CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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※前書き※

マリア様が見てる、の小笠原祥子(さちこ)様をご存じでしょうか?
大企業の令嬢で、華やかな美貌に高貴な振る舞い。
()()()()()()()()()()()()()()()、お嬢様学校に通う生徒として理想的で、憧れの象徴。
自分にとって、お嬢様といえばそういうイメージなのです……。


CRYCHICなGolden Week その3 スポーツ祭りと大切な記念事
1番 さぁ、遊びまくりますわっ!/バレーボール/バブルサッカー


 

 

 そよside

 

 ※ ※ ※

  

 豊川祥子(さきこ)。国内でも有数の大財閥である、豊川グループのご令嬢。

 格式高いお嬢様が集う月ノ森女子学園においても一目置かれる、お嬢様の中のお嬢様。

 それは家柄だけを見られてのことではない。

 なんせ容姿端麗、品行方正、成績優秀と非の打ち所がない月ノ森の模範生だから。

 彼女が豊川家の娘として恥ずかしくない生徒であろうと頑張ってる所以だろう。仲間内でなければちゃんと外面張るのだ。

 そんな上辺だけ見られて、学園では密かに生徒会に入るとも(勝手に)噂されている。ゆくゆくは生徒会長に、とも囁かれてるらしい。

 ……彼女の実態を良く知る私とむつみちゃんからしたら、酷く不安に駆られる噂であった。

 一度スイッチが入ったら暴走列車の如く周りを振り回すさきちゃんに、生徒代表の地位と権利を持たせたら、由緒正しいお嬢様学校が大変なことになってしまう。

 

『あれを取り入れると面白そうですわね!』

『なんて楽しそうなんですの!? 我が校も倣うべきですわ!』

『月ノ森としての品格? そんなつまらないものに阻まれる私ではありませんの!』

 

 ……こうなる未来を、どうしても想像してしまうのだ。

 何故彼女について語ったかというと、いかに本来の彼女が世間的なイメージと真反対か、骨身に染みるほど思い知ったから。

 だってそうでしょ? スカートのプリーツは乱さず、セーラーカラーは翻さない。お嬢様の中のお嬢様というからには、それくらい慎ましくお淑やかな人だろうに。

 プリーツどころかスカート全体がめくれ上がるほど大はしゃぎし、セーラーがちぎれるくらい暴れ回る。有り余る元気と体力を恥ずかしげもなく発散し続ける、庶民中の庶民なさきちゃんに対して。

 私は、生まれる家を間違えたのでは、と幾度となく思った。

 

 ※ ※ ※

 

〇さぁ、遊びまくりますわっ!

 

 5月6日。ゴールデンウィーク最終日、午前10時頃。

 

祥子「やってきましたわ、スポッチャ! たっくさんのスポーツが楽しめる、まさにスポーツのテーマパーク!」

立希「祥子……いつも以上にテンション高いね」

祥子「実は今日のイベントを一番楽しみにしてましたの! 今日は疲れ果てるまで遊び尽くしますわ!」

睦「……体力お化けの祥が……疲れ果てるまで……!?」

燈「私たち、ついていける、かな……」

祥子「ついてきてくださいまし、運命共同体でしょう?」

そよ「元気と体力まで共にしてるわけじゃないんだよ、さきちゃん」

 

 ボーリングピンが目印の大きなアミューズメント施設へ、運動に適した服装で入った私たち。

 今日も今日とてさきちゃんの希望で遊びにきていた。

 スポッチャなんて、お嬢様として縁遠かった施設にして楽しいこと、体を動かすのが大好きなさきちゃんがいかにも大喜びで飛びつくところだよ。

 対して私たち4人の中に、さきちゃんみたいなアクティブ人間はいない。必然、1:4で激しい温度差が生まれてるのであった。

 しかしそんな哀しい状況も、既にスーパーハイテンションな彼女には些事に過ぎないらしい。

「もうっ、みんなテンション低いですわね」と頬を膨らませたかと思ったら、すぐに溢れる元気で顔を輝かせた。

 

祥子「まぁ、遊んでいればみんなもテンション上がりますわよね! さ、受付も済ませたことですし早速遊びに行きましょう! どれにしましょうか~♪」

そよ「とりあえず、さきちゃんの遊びたいのやろっかー」

 

 どれからだろうと、きっと回れるだけ回ろうとするさきちゃんのおかげで総合的な疲労度は変わらない。

 そう諦めた私は、半ば投げやりにさきちゃんに決定権を委ねた。 

 

立希「祥子。どうせ1日遊ぶんだから、なるべくセーブして遊んでよ。マジでついていけなくなるから」

祥子「善処しますわー♪」

睦「……祥は両手両足縛って遊ばせたら丁度良くなるんじゃ……」

燈「そ、それじゃいくら祥ちゃんでも何もできないよっ。……たぶん」

 

 スキップで先を行くさきちゃんの後を追う私たち。……むつみちゃんの案はわりとアリかもと、思った私だった。

 こうして、計10種類の遊びメドレーに私たちは踏み込んでいく。途中でお昼は取ったものの、これから記すのはその10種類の遊びについてとなる。

 

①バレー ~デッカイボール DE ボールツナギ~

 

 さきちゃんが最初に指さしたのは、バレーボールのコートだった。

 

祥子「ウォーミングアップも兼ねて、みんなでシンプルにボールを回しましょう」

立希「えっ、祥子? そんな無難な提案するなんて、どうしたの?」

そよ「いきなり試合したいとか言わないの?」

祥子「私だって周りを見て考えますわよ。このメンツいきなり試合してもあまり盛り上がらないでしょう」

睦「……てっきり向こう見ずに突っ走るものとばかり……」

燈「祥ちゃん、いつもより元気なのに周りも見れてるなんて、偉いね」

祥子「貴女達私を何だと思ってますの!」

 

 意外な冷静さを見せてきたさきちゃんを揶揄いながらコートに入ると、目を引く巨大なボールがあった。

 

そよ「何このボール、すっごい大きい!」

睦「……デカ過ぎんだろ……」

祥子「睦、口調が完全に淑女としてキタナイですわよ」

立希「祥子、たぶんだけどコレもネットミーム」

睦「……一度言って見たかった。みんなもこれだけでいいから覚えて」

燈「う、うん。デカ過ぎ……」

立希「覚えなくていいから燈! おい睦、純粋綺麗な燈を汚さないで」

睦「……今や定番中の定番な名セリフなのに……」

 

 ネット厨のボヤきはさておき、直径1mくらいのボールが珍しい私たちはせっかくなのでコレを使うことにした。

 さきちゃんが打ち心地を確かめてみる。

 

祥子「それっ! このボール大きい割に軽いですわ! ちょっとの力で簡単に飛びますわよ!」

そよ「よっとっ。ホントだ、むしろ小さいのよりボール回ししやすいかもねー!」

 

 私が繋いで、たきちゃん、他2人も打ち上げる。ともりちゃんなんかは不器用な軌道だけど、とりあえず打ち上げることに問題はなさそう。

 そこまで確認して、私たちは円になってボール回しを始めた。

 

祥子「最初は10回繋ぐのを目標にしましょ! 1!」

立希「まぁ妥当な目標だわな……2、と!」

睦「……3。飛んでくるとき、結構迫力あるね」

そよ「4! ボールが大きいから、スピードも速く感じるのかもね」

燈「え、えっと……ご、5! あっ」

 

 ともりちゃんが打ち上げたボールが明後日の方向に飛ぶ。

 その先には誰もいないため、そこで終わるものと思ったけど。

 

立希「うぉおおおお! 6ッッッ!」

 

 そこに全力疾走で突っ込む頑張り屋が1人。ともりちゃんを悲しませないために必死でフォローするたきちゃんだった。

 私たちの方へ高く高く上がったボールを、むつみちゃんが追っていく。……いつもの無表情は、若干悪い顔していた。

 

睦「……そこまで燈で終わらせたくないんだね、立希。……ぷくく、7」

燈「わっ、また私にきたっ……は、8っ!」

 

 明らかにともりちゃんを狙ったボールはまたあらぬ方向に飛んでいく。すかさずダッシュするたきちゃんを見て、私とさきちゃんもニヤリと顔を見合わせて方針を揃える。

 

立希「睦っ、悪い顔してるように見えたけどわざとじゃないよねっ、9っ!」

そよ「変な疑いかけちゃ可哀そうだよー、たきちゃーん。10っ」

燈「わわわっ、11!」

立希「お前らぁああ! ンンン12ィイイッ!」

祥子「目標の10超えたので、次は20目指しましょう! 13っ♪」

燈「わ、分かった。14っ!」

立希「か、勘弁して……燈っ、せめて輪の中心狙って打ち上げてぇええ……じゅ、15ォッ!」

睦「……だってさ、燈。試してみようか。16」

立希「ハァ、ハァ、わざわざ燈に回さなくていいんだよ鬼畜ボケ娘ッ!」

燈「輪の中心めがけて……17っ! あっ、輪の外に飛んでっちゃった……」

立希「クソォオオオオ! 18ィイイイ! も、もう無理……」

 

 飛びつきながらレシーブする超ファインプレーなたきちゃんはそのままコートに寝っ転がって動かなくなった。

 ……まだ最初の遊びなのに、早くも披露困憊にさせて少し罪悪感が募る。悪ふざけしちゃってごめんね、たきちゃん。

 

祥子「なら私が立希の代わりを務めますわ、行きますわよ燈! 19っ」

燈「う、うん。……20っ」

そよ「あれ、上手にさきちゃんの真上に飛んだね~」

祥子「あら、立希みたいにたくさん動き回りたかったですのに。残念」

燈「なんか、力加減掴んだかも」

睦「……立希のおかげかな。よかったね、立希」

立希「ハァ、ハァ……早々にゴリゴリ削られた体力的に……何も良くないんだよ……」

 

 実際、これからさきちゃんの元気に1日付き合うことを考えたらたきちゃんの立場は辛すぎる。

 罪滅ぼしじゃないけど、私(と途中から意図を察したむつみちゃん)はさきちゃんにボールを集める。

 少しでも体力を削ろうとなるべく走らせるコースでパスしたのに、彼女は全てに追いついた。

 

祥子「あら、コートの使用時間に制限がありますのね。物足りないですが、仕方ありませんか……」

そよ、睦「ぜ、全然元気そう……。立希(ちゃん)並みに振り回したのに……」

 

 しかもケロッとしてる様子からほとんど体力を削れなかったらしい。

 私たちは異次元のスタミナっぷりに畏怖の念を覚えて、引きつった顔を見合わせる。

 

そよ「さきちゃんって、今家から出て行ってもたくましく生きてそうなバイタリティしてるよね……」

睦「……早朝から走って新聞配達とか、余裕でしてそう……」

 

 私たちがそんなコソコソ話をしてるよそで、さきちゃんとともりちゃんはニコニコ話してた。

 

祥子「燈。最初に比べると随分上手になってましたわよ」

燈「うんっ。バレーボール、楽しいね、さきちゃん」

祥子「バレーだけじゃありませんわ、他にもたくさん楽しいスポーツが待ってますの! 次行きましょ、燈!」

燈「お、おぉー! えへへ……」

 

そよ、睦「イイハナシダナー」

立希「そよ……そんなつもりじゃないだろうけど、たぶんそれネットミームだから……」

睦「……正解」

そよ「ねぇ。前から思ってたけど、なんでたきちゃんはネットミームかどうか分かるの?」

立希「睦がネットミーム使うときは表情とか声に特徴があるから、勘で分かるんだよ」

 

 何とか体力を回復させたのか私たちに合流したたきちゃん。

 それにしても。むつみちゃんはほとんど顔に出さないのに、その僅かな差異を見極めて真意を察する彼女は本当にむつみちゃんと通じてるな。

 たきちゃんはたきちゃんで、むつみちゃんのことが大好きなんだと思った。

 

②バブルサッカー 〜バブルバトル〜

 

祥子「そよ、そよ! あそこの人たちが遊んでるスポーツ、あれは一体!?」

そよ「あぁ、あれはバブルサッカーだね。テレビとかSNSで見たことあるよ」

 

 それこそさっきのバレーボールくらい大きな透明のボールに人が入って、サッカーをしている。どうも近年流行してきた、遊び的なスポーツらしい。

 

睦「……思ったけど、そよもSNSやってるんだったらネートミームとか触れないの?」

そよ「逆にそういうの見たことないよ? むつみちゃんどんなキタナイSNSやってるの?」

睦「……ぐぅの音も出ない……」

 

 そんな与太話は置いといて。さきちゃん面白センサーにビンビン引っかかったバブルサッカーをすることになった。

 私たちはぞれぞれ穴が開いたボールへ体を潜り込ませる。5人共、大きなボールを装着したおかしな図が完成した。

 

そよ「うーん、せっかく面白そうな写真撮れそうなのに撮れないのはもったいないかも」

祥子「その分面白い記憶が刻まれるように楽しみましょ!」

立希「ねぇ、こんな邪魔くさいボール纏ったままサッカーできるの?」

燈「ぶ、ぶつかっちゃいそう……」

睦「……燈。さっき見てたでしょ、これはぶつかるのが醍醐味の遊びなの。……それ」 

燈「わっ」

 

 習うより慣れろ方式で、軽くともりちゃんに体当たりして転ばせるむつみちゃん。当然、ボールには空気が入ってるのでクッション性はバッチリ。ともりちゃんはきょとんとした顔で寝っ転がっていた。

 

燈「ホントだ、いたくない……」

そよ「でしょ? それじゃ次は人にぶつかる練習ね。ともりちゃん、そういうのいきなりできないでしょ?」

燈「い、いいの?」

そよ「そういうゲームだもん。さ、私に体当たりしてみてー」

 

 ともりちゃんは言われた通りヨチヨチ近づいてきて、えいっという掛け声と共にぶつかってきた。うん、これでよし。

 ということで私は倒れないよう体を踏ん張らせて、逆にともりちゃんをポヨーンと弾き飛ばす。再びコテンと倒れたともりちゃんは目をパチクリさせてた。

 

そよ「うんうん、その調子でぶつかって大丈夫だからねー♪」

燈「う、うん。次は、もうちょっと頑張ってぶつかる、ね」

そよ「ふふっ、かかってらっしゃーい……あだっ!?」

 

 突然死角からすごい衝撃を受け、私は1mくらい吹き飛んだ。

 せっかくともりちゃんと和やかな雰囲気でいたのに、明らかに攻撃的なミサイルのような誰かさんによって台無しにされた。

 痛くはないとはいえ、これには流石にカチンとくる。

 

立希「燈。これくらい勢いあってもいいから。痛くないでしょ、そよ」

そよ「やってくれるね、たきちゃん。しかも不意打ちなんてキタナイかたちで」

立希「ふん、せっかくの燈の体当たりに意地悪した報い」

 

 和気あいあいとした珍しいスポーツ体験の雰囲気は、火花散るバトル的な殺伐としたものに変わっていく。

 

睦「……思ったけど、ボール要らないのでは?」

 

 スポーツ名の半分を蔑ろにするようなことを言いつつ、今度はむつみちゃんがさきちゃんを体当たりで押し倒す。

 

祥子「いきなりはビックリしますわよ睦! お返しですわ!」

睦「……ここっ!」

 

 むつみちゃんは立ち位置を調整するように逃げ回り、さきちゃんのタックルを躱す。結果、たきちゃんが吹っ飛ばされた。

 

立希「祥子……良い度胸してんね。ぶっとばす」

祥子「上等ですわ、かかってらっしゃい!」

そよ「じゃ遠慮なくー♪」

燈「え、えいっ!」

祥子「ってそよと燈の挟み撃ちですの!?」

 

 面白そうなので2人でアタックしてみたのだ。

 しかし完全にノリでやってみた行為。考えてみれば当たり前だったけど、挟まれたさきちゃんは反発を返してくるだけなのだから、結果自分たちが倒れるだけに決まっていた。

 

燈「あでっ」

そよ「あ、あはは……バカやっちゃった~♪」

立希「何やってんの……あだっ」

睦「……せっかくだから、全員倒して一人だけ立ってたい」

祥子「あら、私がいるのでそれは無理ですわね」

睦「……祥、覚悟」

祥子「睦がパワーで私に勝つなど不可能ですわ! ふんっ!」

睦「……パワー系幼馴染には、勝てなかったよ……」

祥子「勝利っ……あらっ!?」

立希「ふん、油断してるから……どわっ」

そよ「それはたきちゃんもだけどね……きゃっ」

燈「か、勝った……私が、優勝……?」

4人「や、やるね燈(ちゃん)……」

 

 まさか一番非好戦的なともりちゃんが戦いを制するなんて。

 意外な結末を迎えたバブルバトルだった。

 ……サッカーしてないけど、まぁいっか。

 

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