さて。この流れで私だけエントリーしないなんて、ノリの悪い人間じゃない。
パンダでしかも目印として実用性のあるガチャガチャを見繕った私は、たきちゃんを引っ張って来て、ガチャガチャ回した。
立希「なんで私だけこんなことに付き合わされるの……」
そよ「いいでしょ、たまには。はい、つかまりパンダ。この中じゃ可愛いほうじゃない?」
立希「……まぁ、確かに?」
そよ「それじゃ、お願いね♪」
立希「……」
そよ「たきちゃん?」
立希「分かった、分かったから……ちょっと待ってて」
そよ「ヒマだからついてくねー」
立希「す、好きにすれば?」
妙に落ち着かなくなったたきちゃんを訝しみながらもついていく。
ウロウロウロウロ。他3人と比べても明らかに時間がかかってたのに、全然決まる気配がしなかった。
ついに唸ったまま、座れるところで動かなくなったたきちゃんに、痺れを切らした私は声をかける。
そよ「たきちゃん? どうして私だけ全然決まらないの?」
立希「いやだって。お前好み分かりにくいんだもん。紅茶関連のガチャガチャなんてないだろうし」
普通言いにくいだろうに、あっさり白状したたきちゃんが色んな意味で薄情で私はたまらず無気になってしまった。
そよ「何かあるでしょ! 私だけ距離あるみたいで嫌だよ!」
立希「そんなこと言ったって……ねぇ?」
たきちゃんはいつの間にか近くに来ていたむつみちゃんたち3人に話を振る。
ちなみにここは休憩所みたいなスペースなのか、5人固まっても大丈夫な広さだった。
睦「……」
祥子「そ、そよはですね〜……」
燈「え、えっと……」
なんと。誰一人たきちゃんを糾弾してはくれなかった。それどころか肩持ってない? 嘘、みんな私の好み分かんないの?
ヒドイ。なりふり構わずいじけたくなるくらい、みんな薄情だ。
そよ「……そっか。みんな私のことなんて興味ないよね……」
睦「……そよ。それさっき私が言ったやつだけど。冗談だから許されるジョークで……」
そよ「ジョークじゃないもん。ジョークになってないもん」
立希「だ、だからそう拗ねるなって!」
睦「……こうなったら、選ぶしかない」
祥子「そうですわ! せっかくだから、そよが喜びそうなもの選手権しましょ!」
立希、睦「乗った!」
燈「が、頑張る!」
なんとか私の機嫌を直そうと盛り上がる4人。それすら疎外感を感じて寂しくなる一方だった。
私はその熱気をシラーッとジト目で見つめて、水を差すことでいくらか溜飲を下げる。
そよ「……じゃ、1番ナイの選んできた人が罰ゲームで全負担ね」
立希、睦、祥子「何気に罰が重い! 流石重そうな女!」
そよ「要らないこと言ってないで、とっとと選んできなさーい!」
3人「は、はいはい……行きますよ……」
「はいは1回!」「はーい!」「そ、そよちゃん。行ってきます……」「気を付けてね!」
こうして私は一人イスに座ってイライラとスマホを弄る。SNSを眺めて気を紛らわそうとしたけど、むしろ虚しさが増す一方だった。
許してあげるから早くみんな戻ってこないかなと、碌に画面を見ずスクロールしていたのだった。
待つこと2、30分。示し合わせたかのようにみんな同じタイミングでそろりそろりと戻ってきた。
待ちくたびれた私はほとんど外面を外しかけていた。
そよ「時間かかり過ぎじゃない? そんなに私向けって難しい? ねぇ、みんな実は私のことホントに興味ないんじゃない?」
祥子「そ、そよ貴女……いつもの優しい口調が欠片も見受けられないんですが……そんな仏頂面、まるで立希みたいですわよ?」
そよ「みんなには偽善やめるって言ったでしょ。これが今の偽らざる本心だよ」
立希「そんな事言いつつお姉さんキャラはやめなかったくせに……」
そよ「何か言ったかな、たきちゃん」
立希「べ、別に……」
睦「……それより姉御。そろそろ献上品の方を検めて頂きたいのですが……」
睦「変な小芝居やめて。……さぁて、たきちゃんから行こうかな? ちゃんと私に合うものとして何を選んでくれたのかな〜、楽しみだな〜♪」
思いっきり作り笑顔を向けてあげる。本当に楽しみだな、もしふざけたのだったらどうお仕置きしようか考えるだけで愉しくなってくるよ。
立希「なんで私からなのか分からんけど……とっとと楽になるから悪く無いか。はい、これ」
ズイッと差し出されたカプセルを開いてみると、そこには可愛い色合いのパンダがいた。名前をみると、ベビーぱんだ桜カステラ。……なぜカステラなのかは、ひとまず置いといて。
ふむ……一見悪くはなさそうだけど、これはあれかな?
そよ「好みが分からないから、自分の好みに逃げた?」
立希「まぁ聞いて。そよは結構見栄え気にするでしょ? 学校の人とかに見られても恥ずかしくないような、あわよくば会話のきっかけになったり持ってるだけで良い印象持たれそうなものが、ストラップとして好ましい」
そよ「うん、そうだね」
完璧にその通りなので、とりあえず話を静聴することにする。
立希「その点このパンダは最高だと思う。桜を思わせる可愛いピンク、女子高生がつけててもおかしくない可愛い動物。なんでカステラなのかは私も分からんけど、そこもまた会話のきっかけとしていいツッコミどころだし」
そよ「うーん……まぁ、確かに。つけれるかつけれないかなら、つけれるかな?」
立希「そもそもそよってクオリティ低いガチャガチャストラップつけるタイプでもないでしょ。それでも敢えてつけるなら、ってラインならこんなところ。どう?」
そよ「まぁ、私が人からどう見られるかまで考えて選んだ品としては、文句ないよ。ちゃんと考えてくれてありがと、たきちゃん♪」
立希「はぁ……やっぱりお前は、今みたいに愛想笑いでも笑ってた方が気楽でいいよ……」
深いため息と共に安堵の表情になったたきちゃん。
私も感じ悪い顔してるよりかは笑っていたいけど、たまには素の私も受け入れて欲しいとも思うからちょっとだけ複雑だった。
まぁ照れ隠しで言っただけのセリフだろうから許すけど。
そよ「じゃ、次はともりちゃんね」
燈「う、うん。私からは、これ……」
ともりちゃんからおすおずと渡されたカプセルには、黄色のマフラーをしたうさぎが入っていた。
そよ「このうさぎ、柔らかくて触り心地いいね。マシュマロみたい」
燈「それだけじゃなくてね。においもするんだって。嗅いでみて?」
そよ「……ホントだ、バニラっぽい匂いがする!」
燈「ハニーバニラって書いてあった。どんなのか、分からないけど……。てもそれを選んだ1番の理由はね、その子の名前」
そよ「この子、なんで言うの?」
燈「陽だまりのuniって、書いてあった。そよちゃん、春日影好きでしょ?」
それこそ木漏れ日みたいにささやかな笑顔でともりちゃんが言う。この子は私の機嫌を直そうとか、私に許されようとか、そういう打算一切なしに選んだんだろうな。
裏表のないともりちゃんらしいチョイスだったけど。いつもいつもこれで許されちゃうのもなんか癪だな、と思って。
燈「そ、そよちゃんどうしてほっぺつまむの? もしかして、嫌だった……?」
そよ「ううん、気に入ったよ。鞄につけてもいいと思った。それはそれとして、ね」
祥子「分かりますわ。燈だからこそ許されますけど、毎度毎度それで押し通されそうと思ったら何か納得いきませんわねよね」
睦「……燈。純粋だからいつもいつも許されると思ったら、大間違い。……結局許しちゃうと思うけど」
立希「だよな〜。だからこそやっぱズルいよな。ってことで」
燈「あ、あのみんな……優しくだからいいけど、みんなしてほっぺつままれるのは、ちょっと……どこがダメだったの?」
本気で心当たりなくあたふたしてる彼女にこれ以上言ってもしょうがないし、変に変えて欲しくもない。
だから私たちはしばらくともりちゃんのほっぺをむにむにするだけで納めることにしたのだった。
祥子「この流れなら私のもイケそうですわ! さ、そよ。受け取ってくださいまし」
自信あり気に渡してくるさきちゃんのカプセルには、確かに悪くないものが入っていた。
そよ「あ、この犬可愛い!」
祥子「そよ……猫ですの……」
そよ「あっ、そう言われると確かに猫だね。ごめんごめん」
立希「紛らわしいもの選んだ祥子が悪いんじゃない? ってことで、ビリは祥子ね」
祥子「だまらっしゃい! 勝負はこれからですわ!」
そよ「勝負って……なんかもう解説ありきになってきてるね」
祥子「コホン。一発で目当ての黄色が出てくれて良かったですわ」
そよ「どうして黄色が良かったの?」
祥子「よく見てくださいまし。花柄があしらってあるでしょう?」
そよ「……ホントだ。これ、向日葵だね」
祥子「そよは向日葵好きでしたわよね? この可愛らしいフォルムに加えて貴女の好きな花柄。これしかないって思いましたわ!」
そよ「へぇ……シンプルにいいかも。うん、気に入ったよ、さきちゃん。流石だね♪」
祥子「ふふん、伊達にCRYCHICのリーダーしてませんことよ!」
腰に手を当てて誇らし気なさきちゃんにパチパチと拍手してあげる。自覚はあったけど、CRYCHICを作ってくれたこのお嬢様になんだかんだ私は弱いのだ。
むしろ1番心配な子が最後に残っている。すーぐウケ狙いに走るからなぁ。
睦「……じゃ、私」
そよ「ちゃんと真面目に選んだ? 私が気に入りそうなのだよ?」
睦「……正直、そこからはちょっと外れた、かも」
立希「おっ、敗北宣言?」
祥子「潔いではないですか、睦」
睦「……でも、そよに送るならこれしかないって思ったから、受け取って欲しい」
いつになく真剣に渡してきたむつみちゃんの真意が分からず、頭に疑問符を浮かべながら受け取る。
渡されたカプセルを開くと、ギターらしきものが入ってる。
まず思ったのが、バンドだからって安直じゃない? だった。
睦「……まず聞いて欲しい。これは部活をモチーフにしたガチャガチャだったの。で、吹奏楽部のを狙ったんだけど、コレが出てきた」
そよ「それだけ聞くと吹部の私に合ってなくもないかな。でもそれじゃ結局ハズレを渡してきたってことでしょ」
睦「……ところが、考え直すとそうでもない。吹部のはサックスみたいな金管楽器のアクセサリーだった。コントラバスのそよには正直微妙か、と思ってた」
そよ「いや私ギターじゃないんだからコレだって微妙……ん?」
私は何か引っかかって、よくギターのアクセサリーを観察する。見た目はギター、ペグも6つある。でも……
そよ「弦が3本しかないね。しかも安い小物のクオリティだから……」
睦「……弦は全部同じ太さ。3弦なのはちょっと惜しいけど、どちらかといえばギターよりベースに近い。……と、思って渡したんだけど……どう?」
腕組みして思案に耽る。
私は別にCRYCHICが好きなのであってバンドやベース好きを外に主張したいわけじゃない。だから、人に見られるストラップとしてはあまり好ましくはない。
それに……なんだかんだと言葉を重ねても
立希「睦、それは今回の趣旨からズレてない?」
祥子「そうですわね。そよが気に入りそうなものというテーマなのに、そよらしいものは似て非なるもの。逃げですわ」
睦「……私だって思った。でも、そよってベースっていう楽器やポジションが気に入ってるんじゃない?」
そよ「えっ?」
睦「……バンドの音が薄っぺらくならないように下から支えたり、リズム隊としてパートがバラバラにならないよう繋ぎ止める役割をしたり、周りに合わせてベースラインを調整したり。そういう、縁の下の力持ちな役回りのベースは、いつも周りを見て気遣うそよの性に合ってる。だから吹部でも似た役割のコントラバスを頑張ってたんじゃないの? 家で練習する用を買ってまで」
そよ「……」
睦「……私は、自分に合った役回りを気に入って全うしてるそよが好き。だってそれは優しい音色に表れてるから」
立希「ズルい! もうガチャガチャじゃなくてスピーチで落としにかかってるじゃん!」
睦「卑怯ですわよ睦! 正々堂々ガチャガチャのみで勝負なさい!」
睦「……自分たちだってペラペラ補足してたくせに……」
燈「でも睦ちゃんの言ってること、分かる。そよちゃんって言えば、やっぱりCRYCHICのベースだよ。それを象徴するものがついてると、私もなんとなく嬉しいかな……」
そよ「……分かったよ……」
観念して降参宣言をする。
大体むつみちゃんの言ったことに間違いはない。そこまで見通した上で選んだのなら、文句なんか言えるはずなかった。
私のことを分かってくれてるという大切なことは、十分証明されてるから。
そよ「優勝はともりちゃん。……次点でむつみちゃん、かな?」
睦「……よし」
顔色伺うようなしおらしい顔からガラッと変わり、ドヤ顔でガッツポーズするむつみちゃん。……さっきまでの演説、全部適当じゃないよね? ちゃんと心から思ってることだよね?
切り替えが速すぎるところが少しだけ不安にさせたけど、まぁいいか。
立希、祥子「じゃ、最下位の立希(祥子)がオゴリだな(ですわね)」
そよ「仲良く最下位でいーんじゃない?」
立希、祥子「雑に横暴だ(ですわ)!」
こうして、思った以上に長居し過ぎたガチャガチャ専門店から私たちは出立したのだった。もちろん、罰ゲームはうやむやにしたままにしてあげる、優しい優しいお姉さんな私なのでした。
余談
立希「おっ、麻雀牌のガチャガチャだ。ウケ狙いにこんなん付けてもいいんじゃない、そよ?」
睦「……それを機に、麻雀趣味に目覚めたりして」
そよ「付けないし目覚めないよ。そんなのおじさんがやるものでしょ?」
睦「……女流棋士が聴いたら牌投げつけられるくらい怒りそうな発言」
祥子「ですがそよは麻雀覚えたら強そうですわね」
立希「確かに、
睦「……結託しても上手く利用されてから裏切られそうだから怖い」
立希、祥子「それだ!(ですわ!)」
そよ「3人とも今日はやけにおちょくってくるね……本当に覚えて負かせてあげようか?」
立希「やっぱり女子高生で麻雀ってないよな」
睦「……某作品じゃあるまいし、流行らない」
祥子「そよもそんな非現実的な冗談言ってないで、他回りましょう?」
そよ「うぅ……流石に3対1じゃ勝てない……」
燈「えっと、そよちゃん……私も、麻雀知らないから……一緒だね」
そよ「ともりちゃん。今日はもう2人っきりでデートしよっか♪」
立希「待てそこ! 何勝手なこと言ってんの燈を巻き込むな!」
そよ「うるさい! もういっそ、ともりちゃんと2人でバンド組む!」
祥子「お待ちなさい! ベースとボーカルだけでどうやって音楽するつもりですの!」
睦「……祥。ツッコミどころ絶対そこじゃないから」