立希「ねぇ。どんだけガチャガチャあるの? フロア埋め尽くすくらいあるじゃん。ガチャガチャと通路しかないよ?」
そよ「いや、私も詳しくないけど。数えきれないくらいあるね~」
睦「……概算した。信じがたいけど、たぶん1000種類くらいある」
燈「せ、せん……?」
祥子「そんなに用意するなんて……専門店という肩書に偽りはなさそうですわね」
それほどの品揃えだからなのか、小中学生からカップル、家族と幅広い年齢の男女を見かけた。私たちを同じくらいの女の子もいたからなんとなく安心する。
人1人分くらいしかない狭い通路でガチャガチャを回す人を半身になりながら避けて通ること数回。
私はそんな環境で自分達が5人1列になっていることを客観的に捉える。周りが迷惑してそうだった。
そよ「5人で固まってると邪魔になりそうだから、各々好きに回ろう」
4人「了解」
こうして私たちは別れることにした。といっても、1人にバラけることはなかった。
さきちゃんとともりちゃん、たきちゃんとむつみちゃんの2人組で回ってるみたい。私はなんとなくたきむつペアについて行った。
睦「……ねぇ立希、見て」
立希「おっパンダのガチャガチャ! ……でも絶妙にブサイク……」
睦「(ガチャリガチャリ……)あ、青が出た。今日の記念に、これをあげよう」
立希「ブサイクパンダのポーチ……しかも目まで真っ青なパンダ……びみょう……」
睦「……うん。パンダ好きの立希のために良いことしたから、気分が良い。こんないい子の私には、報いがあって然るべき」
立希「……お前、まさか自分から勝手に押し付けといてお返し要求してんの? 面の皮どんだけ分厚いの?」
睦「……そっか。立希は義理堅くて格好良い女性だと思ってたけど。私の過大評価だったんだ」
立希「べ、別に私そんなできた人間じゃないし……」
睦「……そうだよね。立希って同じレベルのお返しできるほど私のこと知らないもんね。そもそも興味ないよね、どうでもいいもんね」
立希「ちょっと、言い方に悪意あり過ぎ。……いいよ、上等じゃん。お前が絶妙にがっかりしつつまぁもらってやるか、って思えるガチャガチャ見つけて押し付けてやる」
睦「……そうこなくっちゃ」
無理やり意地悪そうに笑うたきちゃんに対し、ニヤリと返すむつみちゃん。面白そうだから、周りに気を付けながら2人の行く末を見守った。
あれでもない、これでもないとうろつくたきちゃんは、やがてピタッと止まる。
立希「おっ、これは良い塩梅!」
睦「……どれどれ? こ、これは……」
立希「これ、アニメでやってるやつでしょ? しかもネットでもよく使いまわされてるから睦も馴染みあるんじゃない? ほら、『なんとかなれ~ッ!』とか」
睦「……そういう有名なシーンをガチャガチャにしてたら面白かったからよかったのに。こんな棒立ち、つまんない」
立希「どうせそんなひねくれたこと言うと思った。ほら見ろ絶妙なライン! ガチャガチャっと……おっ、噂をすればハチワレだ」
睦「……なんか……普通。こんなのつけてたら、私ただのちいかわ好きだよ」
立希「でも『なんとかなれ~ッ』ごっこできるでしょ。どうよ、受け取れなくもないでしょ」
宣言通り、絶妙にがっかりしつつまぁもらってやるか、というテーマに合ったものを選べたらしく勝気に笑うたきちゃん。
それは正解みたいで、終始むつみちゃんは納得行かなそうな顔でジトーっと見つめていた。
そのうちふっと嘆息して肩を落とした彼女は、それでも嬉しそうに微笑んだ。
睦「……認めるよ。立希は私のことよく理解してくれてる。私のこと大好きなんだって」
立希「そこまで認めろなんて誰も言ってないでしょ!」
睦「……照れない照れない」
立希「照れてないからッ!」
笑顔から一転怒り顔でギャーギャー騒ぐたきちゃんと、いつもの無表情が嘘みたいに柔らかく笑うむつみちゃん。
私は2人のこういうやりとりが好きだから、今日の記念にって言い訳しながらひっそり撮っておくのだった。あとでむつみちゃんに送ってあげよう。たきちゃんは煩そうなので内緒。
プンプンとむつみちゃんから離れて行くたきちゃんに、近づく少女がいた。
燈「立希ちゃん、ついてきて」
立希「燈? どうかした?」
言われるがままについていくたきちゃん、を追う私。
すると目的地についてともりちゃんは、ガチャガチャを回す。
燈「あっ、傘被ったカッコイイパンダ出たっ」
立希「へー、ここにもパンダのガチャガチャあったんだ」
燈「はい、立希ちゃん。よかったら、もらってくれる?」
立希「えっ、燈から!? この私に!? プレゼント!?」
そんな大層なものじゃないと思うけど。
と、口にしたら「幸せの邪魔すんな!」ってギロッと睨まれる予感がしたので、飲み込む。
燈「パンダが好きで、凛々しい立希ちゃんのかっこよさに合ってるかな、って」
立希「ありがとう、燈……。一生大事にする!」
むつみちゃんのときは1ミリも見せなかった、素直な喜びの表情。
私はこれもたきちゃんらしいか、と呆れながら見守った。
しかしこの話はこれで終わらなかった。彼女はエントリー№2だったのだ。
燈「えっと……ね……」
立希「?」
燈「む、睦ちゃんは確か……良いことした私には、それなりの報いがあって、なんとか、って……」
立希「あ、あぁ……お返しね。ていうか、さっきの私達見てたんだ」
燈「うん。なんか、こんなにいっぱいある中から探して渡し合うの、いいなって思ったから」
立希「燈……。うん、私も燈が最高に喜ぶガチャガチャ、見つけてみせるから。待ってて!」
燈「ありがと、立希ちゃん……」
それからたきちゃんは通行人を吹き飛ばしかねない勢いでフロアを回り出した。私は見かねて落ち着かせようとしたけど、血走った目で「燈が気に入るもの、燈が気に入るもの……」とブツブツ言ってるのが怖くて、スゥーっと無関係の人を装う方針へシフトチェンジしてしまった。
と、いうことで。私は限界化したたきちゃんを見なかったことにして、ともりちゃんに合流する。「たきちゃん何選ぶだろうねー」「うん、楽しみ」とほのぼのお喋りしてると、ドドドドドドッという音が近づいて来た。
立希「燈ッ! 見つけてきたよ!」
燈「う、うん……」
そよ「たきちゃん、流石に落ち着きなって。勢い強すぎてともりちゃん引いてるよ」
立希「べ、別に私は落ち着いてるし。さ、燈。こっち」
ズンズンと歩き出した彼女にともりちゃんと私はついていく。
ともりちゃんと言えば? 石や絆創膏やノートが好きだけど。
実はちゃんと、普通のものだって好きなのだ。例えば……
立希「見て、ペンギンのガチャガチャ。しかも歩くし、羽だって動く!」
燈「すごい! 可愛い!」
立希「良かった、喜んでくれてるみたい。今から回すから、見てて」
燈「う、うん……!」
チャリンチャリン。コインを入れながら、たきちゃんは再びともりちゃんの方を向く。
立希「ちなみに、どのペンギンがいい?」
燈「この中なら、コウテイペンギン、かな? あ、でも私1回しか回してないから、立希ちゃんも1回で……」
立希「分かった。一発でコウテイペンギン当てる」
無茶なことを大真面目に宣うたきちゃん。その証拠に、彼女は深呼吸して精神統一していた。レバー回すだけのことに。
立希「コウテイペンギン……来いッ!」
そういえば。物欲センサーっていうのがあるんだっけ。そんな言葉が、ふと頭に思い浮かぶ。
端的に言うと、欲しいと思ったものほどなかなか出ない、という迷信めいた言説のことだ。私はスマホゲームだのくじだの、まさしくガチャというものに手を出してこなかったから縁がなかったのだけど。
熱心に期待して、見事に空振り膝をつく情けない姿を見てると、本当にあるかもと思ってしまうのだった。
立希「くっ……外した……いや、確率は4分の1のはず。次こそは……!」
燈「た、立希ちゃんっ! アデリーペンギンも可愛いから、大丈夫だよっ」
立希「ぐっ……ごめん、燈……。私の運がなかったばかりに……」
未練がましくペンギンのガチャガチャを見つめるたきちゃんは本気で悔しがってそうだった。
そんなたきちゃんを励ますためか、ともりちゃんは受け取ったカプセルをその場で開けて、ペンギンのゼンマイを巻いた。
羽をパタパタ動かすペンギンを顔の前まで上げて、裏声を上げる。
トモリペンギン「タキチャン。ボクを引き当ててくれて、アリガトウ!」
立希「燈……お前ってやつはホント……!」
燈「わっ、立希ちゃんっ!」
感極まったたきちゃんに抱きつかれるともりちゃん。たきちゃんがここまで大胆になるのも珍しいので、ここも写真に撮っておいた。これは折を見てグループトークに張り付けよう。
さて。この後の展開を予想して、たきちゃんについてるとエントリー№3のお嬢様がやってきた。
祥子「た~きっ! き~てく~ださい♪」
立希「……祥子、お前もか」
祥子「人が楽し気にしてるのに溜息混じりとはなんですの!」
彼女の呼びかけとテンションで全てを察したたきちゃんは、それでもさきちゃんについていく。道中キョロキョロと周りのガチャガチャを物色しながら。
祥子「立希は見た目に反して可愛らしいものが好きですからね。キュートに寄ったこれなんていいのではないか、と」
立希「まぁ……一言余計だけど、チョイスは悪くない」
祥子「それで、ですね……立希?」
立希「分かった分かった。小銭ある?」
祥子「少々お待ちを……」
それからたきちゃんはさきちゃんにガチャガチャのやり方を丁寧に教えてあげる。さきちゃんはぎこちない手つきで倣った。
祥子「な、なるほど! レバーを回すときガチャガチャいうから、ガチャガチャなんですのね!」
立希「ガチャガチャうるさいよ」
祥子「あっ、立希に一番渡したかったまったりパンダさんですわ!」
立希「可愛いからいいけど、なんでそれ?」
祥子「貴女は基本何かに追われように生真面目で堅いですから。このパンダのように緊張の糸を緩めて欲しい、という願いを込めてですわ」
立希「……大きなお世話だよ。そこまで無理してるわけじゃないから、心配すんな」
祥子「そうですか。それでですね……」
立希「祥子。こっち」
祥子「えっ?」
モジモジ手を合わせるさきちゃんにたきちゃんは顎をしゃくる。
彼女も3回目なのだ。お返しを察してるのは私も分かってた。
でもまさかどれにするかまで既に決めてるとは思ってなかった。あぁ、さきちゃんについてく途中キョロキョロしてたのはこのためかな。
立希「祥子はコレ。カブトムシ好きって、去年の夏合宿で言ってたでしょ」
祥子「お、覚えてましたのね……というか私まだお返しのこと言ってないのに……」
立希「お前の前に2人もいたんだから流石にバレバレだよっ! じゃ、前2人と同じで一発勝負ね」
祥子「あぁ、待ってくださいまし! せめてどれが当たって欲しいか願わせてくださいっ」
さきちゃんの呼び止めも容赦なく無視してガチャガチャ回すたきちゃん。
出てきたのをズイッと突き出した。
立希「ジャワ島? のコーカサスだって。悪くないんじゃない?」
祥子「えぇ! 見た目的にこれがよかったですわ! ありがとうございます、立希!」
立希「……ガチャガチャは完全に運だって分かるでしょ」
真っすぐ好意的な笑顔を向けられ、フイッとそっぽ向くたきちゃん。顔を見られないようにしても無駄だよ、だって赤くなってる耳までは隠せないんだから。
当然シャッターチャンスは逃さない。これもグループトークにあげちゃお。珍しくさきちゃんに完敗なたきちゃんを堪能してホクホクな私だった。