この脱出ゲームは現実にあるイベントと一切関わりはございません。
けど私のオリジナル案でもありません。
何言ってるのか分からないかもしれませんけど、お察しください。
1番 ピラミッドから脱出しますわよ!
そよside
※ ※ ※
脱出ゲーム、というのはSNSをやっていると広告で度々目にしてきた。
アニメやらアイドルやらとコラボしてご大層に喧伝するものが多い印象だった。だから私は、オタク的な餌がないと集客できないのかな、という偏見を持ってしまう。謎解きが子供騙しレベルでつまんないから他の要素が要るんだ、と勝手に決めつけていた。
でも実際に体験してみると、時間を忘れるほどに熱中していた。細かいところまで良く作り込まれていて、自然と没頭してしまうのだ。子供騙しと決めつけたことを反省するほどには、面白いなと評価を改めた。
でも私たちはもう高校生という大人。いくら世界観に没入してしまっても、周りの目も考えないとイタイ目を見る。
今回は、そんな当たり前のことを改めて痛感するイベントでもあったな。思い知るべきは私じゃないのだけど。
※ ※ ※
『みんな! ピラミッドから脱出するゲームに参加しましょう!』
きっかけはいつものようにさきちゃんだった。クラスの子から話を聞いて興味をそそられたらしい。
さきちゃんからGWは連日遊ぼうとせがまれていたから、
(謎解きなら疲れなさそうだし、休憩に丁度いいかな)
という打算で、私はにっこり了承した。
やれやれ顔だけど反対しなかったむつみちゃんやたきちゃんも、きっと同じ考えに違いない。
『だっしゅつ、げーむ……?』と小首をかしげつつ頷いたピュア優しいともりちゃんは違うんだろうな。
というやり取りが過去にあっての、5月5日。
私たちは脱出ゲームの会場に来ていた。ビル7階のホール1室に収まる規模と知って安心する。思った通り楽そう。
暗幕カーテンで窓を遮られた暗い会場に入ると、およそ50人以上もの参加者で賑わっていて驚く。アニメやアイドル関係ないのに、結構人気なイベントなのかな?
受付で手提げ袋と一緒にもらったランタンを囲んでしゃがむ。ピラミッドという舞台に合った小物に、たきちゃん以外が物珍しくて色めき立つ。ホール奥のスクリーンに映ってる石造りの扉らしきものと合わせて、なかなか雰囲気出してるな、と偉そうにも感心した。
開始時間までお喋りをして待つ。
祥子「脱出ゲーム……クラスメイトからは、みんなで協力して謎を解いていくものと聞いてますが。一体どんな謎が待ってるんでしょうか? 冒険みたいで、私ワクワクしますわ!」
睦「……そんな某戦闘マンガ主人公みたいなこと言う祥に、アクティブ系は全部お任せする。昨日歩き回って疲れたから、1歩を惜しんで極力動かない」
立希「省エネ宣言か。まぁいいけど、やるからにはクリアしたいから頭は働かせてよ」
燈「何するのか、よく分かんないけど……私も、とにかく頑張るね」
そよ「ともりちゃんはとにかく一緒についてくればいいから、気楽に楽しもうね♪」
そもそも純朴で物事の裏を汲み取らないともりちゃんが作られた世界観についていけるかすら怪しい。リラックスさせるよう気遣っているとそのうちファンファーレのようなBGMが流れ出す。いよいよイベントが始まるらしい。
〇オープニングイベント
司会として登場してきたのは、ディーンと名乗る男性。世界観を大事にしてるのか調子の良いキャラに成りきってる彼は、ピラミッド調査ツアーのガイドだと名乗る。そこで初めて、私たちは調査ツアーの参加者、という設定が分かった。
睦「……遺跡の調査なのに、素人に観光気分でさせていいの?」
そよ「私も引っかかったけど、大人げないからツッコまないであげようよ」
後から思うとこれもシナリオ上伏線と言えなくもなかったのだけど、謎解きには特に関係ない。
重要になってくるのはむしろこれから。そう、脱出ゲームの手がかりという意味では、既にゲームは始まっていたのだ。
可愛いマスコット的存在として紹介された、ディーン氏が飼ってるという猿のウッキーも。
1年に1度、ごく短い時間だけ陽の光がピラミッドの中に差し込むことも。
そして、どうやらここに展示されてるらしい宝を乱暴に扱うと呪い殺されることまで。
一見何でもない情報に見えて、クリアに必要な情報だったのだ。
立希「あの猿、パペット人形にしては録音ボイス付けて変に凝ってるな」
睦「……1年に1度の聖なる光って謳ってるのに、ライトの電球丸見えなの、気にならなかったのかな」
そよ「物を乱暴に扱わないなんて常識にそれっぽい設定つけるなんて……こういう企画考える人も大変そうだなぁ」
祥子「揃いも揃って現実的な茶々入れないでくださる!? 世界観台無しですわよ!」
燈(? ? 何が何だか、分かんない……)
そんな話をコソコソしてるうちにオープニングイベントは進んでいた。ファラオであるアレクサンドロス3世に盗掘者として閉じ込められ、いよいよ脱出ゲームが開始されようとしていたのだ。
受付でランタンと一緒にもらった手提げ袋に入ってるクロスワードが第一の試練とのことだった。スタートの合図がされ、部屋が照明で明るくなり周りがワイワイ騒ぎ出す。すかさず我らがリーダーが立ち上がり、胸の前でグッと両拳を握った。
祥子「さぁ、ゲームの始まりですわ! やるからには優勝を狙いましょう!」
立希「脱出ゲームに優勝とかあるの?」
睦「……一番早くクリアしたい、の意だと思われる」
燈「祥ちゃん、負けず嫌いだもんね」
そよ「それじゃ、そんなさきちゃんのためにもまずはクロスワード解いていこっか」
こうして、CRYCHICみんなで挑む脱出ゲームは始まった。私はみんなで楽しめたらなんでもいいな、と思っていたけど。5つの試練に挑んでるうちに、そんな呑気な考えはピラミッドの謎に埋もれて見えなくなるほど没入していくことになる。
〇第一の試練 クロスワードパズル
横向き4文字、縦向き2文字、みたいに分類分けされたイラストを手がかりに埋めていくタイプのクロスワードだった。
マスにはアルファベットが書いてあって、全てのアルファベットマスを明らかにすると試練の答えが分かるらしい。
立希「じゃあ全部のイラスト解かなくてもアルファベットマスに関わるやつだけ解けばいいのか」
睦「……向きと文字数が同じイラストが複数ある。限定すると逆に難しそう」
祥子「なるほど、埋めれるものから埋めてく方が結果的に楽で早い、ということですわね」
そよ「じゃあ種類の少ないものから埋めてくのがいいよね。分かりやすくて2つしかない縦4文字がいいんじゃない? 『ガソリン』と……この可愛いリスが逆立ちしてる絵って、『さかだち』だよね?」
燈「えっ、リスって青い、かな?」
祥子「しっぽの長いネズミにも見えますけど……」
立希「でも『ガソリン』は堅いでしょ。これを最後にガがつく横向き3文字と合わせて埋めて……」
睦「……RECって書いてある赤枠の絵、これは『ロクガ』」
祥子「いいですわよ! この調子で埋めていきましょう!」
こんな感じで被ってる文字をヒントにマスを埋めていく私たち。
次々と答えが連鎖して調子が出てきたところで、ともりちゃんが訝し気な声を出す。
燈「ここ……やっぱり『サカダチ』じゃ、なさそう?」
立希「そうだね。他の答えとの繋がり的に合わない」
私が可愛いリスの絵をサカダチだと思ってたものだ。でも違うなら他に心当たりがない。順調だった雲行きが怪しくなってきた。
そよ「1文字目がスで、3文字目がン、かぁ」
睦「……今2文字目埋まった。そこにはカが入る」
祥子「ということは、4文字の言葉でスカン、まで分かりましたわね。リスみたいな小動物の絵で、スカン……」
ここに来て、私たちの間に気まずい沈黙が生まれた。みんな、同じ答えを思い浮かべてるんだと察する。でも女の子が口にするには特徴的に憚れるのか誰も言い出さない。
特には私は、予想と違う答えであってほしくて黙っていた。
だって、確かあの動物はオナラか何かが臭いことで有名で、そんな動物を私が可愛いと言ってたことになる……
燈「スカンク?」
そよ(あぁ……この子は平気で口にしちゃうか……空気に疎いともりちゃんらしいか……)
祥子「え、えぇ……確か匂いが強烈と噂の……」
やっぱり予想した答えで合ってそう。私は素知らぬ顔でニコニコし、早く次のワードに移れと祈る。
が、こういうとき見逃してくれるような温い性格してないのが、ニヤニヤ顔の仲良しコンビ。
立希「あぁ、そういえばアレもリスっぽい見た目してたな。そよはああいうのが可愛いと思うタイプだったなんてね」
そよ「違うよ!」
睦「……個性的な趣味とは思うけど、尊重する。恥ずかしがらなくていいと思うよ」
そよ「リスだと思うじゃない! あんな臭い動物のこと好きになるわけないでしょ!」
燈「そ、そよちゃん……。そんな酷いこと言ったら、スカンクが可哀そうだよ……」
そよ(うっ……2人は分かっててイジってるけどこの子は純粋に言ってるから返しづらい……!)
祥子「ほらみんな、そよのスカンク好き弄りは脱出した後にしてくださいまし。さっさと続きを解いて次行きますわよ!」
そよ「な、何気に一番酷い追い打ちかけるね、さきちゃん……」
恥ずかしいやら悔しいやらモヤモヤを胸の内に燻らせながら、みんなでクロスワードに集中し直す。その後は詰まることなく全部のマスを埋めれた。
答えが分かったらスタッフ……じゃなくて、ピラミッドの神官がいるコーナーに出向き、さきちゃんが長ったらしい文言を涼しい顔してスラスラ応える。
女性神官「正解じゃ! さぁ、次の試練に挑むといい!」
祥子「ありがとうございますわ」
女性神官「い、いえこちらこそ……」
例えゲームのスタッフ相手だろうと慇懃にお辞儀するさきちゃん。余りの丁寧さに神官さんを引かせていた。
……ここだけ見ると、お淑やかで聡明なお嬢様にしか見えないのになぁ。
何はともあれ、第一関門は突破。他の参加者より比較的速い方だから、ひとまず良い出だしなんだろう。一部蓋をしたい記憶もあるけど。
余談
女性神官「あぁ、ランタンはここで回収するから渡すように」
祥子、睦、燈、そよ「えっ!?」
女性神官「えっ、とは何じゃ! まさか貰えるとでも思っておったのか、厚かましいやつらめ!」
立希「まぁ普通貰えないわな」
睦「……でも、欲しかった」
燈「うん、残念だよね……」
祥子「冒険感あって気に入ってましたのに……」
そよ「私も珍しくて気に入ってたけど……しょうがないよね」
女性神官(な、何故こっちが申し訳ない気持ちにならないといけないの……?)
祥子「では、どうぞ……」
神官A「うむ、確かに受け取っ……あの、握ってないで離してもらっても……ゴホン、往生際いぞお主! 離さんか!」
祥子「やっぱり惜しいですわ〜!」
立希「バカやってないでさっさと渡しなって」
女性神官(な、なんだこのツインテお嬢様……。さっきのお淑やかな雰囲気はなんだったの!?)
そんな綱引き染みたやり取りもありつつ、私たちはランタンと引き換えに次の試練のプリントを貰った。