちなみに、迷惑かけたのはこいつたけじゃないので、きちんとみんなの前で宣言した。よって、絡まれるのも覚悟の上。
そよ「さきちゃん相手に大きく出たねー」
睦「……しかも、今からDTM勉強しようって初心者が。小さい頃から音楽の英才教育受けてきた令嬢相手に、無謀過ぎる」
立希「なぁ睦。昨日言ってくれたのって、夢だった? 別人みたいに辛辣なんだけど?」
燈「ふふっ、でもあのとき、いつの間にか睦ちゃんだけいなくなってたから、たぶん睦ちゃんが一番立希ちゃんを——」
睦「——それはそれとして。祥に酷いこと言った立希には、何か罰があるべき」
そよ「……ふふっ。むつみちゃんナイスアイディア!」
立希「うっ……」
いっつも振り回してくるこいつらが罰なんていうと、いつも以上に嫌な予感に襲われるけど。
仕方ない。それだけのことやらかしたんだ。甘んじて覚悟するか。
燈「罰……祥ちゃんの言う事、なんでも聞く、とか?」
睦「……ん? 燈、今何でもって……」
立希「燈にきったないネットミームで絡むな。まぁ、反論の余地1ミリもないし? 聞いてやってもいいけど?」
祥子「なぜ貴女が偉そうな態度取れるんですの……。何でも、ですか……あっ!」
立希「な、なに……何でもって、一般庶民の尺度での話だからな? 大財閥規模の何でもやめろよ?」
流石に怖くて釘を刺してしまう。いやだって、一生こいつの家でただ働きの召使だの、一生遊びの提案を拒否するなだの、そんなの言われたら身がもたないし。
対して祥子は、落ち着いた微笑で返してくる。
祥子「ご心配なく。身分関係なく、みんなに叶えてもらえる話ですわ!」
そよ「よかったねーたきちゃん。……うん?」
睦「……みんな?」
祥子「もうすぐGWですわよね? その連休中全部遊び倒したいですわ! バンド練習もなしで!」
立希「は、はぁ!? 3,4日間丸々お前に付き合えって!? 体力バカのお前に、この私が!?」
一生じゃなくて良かったー、なんて安心できるか。こいつの『遊び倒したい』は『1日中疲れるまで駆け回りたい』と同義なんだ。貴重な連休が疲労の日々で埋まってしまう。
祥子「ちょいちょい失礼な。それに貴女に拒否権ございませんわ~。そういう話ですもんね、燈?」
燈「う、うん。えっと……2人で遊び倒すの?」
そうはいかないな。そよや睦が口挟む前に、祥子お望みの展開に引きずりこんでやる。
まぁ、のほほんとした顔でのほほんと訊く燈は、マジで何も考えてないんだろうけど。
立希「何言ってんの燈。私達は祥子リーダーお嬢様に振り回される、運命共同体でしょ? 仲間外れになんてしないよ」
祥子「勿論そのつもりですが」
そよ「い、いやー。2人のデートをお邪魔するのも忍びないかなー、って……」
睦「……連休はゴロゴロする予定で埋まってる」
こいつらもインドア派だから御免被りたいよなー。でも祥子がそのつもりって言った以上逃げられないし、逃がすつもりもないだよなー。
立希「それは予定がないってことだし、デートじゃないから忍ぶ必要なし! よかったな、祥子。5人で遊び倒せるよ?」
祥子「最初からそのつもりですが。楽しみにしてくださいまし♪」
燈「祥ちゃんに、連休中ずっと、連れ回される……」
事ここに至って、ようやく想像が回ったか、燈。そういうことだよ、今年のGWは一緒に覚悟しておこうな。
そよ「うぅ……今年のGWは疲れ果てたまま終わるんだ……あくどいたきちゃんが道連れにしてきたせいで……」
睦「……立希の裏切者め……」
立希「お前らが罰なんて言い出したんでしょ」
祥子「なんでもいいですわ! あと、私が行きたいところを選んでいいんですのよね! 楽しみですわ、どこにしましょう……はっ、念のためジェット機を準備しておく必要も……」
立希「まてまてまてまて! 都内だったらいくらでも付き合ってやるから! その範囲に収めろ! いや収めてください!」
睦「……加減を知らない幼馴染は大変」
そよ「むつみちゃんが教育しておかないからー」
睦「……昔はここまでやんちゃじゃないし、私は祥に引っ張られる役だったから」
燈「私は、人混みに慣れる修行、しようかな。どこでもついていけるように」
祥子「ともり~! なんて健気可愛いんですの~!」
立希「えぇーい! 燈にベタベタくっつくのまで許してないかんな! 離れろ、この……!」
やかましい騒ぎの中。私は祥子の小奇麗な顔面を手荒に押しのけようと格闘しながら思った。
これからも、こんな風にバカしたり、時にはぶつかったりしながら、こいつらとバンドしていくんだろう。
まだなりたい自分を具体的に見つけたわけじゃない。お姉ちゃんのことだって、ほとんど整理できてない。
それでも。椎名真希の妹としてじゃなく。椎名立希として。胸張って『私らしく』在れるように。焦らず心に問いかけて、踏み出したい1歩を選んだ。どこに辿り着くか分かんないけど。この胸に宿る光と熱と……5人で洗練していく音楽を頼りに、進んで行くか。
……こいつらに振り回されるのが、今の『私らしさ』なんだろうか。しょっぱい涙が出そうになりながらも、『悪くない』って思っちゃうんだから。まだまだ『カッコ悪い』人生歩むことになりそうだ。