CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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5番 2人みたいに

 

 

 燈side

 

 次のイルカショーまで時間があるので、構本さんが買い出しに行ってくると言い出した。

 ……どうしてか、私を連れて。

 

「あの……どうして私を連れたんですか? 仲良しの晶さんの方が、いいんじゃ……」

 

 売店の列に並びながら聞いてみた。今日会ったばかりの人と2人っきりだといつもなら緊張するけど、晶さんと、この人はそんなことなかった。

 お昼に仲良くなれた晶さんはともかく、構本さんはどうしてだろうと思ってたけど、すぐ理由に思い至った。

 

「あぁ、びっくりしたよね、ごめんね? 燈ちゃんに訊きたいことがあったんだ」

 

 構本さんが向けてくる柔らかい笑顔には、馴染みがあった。こういう笑い方をする子と、1年以上関わって来たから。

 だから、あまり初対面という感じがしないんだと思う。安心して話せる。

 

「訊きたいこと、ですか?」

「えっと、燈ちゃんお昼から晶のこと名前で呼び出したでしょ? ちょうど私がいない間だから、晶と何かあったのかなって、お話聞きたかったの」

「えっと……それって、みんながいるときでも聞けば……」

「だ、だって……晶から話そうとしなかったのに、私から聞き出そうとしてめんどくさいかn……女って引かれたらと思うと……」

「?」

 

 頬を赤らめてそっぽ向く構本さんは、独り言みたいに呟いた。ごにょごにょしていてよく聞こえなかったから、顔を覗き込むように寄せる。

 

「と、とにかく! みんなの、というか晶の前じゃ聞きづらかったの。お願い燈ちゃん、教えて?」

 

 慌てたような顔になって両手を合わせてきた構本さん。穏やかで基本ニコニコと微笑むお姉さんだと思ってたから、こうも忙しなく様子が変わるとこちらが混乱しそうになった。

 ともかく落ち着いてもらうためにも、お昼に晶さんと話したことを順番に挙げた。

 人魚についてどう思ってるか訊いたら、小さい頃のことを教えてくれたこと。

 周りとズレていた自分と似たものを感じたから、同じということを伝えたくて石拾いの話をしたこと。

 晶さんも耳石を集めていたこと。周りと違うことに夢中で、不安じゃないかと訊いたこと。

 そして……。

 

「好きなものは好きなままでいい、って励ましてくれて。私と似たような人に認めてもらえたの、嬉しかったから。その勢いで、名前で呼んで、ました……」

「……そっか。晶、そんなこと言ったんだ。……なんだか嬉しいな」

 

 構本さんはまだ顔を赤らめたままだったけど、両手の指を合わせながら浸るように口元を緩ませて、目元を細めている。よく分からないけど、さっきみたいに落ち着かない感じじゃなさそうで、私もほっとした。

 

「晶は、燈ちゃんに自分を重ねたんだろうね」

 

 石をそっと重ねるような口調で、構本さんは言った。私もそう思ったし、似てるのは私たちだけじゃないとも思うから、口にしてみる。

 

「構本さんは、そよちゃんに似てますね」

「やっぱりそうかな? そんな話をそよちゃんともしたんだー」

「みんなに優しくて、温かくて。きっと、ううん、絶対晶さんも、そういう構本さんが好きで。私も晶さんが構本さんに出逢えて、よかったです」

「晶がそう言ってたの?」

「いえ。でも、分かります。構本さんと笑い合う晶さんは、CRYCHICに出逢えて救われた私と、同じだから」

「そっか。燈ちゃんがそう言ってくれるなら、信憑性高いな」

「はい。私も、そよちゃんに出逢えてよかった、から」

「うん、分かるよ。私も晶に出逢えてよかったし、晶にそう思ってもらうのも、燈ちゃんにそれを分かってもらえるのも。全部、嬉しい」

 

 1つ1つ想い浮かべるように紡ぐこの人の、目に痛くない光のような笑顔は素敵だった。

 晶さんにまつわることを自分のことのように喜んで、自分の幸せとして心を満たしてる。この人は晶さんといられるだけで幸せなんだなって、見てるだけで確信できた。

 だって、この笑顔も知ってるから。CRYCHICが大好きなそよちゃんがみんなに囲まれてる時の笑顔と、そっくりだった。

 

「……やっぱり、海さんはそよちゃんに似てる。幸せそうに笑うところが、特に」

「うん! でも燈ちゃんだっていい顔してるよー?」

「わわっ、ほっぺつんつんしないでください……」

 

 こういう、たまにお茶目なからかいしてくるところも似てるなと思った。

 

 

 

 今まで会ってきた、たくさんの人達を思い浮かべる。その中でも、そよちゃんや海さんみたいな人はほとんどいなかった。

 誰にでも親切で、優しくて、よく気を利かせる人で。そんなところに、今まで数えきれないくらい助けてもらった。

 そんな人と巡り合えたことはありふれた出逢いなんかじゃない。凄く運がよかったんだ。なら、大切にしないと。

 助けてもらってばかりじゃなくて、助け合えるような、対等な関係になりたい。晶さんと海さんみたいに、お互いを大切に想い合える関係を、そよちゃんと結びたいな。

 そうこう話をしてたら、屋台のカウンターは目と鼻の先。次が私たちの注文する番。

 

(みんなに何買っていこう。そよちゃんは何が喜びそうかな……)

 

 頭の中では、そよちゃんの好きそうな食べ物や飲み物が飛び交っていた。

 

 

 

 そよside

 

 ともりちゃんと海さんが買い出しに出かけてから、瀬川さんは見るからにしゅんとしていた。

 

晶「海……なんで私を連れてってくれなかったんだろう……」

 

 海さんがいなくて心細いのか、選ばれなかったことが不満なのか。ブツブツいいながらしょげる瀬川さんが居たたまれなくて、私は声をかける。

 

そよ「きっと、ともりちゃんが瀬川さんの呼び名を変えたことを聞きたかったんじゃないですか?」

 

 半日見てれば分かるけど、海さんは瀬川さんが大好きだ。瀬川さんを見てるときの、慈しむような顔を見れば分かる。だから、きっと瀬川さんがいると聞きづらいようなことがあったんだろうな、と思っていた。

 それで、あからさまに呼び名を変えたともりちゃんを連れたんだろう。でも……。

 

晶「それだって、私に聞けばいいのに……」

そよ(ですよねー。私もそう思うんですよ……)

 

 たかだか呼び名を変えた程度の話に、どうしてそこまで回りくどい真似をしたのか分からなかった。

 まぁ、馬鹿馬鹿しい仮定だけど、これが彼氏彼女関係なら、経験無いなりに理由を想像できなくもない。

 

 『私の知らないところで、恋人が他人と仲良くなってる! どういうこと!?』 

 

 って感じで、いちいち根掘り葉掘り聞こうとしたら重い女って思われそう。だから見えないところで知ろうとするのは理解できるけど。

 

そよ(でも2人は同性の友達同士、引かれそうとか気にするほどかなぁ)

 

 なんて話をベラベラ口にできないから、別方向から納得してもらおう。

 

そよ「あとは……単純に、ともりちゃんと話したかったんじゃないでしょうか? ともりちゃん、瀬川さんに似てるところありますから」

立希「海の生き物が好きな所?」

睦「……安直過ぎる」

そよ「違うよ。なんていうかな……」

祥子「自分の興味があるところに一途なくらい真っすぐなところ、でしょうか?」

そよ「そう、そんな感じ!」

 

 ともりちゃんはペンギンとか、石とか他の収集物とか。瀬川さんは海の生き物。2人とも、誰に憚ることなく熱心で、自分の好きを貫いてる。今まで見てきたともりちゃんはそうだったし、瀬川さんもそういうところが根っこにあったからあれだけ詳しくなったんだって分かるから。

 

晶「それは……私としては余り褒められたことじゃないけど。でも、高松さんと似てるって言われて、悪い気はしないかな」

 

 100%良い意味で言ったつもりだったから、前半の返答には焦ったけど。でもくすぐったそうな微笑みで後半を言ってもらえたから、きっとそこまで気にすることじゃなさそうで安心できた。

 

そよ「そう言ってもらえると、友達として私たちも嬉しいです」

晶「……長崎さんは、やっぱり海に似てるね」

そよ「あはは、海さんともそんな話しましたよー?」

晶「高松さんが貴女と出逢えて、自分のことみたいに安心してるんだ。私が海に出逢えて救われたみたいに、きっと高松さんもいい影響受けてると思うから」

 

 プールを眺める瀬川さんの口角は上がっていて、頬も緩んでるのに。伏せられた目元がどうしてか痛ましく見えて、心がざわつく。まるで自分みたいにならなくてよかったって、悲しい心象に塗れながら安堵してるみたいで。

 自分と似た海さんの大切な人だと思うと、他人事みたいに思えないから。この場にいない彼女の代わりに、私がなんとかしなきゃって使命感に駆られた。

 

そよ「あはは、私からともりちゃんに良い影響与えられてたらいいんですけど……。でも、海さんだって瀬川さんから影響受けてるって言ってましたよ?」

晶「海が?」

そよ「はい。大好きな人が出来て、その人の隣にいれることが幸せで、人生で一番満たされてるって。それって晶さんのことですよね?」

晶「だ、大好き、って……」

そよ「素敵な関係ですよね。ただの友達じゃなくて、大親友みたいな、お互い想いあってる関係って」

晶「な、なんだ……そういう話か」

そよ「え?」

 

 よく分からない返答に顔を覗き込むと、基本落ち着いた表情の瀬川さんが頬を赤くして狼狽えていた。照れたのか、恥ずかしいのか。どちらにしても、どの部分が彼女をそうさせたのかは分からなかった。

 こういう不可解な反応は、時々海さんも見せていた。そしてそれは全部、瀬川さん絡み。友達なはずの2人の関係性をどうも把握しきれないけど、今日会ったばかりだから当然かな。

 

晶「う、ううん。海が私と同じように大切に想ってくれて嬉しいってだけだから……」

そよ「はい! 私とともりちゃんが海さんと瀬川さんで似てるなら、私たちも2人みたいに仲良くなりたいくらいです♪」

晶「……うん。きっと貴女が一緒にいるなら……高松さんも、大丈夫だと思う」

 

 まるでともりちゃんを託すように、思い遣りの籠った微笑みを向けて来る瀬川さん。ともりちゃんが救われると自分も救われるくらい、他人に思えないんだろうな。

 そんな、純粋にともりちゃんを想ってくれる気持ちを胸にしまい込む。

 私も2人みたいな関係をともりちゃんと築きたい。口にしたことで、実現したい気持ちがはっきり形になった。お互いの興味に歩み寄って、共有して、近い距離感で想い合うような、今よりもっと特別な関係になりたい。この紛れもない本心を、瀬川さんの想いを糧に昇華したかった。

 大切な想いを胸に刻み込んでると、やっぱり空気読めない子が横から口を挟んできた。

 

立希「あのー、私達も燈と仲良いんですけどー?」

晶「えっ、えっと……」

祥子「立希、どうしてせっかく良い話でまとまったのにまぜっ返すんですの?」

睦「……立希は空気読まない子だから」

立希「読んでるし! そよだけじゃなくて私達もいるから安心していいですよって意味で言っただけ」

祥子「それにしては声と目つきに棘がありましたわよ?」

立希「棘ないから」

睦「……うん。目つき悪いのは、元々……」

立希「いっつも無表情なお前に言われたくない!」

 

晶「……ずっと思ってたけど、5人って個性的でいつも賑やかそうだね」

そよ「騒がしくてごめんなさい……」

 

 これが私たちらしい会話とはいえ、やっぱり今日会ったばかりの人に見せつけるのは恥ずかしいコントでしかない。じいんとしていた余韻も何もなく、私と瀬川さんは苦笑いでお茶を濁すのだった。

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