〇トルコアイス ~祥子 VS Dondurma~
それはガチャガチャ店を出てからしばらく歩いてるときのことだった。
祥子「まぁ、なんですの、あのとてもよく伸びるアイスは!?」
さきちゃんが興奮気味に指さす先では、トルコ風の男性が長い棒を使ってアイスをすくってるところだった。
普通のアイスでは考えられない伸縮に驚くのも無理ないか。こういう屋台形式の店を見る機会すら少ないさきちゃんにとっては。
そよ「トルコアイスって言うの。なんだかモチモチしてておいしそうだよね」
燈「そうだね。……あっ、無料って書いてあるよ?」
祥子「なんですって!? あんな珍しくておいしそうなアイスが……無料!? いいんですの!?」
もうすっかりトルコアイスの屋台に目が釘付けになってるさきちゃんに、私の頭で黒い閃きが奔る。
さっきのガチャガチャでは珍しく私がいじめられて、鬱憤がたまっていたから。
密かに仕返しを考えてたけど、ちょうどいい舞台の登場に、私はひそかにほくそ笑んだ。
そよ「……そうださきちゃん。せっかくだからもらってくれば?
祥子「なんと……また面白いものと出会ってしまったようですわね!」
立希「あっ祥子、そのパフォーマンスっていうのは……」
そよ「先にネタばらしたら
祥子「行ってまいりますわ!」
余計なことを言いそうになったたきちゃんを笑顔で黙らせつつ、ウキウキ笑顔の
表情豊かなあの世間知らずお嬢様は、トルコアイスの餌食としてこれ以上ない適役だろう。あぁ、楽しみだな……。
そよ「ふふふっ……」
睦「……そよ。漏らしてる笑みが邪悪なんだけど……」
立希「お前もホント、容赦なくなったよな。出会った頃だったらこんな意地悪絶対しなさそうなのに」
そよ「そんなことより。たきちゃんもパフォーマンス知ってるなら、盛り上がるようフォローしてれる?」
立希「なんで私がそよの仕返しに付き合わなきゃ……」
そよ「付き合ってくれれば同じくいじめてくれたたきちゃんは許すんだけどなぁ!」
立希「笑顔を強くして迫るな怖いから! ……分かったよ、私だってたまには振り回される祥子を見たいし、やってやるか」
最初はノリ気じゃなかったたきちゃんに圧をかけて
最後はニヤリと口端を吊り上げて悪い笑顔になったたきちゃんに、私は満足して頷く。
そよ「どうもありがとう」
睦「……それは、右京さ——」
そよ「むつみちゃんは知ってる?」
睦「……SNSで見たことくらいなら……」
そよ「じゃあ生贄はさきちゃんだけでいいや。同じくいじめてくれたむつみちゃんは動画係ね。私は写真撮ってるから」
睦((い、生贄て……やっぱりそよを怒らせると怖い……)
睦「……い、イエッサー」
そよ「せめてそこはイエスマムでしょ」
わけのわからないことを言いかけたむつみちゃんにも指示して黙らせる。
さぁ、素敵な素敵な
そよ、立希、睦「ふっふっふっふっふ……」
燈「えっと……私はさきちゃんの様子見て来るねっ」
私たちに怖いものを感じたのか。ともりちゃんは逃げるようにさきちゃんの方へ行ってしまった。
ともりちゃんがさきちゃんの元に辿り着いたときには、トルコ風男性がアイスを用意し終わったところだ。
長い棒をアイスにつけたまま、コーン部分をさきちゃんに差し出していた。
ここからが大事なので、私とむつみちゃんはスマホを構える。たきちゃんはその画角に入らないようさきちゃんへ近づいて行った。
トルコ男「サ、オジョーサンオマタセ! ドーゾ!」
祥子「頂きますわ」
律儀に礼しながらさきちゃんが手を伸ばす。しかし、その手は寸でのところで空ぶった。
祥子「あ、あらっ」
トルコ男「ゴメンねっ、手元がクルッチャッタYO!」
祥子「い、いえ明らかに避けられたような……ってやっぱり避けてるじゃないですか!」
目の前に出されてるのにヒョイヒョイ動かされるアイス。
自然、さきちゃんは右に左に翻弄されて無様に踊ってるみたいだった。
もうこの時点で笑いが込み上げてくるけど、こんなのはまだ序の口。私は写真を撮りながらも笑いをこらえる。
トルコ男「ゴメンゴメン! キミがコーンをモツまでウゴカサナイから!」
祥子「まったく……。しかしそれなら、もう悪戯されませんわね!」
なんて安心する彼女の考えがアイスのように甘くて吹き出してしまった。
残念だけど、そんなにこのトルコアイスは甘くないんだよ、さきちゃん。
祥子「コーンを持ちました! やっと受け取れました……」
トルコ男「アラオジョーサン、コーンだけでイーのかい?」
祥子「って、コーンからアイスが消えてますわ! って、店員さんの棒にくっついたまま!? 私のアイスを返してくださいまし!」
トルコ男「ワカッタワカッタ、ちゃんとウケトッテね!」
祥子「ではコーンにアイスを乗せてください……違いますわっ、乗せるだけで良いんですの、コーンごと奪わないで頂戴!」
小さい子が取り上げられたみたいに両手を伸ばして必死なさきちゃん。トルコ男が握る棒にはコーン付きアイスがついたまま。散々いじめられた後、ふりだしに戻ったのだ。
それに耐えきれなくなったのか、ついにさきちゃんが憤慨する。
祥子「な、なんて客を馬鹿にするアイス屋さんなんですの!? もう怒りましたわ、無料のアイスですし結構です——」
立希「いやいや祥子。ここまでそういうパフォーマンスだったんだよ」
祥子「パフォーマンス?」
立希「まぁ軽いおふざけみたいなものだって。もうそろそろくれると思うから、素直に貰ってあげなよ。店員もせっかく作ったアイス、あげたいだろうし」
ナイスたきちゃん。怒って投げ出しそうになったらちゃんと宥めて続行させてくれた。うんうん、ここで終わらせちゃったらもったいないからね。
アイス躱し、コーンだけ渡す、アイスも渡すと見せかけてコーンごと奪う。結構定番技見たけど、まだ1つ残ってるし。
祥子「そう言われてみると、そうですわね。私としたことが、少々熱くなり過ぎてたみたいですわ」
トルコ男「コッチもゴメンね。コンドこそワタスから!」
祥子「いえ、お構いなく……・」
さきちゃんに今度こそコーンを握らせたまま、トルコ男は差し出していた棒をゆっくり戻す。……そこにもアイスと共にコーンがついていた。
コーンは2重になっていたのだ。きょとん顔のさきちゃんは自分の手元と棒についたコーンを何度も見比べ、それを理解したらしい。
トルコ男「オジョーサンまたコーンだけモッテ! よっぽどコーンだけがスキなんだね!」
祥子「……」
散々意地悪されたさきちゃんは、ついに顔を伏せて肩をプルプル震わせ始めた。怒りが臨界点を突破したんだろう。
それでも育ちの良さがそうさせたのか、コーンを握り潰すことなく屋台にそっと戻す。
しかし我慢の限界だったさきちゃんは、そこで爆発した。
祥子「この私を、豊川祥子と知っての狼藉ですのぉおおお!?」
トルコ男「HAHA、まるでコーキなイエのオジョーサマみたいにイウネ!」
祥子「高貴な家のお嬢様なんですのー!」
そう言って彼女は高貴な家のお嬢様とは決して言えないような暴れっぷりでアイスを奪いに行く。
本気になったさきちゃんは分身しかねない俊敏性で手を何度も伸ばすけど、興の乗ったトルコ男もその全てをヒラリと躱す。
やがて荒い息と共に両手を膝についたさきちゃんは涙声を上げ始めた。
祥子「私のアイス……返してくださいまし~……」
そよ、立希「プッ、アッハッハッハッハ!」
私とたきちゃんは大声上げて笑ってしまった。
こんなに情けなく敗北に追い込まれてるさきちゃんは初めて見た。
いっつもやりたいことを自由にやって私たちを振り回してきた敵なしのお嬢様らしくない醜態はレアだ。2度と拝めないかもしれない状況を存分に笑って、私もだいぶ気が済んでいた。
燈「あ、あのっ! 可愛そうだから、そろそろ祥ちゃんに渡してあげてくださいっ!」
祥子「と……ともりぃ~~~!」
ここで悪戯意地悪に無縁の少女が登場。そんなともりちゃんをヒーローのように思ったのか、さきちゃんは号泣しながらしがみついていた。
燈「このオモシレージョーチャンのトモダチかい? なら、キミにワタシテあげよ——」
ターゲット変更の如く、グルリとともりちゃんに向き直るトルコ男。
選手交代してまたパフォーマンスが始まるのか、と思ったら店員は途中で口と体をピタッと止まった。
立希「……」
ともりちゃんに見えない位置から般若の形相でトルコ男を睨んるガチ少女がいたから。ちゃっかりさきちゃんをともりちゃんからはがしてるし。
殺気レベルの迫力に負けたのか、結局トルコ男はすんなりともりちゃんにアイスを渡した。
燈「はい、祥ちゃん。アイスだよ」
祥子「ともり~~~! 2人で掴んだアイスですわ、一緒に食べましょ~~~!」
立希「お前店員に振り回されてただけでしょ! ほぼ燈のおかげだから全部上げてやれ!」
こうしてトルコアイスパフォーマンスは幕を閉じたのだった。まぁ、最低限は楽しめたかな?
そよ「どうむつみちゃん。ちゃんと撮れた?」
睦「……ご査収ください」
祥子「ちょっと! 人が虐められていたところを動画に撮るなんて趣味悪いですわよ!」
そよ「さきちゃん。あれはトルコアイスの有名なパフォーマンスなんだよ。貰う人はあぁやって遊ばれて洗礼を受ける習わしなの」
祥子「な、なんてふざけた習わしなんですの!? というか知ってて私を嵌めたそよが一番ひどいですわ! あくどいですわ~!」
立希「確かにあのときのそよは黒かったな」
睦「……笑顔が黒かった」
そよ「えー? そうかなー?」
立希「それだよそれ」
燈「黒いそよちゃん……確かに、新鮮だね」
そよ「ともりちゃんにはしないから安心してねー」
立希「ちっ。燈だけ特別扱いとか」
そよ「たきちゃんだけには言われたくないよ」
立希「……なんというおまいう」
祥子「なるほど、お前が言うなを略して……これ以上ない使いどころですわね」
立希「おい睦。大財閥のご令嬢がネットミーム堕ちしたらお前のせいだからな」
睦「……それはそれで面白そうじゃない?」
祥子「そんな下品なものに染まるような私じゃありませんわよ!」
ギャイギャイ叫びながら、私たちは渋谷巡りを再開した。