合宿2日目。朝食を食べ、そこからは夕方までひたすらバンド練習をするCRYCHIC一行。
祥子「と、途中で気分転換にどこか遊びにくのもアリでは……」
立希「ダメ、グダグダになる。今日はとことんやる。昨日散々遊んだでしょ」
祥子「うぅ……虫取り大会も考えてましたのに……」
そよ「(それは遠慮しときたいな……)夕方にバーベキューするんだよね? 楽しみにしてがんばろ、さきちゃん!」
祥子「そよお母さま~!」
そよ「よ、よしよし……(苦笑い)」
睦「……これが、バブみ……」
燈「睦ちゃん、バブみって、なに……?」
立希(お嬢様でも変なネットミーム知ってんだ……)
そんなやりとりもありつつ、やるときは集中して頑張りきった5人。
夕方。切りのいいところで練習を終了した。
その練習が終わった直後のスタジオにて
祥子「最後の合わせ、特に良かったですわね」
立希「祥子がアレンジしたのが効いてた。音楽のことになると流石だわ」
祥子「あの程度なら大したことではありませんわ(キリッ)」
立希「……遊びになると一番子どもっぽいくせに。大したもんだよ、さきこちゃん(乱暴に頭を撫でる)」
祥子「小さい子扱いはやめてくださる!?」
そよ(二人も随分打ち解けたなぁ)
立希「そよは何生暖かい目で見てんの。変な誤解してないでさっさと片付けなよ」
そよ「……別に何も言ってないでしょー?(しかも鋭くなってる……)」
立希「燈、大丈夫? 疲れてない? 昨日みたいにここで寝ちゃダメだからね」
燈「う、うん。今日は、大丈夫。……ありがとう、たきちゃん。昨日もだけど……」
立希「いや別に気にしなくていいから。平気ならそれでいいし」
睦「……」
立希、片付けに戻る。立希の視界内でウロウロする睦。
睦「…………」ウロウロ
立希「ふぅ。私の片付けはこんなもんでいいか」
睦「………………」ウロウロウロウロ
立希「……睦は何? なんか用?」
睦「……私には?」
立希「?」
睦「……私だけ、話してくれてない」
立希「……お前、そんな構ってちゃんだったっけ?」
睦「…………」
睦は黙ったまま踵を返して背中を丸め、ゆっくりトボトボ歩く。
哀愁漂う背中が、寂しさを訴えていた。
祥子「たーきー? 私の幼馴染だけ仲間外れだなんて、いい度胸ですわね……!」
燈「睦ちゃん、かわいそう……(他意のない独り言)」
立希「い、いや、私はそんなつもりじゃ……!」
そよ「(むつみちゃんって意外と悪戯っ子だな~)たきちゃん、とにかく何か声かけたら?」
立希「そよまで……ってなんであたしが話しかかることになってるんだよ……」
ブチブチ言いつつ睦に近づく立希。
立希「あー、睦? お前は最後の合わせ、どー思った? 私は、けっこーイイ感じに決まったと思ったんけどさ」
立希の「あー」でピタッと止まる睦。
そよの読み通り悲しいフリをしていただけだったが。
睦「…………」
立希「睦?」
祥子(睦……?)
そよ「むつみちゃん?(あれ、演技だと思ってたけど、なんか……本当に困ってるような……?)
燈(…………春日影の動画撮ったときから、気になってたけど……)
睦「私、は……」
睦は立希の方へ振り返らず俯いたまま、いつもの無表情だがどこか言いずらそうな様子で口を開く。
ぐうぅ~……
妙な沈黙が流れるスタジオに、間抜けで切なそうな音が響いた。
全員音の発生源へ顔を向ける。
燈「あ、そ、その……うぅ……恥ずかしい…!」
そよ「もう夕方だし。練習頑張ったもんね。お腹も減るよ~」
祥子「そうですわね。さっさと片づけて、バーベキューの準備をしましょう! お腹を空かせた燈のためにも、迅速に!」
立希「いや祥子が楽しみなだけでしょ。バレバレだから」
祥子「扱いが食いしん坊な子どもに格下げされてますわよ!」
立希「ほら祥子、片付けの手止まってる。睦は片付け終わった?」
睦「……(フルフル)」
立希「ならさっさとやりなよ。お腹空かせた燈と、バーベキューが誰よりも待ちきれない祥子ちゃんのためにさー」
祥子「きぃ~! この私を散々からかって~! そよお母さまに言いつけてやりますの!」(地団駄踏む)
そよ「さ、さきちゃん、私手空いたから手伝うねー。あと流石に同級生にお母さん扱いされるのははちょっと……」
睦「……」
燈「あの、睦ちゃん。片付け、手伝うこと、ある……?私、手空いてるから……」
睦「……大丈夫」スタスタ
燈「あ……」
睦は自分のギターのところへ向かい、片付け作業に戻った。
燈(睦ちゃん……もしかして……)
全員片付けが完了し、別荘の庭に集まる5人。
バーベキューセットと食材は既に用意されていた。
立希「いつの間に……」
祥子「いつって、私達が練習してる間に用意してくださったのでしょう?」
そよ「そんな当然のように言われても、使用人さんがいる生活に馴染みがないから……」
睦「……いないの?」
燈「睦ちゃんのおうちにも、いるんだ……」
そよ「ご両親がすごい大物芸能人だから、いても不思議じゃないよね~」
立希「普通の家庭にはいないんだよ。祥子と睦んとこが特別」
祥子「そんなことはどーでもいいですわ! さ、準備ですわよ!」
立希「はいはい。かしこまりましたよ、おじょーさま」
といっても野菜はカット済み、コンロには炭が敷かれてるとこまで準備されている。
あとは一緒に用意されていた説明書に沿って簡単な着火をして焼くだけだった。
立希「あとは焼くだけのとこまで準備されてるなんて。思えば昨日の夕食もだけど何から何までありがたいな」
そよ「本当にね~。なんだか申し訳なくなってきちゃうよ」
立希「ここでそう思うのがそよらしいな」
祥子「……なんか、思ってたのと違いますわ……」
そよ「え?」
立希「は?」
祥子「みんなで野菜切ったり、苦労して着火したり。もう少し歯ごたえのある共同作業をイメージしてましたのに……少々ガッカリですわ……」
そのとき、庭の茂みの一部がガサガサッと不自然に動いた。
燈「ひっ!」
立希「と、燈!? どうしたの?」
燈「な、なんか……向こうの茂みが、う、動いて……」
そよ「茂み? 風か小動物か何かじゃないかな~?」
睦「……」
立希「燈が怖がってるなら念のため確認する」ズンズン…
祥子「相変わらず立希は燈に甘々ですわね~」
立希は燈が指さしていた茂みに近づき、辺りを調べる。
しばらくして戻ってきた。
立希「燈、何もなかったよ。そよの言う通り風か小さな動物がいたんだと思う」
祥子「でもおかしいですわね。虫ならともかく、小さい頃来た時は近くで動物を見た記憶はありませんのに……」
睦「……なら、きっと風(ということにしとこう)」
そよ「ってことになるのかな~。私たちも一緒だし、怖がらなくて大丈夫だよ~ともりちゃん」
燈「う、うん……(風、にしてはあの茂みだけ動いてた、気がするけど……)」
そんなやりとりをしてる間にコンロの火も強くなってきて、焼く準備が整う。
祥子「……それで、その……(ソワソワ)」
立希「祥子。張り切ってた割にアンタ、やっぱり……」
祥子「——そうですわ、どう焼けばいいのか分からないんですの! なぜならお嬢様ですから! いつも焼きあがったものしか食べてませんから! 文句ありまして!?」
立希「開き直りやがった……しょうがない」
そよ「私もあんまり経験ないけど、手伝いくらいならやれるかなぁ」
立希「……(チラッ)」
燈「?(純粋に何も察してない顔)」
睦「……グッ(任せた、という顔でサムズアップ)」
立希(思った通り2人も戦力外だな)
そよ(ここは私たちでがんばろっか、たきちゃん)
コック立希、助手そよによる、熱きBBQの戦いが始まろうとしていた。