6番 イルカショー
買い出しから戻って来た海さんともりちゃんを輪に入れて、軽食をつまみながら時間を潰す。
そしてアナウンスが入った。ついに始まるらしい。
祥子「白と黒のコントラストが綺麗に映えていて恰好良いですし、三日月形のフォルムもイルカ特有の愛嬌がありますわね」
晶「そういう特徴から黒い鎌みたいに見えるから、カマイルカって和名がつけられたんだって」
燈「なんだか、見た目で名前つけるの、多い」
睦「……分かりやすさは大事」
海「このカマイルカも、晶がこの水族館に来たかった理由なんだよね?」
晶「うん。日本だとここを含めて2館しかいないから」
そよ「そうなんですね! イルカって水族館に大体いるって思ってましたけど、その中でもカマイルカは希少なんだ……」
晶「活発でよく泳ぐから広くて深い水槽が必要だし、集団行動を好むから単独飼育もできない。要は飼育コストがかかっちゃうんだ」
確かに5匹のカマイルカ達が泳いでるプールは大きかった。
平面積は学校のグラウンドぐらい広く、深さも水面は3階から底が2階の床まで。
まさに日本一の面積を誇るこの水族館でないと、飼育が難しいイルカみたい。
立希「でもそれだけレアなイルカのショー見れるなんて、なんか得した気になってきた」
そよ「得って……なんか現金で品ないよ?」
睦「……そういう文句でSNSに写真上げてそう。承認欲求の塊みたいなアカウントで」
立希「そこまで終わってないでしょ絶対!」
海「一部の人達を敵に回しそうなこと言っちゃってるよ、立希ちゃん……」
そんな与太話は置いといて。
プールを高速で泳いだり、沖ステージに上がってクルクル回ったり、立ち泳ぎするパフォーマンスを楽しむ私たち。
そして、ジャンプパフォーマンスを披露するところまできた。そこで、私の隣に座っていたともりちゃんがおもむろにスマホを取り出す。
燈「私……撮る!」
そよ「おぉ! ともりちゃんが写真撮ろうとするの珍しいね! 私手伝うよ」
燈「うん。そよちゃんに手伝ってもらえるなら、安心」
祥子「私も撮ってみたいですわ! 隣の立希と睦は手伝ってくださいまし!」
睦「……はいはい」
立希「かしこまりましたよ、おじょーさま」
海「私も撮ろ! 晶!」
晶「うん、任せてね」
こうして3組がイルカ撮影に挑戦するのであった。
〇燈×そよ
燈「イルカをカメラに収めたまま動きを追って……ジャンプしたっ、撮らなきゃ!(パシャ)」
そよ「う~ん、ともりちゃん。それかなりブレてるんじゃない?」
燈「うん……イルカに見えない……」
そよ「動き回るイルカを追いながら撮るとそうなっちゃうから、飛ぶところを待ち構えるの」
燈「待ち構える……そっか、そよちゃん撮るとき、スマホ全然動かしてなかったもんね」
そよ「私がイルカの動きを見て予想建てるから。私の合図に合わせて、ともりちゃん」
燈「うん……!」
そよ(なんて言ったけど、私もまだイルカの動き把握できてないんだよね。しばらく観察して、予想するための手掛かりを得よう)
燈(そよちゃん、中々合図出さないな……。ううん、真剣な顔でイルカ見てるそよちゃんを信じて、じっと待とう)
そよ「……分かった。トレーナーさんの指示とイルカの進行方向的に……あの辺!」
燈「うん、構えた! 今度こそ……撮った!」
そよ「どうだった!?」
燈「うん! さっきより良いのが、撮れたよ!」
そよ「やったねともりちゃん!」
燈「うん。2匹並んだ写真なのが、嬉しい」
そよ「……分かるよ。飛ぶタイミングも高さも全く一緒で、凄く息合ってて仲良しだもんね」
燈「そ、それで……そんな写真を撮った私とそよちゃんも、その……同じくらい仲良しだったらいいな、って……」
そよ「——……」
そよ(もしかして、ともりちゃんも同じこと願ってたのかな? 海さんたちみたいに仲よしになりたいって……)
燈「え、えっと……今そよちゃんと仲良くないとか、そういうこと言ってるんじゃ、なくて。その……」
そよ「——あはははっ!」
燈「な、なんで笑う、の?」
そよ「だって、私も同じこと考えてたんだもん。片思いだったら悲しいし恥ずかしかったから言えなかったけどね」
燈「そ、そっか。よかった。じゃあ私たち、本当に仲良し、だね」
そよ「うん!」
私はともりちゃんの撮った写真も現像してアルバムに残したいから、データを送ってもらった。届いた写真をもう一度見る。
隣り合って空を駆ける2匹のイルカたち。ボーカルとベースとしても、大切な友達としても、いつまでもこんな風に並んで前に進んで行きたいな。
ともりちゃんと顔を見合わせると、どちらからともなく笑い合った。彼女の希望に満ちた良い表情から、どこまでも同じ気持ちだって信じ合えたから。
〇祥子×睦&立希 複数同時ジャンプ
睦「……祥。ここからはイルカ達が同時にジャンプするらしい」
祥子「何と! では全部のイルカを収めた写真を撮りましょう!」
立希「無理じゃない? 撮れたとしても、すっごい拡大するから、イルカの写り小さいだろうし」
祥子「むぅ……。では仕方ありません、2,3匹に絞りましょう。さて、私たちはスタジアムの丁度真ん中あたりにいますが。左側か右際、どちらに絞るべきでしょうか?」
立希「右」睦「……左」
祥子「意見を別れさせるのやめてもらいます? まぁ、理由が筋通ってる方のを採用しましょうか」
立希、睦「勘」
祥子「貴女達適当極まりないですわね!」
立希「だってそよみたいに写真撮り慣れてないし」
睦「……私達にそこまで期待する祥が間違ってる」
祥子「もういいですわよ、自力で撮ります! 絶対逃さないように……!」
立希(あーあ、そんなに前のめりで。反射で撮る気満々じゃん……)
睦(……アドバイスが先に思い浮かぶのは楽でいいけど。テンション上がり過ぎた祥は本当に残念だなぁ)
祥子「……見えましたっ、そりゃっ!」
立希「どんな掛け声で撮ってんの……。どれどれ?」
睦「……水飛沫しか写ってない」
立希「撮るの早過ぎだって。これじゃ何の動物撮ってるかも分かんないでしょ」
祥子「こういうときだけズカズカ言ってくるんですから……聞いてもないのに」
立希「祥子は気持ちが前のめりだからイルカ見えた瞬間撮ろうとしてるんだよ。落ち着いてもっと引き付けなって。バンドするときの
祥子「なるほど。音楽で例えられると一気に分かって来ましたわ。流石立希ですわね」
立希「別に、音楽以上に伝わりやすい例えがなかっただけだよ」
睦「……祥。さっきのジャンプと同じ感じだったら、あの辺りで待ち構えてると4匹ぐらい写せるかも」
祥子「分かりましたわ……睦の指さしたところで待って、飛び出してきてもすぐに反応しないで、ベストなタイミングまで引き付ける……ここですわっ!」
立希「今度はどう? ……おぉー」
睦「……まぁ、そよが撮るような写真ほど映えないけど。良い感じ」
祥子「一言余計でしたが、まぁその通りだと思うのでいいでしょう。えぇ、個人的にも納得の1枚ですわ! ありがとうございます、2人とも!」
立希「……はいはい、私は思ったこと適当に言ってただけだから」
睦「……立希。そっぽ向いて誤魔化せてると思ってみたいだけど。耳赤くなってるから」
立希「はぁ!? 別に照れてないんですけど!?」
祥子「あら、本当に顔真っ赤ですわ。立希ってば、私にもそんな反応してくれるんですのね!」
睦「……立希は祥から真っすぐな笑顔で素直にこられると弱い。クールぶってるチョロツンデレだから」
立希「私は祥子に弱いところなんてないしクールぶってないしチョロクないしツンデレでもないんだよ! 適当なことばっかり言いやがって!」
睦「……はいはい、私は思ったこと適当に言ってただけだから」
立希「真似すんなっ!」
祥子「ふふっ、立希の素直じゃないところもチャームポイントとしてすっかり愛着が湧きましたわね!」
天真爛漫なさきちゃん。ツンデレたきちゃんに、からかい好きなむつみちゃん。
改めてバランスの取れたトリオだと思う。この3人だとギャグ方面に走りガチだけど、見ていて楽しい仲良しだから。私はほっこりしながら3人の騒ぐシーンを写真に撮った。
〇海×晶 大ジャンプ
海「あれ? プールの上空にボールが吊るされたけど、あそこまで飛ぶのかな? 結構高いけど……」
晶「イルカは3mくらい飛べるから。ギリギリ届く高さじゃないかな」
海「凄いね! 私、このジャンプ撮るよ」
晶「あのボール辺りにカメラ合わせればいいから、難しくなさそうだしいいね」
海(うーん、簡単だと晶に手伝ってもらうこともなくて、ちょっと残念かも。さっきみたいに吐息がかかるくらい近づきたいのに……)
晶「海? ジャンプはまだみたいだから、今から構えてると腕疲れちゃわない?」
海「あぁ、どのくらいズームしようとか考えてて。私は1匹でいいから大きくイルカ撮りたいんだー」
晶「ならイルカの大きさ的に……これくらいズームしたら画面いっぱいに映りそう」
海「あ、ありがとう、晶……」
海(晶が私と一緒にスマホ覗き込みながら操作してきた……。ここまで密着するとドキドキで幸せだけど、苦しい……。晶って、やっぱり無意識に距離近いな。私の『好き』と違うはずなのに……)
晶「海。もうそろそろイルカジャンプしそうだよ」
海「わ、分かった! ……よし、バッチリ撮れた!」
晶「見せて。……本当だカマイルカが綺麗に撮れてる。流石海だね」
海「晶が手伝ってくれたおかげだよ」
晶「……私、あんまり海の助けになったことなかったから。こんなことでも、嬉しい」
海「何言ってるの! 晶が一緒にいてくれるだけで私凄く幸せなんだって、前にも言ったでしょ?」
晶「それは……それも、私の方が何千倍も想ってるから」
海「もう……(あのときの衝動を思い出したら、我慢できなくなっちゃうよ……って、そよちゃん達がいるんだから抑えないと……)
意味深に見つめ合う2人の周りには、なんだか今日一番親密過ぎる雰囲気がぽわわんと広がってくる。キラキラ眩しいような、桃色のハートがぽわぽわ飛び交ってるような。見てるとドキドキしてきそうで直視しづらい何かある私は、流石に2人を撮るのはやめておいた。
友人を撮るくらいのつもりが、撮っちゃいけないプライベートをパパラッチしちゃったみたいな感じになりそうだったから。