〇最後の試練 ~力の試練~
改めて神官からもらったプリントを見る。
CRYCHIC「……」
見落としがないよう、みんなで隅から隅まで見る。
でもやっぱり見えてる通り、2文書かれてるだけだった。
そよ「『神官を1人殺してみせよ』……?」
睦「……力は力でも、暴力の試練だった」
立希「ツッコめない……。しかも他に書いてあるの『今後神官に話しかけるときはこの紙をまず見せよ』だけ?」
祥子「殺す……何かの比喩表現か、それとも謎かけでしょうか……?」
燈「えっと……殺さない、よね?」
睦「……当然」
そよ「ヒントが碌にないってことは、既にある情報だけで解ける、はずだけど……」
自分で言ってて自信がない。訳が分からな過ぎてどの情報がヒントか分からないから。
とりあえず分かってる情報をみんなで片っ端から上げることにした。その内、むつみちゃんがポツリと呟く。
睦「……さっき、私達は本物の宝って、言われた」
立希「あぁ、そうだったけど……それが?」
そよ「それがヒント? ……確かに、今思うと意味あり気かも」
燈「宝……私たちがこのピラミッド? の宝ってこと? この部屋に置いてあるのと、同じ?」
祥子「なんとなく誉れ高いですわね!」
立希「チョロいやつ……」
話題に上がった宝の展示物をぐるりと見渡す。そこには私たちと同じように触ったり観察したりしてる人たちでいっぱいだった。
せかせかと展示物を早歩きで駆け回ったり、一緒にいる人と指さしながら明るく頷き合ったり。それぞれの形で熱中してる様に共感を覚えてると、今度はたきちゃんがボソリと零した。
立希「当たり前だけど、変な風に扱う人いないか」
そよ「当たり前でしょ、常識だよ?」
立希「いやでもこのご時世さ、どんなやつがいるか分かんないでしょ? 私がスタッフだったら1人は監視役置いてる」
祥子「立希はこんなときでも堅実に考えるのですね」
睦「……あ」
燈「睦ちゃん、どうしたの?」
睦「……展示物、乱暴に扱わせれば……」
立希「何非常識なボケかましてんの」
睦「……呪い殺される」
そよ「あぁ、最初のルール説明でそんな風に設定づけされたね……あ」
むつみちゃんが何を言いたいのか察した私たち(ともりちゃん以外)はピンときた顔を見合わせた。
宝を乱暴に扱うものは呪い殺される。これは当然神官にも適応されるはず。つまりこのルールを上手く使えば、神官を1人殺すというお題を達成できる。
ということを、分かってなさそうだったともりちゃんにも説明しながら、私は複雑な心境になった。
(……まさかどうやったら殺人できるか真剣に考える日が来るなんて、思いもしなかったな)
でもそれより感心の方が大きかったから、みんなと興奮気味に語る。
祥子「なるほど! まさかそんな常識的なルールを謎解きに利用させるなんて……目から鱗ですわ!」
そよ「確かにこれは巧いよね! よく考えつくな〜」
立希「これから先、神官に話しかけるときはこの紙を見せろって書いてあるし、これ合ってるんじゃない?」
燈「えっと……展示物を乱暴に扱ってもらう、ってこと? でもそれってお願いしてやってもらえるのかな?」
4人「……」
重たい沈黙に支配されるCRYCHIC。普通に考えてダメに決まってる。でもかなり良い線行ってたと思ってただけに詰まったのがショックで、私はふざけて現実逃避したくなった。
そよ「お願いしたらどうなるか、シュミレーションしてみる?」
立希「しなくていいから」
睦「……私が神官である。何用か」
祥子「神官さん! 宝を持ってきたので乱暴してくださいな♪」
睦「……なんと罰当たりな。そんなことしたら呪いで死んでしまうんじゃぞ。この不届き者め、私を殺したいのか?」
司会を務めたツアーガイドのディーン氏始め、スタッフはみんな役に成りきってるためこんな感じだろう。とにかく断られるに決まっているのだ。
立希「そうなるって分かりきってるのに何でやったんだよ……」
燈「ふふふっ。でも、面白かったよ?」
立希「ならいいか」
そよ「よくないよ。時間浪費しただけで何にも打開してないんだから」
睦「……自分が言い出したくせに」
祥子「しかしそよの言う通りですわ。そろそろ真剣に考え直さないと……」
かなり良い線いってると思ったのにまた詰まってしまった。
どうにか自然な成り行きで宝に乱暴してもらうことはできないのかな……。
みんなでウーンと悩んでいると、会話が無い故に近くを通った参加者の話声が耳にこびりついた。
「3回間違えたら殴られるって書いてあったから身構えたのに、フリだったねー」
「うんうん、なんか設定凝ってるからそういうところも忠実なのかと思ったけど、流石にゲームだしねー」
CRYCHIC「……」
聞こえた話の内容が妙に気になった。みんなはどうかなと見渡すと自然と目が合う。
睦「……3回間違えたら、殴られる?」
立希「そう言えば、そんなペナルティなかったっけ?」
燈「あっ、コレ……。そよちゃんが見せてくれた説明書の、ここ……」
そよ「そうだった、自分で言い出しておきながら忘れてたよ」
祥子「そうですわ! わざと3回間違えて、こっそり持ってきた展示物でガードすれば……!」
立希「流石に展示物持ち歩くのはダメでしょ」
そよ「うーん、他に宝があるってことかな~」
さきちゃんのアイディアは残念ながらボツだけど悪くはない。あと一歩な感じ。あと1つ、何かピースを当てはめれば繋がる気がする……。
何かヒントがないかと周りを見渡す。パスルゲームに挑んだパズルの間、本物と偽物が混じった宝の展示物、試練の度に通った神官が常駐してるコーナー。この試練のプリントもそこでもらったっけ。むつみちゃんが妙にくさいことを言われてた……。
そよ「あ~~~!」
最後のピースを見つけた瞬間、頭に電流が流れたみたいに全てが繋がった。
その衝撃のまま思わず大声を上げてしまった。
みんなが体をのけ反らしながらこっちを凝視してくる。
燈「ど、どうしたの、そよちゃん!?」
立希「そよがそんな大声急に上げるなんて、ビックリし過ぎるんですけど……」
睦「……月ノ森生としてはしたない」
祥子「睦の言う通りですわよ?」
そよ「ネットミーム漬けとわんぱく盛りのお嬢様2人には絶対言われたくないけど……それより! 私たち、本物の宝って言われたでしょ!」
3人「……あぁ~~~!」
このピラミッドにおいて私たちは本物の宝と認められた。
つまり私たちに乱暴したものは呪いを受けることになる。
そして、ゲームに失敗したら殴られるペナルティ。バラバラに与えられた情報が、今噛み合って1つの答えを示した。
4人「わざとゲームに失敗して殴られたら、神官は宝を乱暴した扱いで呪い殺される!」
燈「……ってことなんだ……!」
全てがバチッと繋がった爽快な感覚に興奮した私は率先してパズルの間に向かう。一度クリアしても挑戦して構わないという確信があった。ゲームに参加する直前、ちゃんとプリントを見せてわざと失敗する。
かくして、私たちの状況を察した神官スタッフは1発目で私たちを殴ろうとして無事呪い殺されてくれた。
……じゃなくて、呪われた演技をしてくれた。
男性神官「見事じゃ! これを持って立ち……さ、れ……ガクッ」
そよ「どうも~♪」
睦「……そよ。人1人殺しといてニコニコ笑顔は、狂気だよ」
そよ「何とでも言っていいよ。今は謎が解けて気分が凄くいいから♪」
私たちは死に際(演技)に受け取った証をまた神官コーナーに持って行って、力の試練をクリア。
そのままプリントをもらい、正真正銘最後の謎に挑むのだった。
〇最後の試練~運命の試練~
今度のお題もシンプルだった。
そよ「この紙に陽の光を当てろ……だって」
祥子「あの……私達、密室のピラミッドに閉じ込められてるんでしたよね?」
立希「それでどうやって外の光なんて当てれるの?」
燈「あれ? 最初ディーンって人、1年に1度だけ太陽の光がどうの、って言ってた気する……」
そよ「あ、確か部屋の上の方からライトが当てられてたね!」
睦「……そよ。明らかに電球丸出しだったからって、設定ぶち壊すようなこと言わないであげて」
どちらかといえばお嬢様として世間離れしてるむつみちゃんに、空気読めと言われてしまった。少しショック。
祥子「待ってくださいまし。そのライト……じゃなくて聖なる光はもうとっくの昔に消えてますわ。ほら」
さきちゃんに指さされて、私たちは見上げる。
オープニングイベントであからさまに人工的な光を放っていたライトは、中の電球も見えないくらい真っ暗だった。
立希「詰んでない?」
そよ「待って、お題と設定的に聖なる光関連が無関係とは思えないよ。何か見落としがあるのかも」
祥子「それとも他に陽の光が差す場所が隠されてるんでしょうか。あとは謎かけになっていて、別のものが答えだったり……」
睦「……でもプリントにはお題しか書かれてない。謎かけを思わせる要素も他のヒントも一切ないから、祥の案は考えづらい」
燈「えっと……あの天井近くにある黒枠が外に繋がってる隙間なんだよね?」
そよ「黒枠? あ、聖なる光のことか」
部屋の照明によって明るくなった今、改めて聖なる光と呼ばれたライトを観察してみる。顔くらいの大きさのライトは周りが黒い枠線で囲まれていた。あの部分を隙間として表現してるんだろう。ともりちゃんの言う通り、外とピラミッドを繋ぐ唯一にして小さ過ぎる出入口。
燈「あそこから外に出れたら、陽の光も当てれるね」
立希「よくそこまで想像力働かせれるね、燈。でもあんな高い所に、しかも人間が通れる空間じゃないよ」
そよ「というか脱出してるから試練もクリアする必要ないね」
燈「うぅ……」
祥子「現実主義者の2人とも、あまりピュアピュアな燈を虐めないであげなさいな」
立希「私はそんなつもりじゃないけど」
そよ「私はそんなつもりだったよ♪」
立希「ってそんなつもりだったのかよ!」
睦「……ナチュラルにヒドくて笑う」
燈「睦ちゃん、ちっとも笑ってないのにそんなこと言わないでよ。そっちの方が……ふふっ……」
意地悪されたことにも介さずクスクス笑うともりちゃんが一番可笑しく思うけど、楽しそうだからよしとしよう。
むつみちゃんも同じようなことを思ったのか、彼女に微笑ましい顔を向けていた。
睦「……でも、燈くらい柔軟な発想の方が今は向いてそう」
祥子「そうですわね。さっきの試練のように、自分たちだけでなく神官に何か接触する必要があったり、でしょうか……」
そよ「そうだとしたらさっきみたいに紙を見せるような指示文無いのおかしくない? それがないとスタッ……神官さんも対応しづらいでしょ?」
立希「そよはそういうメタ的な方向で考えるよな。理にかなってるからいいけど」
そよ「たきちゃんもそういうタイプでしょ」
軽口で和む私たちは明らかに目の前の解けない謎から逃避していた。現実逃避も2度目となると、まるで本当にピラミッドに閉じ込められた気分になってくる。ここまでリアルな没入感求めてなかったのに……。なんだかげんなりしてきた。
『残り10分……あと10分で貴様らの命運も、ジ・エンド……クックック……』
『あと10分! あと10分だぞみんなー!』
アレクサンドロス3世とディーン氏の声に制限時間があったことを思い出す。確か60分だったはずだけど、いつの間に1時間近く過ぎていたことに驚いた。体感だと30分くらいだったんだけどな。
思ってた以上に熱中していた証拠かもしれない。
『ウッキキキ~!』
おまけみたいに響いた猿の声に、そんなのもいたなと呑気に思った。どこにいるのかと視線を巡らすと、猿のウッキーは相変わらずディーン氏の片手で可愛らしく操られている。まさかあの猿まで謎解きに関わってたり……。なんて、流石にないか。
(……ない……かな?)
チラッとみんなを見ると、4人共私と同じ方向を見ていた。
立希「あの猿なんて名前だっけ?」
燈「ウッキーだよ、立希ちゃん」
睦「……ウッキー……猿……」
祥子「私達より小さくて、高いところまで登れる……」
さきちゃんが呟いて、みんなハッとする。
人間じゃ届かないしつっかえる隙間も、小さい猿なら登れるし通れる。
つまり。
そよ「このプリントを……えっと、ウッキーに持たせて外に出せば、お題はクリアされる!」
祥子「それですわ!」
立希「でもどーやってウッキーに頼むの? 相手猿だよ?」
睦「……そこで、ディーン氏」
そよ「あの人の言うことなら聞いてくれそうだもんね!」
燈「それじゃ、ディーンさんにお願いしに行こう、立希ちゃん」
立希「そうだね、燈。……えっ?」
たきちゃんは鳩が豆鉄砲食らった顔でともりちゃんを2度見する。
ものすごく自然な流れでがたきちゃんがお願いすることになってるけど、これまでを考えればおかしなことではない。
そよ「そうだよ? たきちゃん以外みんな神官さんに答え提示したでしょ?」
睦「……私達は、運命共同体」
立希「みんなで試練を乗り越えるんですから、1人だけ何もしないなんて許されませんわ」
よりにもよって運命の試練でこの理屈をこねるんだから、私たちには切っても切り離せないものなんだと実感する。
……たきちゃんがお願いしてるところを想像して、思わず笑いそうなのを堪えながら。
立希「ウッキーへの頼み事を私にやれっていうの!? これで間違ってたら猿の人形に変な期待してる超イタイヤツになるんだけど!」
そよ、祥子、睦「ファイト!」
立希「頑張らない——」
燈「立希ちゃん、ふぁいと」
立希「……頑張らない……ないわけには、いかないか〜」
こうして、たきちゃんが顔を赤くしながらディーン氏にモゴモゴお願いしてくれてる。
その姿を私は写真に、私より鬼畜なむつみちゃんは動画に撮っていた。
たきちゃんが想像していた最悪の展開には(残念ながら)ならず、ご丁寧にもウッキーがチェキで撮ってきたという写真を受け取る。
そこには夕方の砂漠をバックに、答えが書かれてる紙が写ってましたとさ。