シャチの写真は良い写りか分からんですが、ベストショットということでお願いします。写真撮り慣れてない下手くそなんです。
そよside
〇ベルーガショー
お昼を食べ終わった私たちは南館から北館へ移り、3階のベルーガがいる館に入る。
まずはベルーガの公開トレーニングイベントを見に来たのだった。
燈「晶さん。ベルーガがいる水族館って、珍しい?」
海(晶さん!? 燈ちゃん、晶のこと下の名前で呼ぶくらい仲良くなったなんて。……晶と何話したんだろう……気になる……)
晶「うん。日本には4館しかないね」
そよ「大きくて真っ白! 顔もぷっくり膨れてて、可愛いですよね、海さん!」
海「う、うん、シロイルカって別名通り好かれる見た目してるねー!(今は聞きづらいし、どこかタイミングを見よう……)」
晶「体が白いのはシャチとかの天敵に見つかりづらくするためだね。ベルーガが生息する北極の海は凍ってて白いから」
燈「そっか、保護色!」
そよ「やっぱりちゃんとした理由があるんですねー! なんだか奥深くて凄いです!」
海「うん、晶はすごい!」
晶「私は凄くないでしょ、海」
祥子(なんだかあの4人、やけに仲良くなってますわね)
睦(……ちょっと疎外感)
立希(分かる)
CRYCHIC5人で遊びにきたはずだったのに別の人とここまで仲良くしてるとは思わなかったけど。私にとって、そしてともりちゃんにとって良い出会いだから良いよね。
ちなみに7人で横一列に並ぶとみんなで話せないから、私以外のCRYCHICが前でかがみ、私は海さん瀬川さんと一緒に後ろに立っていた。1人だけ160cm越えてる私とお姉さん組が前を譲った形。
やがてトレーニングショーが始まった。トレーナーが投げたボールを器用に頭に乗せるベルーガに拍手が送られる。
祥子「口と膨らんだ頭の間にボールを乗せてますが、あの膨らみも何か意味があるのでしょうか?」
晶「あれはメロンって言う脂肪組織。イルカ科に共通して見られる部位だよ」
睦「……メロン? 脂肪ってことは食べられるだろうし、そういう味がしたからかな」
そよ「ベルーガショー見てるときに何てこと想像させるのむつみちゃん」
睦「……ひふへい(失礼)」
現在ベルーガは、口でくわえたボールをトレーナーに投げている。
愛嬌抜群なシーンの最中に、死に伏したベルーガが切り刻まれて肉の塊になり果てたところなんて考えたくもない。ショーを台無しにするボケ娘のほっぺを後ろから引っ張ってお仕置きしてると、苦笑い気味の瀬川さんが教えてくれた。
晶「そういう理由じゃないけど、頭の形がメロンに似てるからそう名付けられたんだって」
睦「……惜しかった」
立希「安直さが似てるだけで惜しくはないでしょ」
燈「そっか、イルカは頭に脂肪を溜め込むんだ……」
晶「人間がお腹に脂肪を溜め込むのとは少し違うかな。メロンは音波をコントロールするための音響器官だから」
燈「脂肪なのに、そんな働きがあるの?」
晶「鼻腔で発した音波を、レンズの要領で絞り込んで目標に送るの。そうやって仲間とコミュニケーション取ったり、餌を見つけるためのソナーをしてる」
祥子「なるほど。イルカが賢いと云われる所以に、大きな役割を果たしてるんですのね。勉強になりますわ」
睦「……安直な名前なのに重要な役割果たしてた」
立希「ならもうちょっとそれっぽい名づけしてもいいのに。わざわざ果物の名前にしなくてもいいでしょ」
そよ「そう思わないでもないけど、分かりやすい名前でもいいじゃない」
海「メロンって名前も親しみあるからいいよね」
その後もベルーガのパフォーマンスは続く。私たちに向けてヒレをパタパタ動かして挨拶してくれたり、水鉄砲を客席の前にあるガラスに飛ばしたりして歓声を沸かしていた。
最後は派手にジャンプを披露してくれるらしい。そうアナウンスされて私は慌ててスマホを取り出した。
そよ「えっ、ジャンプは流石に写真に収めないと……!」
燈「そよちゃん、ベルーガもう潜っちゃってる……なんか、すぐ飛びそう」
と、急かされた直後に白い影が水面から飛び上がった。
よくも何メートルという巨体全身を空中に浮かすほど高く飛べるな、と圧倒されながら必死でピントを合わせる。
けどその頑張りも、今一つ報われなかった。撮れた写真の出来具合に溜息をつきながら、ザパーンと水を叩く派手な音を聞き流した。
立希「おぉ、でかいだけにやっぱ迫力あるな」
睦「……で、その大迫力な写真は撮れましたかな、CRYCHICの写真担当さん」
そよ「ギリギリ撮れたけど……イマイチだった」
祥子「撮れただけでも結構じゃありませんか、しょぼくれないでくださいまし、そよ?」
立希「いや。せっかく燈の希望で来た水族館なのに、その思い出がイマイチだったら燈が可哀そうでしょ。そよ、次のシャチショーはちゃんと撮って」
そよ「どうしてたきちゃんにそこまで偉そうに言われなきゃいけないのか全ッ然分かんないけど。私も悔しいからそこでリベンジするよ」
海「私もシャチショー撮ってみようかな」
晶「ふふ。良い写真撮れるように手伝うね、海」
瀬川さんから海さんへの心優しい寄り添いに、私は悔しいくらい羨んだ。だってみんな、私が撮るのが当たり前みたいに他人事なんだもん。たきちゃんなんてさっきみたいな理不尽吐くだけだし。なんか段々ムカムカしてきた。
そよ(好きでやってても、大変なときだってあるんだよ!? 偶には私に優しくしてくれないかなぁ!)
心の中で叫びながら、もう一度嘆息する私だった。
〇シャチショー
ベルーガプールの館から出て、私たちは同じフロアのスタジアムに向かう。
目の前のプールにはイルカがパフォーマンスするエリアと、シャチがパフォーマンスするエリアに別れている。分断しても何メートルというシャチと何匹ものイルカがそれぞれ広々と泳ぎ回る広大さは、まるで小さな海みたい。
さっきと同じように2列で固まった私たちは、いよいよ始まるシャチショーのアナウンスに、他の観客と一緒に拍手した。なお、前列がたきちゃんさきちゃんむつみちゃん、後列がともりちゃん私、海さん瀬川さんだった。
燈「晶さん。シャチは海の王者って言われてるんですよね?」
晶「シャチに海で勝てる天敵がいないとされてるからね」
睦「……サメにも勝っちゃうんですか?」
晶「サメの方が狂暴で強いイメージされてるけど、大きさも重さも泳ぐスピードも、実は全部シャチが上なんだ」
祥子「そうなんですの!? あんなに温厚そうな見た目してるのに、シャチの方が優位なんですのね……」
私もさきちゃんと同じ印象だったから驚いた。白と黒の模様が綺麗なコントラストになっていて、ゆったり泳ぐ姿も優雅に見えるから、攻撃的なイメージがなかった。
晶「それどころか、サメの体を裏返しにされると動けなくなる習性を知ってて、突進して体をひっくり返すくらい強いよ」
立希「賢さも上っぽい。そりゃ海の王者って肩書にふさわしいな」
海「サメより優しい見た目なのに王様になれちゃうの、何かいいな」
そよ「優しい王様って感じ、良いですよねー♪」
睦(……優しい王様と言えば、それを目指してパートナーの人間と一緒に戦う魔物のバトル漫画があったっけ)
そんな会話をしてる間にもシャチのパフォーマンスが披露される。
瀬川さんが言ってた通り、大きな体の割に凄まじいスピードで泳ぐ様は圧巻だった。
燈「ゆったり泳いでるように見えるのに、速い……」
晶「最大速度は時速50キロだって」
そよ「速~い! 車みたい!」
祥子「ムムム、流石に勝てませんか……」
立希「何張り合おうとしてんの」
睦「……祥だから。その気になったら王だろうと神だろうと張り合う」
むつみちゃんのセリフを誇張妄言とツッコめなかった。本気になった我らがリーダーは、まさにそれくらい物怖じしないだろうから。
海「流石に晶でも勝てない?」
晶「オリンピック選手でも時速10キロもいかないんだよ? 人間じゃ勝てないよ」
『続いては、ジャンプパフォーマンスに移りまーす!』
立希「そよっ!」
そよ「はいはい分かってますよー」
せっかちたきちゃんにつつかれながら、私はひざ元に出しておいたスマホのカメラアプリを開いて構える。
けど最初のジャンプは撮影失敗に終わる。カメラ越しだと水中を泳ぐシャチが追えないから、飛ぶ位置もタイミングも掴めない。
立希「どう? ……ダメダメじゃん。今日こそ、そよの出番なのに何やってるの」
そよ「あのね……難しいんだよ。カメラ構えてるとどこからジャンプしてくるか分からないの」
立希「しょうがないな……ほら、今あの辺だよ」
そよ「え、どこ? あの辺じゃ分からないよ」
立希「だから左の前の方の……あぁ止まった、もうジャンプするって!」
そよ「今急いで追ってるから焦らせないで! ……あぁ、今度は撮れたけど……」
立希「もうちょっとイイの撮れないの?」
そよ「そんなに言うならもうたきちゃんが撮ればいいでしょ」
海「良い写真撮るの難しいよねー、私も全然ダメだったよー」
お互い仏頂面で睨み合う私たちに若干苦味が混じった笑顔で宥めてくる海さん。この人のフォローに免じて、私はたきちゃんの小煩い横やりを無視することで許そうとしたけど。
睦(……ちょうどガッシュのこと思い出してたから、面白そうなこと閃いた)
ここで、むつみちゃんが私とたきちゃんへ向いてくる。
睦「……良い写真が撮れるように、提案がある」
そよ、立希「提案?」
立希「……立希はそよのスマホに映るように、こうやって指を差して誘導するの。あと飛びそうなタイミングを『セット』って掛け声で伝える」
むつみちゃんは人差し指と中指を揃えて指し示すポーズを取る。……差す指を1本じゃなくて2本にする意味と、掛け声がどうしてそのチョイスなのか分からなかった。たきちゃんと訝しい顔を見合わせた後、不可解な点を指摘する。
そよ「なんか全体的にかっこつけてる感じがするのは気のせい?」
立希「今度は何のネタなの」
睦「……指一本より(たぶん)見えやすいし、セットなんて陸上とか水泳の国際大会でも使われてるくらい普通。短い言葉で分かりやすいし、それ以上の意味なんてない(大嘘)」
立希「まぁ……それでそよが良い写真撮れるなら、やってみるか」
そよ「まぁたきちゃんがいいなら」
なんだかもっともらしいこと言われて丸め込まれてる気はしたけど。恥ずかしいポーズも掛け声もたきちゃん担当だから、ここは大人しく従うことにする。……むつみちゃんまでスマホを取り出したことは、とりあえず流してあげよう。
立希「そよ、私の指見えてる?」
そよ「うん、今度はついていけてる」
立希「よし……潜ってたシャチが上がってきた、セット!」
本当に言われた通りしてくれた厨二チックなたきちゃん。同類と思われるのは恥ずかしいけど、おかげで今度は余裕持って撮れた。
そよ「うん、だいぶマシになった!」
立希「でももうちょい良いの狙えそうじゃない?」
そよ「そうだね。高さとピント合わせたら、バッチリなのが撮れそう」
海「へぇー、面白そう! 晶、わたしたちもやってみよう!」
晶「えっ、私があのポーズ取るの……?」
祥子「なるほど。そよと立希、構本さんと瀬川さんのタッグマッチですわね!」
燈「祥ちゃん、勝負にしなくても……」
睦「……まぁ、このフォーメーションはお互いを信じ合う絆の強さが肝だから。中途半端な関係じゃ上手くいかないだろうなぁ」
晶「…………海。私の指と声に集中して」
海「う、うん……。(ほ、ホントに晶の吐息と囁き声に集中しちゃいそうだよ……写真のこと忘れそう……)」
睦「……これでウチのリズム隊がどれだけ息合ってるか試されちゃうね」
そよ、立希「睦(ちゃん)は勝手に面白おかしく煽らないで!」
祥子「いいですわよ2人とも! 息ぴったりですわ!」
燈「ど、どっちも頑張って!」
やかましいお嬢様共は無視し、ピュアなともりちゃんに励まされながらたきちゃんの誘導に従う私。
セットの声で素早くピントを弄り、シャチの最高到達点で待ち構える。
水面に映る翳が濃くなって来た、と思ったらシャチが現れた。蒼い境界線を勢いよく突き破り、空に向かって真っすぐ飛び立つ。海の王者は水が滴る全身を曝け出しそうなところで、ほんの一瞬だけ浮遊するように止まる。その刹那を、私は見逃さなかった。
カシャッとベストシーンを切り取ったあと、シャチは爆発したような水飛沫をあげながら水中に消える。ラストのジャンプに拍手を送りながら、私とたきちゃんは成果を確認した。
そよ「うん!」
立希「いいね!」
私たちはどちらからともなくハイタッチした。これ以上ないベストショットを撮れた私たちの連携、CRYCHICのリズム隊面目躍如かな? ……別にむつみちゃんの言葉を真に受けてたわけじゃないけど。
立希「この写真を燈に捧げる!」
そよ「ちょっとたきちゃん、まるで自分だけで勝ち取った手柄みたいに言ってない!?」
やっぱりともりちゃんのことしか考えてなかった相方に、ツッコまざる得なかった。
海「うん、晶のおかげで良い写真撮れた! ありがとう、晶♪」
晶「ううん。私はほとんど何もしてないから、海が撮るの上手かったおかげだよ」
海「違うよ~、わたしたちの絆あってこその、2人で撮った写真だよ?」
晶「そ、そうだね……。……そっちの方が、嬉しいね」
あぁ、しっとりいい雰囲気の2人が羨ましい。まぁたきちゃんとあぁなるなんて欠片もイメージできないし、そんなたきちゃん気持ち悪くて笑っちゃうだろうけど。
睦「……うんうん、両者ともいい写真が撮れたみたいで何より。良い提案した私のおかげ」
祥子「貴女面白がってただけでしょう。立希がかっこつけた指さしと掛け声してる動画撮りながら」
立希「今すぐ消せ睦!」
睦「……CRYCHICが誇るリズム隊の、息の合ったコンビプレイを? もったいない」
しばらく私たちはじゃれあう仲良しコンビを見て笑っていた。