〇ペンギン講座 私、〇〇ペンギンになりたい
祥子「燈に付き合って参加しましたが。思ってたより実りのある講座でしたわね」
立希「まさかペンギンに絶滅しつつある種があるなんてね。これ聞くまで全然実感がなかった」
晶「日常生活でペンギンと関わる機会もないから、仕方ないよ。……あそこで動かなくなっちゃった高松さんほど熱心なら別だけど」
そよ「あはは……18種類のペンギンたちの絵の前に釘付けですね」
海「燈ちゃん。どのペンギン見てるの?」
燈「ジェンツーペンギン、見てました。私、生まれ変わったらジェンツーペンギンになりたい」
後から聞いたけど、ジェンツーペンギンは石を拾う習性があるんだとか。同じ趣味のともりちゃんが親近感を抱くのも理解はできる。
でもこの時の私は、ペンギンになりたいという発想の時点で理解が追いついてなかった。
そよ「また急にともりちゃんワールド展開してる。これじゃ私たち、ついていけないよ——」
祥子「そうですわね……この中なら、私はロイヤルペンギンになりますわ!」
そよ「なりますわ! じゃないよ。ツッコミどころ満載なんだけど。たきちゃん、ツッコミサボらないでよ」
立希「じゃ私は……お、スネアーズペンギンなんて丁度いいじゃん」
そよ「ツッコムどころか乗るの!? たきちゃんまでペンギンになりたいの!?」
海(急にそよちゃんツッコミ頑張りだしたなー)
睦「……私はムツミーペンギン」
そよ「むつみちゃん、オリジナルはズルいよ。そんなのなんでもアリじゃない」
海「私はショウペンギンになりたい!」
そよ「構本さん! なんですかそのボケは! ツッコミ切れないんですけど!?」
晶「もう絶滅しちゃったけど、昔はオオウミガラスっていうペンギンがいてね。私はそれかな」
そよ「あぁ……。瀬川さんが博識で対応してる……流石過ぎるよ……」
ツッコミ疲れて溜息をついてると、そよは視線を感じて顔を上げる。
みんながそよを注目していた。
そよ 「……え、私っ!? 私は、えーっと……」
みんな言ったんだから自分だけ乗らないようなKYはできない。周囲に合わせる習性が働いて、そよは散々つっこんでいたペンギン転生の先を必死に見繕う。先ほどの燈のように、壁に書かれたペンギンたちに今度はそよが熱中する。
そよ「じゃあ私は、マカロニペンギンで……!」
なんとかコレというのを見つけて振り返ると、だーれもいなかった。
6人はゾロソロと進路を進んでいて、そよは1人ポツンと残されたままだった。
そよ「って、お約束みたいに置いてかないでよー!」
大急ぎで戻って来たそよを、主に燈と海と晶が慰めていた。
午後の部。北館(イルカ、シャチ、ベルーガの水槽)
〇ペンギン水槽 立希 VS ペンギン
立希「ペンギン講座の後は、ペンギン水槽か」
そよ「エンペラー、ヒゲ、ジェンツー、アデリーの4種類飼育してるって」
海「ねぇ晶! 水槽の陸に雪が積もってるよ!」
晶「ペンギンたちの故郷な南極の環境になるべく寄せてるんだろうね」
祥子「それにしても、午前中に見たペンギン小屋よりもたくさんいますわね。全部で100匹くらいいるのではなくて?」
睦「……まさにペンギンパラダイス。だから燈がこうなるのも、無理はない」
燈「……」
そよ「あぁ……またガラスに顔へばりつけて集中してるんだから……」
海「まぁまぁそよちゃん。周りに迷惑かけてないし、いいんじゃない?」
そよ「そういう問題でしょうか……?」
立希「そんなことどうでもいいから。そよはペンギンの写真撮ってあげてよ」
そよ「あのね、そんな偉そうに言うならたきちゃんが撮ればいいじゃない」
睦「……いや。立希には他にもっといい役がある」
祥子「睦、いつの間にかフラっとどこかに行ったと思ったら、手に何を持ってますの?」
睦「……このビニール紐でできたポンポンを、目があったペンギンの前で振る」
立希「……すると、どうなる?」
睦「……ペンギンが遊んでくれる。そこを、そよが撮る」
そよ「それなら面白そう! 喜んで写真係するね、たきちゃん♪」
晶(海に似てると思ってたけど、こういう意地悪い顔は海はしないな……)
立希「高校生にもなって、ペンギンにポンポン振れって!? そんな恥ずかしい真似できるわけ……」
睦「……ペンギンが遊んでる可愛い写真取れたら、燈すっごく喜ぶだろうな。たぶんずっとガラスにへばりついてるから、ペンギンと遊べないし、遊んでるところも見れないだろうしなぁ」
立希「………………やってやろうじゃん」
祥子「本当、燈が絡むとチョロいんですから」
睦「……ちなみにジェンツーペンギンが一番遊んでくれやすいらしい」
立希「瀬川さん、ジェンツーペンギンってどれですか!?」
晶「え、えっと……くちばしが黄色いペンギン……」
立希「黄色いくちばしですね……よし、あの辺にジェンツーペンギン多いからそこで振りまくってくるから!」
睦「……後でペンギン相手に必死でポンポン振る立希の動画撮ろう」
祥子「睦は睦で立希をイジるのが大好きですわね」
睦「……生きがいといっても過言じゃない」
晶「ヒドい生きがいだね……」
海「まぁまぁ。ウチにもそういう仲良し組いるでしょ?」
そよ「じゃあ私は、ハメられたたきちゃんのために、せめて言われた通りペンギンの写真を撮ろうかな」
祥子「しかし瀬川さん。どうしてペンギンはポンポンに反応するんでしょう。それも特にジェンツペンギンが」
晶「ペンギンは野生のときから小魚を追いかけて動体視力が発達してるの。それで、動くものに反応しやすいんだろうね」
海「餌か何かかと思って目が追っちゃうんだ」
晶「それでジェンツーペンギンはペンギンの中でも活発で知的好奇心が強い種として知られてるんだよ。だからじゃないかな」
祥子「なるほど……」
燈「そうなんだ! ジェンツーペンギンは好奇心旺盛なペンギンなんだ……」
そよ「またやってるよ。ペンギンの会話だけピンポイントに参加してくる、ともりちゃんの不思議習性」
海「慣れると面白いね!」
そよ「一緒にいる友達としてはびっくりしますよ!」
祥子「しかし本当にペンギンの興味深い話なら途端に反応するんですのね。ずっとガラスにへばりついてるのに……」
睦「……こんなのでも反応するかな? ……燈。100匹もいるんだし、1匹くらい連れてっても、バレないかも……」
燈「えっ、ホント!?」
そよ「コラむつみちゃん!」
晶「真に受ける高松さんにも非があるけど……」
燈「そ、そうですよね。水族館のペンギン勝手に連れて行ったらダメですよね……」
祥子「当たり前過ぎて何も言えませんわね」
そよ「まぁせっかくともりちゃんが自分の世界から戻ってきてくれたんだし、そろそろたきちゃんの様子見に行こうか?」
燈「? 立希ちゃん、何してるの?」
祥子「行ってみれば分かりますわ」
1人離れたところでポンポン片手にフリフリ格闘している立希の元に、全員集まる。
立希「ちょっと! ペンギン全然反応してくれないんだけど!?」
睦「……私に言われても……」
祥子「確か瀬川さんから教わりましたが、素早く動くものを餌か何かかと認識して追ってくるらしいですわよ、立希」
立希「なるほど……で、だから?」
睦「……ポンポンを餌に見えるように動かすといい」
立希「本当に釣れってことね。餌、餌……」
そよ「ポンポンを静かに沈めたり、小魚みたいに泳がせてるね」
睦「……なんて斬新なチア姿。これは記録に収めないと……」
海(立希ちゃんって一番見た目がキツそうなのに、一番可哀そうなポジションしてるなー)
立希「キタッ! ペンギンが近寄って、ポンポンじーっと見てる! ホラ、揺らすと首動かしてる! ついに遊んでくれた~!」
そよ「ペンギンに遊んでもらえたのがよっぽど嬉しいんだ。よかったね、たきちゃん」
立希「ムカつく煽りいいから早く撮ってそよ!」
そよ「はいはい……あ、ペンギン頭動かすからブレちゃった」
立希「チッ……。まぁ遊んでる感あるならいいか。これで、ペンギンに夢中で見れなかっただろう燈にも見せてあげれる……」
燈「? 私、ちゃんと見てたよ? 立希ちゃんがペンギンと、遊んでるところ」
立希「あれ燈!? ガラスにへばりついてたんじゃ……。なら私は、なんのためにこんな醜態さらしてたんだ?」
睦「……CRYCHICの楽しい動画メモリーを、また1つ増やすためだよ」
立希「じゃあ私が恥ずかしい恰好撮られただけってことじゃん! 睦! お前ってやつは毎度毎度ぉ~~~!」
睦「……毎度毎度燈を餌にすれば絶対食いつく立希も立希」
祥子「百理ありますわね」
そよ「それでこそたきちゃんだし」
立希「グゥ……燈のために頑張ったのに、どうしてこんなことに……」
燈「私にペンギンが遊んでるところ見せるために、頑張ってくれたの?」
立希「あっいや別にそういうわけじゃ、ないけど?」
海、晶(その誤魔化しは絶対通らないよ……)
燈「ペンギンが頭フリフリしてるの、可愛かった……! ありがとう、立希ちゃん」
立希「へっ!? いっいや別に、こんなの全然簡単だったし!」
祥子「ペンギンが反応しなくてイライラしてたじゃありませんか」
立希「うるさい祥子っ! と、とにかくそよに写真も撮ってもらったから。いつでも見れるよ」
そよ「ブレブレだけどね」
立希「ごめん燈。せっかくの可愛いシーンなのに、そよが下手クソなばっかりに……」
そよ「言い方腹立つ~!」
海「睦ちゃん、CRYCHICっていつもこんな賑やかなの?」
睦「……はい。いつもこんな、楽しい感じです」
晶「確かに、退屈しなさそうだね。……その分疲れそうだけど」
睦「……そこはまぁ、慣れますから」