〇ホンソメワケベラ前編、魚の洗体屋
燈「魚の掃除屋さん?」
晶「ホンソメワケベラだね。他の魚の体表についてる寄生虫やカビを食べて生きてる魚」
海「へぇー! じゃあ魚たちから人気そうだね」
晶「実際、魚を襲う肉食魚すら、ホンソメワケベラだけは食べないで大人しく掃除されてるんだよ」
睦「……絶大な支持を受けてる」
そよ「そりゃ自分の身体を綺麗にしてくれる貴重な存在なんだし、邪険にはできないよねー」
祥子「体を綺麗に……お風呂で洗ってもらうようなものでしょうか?」
立希「そうだろうけどさ。洗体って考えると、なんか……」
燈「なんか?」
睦「……ナニを考えたんですかね、おませな立希ちゃんは」
立希「いや別にっ、洗体屋なんてこの年になったら嫌でも知っちゃうでしょ!」
そよ「知ってたとしても、口にするのとはまた別でしょ。エッチだねーたきちゃん」
立希「きっかけは祥子だから。祥子が悪い。祥子がエロい」
祥子「訳の分からない話から急に覚えのない中傷をされましたわ! どうしてお風呂からそんな話に繋がるのです!?」
燈「???」
晶「海。みんな何の話してるの?」
海「えーっと……ここだと他人の前だから、また後で言うね……」
海(絶対言えないけど。言ったらそれこそエッチな雰囲気になって……私の歯止めが効かなくなりそうだし……)
〇ホンソメワケベラ後編、偽物も必死に生きている
立希「コホン。でも貴重な洗体係なんて、人間社会だったら悪用するやつも現れそう」
祥子「わざわざ気分悪くなるようなこと想像させないでくださいまし」
晶「えっと……、実はホンソメワケベラに姿形がそっくりな、魚の鱗や皮膚を食べちゃう魚がいて……」
そよ「ほら、たきちゃんが不穏なこと言うから現実になったじゃない!」
立希「絶対関係ないでしょ!」
海「あはは……晶、どんな魚なの?」
晶「ニセクロスジギンポっていうんだけど……」
睦「……偽物感のある名前、まさに悪役っぽい」
晶「(苦笑い)見た目だけじゃなくて、泳ぎ方まで似せるから魚たちも騙されちゃうの」
燈「悪い魚なんだ……」
晶「どうかな。元々はホンソメワケベラに擬態することで、食べられにくくする保護擬態が目的らしい。魚をかじるようになったのはホンソメワケベラの掃除を擬態して、より本物に似せようとしただけじゃないか、とも言われてるの。ニセクロスジギンポは、ただ生き残るために身を守る擬態を追求したかっただけだって」
海「そっか。そうだよね、海の世界で自分が食べられないようにどの魚も必死なんだもんね」
そよ「なんだか、私たち人間の尺度で考えるのが申し訳なくなってきました……」
燈「うん。魚の世界も、複雑なんだ。もしかしたら、私たちの世界と同じくらい」
睦「……生きるのって、大変だね。どの世界でも」
立希(魚の掃除屋から、なんでこんな哲学的な話になってんだろ……)
〇モンハナシャコ前編、海の建築家
祥子「見てくださいまし! 今度は海の建築家という謳い文句の生き物がいますわ!」
晶「モンハナシャコだね。石やサンゴを拾って組み立てて家を作ることからそう言われてる」
睦「……掃除屋に建築家。ブルーカラーの職種が揃ってきてる」
立希「海だけにって言うんでしょ。サムいんだけど」
睦「……流石立希。立希は私の専門家だね」
立希「嬉しくない肩書……」
そよ「しょうもないギャグは置いといて。人間みたいに家を作っちゃうなんて、知的だねー」
燈「うん。私人間なのに、家作れる自信ない」
祥子「こうやって海洋生物の色々な得手を知るのも、知見が広がって面白いですわね!」
晶「なんだか、そう思ってもらうと私が嬉しいな」
海「晶……。うん、みんないい子たちだね!」
〇モンハナシャコ後編、ハードパンチャーな建築家
立希「瀬川さん、説明プレートに書いてあったんですけど。このシャコ、パンチ力も凄いって本当ですか?」
晶「あぁ、そうだね。捕脚っていう、ハンマーみたいな形をした前足で叩くの。速度は0.003秒、時速にすると80キロだって」
祥子「え~っと……それってどれくらい凄いんでしょうか……」
海「ここの説明プレートに書いてあるけど……プロボクサーのパンチで、時速40キロだって」
睦「……人類の倍凄かった……」
そよ「いや~、建築家って情報より凄いような……」
燈「そのパンチで捕食してるんですね」
晶「うん。面白いのは、パンチが速すぎてキャピテーションっていう爆発を起こすところだね」
睦「……何でしょう、そのワクワクする現象は?」
晶「キャピテーションっていうのは気泡のことなんだけどね。モンハナシャコのパンチは、速過ぎて水圧を急激に下げるの。圧力が下がった分だけ沸点は低くなる。だから水温はそのままでも気化して、
燈「え……6000……?」
そよ「そ、想像できないよね……」
晶「そうだね……力にすると、キャピテーションの爆発も加えると200kgのパンチらしいよ」
海「あ、みて晶、みんなも! その爆発が見れる動画コーナーがあったよ」
その映像は、モンハナシャコが硬そうな殻に向けてパンチを繰り出してるシーンをスローで再生しているものだった。
モンハナシャコが繰り出した補脚周りの水が、ぐにゃりと歪む。その気圧変化は脚がぶつかった殻にまでまとわりつく。と、殻と歪みの境界線から極小の太陽が生まれた。その光はどんどん膨張し、やがて貝殻を覆うほど大きくなったところで、弾けた。目が眩むほどの爆発の後、集束した光は煌めく粒となって消えていく。何度も見てしまうほどに綺麗な光爆だった。
立希「動画で見る分には綺麗だけど……水の中で爆発起こすくらい強いパンチって、普通に考えると怖いな」
そよ「せっかく綺麗だなって浸ってたのにそんなこと言わないでよ」
燈「建築家で、パンチも凄い、怖い生き物……」
睦「……あれ、そういえば建築現場で働くような人って確かヤのつく人が……」
祥子「それ以上はやめましょう、睦。モンハナシャコはパンチが凄い建築家というだけですわ。そういうことにしておきましょう」
晶(なんだかモンハナシャコがヤクザみたいな印象持たれちゃった……)
海(しょ、晶のせいじゃないよ! 晶は話聞かせてくれただけなんだから!)
〇ノコギリザメ、サメ映画でありそう
そよ「すんごい長細い魚がいる!」
立希「あれがノコギリサメか。名前だけは聞いたことある」
祥子「しかし、名前程ノコギリじゃありませんわね」
燈「でも、口の先トゲトゲしてるよ?」
睦「……もっと刃が数センチくらギザギザして、見るからに凶器なイメージしてたのに。本気になったら刃回転させてもいい」
立希「それもうノコギリじゃなくてチェーンソーじゃん」
海(5人でいっつもこんな会話してるんだろうね)
晶(独特な仲良ししてるよね。私にはちょっと馴染めないかな)
〇陰陽同盟
燈「岩礁に潜む生き物…‥」
海「あんまり日が当たらないところだね」
睦「……私が魚だったら落ち着きそう。岩礁に住みたい」
立希「陰キャ根性染みつき過ぎでしょ」
燈「私も、いつも明るい場所よりかは、暗い方が落ち着くかも」
祥子「燈まで……。私には理解できないですわ」
立希「そりゃ常に明るい祥子はそうだろうな。私もどっちかといえば分かるし」
そよ「ともりちゃん側にすかさずつくね~。たきちゃんが魚だったらヒラメとかエイだったろうね」
立希「燈に合わせたわけじゃないから。どっちかというと私も陰キャってだけ」
燈「陰キャ……」
立希「あっ、いや私はそうってだけで、燈のこと言ったわけじゃないから!」
祥子「無理があるフォローですわね~」
晶「私も分類的には陰キャって言われる方かな。同じだね、高松さん」
燈「瀬川さん……はい。睦ちゃんも、同じだね」
睦「……陰キャ同盟を結成しよう。立希は除いて」
立希「なんでだよ、私も入れてよ!」
海「い、陰キャでも陽キャでも、同盟じゃなくても私は晶の隣にいるよ?」
晶「海が陰キャは無理あるからね。陰キャ同盟じゃないけど、隣にいてね」
海「うん!」
祥子「そよ! そよは陽キャですよね!? 月ノ森でだっていつも人に囲まれてますし、私と陽キャ同盟組みましょう!」
そよ「うーん、私も素は結構暗めなんだけど……構本さんと一緒ならいいかな?」
海「なんか自分を陽キャって言っちゃうの恥ずかしいね。でもまぁ、そよちゃんがそう言うならいいかな」
祥子(自分のこと堂々と陽キャって主張する私がおかしいんでしょうか……同盟勢が奥ゆかしくて分からなくなりますわ)
〇いつか、2人で
そよ「わっ、何これ?」
海「潜水服、らしいね。でもなんか……」
燈「こわい……」
睦「……囚人服みたい」
立希「それ。なんか牢人が過酷な現場で働かされてるみたいなの想像する。それか不審者」
祥子「手に持ってる斧に何か意味があるのでしょうか?」
…………。
晶「……え? どうしてみんな私を見るの?」
海「いや、晶だったら何か知ってるかな、って」
晶「私潜水服まで詳しくないよ……」
睦「……瀬川さんにも海のことで答えられないことってあったんだ……」
燈「何でも教えてくれる、って思い込んでた……」
晶「私が好きなのは海の生き物だから」
そよ「そ、そうですよね。ちなみに瀬川さんは、ダイビングとか興味ないんですか? 間近で海の生き物が見れそうだし」
立希(流石そよ。良い感じに話逸らしてくれた)
晶「……今まで本で読んだり、海岸で作業したり、飼育してきたけど。それで満足してたからかな、ダイビングなんて考えたこともなかった」
海「でも、悪くなさそうだね」
晶「うん。お金が溜まって、機会があったらやってみたいかも」
海「初心者でも大丈夫なコースだったら私も一緒にやりたいな」
晶「いいね。海と一緒ならもっと楽しそう」
祥子「2人は本当に仲が良いですわよね」
そよ「富山から2人で遊びに来るんだから、そりゃそうだよね」
立希「だからってちょくちょく2人の世界醸し出されても対応に困るんだけど……」
睦「……一部の人からしたら、垂涎物のご馳走だけどね」
燈「どういう人たち?」
そよ、立希「真に受けなくていいから、燈(ちゃん)」
祥子「よく分かりませんが、またくだらないネタなのは想像つきましたわ」
睦(……ごめん百合厨の人。私のせいで百合がくだらないもの扱いされちゃった……)
〇ユウレイコワイ
祥子「ユウレイボヤに、ユウレイクラゲ……」
海「幽霊って名前の生き物って結構いるんだね」
晶「この水族館にはいないみたいだけど、ユウレイイカやユウレイウナギっていうのも実在するよ。みんな深海に生息してるね」
睦「……幽霊は、実在した」
立希「い、いや幽霊はいないから」
燈「そ、そうだよ。今挙がった生き物だって全部触れるんだから、幽霊じゃないよ!」
祥子「2人はホラー苦手なタイプですか。私はドキドキが楽しいですわね!」
睦「……私は怖がってる人見るのが楽しいから、ホラ―系は1人だとつまんない」
そよ「この性悪お嬢様と同じ意見なのは、ちょっと複雑……」
睦「……そよは性悪というよりは、腹黒系……」
そよ「何か言ったかなー若葉さーん? (睦の両ほっぺを引っ張りながら)」
睦「……はんへもほあいまへん(何でもございません)」
海「ホラーかぁ。今度2人でホラー映画見ようよ、晶!」
晶「えっ!? 私あんまり好きじゃない……」
海「そっかー。なら機会があったらね!」
晶「海の期待に満ちた笑顔が、今は怖い……」
海(晶がホラー苦手だったら怖がって抱きついてくれるかも! ホラー映画、悪くないな。どうにか機会作れないかな……)
〇水族館で『コレ』を見つけたからには、乗っかざる得ない
睦「……! 見つけた、絶対いると思ってた……!」
立希「何目輝かせて興奮してんの。チンアナゴがどうかした?」
祥子「うっ……いたんですのね、チンアナゴ」
燈「そういえば、睦ちゃんからお願いされてたんだっけ?」
そよ「よく分からないけど、さきちゃんのげんなりした顔的に禄でもなさそうだね」
睦「……禄でもないことじゃないもん。テレビにも取り上げられた有名なネタだもん」
海「自分でネタって言っちゃったら、禄でもない感拭いきれないねー」
晶「海がかばえないのも相当だね」
睦「……さ、祥、燈。ちょうど水槽前に人いないし、お願い」
祥子「分かりましたわよ、幼馴染の約束ですものね、やってやりますわよ……!」
燈「恥ずかしいから、人が少ないときでよかった……」
燈と祥子は水槽前に立ち、睦たちの方へ向き直る。燈は恥ずかし気な顔で、祥子は覚悟を決めたような顔だった。
まず燈が動いた。手をパンッと合わせた後、片足と両腕を横に伸ばす。
魚を模したようなポーズを取った燈は、顔赤くしながら叫ぶ。
燈「さ、さかな~……」
立希「と、ともり……?」
うめく立希を始め全員(睦以外)が呆気に取られていると、今度は祥子が動く。
軽く膝を曲げてから、伸ばした勢いを使って腕を上に高く伸ばす。
と思ったら、肘を柔らかく伸縮しながら前後に揺れ出した。それはまるで、水に揺蕩いながら上に伸びる生き物のようで……
祥子「チ、チンアナゴ~!」
そよ「さきちゃん……どうしてそんな変なポーズ取ることになったの……?」
2人の珍ポーズを動画に収めた睦が満足げにサムズアップする。
睦「……ハイカット。2人とも、良い画が撮れたよ」
祥子「睦が『チンアナゴ見つけたら祥にこのポーズやって欲しい。一生の、幼馴染の約束』というからやってあげましたの!」
そよ「むつみちゃんはよくこんな下らないことに幼馴染の約束なんて持ち出すし、それに応えるさきちゃんもさきちゃんだよ。幼馴染に甘すぎじゃない?」
立希「ていうか燈がこれやらされたのはなんで?」
燈「睦ちゃんが、この水族館で何か1つプレゼントするって、約束してくれて……」
祥子「私の大切な幼馴染さん。当然私にもプレゼントしてくださるんですのよね?」
睦「……幼馴染の絆に見返りを求めるの? 祥がそんな利己的な幼馴染だったなんて……」
祥子「燈には渡すのに私に何にもなしなんてズルいですわ! 親しき幼馴染にも礼儀あり、ですわよ!」
睦「……私の幼馴染辞書には載ってない」
祥子「なら脳に刻み込まれるまで耳にタコを作ってさしあげまずから、覚悟なさい!」
睦「……さぁ、次の水槽に参ろうか」
祥子「逃亡なんて許しませんわよ! って、あっという間に睦の姿が見えなくなりましたわ!? お待ちなさーい!」
そよ「むつみちゃん、人混みを利用して上手く撒いてるなー」
立希「ちなみに燈。どうして燈と祥子にやらせたかとか、何か言ってた?」
燈「えっと、確かキャラが近いから、とかなんとか……」
そよ「元ネタ知らないけど、似てなくてよかった」
睦「……ちなみに燈のキャラは本当は立希の方が類似点多いんだけど、上手いことやらせる策が思いつかなかったから燈にした」
そよ「いつの間に戻って来てる……」
立希「てか下手したらアレ私がやってたのか。……確かに、何言われても絶対イヤだったわ」
〇
そよ「わー! 色鮮やかで綺麗な水槽!」
晶「ライブコーラル水槽だね。生きた珊瑚を飼育してるんだって。ちなみに日本で一番大きなライブコーラル水槽らしいよ」
立希「生きた珊瑚って珍しいんですか?」
晶「生きた珊瑚を飼育してる水族館自体は結構あるみたいだから、そういう意味じゃあんまり珍しくはないかも」
燈「でも、初めて見ました。光にいろんな色がついてて、綺麗……」
海「うん、つい見惚れちゃうよねー!」
晶「これが生きてる珊瑚の魅力だね。死んでると珊瑚は白しかないからこうはならない。でも生きてるとあんな風に色とりどりだから。照明の当て方さえ工夫すれば、サンゴの蛍光色が映える」
睦「……なるほど。死んだ珊瑚っていう模型には作り出せない世界、か……。納得」
祥子「100%以上の魅せ方をする水族館の人たちも流石ですわ!」
晶「珊瑚は光合成する種類もあるから、飼育目的で強い光を当ててるっていう目的が前提のはず。だから、魅せ方の方がついでかな」
燈「偶然、ですか。偶々こんな綺麗な光景に辿り着いたんだとしたら、そっちの方がいいかも」
そよ「分かる、なんかドラマチックだよね!」
立希「たかが珊瑚の見栄えにドラマを持ち出されても……」
海「えー、いいんじゃないかな? 夢があった方が楽しいよ!」
そよ「そうですよね、構本さん! たきちゃんは夢見れない堅物だから放っておきましょう!」
立希「他人をつまんないヤツみたいに言うな」
睦「……実際立希はつまんなさそうな顔して生きてる。もっとそのキッツイ目元を、柔らかく、しないと……!」
立希「なら睦は、その固まった頬を、ほぐしたら……!」
祥子「貴女達ね……せっかく綺麗な珊瑚を前にしてるんですから、お互いの顔を揉み合ってないで鑑賞なさいな」
海「睦ちゃんと立希ちゃんは仲良しだね」
晶「仲良しかな? ……まぁ、仲良くないとこんな風にじゃれあわないか」