CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

45 / 143
6番 カラオケ 前奏 ~あの日ぶりに、みんなで~

 

 

 ※ ※ ※

 

 さきちゃんにはいつも本当に振り回されてきた。去年は夏の合宿はまだいいけど、苦行な山登りに2回も付き合わされた。

 その経験で彼女の活発さにすっかりげんなりした私は、今回のGW連日遊びを提案されたとき、どうしても渋り気味になってしまったけれど。

 じゃあ心底そういうさきちゃんを嫌ってるかというと、むしろ逆だった。

 だってさきちゃんがそんなにイベント事を起こすのは、CRYCHICが大好きだから。大好きなみんなと楽しい思い出を作りたい、そういう想いが、私は大好きで、救いだった。私もみんなと思い出を作りたいから。

 けど私はどうしても見栄を張りがちで、自分から言い出すタイプじゃなくて。そんな私の代わりに彼女が口にして叶えてくれてるのだ。

 だから私は、さきちゃんにちゃんとお礼しなきゃいけない。それも、さきちゃんがとある記念で提案してくれたこの連日遊びの内に。そうしないと、私はズルいままで自分が許せないから。

 私をかけがえのない居場所に導いてくれた大切な人。これからもずっと、さきちゃんらしくいて欲しかった。

 

 ※ ※ ※

 

 スケート靴を返却した流れで、自然と休憩所のソファに直行し腰を下ろす。それくらいにはクタクタだった。

 かなりの数回ったから、当然と言えば当然。むしろよくここまでついてこれたものだと思った。まぁ、楽しくてアドレナリンが上がってたのが大きいかな。

 周りを見れば、(1人を除いて)みんなソファに体を持たれかけて疲れた顔してる。この雰囲気はそろそろお開きな感じだ。

 というのは一人だけ立って私たちを伺うように見ていたさきちゃんも感じ取っているようだったけど。

 

祥子「あの、みんな……。最後に1か所だけ、付き合ってくださいませんか?」

 

 それでも遠慮がちに提案してきた。いつも問答無用で引っ張りまわしてくる彼女にしては珍しいしおらしさだ。

 

立希「マジ? 流石にもう運動する気力も体力もないんだけど……なにしたいの?」

 

 疲れてるから即却下したいだろうたきちゃんも、流石に話ぐらい聞いてあげようといつもより譲歩的だ。

 

祥子「運動じゃありませんけど……カラオケ、です。1時間でいいので行きませんか?」

そよ「カラオケかぁ……」

 

 確かに体を動かすわけじゃないから付き合えそう。それに、いつになく誠実なさきちゃんのお願いを無碍にするのは気が引ける。

 

そよ「カラオケならいいんじゃない? 歌ってよし、疲れてたら休んでよしで悪くないと思うよ?」

燈「祥ちゃん、私はいいよ」

睦「……そよの言う通りだから、いいよ」

立希「まぁ確かにな。1時間ね、いいよ祥子」

祥子「ありがとうございますわっ!」

 

 みんなの了承で途端に明るい笑顔を咲かせるさきちゃん。どうもこれだけは絶対行きたかったらしい。去年行ったっきりで1年ぶりだからかな?

 

そよ(あぁ……そっか。だからカラオケしたかったのか)

 

そよ「お礼なんてしなくていいよ、それじゃさっそく行こっか!」

立希「急に元気なるじゃん。そよもカラオケしたかったわけ?」

睦「……? ……あぁ、そっか、あれ以来か」

燈「あれ以来……そっか!」

立希「そういえば一周年がどうのって花見で言ってたね。なんでもいいけど、さっさと行くか」

祥子「えぇ!」

 

 私たちはソファから立って、カラオケのあるフロアに向かい出す。

 今日の締め、いやこのGWの締めとして相応しい思い出を作りに。

 だって。私たちが出逢って、初めてカラオケ行ったのは。去年のこの時期くらいだったから。

 

 

 私とたきちゃんで受付してる間に、他3人はドリンクバーで飲み物を用意していた。受付の人とやりとりしてても聞こえるくらいの騒ぎで。

 

睦「……祥。ドリンクバー、押しても出ないかもよ?」

祥子「もう去年みたいに違うところ押しませんわ! 私だって庶民の常識を学習してますの!」

燈「わわっ、祥ちゃんカップ置く前にボタン押そうとしちゃダメだよ!」

祥子「はっ、私としたことが、御免あそばせ?」

睦「……ププッ。ホント、懐かしい……」

祥子「こんなシーンで懐かしがられても複雑ですわ! むしろそこは忘れてもいいくらいでしてよ!」

睦「……忘れるなんてもったいない。あんなことする女子高生、他にいないのに」

祥子「だから恥ずかしくて忘れたいんじゃありませんのー!」

立希「うっさーい! ドリンクバーで騒ぐところまで再現してなくていいから!」

 

 私の横にいたのに、騒ぎを見かねたたきちゃんが注意しに行ってしまった。……収めるどころなんだか余計騒がしくなった気がするのだけど。

 ちょうど受付も終わったので、溜息をつきながら私もみんなのところに向かう。

 

そよ「3人共、たきちゃんも遊ばないでくださーい♪」

祥子、立希「遊んでないでしょ!」「遊んでませんわ!」

燈「ふふっ、何から何まで、懐かしいね」

睦「……燈、騒ぎに混ざってないと思ったらちゃっかり自分の分準備してたんだ」

祥子「全く、こっちは立希に邪魔されて碌に準備できませんでしたわ」

立希「お前が終始ギャーギャー騒いでるせいでしょ! 人のせいにすんな!」

そよ「たきちゃん、ミイラ取りがミイラになってるよ? ……本当にこれ以上騒ぐのは恥ずかしいから、さっさと準備しようね」

 

 受付からの視線が痛くなってきた私はみんなを促す。

 準備万端となった私たちはカラオケルームに向かった。

 

 

 部屋に入った私たちは荷物を置いてソファに座る。

 

祥子「さぁ! まずは私が先陣切りますわ~! 何歌いましょうか……」

そよ「ねぇさきちゃん、一緒にsumimi歌わない?」

祥子「いいですわね! せっかくですので私初華のパート歌いますわ!」

 

 ということで、さきちゃんと一緒にデュエットした。sumimiは今超有名なアイドル2人組の歌。明るく可愛い曲としてカラオケの初手にふさわしい楽曲だった。

 

祥子、そよ「いぇーい♪」

燈「2人とも、上手だった」

 

 マラカスを両手にシャカシャカしていたともりちゃんがニコニコと褒めてくれる。我らが誇るボーカルにそう言われるのは、なんだかむずがゆいものがあるな。

 

そよ「ありがとう、ともりちゃん♪」

祥子「燈も、上手にマラカス振れてましたわ」

立希「マラカス上手に振るってなんなの? 上手いの基準が分からん」

睦「……次は私。私も燈に、上手にマラカス振ってもらう」

立希「お前はお前でどんな宣言してんの」

 

 そう宣言したむつみちゃんにさきちゃんがマイクを渡す。

 選ばれたのはやっぱりパスパレだった。曲は『Y.O.L.O!!!!!』。アイドルにしてはなんだか激しさに重きを置いてるな、と思ったけどその感性は間違ってなかったらしい。

 むつみちゃんが振りつけしながら歌い終わったあと、たきちゃんがむつみちゃんに話しかける。

 

立希「ねぇ、今のってAfterglowさんもやってた曲だよね? 元々パスパレの曲だったんだ…‥」

睦「……最近知ったからまだまだにわかだね、立希。この曲はAfterglow……さんが作った曲なんだよ」

立希「えっどゆこと!?」

睦「……Afterglowさんからパスパレに楽曲提供されたの。凄いよね、高校生バンドなのにアイドルグループの作詞作曲依頼されるなんて」

 

 ちなみにAfterglowにさんをつけないと一々たきちゃんに睨まれるので、私たちまでさん付けするようになった。 

 

立希「凄い! いやマジで凄すぎる、流石Afterglowさんっ、格好良過ぎ!」

祥子「あ、あのいつも仏頂面で澄ましてる立希が……目までキラキラ輝かせてますわ……」

燈「本当にAfterglow……さんが好きなんだね、立希ちゃん」

 

 まぁたきちゃんがここまでほれ込むのも分からなくはない。

 先月のライブで一緒になったAfterglow……さん。彼女たちがライブで示した『あたし達らしさ』は鮮烈で、激しくて、格好良かった。それこそ見る者全てを惹きつける、真っ赤に燃え上がる夕陽のように。

 お姉さんへのコンプレックスに囚われ自分を見失いかけたたきちゃんは、その輝きに救われて新しい自分へと進んでいく決意ができた。憧れと尊敬を抱くには十分過ぎるエピソード。

 

祥子「あぁ、Morfonicaさんも楽曲提供しないでしょうか、いやいっそのことメジャデビューして頂いたら、カラオケでも歌えますのに……」

そよ「高校生バンドがメジャーデビューするなんて簡単じゃないでしょ? ……たぶん」

燈「モルフォニカ……モルフォ蝶……ここ、かな」

睦「……何が?」

燈「私、歌いますっ!」

そよ「おぉ、ともりちゃん以外と積極的~♪」

 

 これには本当に驚いた。彼女はボーカルだけど、歌うのが大好きというわけではなかったから。てっきりマラカス振ってるだけで自分からは歌わないものとばかり思ってたけど、いいことだと思う。

 引っ込み思案だったともりちゃんがそれだけ成長した証だと思うから。

 

立希「それで、燈は何歌うの?」

 

 私と同じようなことを思ってたのか微笑ましい顔のたきちゃんが訊ねる。

 その時、木管楽器1本によるシンプルな民謡風BGMが流れた。私は、それが曲のイントロだと理解するのに少しだけ時間を要する。

 いやだって、女子高生のカラオケでそのカテゴリーをチョイスする人なんて見たことないし、考えられなかったから。

 久しく聞いてなかったけど、幼稚園児くらいによく聞き、歌わされた曲だ。これは、この曲は……

 

燈「ちょうちょ、ちょうちょ、なのはにとまれ——」

4人「……」

 

 ちょうちょ。誰もが知ってる、けど誰もカラオケで歌わないだろう、童謡。それをともりちゃんが、ライブのときぐらい感情込めて真剣に歌っていた。

 普通ならウケ狙い、かもしれない。でも相手はともりちゃん、そんなこと考えるだろうか。なんとなく、ともりちゃんに合ってる曲に思えるから余計リアクションに困る。

 笑うべきか、真面目に聞いて褒めるべきか、悩んでると鼻をすする音が聞こえてきた。

 その方向を向いて、ビックリ仰天する。

 

そよ(な、泣いてるー!? たきちゃんさきちゃん、こんなので泣いちゃうのー!?)

 

 ハンカチ片手に涙を流しながら真剣に聞く2人。そんなバカな、いくらともりちゃんが感情に訴えかけるような情緒溢れる歌い方だからって、涙脆すぎるでしょ。いや、それだけともりちゃんに弱く甘いだけか、この2人は。

 曲が終わったあと、その2人から惜しみないスタンディングオベーションが送られる。女子高生がカラオケでちょうちょ歌っただけなのに。

 

祥子「ブラボー、ブラボーですわ燈!」

立希「感動したっ! こんなに泣けるちょうちょ、初めて聴いたっ!」

 

 確かに。こんなに心をこめてちょうちょ歌ってる人、人生で初めて見た。たぶんこの先も見ないと思う。

 

燈「え、えへへ……ありがとう。クラスの子から、勧められた曲なんだ」

 

 どこのどいつだろう。女子高生にカラオケでちょうちょ歌わせるよう画策する輩は。普通なら絶対恥かくって分かるだろうに、なんてひどい人。それとなく紹介してもらって、騙されたともりちゃんの代わりに文句言ってやらないと……

 

燈「たしか、ウケ狙い、とか言ってたけど……」

そよ、睦「ウケ狙いだったんかい!」

 

 たぶん私と同じで、どうリアクション取るべきか悩んでたらしいむつみちゃんと完璧にハモるのだった。

 ネタかどうか判別しづらいから、ともりちゃんには下手なウケ狙いに走らないで欲しい。心底そう思った。

 というかともりちゃんにウケ狙いを教えないで、クラスメイトの人……。そういう意味では釘を刺すために、やはり会っておくべきかもしれなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。