時刻は16時。私たちCRYCHICは出口付近で海さんと瀬川さんの2人に向き合っている。楽しかった7人の水族館巡りも、終わりの時間がやってきたのだ。
燈「この後バンド練がなければ、まだ一緒に回れたのに……」
立希「いやその、と、燈……スタジオ予約しちゃったし、キャンセルするわけにもさ……」
睦「……これには練習第一の立希もタジタジ」
祥子「まぁライブも近いですし、流石に練習は疎かにできませんわ」
そよ「うん……。名残惜しいのは、すごく分かるけどね。お2人も、出口まで見送ってくれてありがとうございます」
未練がましさを主張するのはともりちゃんだけでいい。私は張り慣れた笑顔で本心を隠す。私まで2人を困らせる要因にはなりたくない。
海「ううん、わたしたちもみんなと一緒ですごく楽しかったから! こちらこそ、ありがとうね」
晶「うん。変な出逢い方だったけど、一緒に回れて本当に良かった」
燈「晶さん……。私も、晶さんと海さんに会えて、本当によかったです」
2人の好意的な言葉と笑顔にともりちゃんも表情を明るくする。
そこで海さんがスマホを取り出しながら私に歩み寄ってきた。
海「そよちゃん。よかったら連絡先交換しない? なんだかこれっきりで終わっちゃうのがもったいなくて」
そよ「いいんですか!? 嬉しいです、ありがとうございます!」
晶「なら、高松さん。私達も交換しない?」
燈「あ……。ありがとう、ございます。……嬉しい、です」
いそいそとスマホを取り出して操作に集中するともりちゃんは、口元を緩ませて本当に嬉しそうだった。
何となく、海さんを見る。ニコッと笑い返してくれた海さんが連絡先交換を言い出したのは、もしかしたらこれを期待してたからかもしれない。瀬川さんとともりちゃんの関係も、惜しく思って。
晶「また……会えたらいいね」
燈「はい。また、会いたいです」
海「そうだ、もし富山でライブすることがあったら教えてね! 見に行くから!」
立希「富山でライブは流石にな……モゴモゴ」
睦(……お黙り、立希)
そよ「はい! 絶対声かけます♪」
祥子「私達CRYCHICの活躍がそちらに届くよう、今後も精進致しますわ。応援、よろしくお願いします」
海「うん! 応援してるね、CRYCHIC!」
晶「じゃあね、高松さ……ううん、燈。何かあったら、いつでも連絡していいから」
燈「晶さん……。はい、晶さんも、元気で……!」
最後にほっこりする歩み寄りを見届けて、7人の時間は終わった。隣り合って手を振ってくれる2人に会釈して、私たちは出口を抜けて黄金色に眩しい屋外へと出ていった。
バンド練に使う機材は、駅近くに建っている私の家に置いていた。なので今は電車に乗って私の家に向かってるところ。
その間の話題は、もっぱら今日の水族館について。
でもやっぱり今日の水族館といえば、奇特な出逢い方をしたあの2人だから。自然とその話題になっていく。
祥子「本当にいい人達でしたわね。好感の持てる年上のお姉さんでしたわ」
燈「うん! 晶さんも海さんも、また会いたいな……」
睦「……今度は私たちが2人の地元行く?」
立希「流石に富山は遠いでしょ。まぁ、用事があるなら会うけどさ」
そよ「まぁ私とともりちゃんが連絡先知ってるから。近況報告ぐらいできるよ」
海の生き物についてたくさん教えてくれた穏やかなお姉さんと、楽しい雰囲気を常に保とうとしてくれた優しいお姉さん。心が温かくなる人たちとの出会いは貴重だから、ちょくちょく連絡したいと思ってる。
睦「……あの2人は、友達どうし、だよね?」
立希「何変な勘繰りしてんの。……って、言いたいところだけど……」
そよ「いやいやたきちゃんまで何言ってるの。確かに2人の世界が繰り広げられて、私たちお邪魔かなーってシーンはよくあったけど。流石にそんな……ねぇ、さきちゃん?」
祥子「どう、なのでしょう……。あれが恋人関係の世界と言われれば分かるような、親しい友人の間柄と言われても納得できる範囲のような……恋愛経験もありませんし、何とも言えませんわね」
燈「恋人かどうかは、分からないけど。あの2人は、特別どうしだよ」
そよ「特別……そうだよね。特別って、ありきたりな言葉じゃ説明つかないもんね」
下世話な邪推をしてしまったけど。結局ともりちゃんの言う事が一番的を得ているんだろう。
特別。他に替えがきかない、唯一の存在。
その人じゃなきゃダメだと、求め合う繋がり。
あの2人は、まさにそうだった。なら、2人に似てる私たちは……
燈「私たちも、あんな関係に、なれるかな?」
同じことを考えてたらしいともりちゃんの問いに正直に答える。
あんな、恋人と見られかねないような関係までは流石に望んでなかった。
そよ「ん~、どうかな。あんなに意味深な関係はちょっと分からないけど……」
燈「それも、そっか……」
私たちは苦笑を交わす。昨日までの私なら、ともりちゃんのいつもより大胆な歩み寄りに喜んで軽々しく「なれるよ!」なんて返してたかもしれない。何より、彼女の気持ちを傷つけたくないから。
でも今は違う。自分の本音と向き合った言葉を投げかけても、彼女がショックを受けないと確信してた。昨日までにはなかった信頼が、見えない糸でともりちゃんと繋がってるみたい。
あの2人と一緒に水族館を回って。それぞれと話して。イルカショーで同じ気持ちを確かめ合った私たちは、もう答えが分かってる。それこそが、私たちを繋ぐ道標。
特別になりたい友達と、既にそんなものを共有してることが何より心強く、誇らしいと思いながら。口にして言霊を込めることで、私たちの誓いにした。
そよ「私たちは、私たちの特別になっていこうよ。あの2人と違うけど、あの2人に負けないくらい仲良しな特別を目指そう?」
燈「うん……! 私も、その方が私たちらしいって思う!」
満面の笑みを咲かせるともりちゃんと同じ顔になって、手を取り合う。その笑顔に、手から流れ込む温かさに。ともりちゃんへの信頼が穏やかに温もる。通じ合えてるって、間違ってないって思えるから。
私たちは、お互いをもっと大切に想い合う関係になりたいという、一番大切な意思を確認し合えたんだ。
私たちは趣味も気も話も合わないどうし。それでも仲良くなりたいと思い合えるこの気持ちが、私たちの『特別』なんだと思う。
ならその『繋がり』を信じよう。そしたらCRYCHICという運命に乗って、どこまでも手を繋いで、私たちは『特別』な仲良しになっていける。
私はそんな未来しか思い描けないし、そこに向かって行く過程が楽しみで仕方ないくらいだった。
立希「ちょっと、なに2人の世界作ってるわけ?」
睦「……思えば今日1日、この2人と私たち3人で妙に線引きされてたような……」
祥子「これは運命共同体として由々しき事態ですわ! どうせなるなら、私たち5人で特別になりましょう!?」
そよ「えー、あの2人みたいに私たちだけの特別にしたかったのにー」
立希「なんで燈の特別がそよなんだよ」
睦「……なるほど。自分こそがふさわしい、と?」
立希「そっ、そういうことを言ってるわけじゃなくて!」
祥子「まぁ私はCRYCHICの作詞作曲ペアとして特別ですけど?」
睦「……5人で特別とか言っときながら急に主張してきた。まぁ私は雰囲気似てるペア」
そよ「じゃあもう特別じゃないのたきちゃんだけだね」
立希「ちょ!? なら私は……えーっとぉお……!」
燈「立希ちゃんは……一緒に帰るペア、だね」
祥子「あぁ、帰る方向が逆なのにわざわざ立希がついていってるペアでしたね」
そよ「ホントホント、いつの間にか謎にたきちゃんが送ってあげてるペアだもんねー」
睦「……立希が燈の過保護してるペア」
立希「お前らめちゃくちゃ言ってくるじゃん! 私が燈送るのは勝手だしいいでしょ!」
誰が誰と特別だろうと。私たちCRYCHICがみんなでギャーギャー騒ぐのは、ずっと変わらないんだろうな。
距離が縮まって、それぞれの何かしらが変わっていっても。きっとずっとみんなでいる。
あの2人みたいに、変わらず一緒にいたいから。
私たちを乗せた列車が、前へ前へと駆けていく。その先にはバンドに楽しいイベント事に、色んな出来事が待ち受けてるだろう。私はそんな明るい未来へ想いを馳せながら、みんなとのお喋りに華を咲かせた。