〇猫カフェ
睦「……あ、猫カフェ発見」
祥子「ねこ、カフェ? ……店員が猫に扮してる、とかでしょうか?」
そよ「それはそれで可愛いらしいけど。お店にいる猫とふれあえるお店だね」
祥子「猫と戯れながらお茶しますの? 不衛生では?」
立希「いや、たぶん喫茶店っていう喫茶店じゃないよ。本当に猫がメインの店で、飲食はおまけレベル」
祥子「ならカフェという名前はおかしいですわ」
そよ「それはそうなんだけど……私たちに言われても……」
燈「私、猫って触ったことない。……触らせてくれるお店なんて、あるんだね」
立希「よし、行こう」
睦「……言うと思った」
祥子「でも確かに、猫とふれあえるお店なんて貴重ですわ! 行きましょう!」
私たちはお店の扉をカランコランと音を立てて開けて中に入った。
たきちゃんの予想通り、喫茶店という喫茶店ではなかった。
ドリンク代と1時間分の料金を払い、缶ジュースを1本持って入場するシステムだった。
テーブルに着いて料理を注文できるわけじゃないから、これなら不衛生も何もない。
祥子「だからといって、これでカフェを名乗るのはやはり納得できませんわ」
立希「まだ言ってんの?」
睦「……祥。世の中には風営法というのもある。色々と複雑なんだよ」
燈「そっか。なんだか、社会勉強になるね」
そよ「う~ん、そんな小難しいことは置いといて、猫を楽しもうよ」
そんなやりとりをしつつ私たちは猫と触れ合えるフロアに移動した。
扉を開けて中に入ると、猫が10匹いた。白に茶色、グレーに黒。色とりどりの猫がそれぞれ和んでいた。床で寝転んでいたり散歩のようにトコトコ歩いたり、水を飲んだり、こちらをジーっと見つめてお行儀よく座っていたり。
祥子「たくさんいますわね~。この猫、本当に触ってよろしいんですのよね!?」
そよ「そりゃあお金払ってるわけだしね~」
睦「……確かに。2000円払って見てるだけです、は面白いくらい生殺し」
祥子「で、ではさっそく……わぁ、ふわふわですわね~、あっ目を細めて気持ちよさそうですわ!」
燈「わ、私も撫でる……。よかった、撫でても逃げないんだ……」
睦「……猫カフェの猫は日常的にたくさんの人間と接して慣れてるから、っぽいね」
立希「睦は猫撫でるかググるかどっちかにしなよ」
そよ「ツッコミしてないでたきちゃんも猫とふれあったら? 可愛くて癒されるよ~♪」
立希「んなこと言われたって……」
私は猫を撫でつつ、所在なさげに立ち尽くすたきちゃんをしばらく見守る。
やがて意を決したように一匹の猫へにじり寄っていくたきちゃん。しかし……。
猫A「ナァ~……」
立希「あっ……逃げられた……」
残念な結果に狼狽えた顔をするたきちゃんは、次の目標を見繕うようにキョロキョロ見回すけど。
視線を向けられた猫たちはことごとくたきちゃんから距離を置くように離れ始める。
立希「ちょっと! 私だけなんで避けられるわけ?」
そよ「そりゃたきちゃん目つきがこわーいから。猫も怖がってるんじゃない?」
立希「怖くない!」
燈「た、立希ちゃんが怖い顔で大声出したから、猫が逃げていっちゃった……」
立希「ご、ごめん燈……」
明らかにシュンとしたたきちゃん。もし動物耳がついてたら絶対垂れ下がってた。
祥子「あ、私の膝に乗ってきましたわ!」
睦「……私にも。なんて軽い体重、私かな?」
立希「それは婉曲的に私猫並みに可愛いとでも言いたいの?」
自分だけ猫に触れ合えなくて寂しいのか、いつもより刺々しい声色のたきちゃんだった。
そよ「きゃっ! 膝に乗ったまま手嗅いでくる〜! クンクンしてきてくすぐった〜い♪」
燈「わっ。戻って来て尻尾腕に絡ませてきた……器用に動かすね……あっ、撫でたら今度はどっか行っちゃった。嫌なところ撫でちゃったのかな」
祥子「気まぐれですわね」
睦「……そこも可愛い」
立希「……なんで私だけ……」
1人だけ寂しそうなたきちゃんが流石に可哀そうになってきた。
でも掴んじゃダメって言われたから持っていってあげることもできないし、何かあるかな……。
と思って周りを観察した私は、良いものを見つける。
そよ「ねぇたきちゃん。餌あげてみたら?」
立希「餌?……どうせ追加料金でしょ?」
燈「で、でもたきちゃん。今逃したらこんな機会、なかなかないよ?」
祥子「そうですわ。貴女猫カフェに来て猫に避けられて終わるなんて、余りにも悲し過ぎる結末を良しとするんですの?」
睦「……猫に負走する気なの? それなら可哀そう過ぎるから後で私が立希を撫でてあげる」
立希「っるっさい要らんわ! ……すいませーん! 餌買いたいんですけどー!」
煽られた怒りで調子を取り戻したたきちゃんは、その勢いのまま店員さんに注文しに行った。
そんな彼女を横目に、私たちはやれやれ顔を見合わせるのであった。
「ちょ、ちょっと! 餌持ったぐらいで集まり過ぎでしょ! あっ、もう無くなったのに手ペロペロしないで、くすぐったいから!」
戻って来た彼女は、さっきまでと打って変わって大人気になっていた。
何匹もの猫に囲まれながら慌てたように騒ぐたきちゃんは、それでも満更じゃなさそう。
燈「なんだかんだ、1番集まってるね」
そよ「猫に懐かれないと見せかけて実は好かれやすいんじゃ……」
祥子「元々立希は猫っぽいですからね」
睦「……猫ほど可愛い気ないけど」
立希「そこ! うっさいこと言ってないで助けてよ!」
そよ、祥子、睦「猫掴んじゃいけないってルールだからムリでーす♪」
燈「お邪魔しちゃったら、悪いから……」
優しく微笑むともりちゃんの言葉が、猫にモテモテで内心嬉しそうなたきちゃんのことを言ってたのか、それとも餌がなくなったのにたきちゃんにスリスリ寄って来る猫たちのことなのか分からなかったけど。
どっちにしろ言う通りなので、私とむつみちゃんできちんと記録に残しつつニヤニヤ見守るのであった。
やがてたきちゃんのフィーバー・キャット・タイムが終わり、猫たちはお昼の時間なのかご飯を食べ始めた。
それからは私たちの方に寄ることもなく、それぞれのキャットハウスに籠って眠り始めた。
燈「お昼食べて眠くなったのかな?」
睦「……無防備可愛い」
立希「なんとなく燈っぽいな」
燈「そ、そうかな……?」
祥子「そんなこという立希はなんとなくキモいですわね」
立希「いや分かるでしょ」
そよ「分からなくもないよ? でもキモいよ? ともりちゃんを愛玩動物として見てる感じで」
立希「それは曲解過ぎでしょ! 私は燈の可愛さについて言及しただけだし!」
睦「……それでも燈が可愛いことは訂正しないんだから筋金入りだね」
燈「私は、なんとなく睦ちゃんぽいって思うけど……」
睦「……すごい。立希と同じこと言ってるのに気持ち悪くない」
祥子「ホントですわね。この差はなんなんでしょう?」
そよ「下心があるかないか、かな?」
立希「私だってないよ!」
普段の贔屓っぷりから、全く説得力はなかった。