CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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4番 テニス ~庶民トリオ VS 貴族コンビ~

 

 

④テニス ~庶民トリオ VS 貴族コンビ~

 

睦「……やっぱり時代はテニス」

立希「それはちょっと前だな。最近錦織も聞かなくなっちゃったし」

そよ「それこそ最近のスポーツといえば大谷ブームだから……」

祥子「だとしてもテニスはいいじゃありませんか! 野球よりボールを打ちやすいですし、楽しみやすいですわ!」

燈「それならいいな。空振りは、虚しいから……」

 

 なんとなく色んなことに通じそうな深いことを言う、詩人なともりちゃん。今日のこともいつか歌詞にするかもしれない。せめて今のフレーズを使うような悲しい歌詞にならないといいな。スポッチャ行って悲しい曲作ることがもう哀しいから。

 

 テニスコートに入った私たち。さきちゃんむつみちゃんの希望で、ボールは硬式を扱うことにした。

 まずは練習も兼ねて、バレーボールのときみたいにみんなでボールを回し合う。

 慣れてきたところで、2:3で試合することにした。

 

祥子「さぁ睦、エースを狙いますわよ!」

睦「……ひとつのコートでひとつのボールを追う以上、私達パートナーは一心同体」

 

 ネット越しに背中合わせで、全く同時にラケットを向けて来る幼馴染コンビ。……今日は背中合わせ好きだなぁ。

 にしても10年以上の付き合いだけあって、流石の息の合いっぷり。活発派と引きこもり派で決定的に合わない部分もあるとはいえ、2人はお互い半身のような存在といつか言っていた。お互いの動きは手に取るように把握してそう。

 

立希「3対2。人数的にはこっちが有利だけど……」

そよ「うん。あの2人が完璧な布陣で構えてる以上、互角どころかちょっと厳しいかな?」

燈「布陣……睦ちゃんが前で、祥ちゃんが後ろにいるのが?」

 

 よく動き回る運動神経抜群のさきちゃんが後衛。体力も筋肉もないけど大胆で器用なむつみちゃんは前衛。

 さきちゃんがメインでボールを拾いつつ攻撃してきて、むつみちゃんが隙をついてボレーで決めてくる。そんな作戦が読めた。

 テニスというのは前で打った方が決定打になりやすい。つまりいかに前で攻めて、相手の前衛には仕事させないかが肝になってくる。

 というセオリーがあるのだけど……。

 

そよ(対してこっちはともりちゃんがいるんだよなぁ。むつみちゃんみたいに器用でもないから、正直穴っちゃ穴だし)

立希(まぁ燈は前にいてもらって、そよと2人で後衛守るか。チャンスあったら前行って決めればいいし)

 

 こちらは前衛に頼りないともりちゃんを置かざる得ない。点を取られないためには後衛も大事なのだ。決定打をある程度捨ててでも、守備を固めたい。こういうとき、堅実な考えをするたきちゃんと私はリンクしやすかった。

 言葉なくたきちゃんと以心伝心し合い、それとなくともりちゃんをネット際に置いて私たちはコートのベースライン際に立つ。

 タイブレーク制、7ポイント先取した方が勝ちというルールで、珍しくバンド内チーム戦が行われるのであった。

 

 スコア 0-0

 

祥子「最初は様子見。ある程度手加減しましょうか」

立希「むっ」

そよ「むむっ」

睦「……開幕精神攻撃。えげつない幼馴染」

 

 宣言通りアンダーサーブを繰り出してきたさきちゃん。まずは上から振り下ろすオーバーサーブをさせるまで本気を引き出すところが目標かな。ていうか、絶対出させる。

 私の方へ山なりに飛んできたボールに対し、サービスライン際まで前に出て左側で構えて待つ。決して速くない球威、私は慌てずに打つコースを思い浮かべながら力を溜める。一気にラケットを振り抜いた。

 さきちゃんのサーブより速いフォアハンドショットがネットギリギリの高さでさきちゃんの逆サイド(オープンコート)を襲う。前にいるむつみちゃんは、思った通り腰辺りのコースは打ちづらいようで動かなかった。

 イメージ通り前衛に触らせずに後衛の逆をついた返球がらできたのだ。

 

そよ「やったかなっ!?」

睦「……ぷくく、特大のフラグ台詞乙」

 

 コースもスピードも上々だっただけに、私はポイントした、と思ってしまったのだ。

 ベースライン上を疾走するさきちゃんが見えてなかった。

 

祥子「いいショットじゃありませんか、そよ! これは油断できませんわ、ねっ」

そよ「うっ、普通に追いついてきた!」

 

 しかもブレーキをかけながら構える余裕まである。というか普通にこなれてるみたいで上手い。

 私のショットの勢いを利用したバックハンドのカウンターがクロスに奔る。

 

燈「うわっ!」

睦「……燈。避けちゃ打てないよ?」

燈「あ、あんな速いボールが突然来たら、ビックリするよ!」

立希「ま、任せて燈っ! 燈をビビらせた報いだ、くらえダウンザライン!」

 

 ダウンザライン。クロスからのボールをストレートに打ち返すショット。

 逆側にいた相手は、これを強打されると普通追いつけない。だから決め球として使われるのだろう。

 たきちゃんも思ってたより速いボールに驚いてはいたのだろうけど、自分側に飛んでくるから待ってるだけでいい。それで若干慌てながらも強く打てたのだろう。

 ベースラインからの打球とはいえ、さっきより勢いの増したボールが誰もいない直線上に突き進む。流石のさきちゃんもまだ逆サイド、今度こそもらった!

 ……さきちゃんが不敵に笑ってるのを見て、ギクリとする。そうだ、相手は1人じゃない!

 

睦「……燈。前にいる人は、こうやってボレーを打つの」

 

 今までネット際で大人しくしていたむつみちゃんが飛び出してきた。

 彼女はラケットを頭付近で立て、ボールに合わせる。さっき私が打ったのと違って、このコースは前衛にとって絶好球なのだ。

 鮮やかなボレーは、私とたきちゃんの中間を切り裂く。

 突然想定してないプレーをされ、私もたきちゃんも一歩も動けなかった。

 

そよ「ごめん。むつみちゃんの存在忘れて、油断してた」

立希「いや、私も安易に祥子の逆サイド狙ったのがいけなかった。でもあの2人、マジで隙がないんだけど……」

そよ「うん。思った以上にガチだね」

 

 ラケットを打ち合わせて喜び合う幼馴染コンビを苦々しく見る。素人が崩せるレベルしてない。

 せめてこっちもボレー係で牽制できたら……

 

燈「立希ちゃんそよちゃん。私も、ぼれー打つねっ!」

 

 ラケットを握ったままムンッと張り切るポーズを取って近づいていたともりちゃん。

 私とたきちゃんは顔を見合わせた後、ともりちゃんの頭を撫でた。

 

燈「え、えっと。2人とも、なんで撫でるの?」

そよ「ううん、ともりちゃんは健気というか、純粋というか能天気というか……」

立希「まぁアレだ。癒されたお礼ってことで。ボレー、できたらでいいからね」

燈「う、うん……」

 

 怖気づいてても仕方ない。2人&癒しキャラの2.5人パーティーで、どこまで食らいつけるかやってみよう。

 私も、やられっぱなしで諦めるのは嫌だからね。

 

 

 

 その後もゲームは続き、まるで出来すぎた展開のように、スコアは6-6。

 1ポイント目のやられ具合を考えればあり得なかったけど。こっちのポイント内訳はこうだ。

 向こうのミスショットで4ポイント。向こうからの返球にともりちゃんのラケットがたまたま当たったラッキーボレーで1ポイント。これも正直たまたまだけど、2人が対応できないコースを私が閃いて上手く打ち込めたことで1ポイント。

 実質、運だけでここまで来た。そして、2ポイントリードまでなんてしない。次が正真正銘、最後のゲーム。

 

CRYCHIC「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 5つの荒い呼吸だけがコートに響く。そりゃそうだポーン、ポーン、と緩く山なりの仲良しラリーをしてたわけじゃない。

 パァン、パァンと耳を打つ全力のインパクト音がぶつかり合った、ガチ試合だったのだから。

 そう。相手の本気を引き出すところまでようやく来たのだ。

 ——ようやく、今から。

 

祥子「ふふっ、みんなとこんなに熱い勝負ができるとは思ってませんでしたわ」

 

 これからサーブを打とうとするさきちゃんは、左手でボールをポン、ポンとバウンドさせる。

 今日初めてするルーティーン。ここまでアンダーサーブだったけど、ついに球威重視の本気を打つつもりなんだ。

 

立希「そよ、オーバーサーブが来るぞ! ベースラインより後ろに下がれ!」

そよ「分かってるよ、ここまで来たら最後のポイントも取る!」

睦「……確かに。6-6(ここ)まで来て負けるのは悔しいね」

燈「さっきの感覚を思い出して……うん、頑張る!」

 

 私たちにしては珍しく熱血な会話の後、さきちゃんが構える。

 そして今まで違い、上に高くトスされるボール。トスした左手をまっすぐ上に伸ばすところも、膝を曲げて下半身に力を溜めてるところも。本物のテニス選手みたいに様になっていて、元々ルックスの良い彼女にさらに惹きつけられそうになる。

 

(って、私今日だけで何回さきちゃんに見惚れてるの? なんか腹立ってきた……いつもは世話焼かせてくるじゃじゃ馬お嬢様のくせに~! 絶対返してやる!)

 

 謎の怒りをラケットに込めて、私は集中力を増して待ち受けた。

 さきちゃんが垂直に飛び上ると同時に、右腕が鞭のようにしなり、振り回される。

 

祥子「ハァッ!」

 

 一番高い所でボールがインパクトされる。見事としか言いようのない綺麗なフォームから放たれたボールが、今までと比べ物にならないスピードで私に迫る。

 ここで大事なのが、とにかく返すこと。それもむつみちゃんに触られたら一発でボレーかスマッシュを決められちゃうから、今までと同じようにさきちゃんに拾わせないといけない。でも今までみたいに勢いよくは返せない。こんな高速サーブなんて正直ラケットを当てるので精一杯だ。

 

そよ「……やぁっ!」

 

 それでもなんとかさきちゃんの逆サイドへ狙いをつけてラケットを当てる。山なりのロブが、狙い通りのコースに弧を描いてくれた。ひとまず最初の関門を突破して内心ホッとする。

 でもまだまだこれから。余裕で追いつくどころか回り込んで待ち構えたさきちゃんの、強烈なフォアがクロスに炸裂した。

 しかしそれを受けるたきちゃんに慌てる様子はない。

 

立希「この程度ならもう十分慣れた……なめんなっ!」

 

 実際こんなのをボコボコ打ち込まれてきたため、私たちもこの試合で成長したのか対応できるようになっていた。

 たきちゃんはさきちゃんのいないストレートに打つ、ことはなくクロスに返球した。ストレートに打てば伏兵たるむつみちゃんに決められる。一縷の望みを懸けて、さきちゃんと一騎打ちを臨んだのだ。

 

祥子「良い度胸でしてよ、立希!」

立希「祥子、ここで決着をつける!」

 

 本当に少年漫画みたいな展開の会話を繰り広げる2人。しかし私も熱くなってるため、冷めるどころか前に出て奇襲をかけれないかと本気で思案した。

 が、その手は諸刃の剣。成功すれば一気に勝負を決めれるけど、失敗すれば特大の隙を晒す。私の行動もまた、大きく試合を左右するのだ。迂闊には打って出れない。

 パァン!……パァン! フロア中に響くほどの打球音がリズムよく繰り返される。だからなのか、なんだかコートの外からちらほら視線が集まってきてる気がするけど。そんなこと言ってられない、試合に集中しないと一瞬の隙を突かれて負けてしまう。

 

立希「はぁ、はぁ……だぁっ!」

 

 もう何回目かも分からない痛烈なラリーに、たきちゃんも息があがってる。それがショットにも影響を及ぼしたのかもしれない。球威が下がって甘くなってきたたきちゃんのショットに、1人の少女が横から迫る。

 

睦「……立希、祥相手によく頑張ったね。ここで楽にしてあげる」

立希「ぐっ、睦!」

そよ「させないっ!」

 

 むつみちゃんの角度をつけたボレーに私は必死で追いすがる。今むつみちゃんはさきちゃんと同じ側にいた。

 つまり逆サイド、それもサービスライン当たりが今はガラ空き。ピンチに見えてチャンスでもあるんだ!

 

そよ「……だっ!」

 

 腕を伸ばして手首だけでラケット面を調整する。なんとか返して、祈るような気持ちでボールの行方を見守った。

 よしっ、狙い通りガラ空きのコースに行った! ボールが1バウンドする。もう1バウンドすれば、私たちの勝ち……。

 

祥子「まだですわっ! はぁっ!」

 

 私が打ったときは確かにまだ逆サイドベースライン際にいたさきちゃん。

 そこから疾風のように駆けて、ボールが地につく寸前で掬い上げてきた。なんという敏捷性、なんという執念だろう。

 ……でも流石に余裕がなかったのかコースは悪かったよ。残念だったね、さきちゃん。

 確かに最初こそお荷物だったよ。だから人数で上回っててもこっちは全然有利じゃなかった。彼女がラッキーショットをきっかけにボレーを覚えるまではね!

 

燈「さっきみたいに、ラケットを立てたまま……当てる!」

祥子「しまったっ! 燈の真正面に返球を……」

 

 今さら気づいてももう遅い。ともりちゃんが両手で構えたラケットにボールはぶつかり、都合の良いことにクロスへ反射した。

 さきちゃんとむつみちゃんを真っ二つにするようなボレーがコートに突き刺さる。テン、テン……とバウンドしていくボールを私とたきちゃんは歓喜で顔を輝かせながら見つめ、さきちゃんとむつみちゃんは呆気にとられた顔で見送った。

 

そよ「勝った! 私たちの勝利だ~!」

立希「祥子に勝った! 勝ってやったぞ!」

祥子「ちょ、ちょっと立希! 別に私が貴女に1対1で負けたわけじゃありませんわよ! あくまでチーム戦であって……」

睦「……祥。正論なんだけど、ここで言っても負け犬の遠吠えになっちゃうよ」

燈「私が、決めた……。まぐれじゃなくて、決めようと思って決めた……!」

そよ「凄いともりちゃん! ナイスプレーだった!」

立希「文句なしのMVP! 天才! 最高!」

祥子「ズルいズルいズルい悔しい悔しい悔しい~~~!」 

睦「……運動音痴な燈の貴重な活躍を味方として称賛できないのと、勝者として喜びを分かち合えないのが悔しいし、3人が羨ましいんだよね。まぁ、分かるよ」

祥子「む~つ~み~! 全部分かってくださってありがとうですわ~!」

 

 私たち勝者は抱き合って喜び合い、敗者2人組は悔しさを分かち合うように身を寄せ合っていた。

 

 ……いつの間にか見守っていたらしい観客たちに拍手を送られ、途端に冷静になって恥ずかしくなってきた私たちは、そそくさとテニスコートから逃げ出すのだった。

 

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