CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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※前書き※

『あの頃の青い星』という百合作品のキャラが出てきます。ご了承ください。
この作品は1~5巻までアマゾンから無料でダウンロードできます。今のところは特に期限はないです。
無料とは思えないほど引き込まれる百合してるので、よかったら読んでみて欲しいです。
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【6月イベント】(仮)CRYCHIC×あの頃の青い星 IN 水族館
1番 水族館での出逢い


 

 

 ※ ※ ※

 

 私にとって、ともりちゃんは大切な友達だ。

 CRYCHICを結成してから一年、色々な経験を共にして、喜びも悲しみもたくさん分かち合ってきた。外面で付き合ってるクラスメイトよりずっと親しいと断言できる、大好きな仲間。

 でも、それだけだった。趣味も気も合う訳じゃない。話が盛り上がる仲でもない。さりとて仲が悪いわけでもない。2人でいて気まずくはないけど、大した会話も生まれない。そんな淡々とした感じ。

 運命共同体にしては少しだけ寂しく思うものの、そういうものだと受け入れていた。今以上の『特別』になれると思えなかったから。

 そこに、私たちの写し鏡が現れた。『私とともりちゃん』それぞれに似ている2人の女性。

 その人たちの関係に、想い合いに。『私たち』の可能性を見た気がしたから。

 私は逢えてよかったと思ってる。趣味も気も話も合わないともりちゃんと、もっと仲良くなるきっかけをくれたあの人たちに。

 

 その人たちに出逢ったのは、ともりちゃんの希望で水族館に遊びに行った6月のある日のことだった。

 

 ※ ※ ※

 

 梅雨が明けてじめっとした熱気が立ち込める屋外から、自動ドアを抜けて入館する。ほどよい冷房の風に思わず一息つきながら、薄暗い館内に広がる深青の世界を目にした。本格的な夏が始まるこの時期にこの涼景はぴったりで、気分も爽やかになる。

 人混みに紛れながら受付を通り過ぎ、辺りを見回す。何メートルものシャチが自由に泳ぎ回れる特大の水槽を前にして、私たち5人はいきなり「おぉ~」と感嘆の声を漏らした。

 

祥子「ここが燈の来たがっていた水族館ですか」

燈「うん。楽しみにしてることが、いっぱいあって……」

立希「確かペンギンが餌食べるフィーディングイベントと、ペンギン講座と、ペンギン水槽があるんだっけ?」

そよ「ペンギン大好きなともりちゃんには天国だね~」

睦「……まさに、ペンギンパラダイス」

燈「えっと、家族が言うにはペンギンに夢中で、周りが見えなくなっちゃうらしいから……よろしく」

 

 テレテレとはにかむともりちゃんからよろしくお願いされてしまった。まぁ彼女の希望で来てるんだし、最初からともりちゃんの気が済むように付き合うつもりだったけど。

 私たちCRYCHICが来ている水族館は、日本で一番広い水族館として有名だった。ペンギン以外にも見どころはたくさんある。海の生き物好きじゃなくともそれなりに楽しめそうと、さきちゃんやむつみちゃんと期待していた。ちなみにたきちゃんは、ともりちゃんさえ楽しめれば何でもいいらしい。

 

燈「あっ、もうペンギンのフィーディングタイムが始まるから、行こう!」

そよ「ちょっと、ともりちゃん! 人多いからあんまり一人で先に行かないで! はぐれるよ?」

立希「おぉ、いつも後ろからついてくるタイプの燈が、自分から前に出るなんて」

睦「……燈にしてはハイテンション」

祥子「そんな燈も良いじゃありませんか! さっ、見失う前に追いついてあげましょう!」

 

 はしゃぐともりちゃんにつられて楽し気なさきちゃんが彼女を捕まえて、私たち5人はイベントが行われる屋外の広場に向かった。

 

 

 

 ペンギンがたくさんいる小屋の中で、飼育スタッフが魚をペンギンたちに与えている。

 

【挿絵表示】

 

 手渡されたアジか何かを、焦るように口を素早く動かし飲み込んでいくペンギン達。その様子を小屋の外で横一列に並んだ私たちは、窓ガラス越しに眺めていた。

 

祥子「あんなに必死に食べるなんて、ペンギンは思っていたよりも食いしん坊なのでしょうか?」

立希「食いしん坊っていうか、食い意地張ってるよね。横から餌奪い取るペンギンもいるし」

睦「……ふふ、醜い争いしてる」

そよ「そんな風に愉しむむつみちゃんはシンプルに意地が悪いよ? でも一生懸命食べてるペンギンも可愛いね、ともりちゃん。……ともりちゃん?」

 

 反応を返して来ないともりちゃんの方を覗き込むと、窓ガラスにベタァーっと張り付いて食い入るようにペンギンをガン見していた。

 周囲の視線を憚らない熱心さはまさに小さい子みたいで、同じ高校生として正直引いた。……少しだけね!

 どうやらさっき言ってた『よろしく』はこれのことかな。すぐ傍で話しかけてるのに聞こえないくらい、ペンギンに夢中なんだなぁ。この15歳児の熱量を、微塵も理解できる気がしなかった。

 

 なんて呆れていたら。この過集中娘によって、奇妙な出逢いが引き起こされるのであった。

 

「海。ペンギンたち、元気に食べてるね」

「可愛いね~、晶。そういえば、ペンギン達が食べてるのってアジなんだよね?」

晶「うん。水族館でペンギンに出す餌としては、冷凍保存ができるアジが基本だから」

海「でも前にニュースで、ペンギンの餌をサバに変えたとか、それをペンギンが嫌がってたとか見たことあるよ。アジとサバってそんなに違うのかな?」

 

 そんな会話が、ともりちゃんを挟んだ向こう側から聞こえてきた。

 ちらっとそちらを向く。私たちと同じ年くらいの女の子二人組だった。

 片方はウミと呼ばれた、栗色の明るい茶髪を後ろで一つ結びした女性。その人が話題に挙げたニュースは聞いたことがあったので、私も興味をひかれた。

 

晶「それはね……」

 

 淡い灰がかった茶髪(アッシュグレー)をセミロングまで伸ばした、ショウと呼ばれた人が詳し気だった。密かにその人の話に耳を澄ませる。

 

 と、そこで。

 

燈「確かに! 同じ魚なのに、どうしてサバはダメなんだろう……」

4人(燈(ちゃん)―!? 知らない人の会話に混ざってるー!?)

 

 ガラスにへばりつきながら、独り言みたいにまぁまぁの大声をあげるともりちゃん。まさかの奇行過ぎて、私たち4人と、割り込まれた2人組もギョッとして固まる。

 計6人の間で空気が気まずく凍り付いてるのに、その発端はペンギンに首ったけなままだった。どうやら無意識らしい。

 仕方ないから、ともりちゃんの隣にいた私は2人に軽く頭を下げる。

 

そよ「すいません、この子ペンギンに夢中過ぎて周りが見えてないみたいで……」

海「あ、あはは……気にしないでください! 別に迷惑とかじゃないから。えっと……晶、ペンギンはどうしてサバがダメなの?」

晶「えっ、海? ……ここで言わなきゃダメ?」

海「気になってるみたいだし、教えてあげようよ。お願い、晶?」 

 

 ウミさんがあやすような口調で笑いかける。優しい目元が印象的で人懐っこそうな女性だった。誰からも好かれそうな愛嬌があって、親しみを覚える。

 

晶「……海がそう言うなら」

 

 ショウさんは戸惑いを隠さない顔色で、それでも了承してくれた。咳払いの後引き締められたその表情は、整った顔立ちに凛然とした目つきで、つい気後れしそうな圧を受ける。

 けれど、そんな近寄り難い印象で終わらなかった。

 

晶「サバはアジと比べると高脂肪だから、消化機能の弱いペンギンには避けられるんだろうね。しかも多くのペンギンが生息してる南極にサバはいないから野生のときから食べ慣れてないの。好みの問題もあるだろうけど、結局は慣れてないっていうのが大きいんじゃないかな」

 

 話していくうちに活き活きとした表情になる彼女は、生き物の話をするのが好きそうだった。

 

燈「そっか、ペンギンは脂っこい魚がダメなんだ! もし迷子のペンギン見つけたら、餌は気を付けないと……」

 

 やはりペンギン関連の話だけピンポイントに反応するともりちゃん。後半大真面目に妄想してるところ悪いけど、迷子のペンギンを保護する機会なんてあるわけない。と、思うよ?

 そんなことよりも、ショウさんもウミさんも苦笑いになってしまったことが心苦しい。せっかく疑問に答えたのにペンギンへ顔を向けられたままじゃ、どう対応していいか分からないもんね。そろそろ現実に引きずり戻そう。

 

そよ「ともりちゃん? ……ともりちゃんってば!」

燈「……ハッ! そよちゃん、どうしたの?」

 

 肩を掴んで揺さぶり、ようやくこちら側に戻ってきてもらった。きょとん顔の彼女は、案の定今の妙な状況を全く分かってない。嘆息しつつ教えてあげる。

 

そよ「ともりちゃん、無意識にこの人たちの会話に混ざってたんだよ。ペンギンの餌について教えてもらったの、覚えてない?」

燈「そ、そういえば、凄く参考になる話を聞いた気が……。あ、あのっ、ごめん、なさい……」

海「ううん、気にしないで! あんなに集中してたなんて、ペンギン好きなんだね」

燈「は、はい……。ペンギンのシールとか、絆創膏とか、たくさん持ってて」

晶「(ば、絆創膏?)そう……」

海「やっぱり晶は凄いね。海の生き物のことなら何でも答えられそう!」

晶「流石にまだ何でもってほどじゃないよ」

 

 実際ともりちゃんの疑問にさらっと答えられたショウさんはすごいと思う。やっぱり海洋生物に詳しいんだ。

 

燈「あ、あのっ」

 

 私と同じような尊敬の念を覚えたのか、ともりちゃんが興奮顔でショウさんに顔をグイッと寄せる。

 半歩のけ反ってびっくりしてるショウさんには申し訳ないけど、これは凄く珍しいシーンで止めるのも憚られた。

 

燈「よ、よかったら……ペンギンのこと、もっと教えて欲しい、です……」

 

立希(マジ!? 燈が初対面の人に自分から話しかけて、しかもお願い事してる!?)

睦(……あの、人見知りで内気なシャイガールが……)

祥子(水族館に来た燈は、いつもと一味も二味も違いますわね)

 

 3人の驚きはもっともだし、私としても人見知りなともりちゃんには良い傾向だと思って静観する。明らかに相手が困ってそうなのを分かった上で、あえて。

 フォローの必要がないと思ったのは、ショウさんの隣でずっとにこやかな表情をしているウミさんが頼れそうと直感したから。

 

海「晶、わたしもペンギンについて色々聞きたいな」

晶「海……私が人付き合い苦手なの知ってるのに……」

海「ごめんね? でも、晶が海の生き物で頼られてるの、嬉しかったんだ。そういう話をする晶はキラキラしてて、かっこいいから」

 

 柔らかく、慈愛に満ちた微笑を浮かべるウミさんは幸せそうに目を細めてる。相手を都合よく誘導するためじゃなく、本心から出た気持ちなのは私にも伝わってきた。そして、そんな人にそこまで想われてるショウさんも、同じくらい良い人なんだろう。

 

晶「……分かった。えっと……名前……」

燈「あっ……高松、燈です……」

晶「高松さん。どんなことが聞きたいの?」

燈「え、えっと、じゃあ……!」

 

 それからペンギンの餌やりイベントが終わるまで、ともりちゃんとショウさんの間でペンギン談義に花が咲くのだった。

 

 

 

『……以上でペンギンのフィーディングタイムは終了となります』

燈「あ……終わっちゃった……」

海「話が尽きない内に終わっちゃったねー」

晶「ひっきりなしに質問してきたのに……よっぽどペンギンが好きなんだね」

そよ「あはは……お二人とも、付き合ってくれてありがとうございました」

海「ううん。こちらこそ楽しかったよ」

燈「あの……ありがとう、ございました。こんなにペンギンのこと教えてもらえたの初めてだから……嬉しかった、です」

 

 ともりちゃんはショウさんへ、明らかに物足りなそうな表情でボソボソお礼を零す。物静かでおしゃべりが得意じゃない彼女が話足りないなんて、よっぽど楽しかったんだろうな。流石にこれ以上は迷惑が過ぎるから諦めてもらうけど。

 

晶「私も、海以外の人にたくさん海の生き物について話したの、初めて。ペンギンが凄く好きっていうのも伝わってきて、なんだか嬉しかった」

 

 照れてるのかくすぐったそうな微笑みで答えるショウさん。そんな彼女の顔をじっと見つめていたウミさんは、ふっと一瞬諦めたような色を表情に滲ませた。

 と思ったら、すぐに明るい笑顔になって、私たちに提案してくる。

 

海「……ねぇ、晶。みなさんも、もしご迷惑じゃなければしばらく一緒に回りませんか?」

晶「えっ? 海、どうして……」

海「さっきの晶、本当に楽しそうだったから。やっぱり魚に詳しくないわたし以外にも、同じくらい海の生き物が好きな人が一緒だと楽しそうかなって。ほら、地元に帰ったらそんな子もいないから、こんな機会なかなかないでしょ?」

晶「それはそうだけど……でも、海はいいの?」

海「うん! ここの水族館だって、晶が来たいって連れてきてくれたところだから。晶が1番楽しめる形が、わたしも嬉しい」

 

 その言葉は、彼女を全く知らない私でさえ疑えなかった。それくらいウミさんが讃える笑顔には純粋な思い遣りが満ちていて、見てると胸がいっぱいになるくらい温かい。

 そんなシーンを見せられて、「私たちは5人で楽しみたいので……」なんて言えるわけもなかった。何より……

 

燈「一緒に回れるなら、私も嬉しい、です……!」

 

 ウチにも目を輝かせて大歓迎な子がいるから。

 まぁ2人とも悪い人じゃないことはこの短い時間でも分かったし、たまにはこんな流れもアリじゃないかな?

 という視線をさきちゃん達3人に向ける。それぞれ頷きを返してくれた。

 

そよ「私たちはいいですよ。でも……本当にいいんですか?」

 

 私は1人困ったような顔をしてるショウさんに向けて伺う。でも少し渋るような間を置いた後、私に和らいだ表情を向けてくれた。

 

晶「そちらがいいなら……よろしくお願いします。私、瀬川晶」

海「構本海です。誘いに乗ってくれて、ありがとうございます!」

そよ「こちらこそ、気を遣わせてごめんなさい。私は長崎そよです。こっちの3人は……」

 

 それから、バンドのことも含めた自己紹介を済ませ(ちなみに彼女たちは富山から来た高校3年生の年上だった)、お互い見たいイベントを抑えながら回るコースを話した後、7人で水族館巡りを始めたのだった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 内気そうな子から興奮気味に話しかけられ、戸惑いながらも満更じゃなさそうに苦笑する晶。そんな彼女を見ていた海は、去年のことを思い出していた。

 晶が所属する海洋研究部の幽霊部員である先輩に、晶と2人で会ったときのことだった。

 その先輩は、揉め事を起こし部活を崩壊させた挙句、結局は自身も投げ出したことを後悔していた。生き物好きが集まる海洋研を居場所のように思ってたのに。

 そこに、ずっと独りで活動してきた晶が、歩み寄るように曝け出した本音。

 

『私も、一緒に活動する仲間が欲しかった』

 

 海から見えていた晶は、いつも飼育してる魚達に真剣で、丁寧で、夢中で打ち込んでるようだった。だから一人でも何でもなさそうに見えていたけど。

 不意に聞かされた本音は、海の胸に突き刺さったまま抜けずにいた。

 

(……よかったね、晶)

 

 この日限定で、同じ部活動をする仲間じゃないけど。似た好みを持つ人に出逢って話すだけでも、きっと晶が心から夢みたことだ。

 だから。例え自分の下心満載な期待を自ら手折ってしまったとしても、海は後悔してなかった。……ほんの少ししか。

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