CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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7番 カラオケ 後奏 ~1周年のお祝いは、眩しかったあの思い出で~

 

 

 

立希「……燈も歌ったわけだし。私が歌わないわけにはいかない」

 

 おかしな理由付けをしながら、たきちゃんも歌った。

 READY STEADY GO。有名なロックバンドの曲だけど、彼女がそれを選んだのはそこが好きだからじゃない。

 この曲はAfterglowさんがライブでカバーしてたから。

 歌い方までボーカルの美竹先輩にそっくりだった。

 歌い終わってマイクを置く彼女に適当な感想を伝える。

 

そよ「魂こもってたねー」

立希「美竹先輩も全力で歌ってた曲なんだから、手抜けるはずないでしょ?」

そよ「でしょと同意を求められてもね……」

 

 これで一周回ったのもあって、休憩雰囲気だった。お菓子食べたり飲み物飲んだりデンモク弄ったり。

 そんな中、デンモクを弄ってたむつみちゃんがふと顔を上げる。

 

睦「……しかし。1年前はヒトカラ派とか言ってたのに、立希も随分ノリ良くなった」

立希「急に何? まだ馴染む前なんだから歌いづらいのは仕方ないでしょ」

睦「……私は歌えた。一番手で、フリ付きで」

立希「あのときのお前の度胸は今でも信じらんないよ」

そよ「あの頃のたきちゃんといえば、まだともりちゃんにも冷たかった頃だよね~」

立希「…………そうだっけ、覚えてない」

 

 たきちゃんは目を閉じてドリンク飲む。そんな風にクールぶってしらばっくれる彼女を放っておくむつみちゃんじゃない。

 彼女はいつもの無表情な顔から、眉間に皺をよせ眉を吊り上げる。どこかの誰かさん風にムッとしながら、当時を再生してくれた。

 

睦「……ねぇ、やる気ある?」

立希「ぶっ!? やめろ睦! いややめてください!」

睦「……ボーカルってバンドの顔でしょ、なんで燈なの?」

立希「~~~~ッ、む~つ~み~!!」

 

 黒歴史を掘り返されて顔真っ赤なたきちゃんがむつみちゃんを黙らせようと飛び掛かる。そんな様子を見ながら私とさきちゃんは当時を思い出しながら笑い声を上げた。

 

そよ「アハハッ、なつかし~! まさにそんな感じだったよね~!」

祥子「ふふふっ、それが今では正反対に過保護になって……極端なところは変わってないかもしれませんわね」

燈「そう、かな? 立希ちゃんはあの頃から立希ちゃんらしく優しかったよ? カラオケの仕方だって、教えてくれた」

 

 控えめに微笑むともりちゃんは鞄からノートを取り出した。

 机に広げられたそれを私たちは集まって覗く。

 開かれたページには、その時の思い出によって綴られた歌詞が書いてあった。

 

燈「睦ちゃんの笑顔を初めて見て、さきちゃんがはしゃいでるところを初めて見て、そよちゃんも楽しそうに笑ってて。だから、この歌詞が出来た」

祥子「そうでしたわね。あれから、もう1年経ったんですものね」

睦「……そう思うと、あっという間」

立希「まぁ色々あったからね」

そよ「そうだね。CRYCHIC結成してから、スタジオで練習して、ライブして、みんなで遊びに出かけて……」

 

 そうなれたのは、やっぱりカラオケで仲良くなったのが大きかったんだと思う。それまでの仲だったら、ここまで続いたかすら怪しかったから。

 だから。

 

祥子「結成1周年の記念として、悪くないと思いませんか?」

 

 晴れやかな笑顔のさきちゃんは、そういう想いで最後にカラオケしようと提案してくれたんだ。私たちが運命共同体としてふさわしい仲へとなり始めたイベント事で、1周年を祝福したかったんだろう。

 その気持ちはよく分かる。嬉しいくらいに。

 みんなも同意してくれた。

 

燈「うん。だって、あのときのカラオケで春日影が生まれたから」

立希「そうだったね」

睦「……私たちが初めてライブで披露した曲」

そよ「ともりちゃんにとっては、初めて歌詞書いた曲だもんね」

燈「書けて、よかった……。CRYCHICのボーカルになれて、よかった」

 

 万感の想いを込めたようにしみじみ言いながら、ともりちゃんがマイクを取った。デンモクに曲を入力した素振りはなかったのに。

 

燈「みんな、あの時は私が歌えるように手伝ってくれて、ありがとう。おかげで私、歌えるようになったよ」

 

 わざわざマイクを通して話した言葉が、上辺通りの当たり前だけを指してるわけじゃないことはみんな察していた。だから、続きを待つ。

 ともりちゃんもこの1年で変わった。歌えなかった少女は、演奏がなくても歌えるほど強くなったのだと、ずっと一緒にいた私たちは信じられた。

 

燈「悴んだ心 震える眼差し 世界で——」

 

 アカペラでいつものライブくらい上手く歌い出した彼女を誇らしく思いながら、私はタンバリンを手に取る。もう片方のタンバリンでを持ったたきちゃんと一緒に、叩く。歌に鼓動(ビート)が巡って活気づく。

 さきちゃんとむつみちゃんがマラカスを手に取って、シャカシャカと鳴らす。軽やかな音色で歌が色づく。

 

4人「切なくて苦しい——」

 

 そして私たちはいつものようにコーラスを入れる。ともりちゃんと4人で掛け合いながら、歌声は盛り上がって行った。

 

燈「雲間を縫って、きらり、きらり——」

 

 視界が光に溢れて見えるのは歌詞のせいだろうか、それとも頭上でギラついてるミラーボールのせい? 

 違う、これは1年間の思い出から生まれる輝き。楽しかった記憶から光の粒が湧き上がって、私たちは心からの笑顔を交わし合ってるんだ。

 温かくて、優しくて、綺麗で、眩しい。幸せという光の感情で私たち5人は確かに繋がっていた。それを、声と音と笑顔で確信していた。

 

燈「どうかこのまま……離さないでいて……」

 

 離れなかったこれまでと、これからも離れないだろう私たちを祝福して。

 私たちはともりちゃんの歌い終わりに合わせて、喜びの拍手を叩いた。

 

 やがて終わりの時間を知らせるコール音が鳴ったことによって、私たちは帰り支度を整え始めた。

 

睦「……その内、羽沢珈琲店にも行こうね」

祥子「ナイス提案ですわ睦! 最近行ってなかったですものね!」

立希「い、いや別にそこ行かなくても……」

そよ「あぁ、Afterglowさんの羽沢先輩ってそこの喫茶店の娘さんだもんね。行くの緊張しちゃうか~」

立希「そりゃするでしょ! 気軽に行っていい場所じゃないっていうか、羽沢先輩に迷惑っていうか……」

燈「そっか……みんなと初めて揃ったあそこに、もうみんなで行けないんだ。寂しいね」

立希「~~~~~……。そ、ソンナコトナイヨトモリ、コンドイコウ」

祥子「頑張りましたわね立希」

そよ「エライエライ♪」

睦「……よしよししてあげよう」

立希「要らないから!」

 

 そんなじゃれあいをしつつ、私たちはカラオケルームから退出した。

 

 

 結成1周年を、1年前みんなで楽しんだカラオケで記念したのだったら。

 私は、あのときのお返しをしないと、一周年記念を終らせられなかった。

 隣を歩いていたさきちゃんに、心を込めた笑顔で声をかける。

 

「さきちゃん。ありがとうね」

「唐突ですわね。何のことですの?」

 

 なんのことか分からなくてきょとんとした彼女が立ち止まる。

 自然、私たち2人になった。本当にあのときみたいで好都合だった。

 

「うーん……。GW遊ぼうって連れ出してくれたことも、今日カラオケを提案してくれたことも。……もっというと、いつも遊びに引っ張りまわしてくれたことも、かな」

「貴女と立希と睦は疲れるの嫌がってたじゃありませんか」

「それはそれで確かなんだけど」

「否定してくださらないのですね……」

「なんていうか、体裁作り、格好つけみたいな? 本当はね、CRYCHICのみんなと仲良く遊んで、思い出を増やすことが嬉しいんだ。それを自分から進んで提案してくれて、誰より楽しみにして楽しんでくれてるさきちゃんが、私にはすっごい救いなの。だから、ありがとう。CRYCHICが大好きって気持ちを大事にして、いつも楽しそうにしてくれて」

「もうっ、そこまで言ってくださるなら、そよからも提案したり引っ張ってくださいまし!」

「そういう役回りは1人でいいんだよ」

 

 ニコニコ笑う私につられたように、さきちゃんも膨らませた頬を緩ませ笑ってくれた。

 そして、懐かしむような声色で話を変えてくる。

 

「それにしても……去年と逆ですわね」

「うん。それだってちゃんと覚えてるよ。さきこちゃんからさきちゃんに変わった、ささやかだけど大事な思い出」

「えぇ。そよさんを意識の上ではなく、心の底から仲間として、友達として想ったら無意識に呼び方が変わってましたわ。……あの時カラオケを提案してくださったことは、今でも感謝してますのよ、そよ?」

「もう、今更だなぁ。ここまで続いて、これからも続いていくんだから。そうでしょ?」

「えぇ。それじゃあ、これからもよろしくお願いしますわ、そよ!」

「うん! こちらこそ♪」

 

「ちょっとー、何してんの、置いてくよー」

「行きましょ、そよ!」

「ふふっ、うん!」

 

 さきちゃんに手を引かれるまま、私たちはみんなのところへ駆けて行った。

 短いようでたっくさん思い出の詰まった3日間。

 これでもかと楽しいことを詰め込んで眩しいくらいな黄金の休日は、こうして幕を閉じたのだった。

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