〇エンディング
女性神官「うむ、金字塔!
そよ、睦、燈、立希「おぉ~!」
祥子「やりましたわ、優勝ですわ~!」
さきちゃんが諸手を挙げて喜びを爆発させる。
まさか本当に一番早くクリアしてしまうなんて。特に最後の試練は頭を悩ませながらのめり込んでただけに、素直に誇らしくて嬉しい。こういうとき一番澄ましてそうなたきちゃんですら明るい表情だった。
女性神官「一番早く全ての謎を解いた功労を称え、ファラオより褒美が与えられるぞい。ありがたく頂戴すると良い」
そよ「褒美……ですか?」
初耳な情報に私たちは顔を見合わせる。私は(さきちゃんの言葉を借りると)優勝の記念として貰ってもいいかな、なんて思った。
ワクワクと顔を輝かせるさきちゃんとむつみちゃんは多分過剰に期待し過ぎてると思う。対して残り2人はどうでもいいのかふーんと平淡な顔で、温度差がちょっと面白い。
神官A「相手をミイラにするという、少々危険な杖でな。今はまだ渡せないが、時がくれば必ず其方達の手元に届くじゃろう。その時は、ためらわず掲げ給え」
立希「いやそんな物騒なもの使わないから」
睦「……そんなのより、金銀財宝の方がまだ良かった……」
むつみちゃんのワクワク顔から無表情への転落振りは、いかにガッカリしたかを表していた。2人のツッコミが気に喰わないらしい神官がプリプリと頬を膨らませる。
女性神官「えーい、ありがたく受け取ればよいのじゃ! とにかく時間が来るまで他の参加者の迷惑にならないよう座っとれ!」
燈「あ、あの……ありがとう、ございました。楽しかった、です……」
祥子「えぇ! 褒美は少々残念ですが、ゲームはとっても熱中しましたわ!」
神官A「(若干毒を吐かれたけど……流すそう)う、うむ。ひねくれ者ばかりと思ったが、お主達のように素直な者もおったようじゃな」
立希、睦「ひねくれ者ってこいつのことだよね?(お互いに指さし合う)」
そよ「2人共だよ、とにかくもう行こうねー」
神官と睨み合う2人を引きずりながら神官コーナーから離れる。
そうして私たちは言われた通り邪魔にならないところで座ってエンディングまで待っていた。
やがてゲーム終了の時間がやってきた。そこからは再び部屋の照明が落ち、エンディングイベントに移る。
スクリーンにアレキサンドロス3世が映り、ディーン氏に謎解きの解説をさせる。話によると全体の1割くらいしかクリアできなかったらしいので、その1割の、更に最初のクリア者として内心誇らしげに種明かしを聞いていた。チラッと見るとやっぱりさきちゃんはウキウキ顔だった。私と同じ気持ちの証拠。
なんて微笑ましいシーンもそこまで。色んな意味で、イベントはまだ終わっちゃいなかったのだ。
種明かしを終えたディーン氏がウッキーと一緒に怪しく笑い始める。そして——
ディーン「笑いが止まんねぇよ。これでピラミッドの宝を独り占めできると思ったらなぁ!」
銃を取り出しながら叫ぶ彼は、実はピラミッドの財宝を盗むために調査ツアーを組んだのだとか。
ディーン「最初からお前たちに財宝を探させ、口封じにピラミッドの崩落を装って始末するつもりだったんだよ。そうとも知らずノコノコやってきたお前らは本当におめでたいヤツらだなぁ!」
祥子「な、なんて汚い悪党ですの!?」
睦「……祥、ノリノリだね」
燈「わ、私たち、殺されちゃうの?」
立希「これは演技だし、万が一本当だとしても燈だけは守るから」
そよ「ツッコミどころ満載なたきちゃんは置いといて、こういうオチか~」
いかにもな茶番展開に納得しているとスタッフの人がコソコソ忍び寄って来て、暗闇の中さきちゃんに何か手渡す。
目を凝らしてよく見ると、杖のようなものだった。神官が言っていた褒美の話を思い出す。相手をミイラにするアイテム。これを掲げて悪党をこらしめるシナリオに協力してくれ、というメッセージだろう。
しかし渡した相手が私たちにとって最悪だった。こういうとき一番張り切るタイプのお嬢様。しかも優勝という目標をクリアして気分は有頂天、今だって悪役になりきってるディーン氏の演技に引き込まれてる様子。
祥子「この杖をこのタイミングで渡されたと言う事は……そういうことですのね!」
そよ、立希、睦(……マズイ!)
闇の中でもペカーッと光り輝く興奮顔なさきちゃんに、私たちの間で戦慄が走る。ダメだ、羞恥心振り切ったこのお嬢様は杖を掲げるだけじゃ絶対収まらない。
今抑え込まないと、一緒にいる私たちまで恥ずかし過ぎる展開に巻き込まれる!
立希「さ、祥子、分かってる? 掲げるだけでいいから、他に余計なことは——」
祥子「そんなわけには参りません! ここはビシッと決めないと!」
睦「……あの人も仕事で演技してるだけだから、アドリブされたら困る——」
祥子「見てる感じ随分キャラになりきってますから平気ですわ!」
そよ「そう言う問題じゃなくて、あんまり目立つことしたら一緒にいる私たちが恥ずかしい……」
祥子「ならば私がCRYCHICを代表して悪を懲らしめます! 貴女達は私の勇姿をとくとご覧遊ばせ!」
一緒にやらなければ恥ずかしくないってわけでもない。
と言おうとしても遅いらしく、さきちゃんはスクッと立ちあがる。そんなさきちゃんに、話についていけてないともりちゃんがおっかなびっくり尋ねる。
燈「さ、祥ちゃん? えっと……全然分かんないんだけど。何するの?」
祥子「ミイラ取りを、ミイラにするんですのよ?」
このイベントのオチとして妙にうまいこと言ったつもりなのか、いや微妙にズレてると思うけど。
ともかくドヤ顔なさきちゃんにスポットライトが当たる。私とたきちゃんとむつみちゃんは関係者と思われないように光を避けて戦々恐々と身を寄せ合う。これから繰り広げられる羞恥プレイに1人じゃ耐えれる気がしない。
彼女は無駄に勇ましい顔つきで、杖をビッとディーン氏に突きつける。
そして、マイクも無しにホール中響き渡るほどの大声で決め台詞を言い放った。
祥子「悪行もそこまでです!
ディーン「な、なんだこのノリノリ過ぎる嬢ちゃんは!? って、その手に持ってる杖は……!」
『愚か者め、ファラオの裁きを受けるがいい……」
アレキサンドロス3世のボイスと共に杖から光のエフェクトが放たれる。ビカビカと派手に明滅する杖を持つさきちゃんが痛々しいくらい眩しくて、ディーン氏と一緒に私たちも目を覆う。精神的に、とても見てられない。
ディーン「ぐ、ぐわ〜! なぜか全く同じ文言を2回言われたけど、おのれ死に損ないめ〜!」
祥子「成敗! ですわ!」
周りの参加者「お、おぉ〜……」
左手で杖をカンッと床に打ちつけ、右手で髪をファサッと払う、主人公過ぎる15歳の女子高生。
彼女の堂々過ぎる大立ち回りに、気遣い感たっぷりのまばらな拍手が徐々に大きくなり、やがて私たちに痛い雨となって打ち付けた。さきちゃんと無関係を装いたかったのに無駄だったらしい。こっぱずかしい茶番劇をかました変わった子のお仲間として、私たちも注目されていたから。
ディーン「ヒ〜!」
そよ、立希、睦「ヒ〜!」
燈「み、みんなから見られてる……こわい……!」
激しい光の中
なぜ苦労して謎解きをクリアした暁に、こんな辱めを受けなくてはならないのか。
その元凶をジロッと睨む。全てはムフーと満足気にふんぞり返って仁王立ちな恥知らずお嬢様のせい。こんなことなら、多少の恥を忍んでも私が変わった方がまだダメージは低かったのに……。
こうして。文句なしなゲームクリアから一転、恥ずかし過ぎるどんでん返しのエンディングイベントが終わった。会場から退散するや否や、さきちゃんがご機嫌な顔と声で宣う。
祥子「期待以上で最高に楽しかったですわ! またみんなで、こういう悪者退治な脱出ゲームに参加しましょうね!」
そよ、立希、睦「2度とゴメンだよ!!!」
いつもより解放的に感じる蒼天の下。
太陽みたいにキラッキラな笑顔のさきちゃんへ、全力の拒絶が3つ響いたのだった。