○バンドウイルカの親子?〜ならリッキーの方が良かった?〜
祥子「見てくださいまし! 親子っぽいイルカが上下に並んで泳いでますわ!」
海「ホントだ! すごい! ほとんど離れないで一心同体みたい!」
立希「本当に親子なら仲良いんだろうな」
晶「本当に親子みたいだよ。ほら、ボードに書いてある」
睦「……お母さんがウイニー。お姉さんがハッピー」
燈「3人家族なんだ。それで、あのちっちゃいイルカの名前は?」
そよ「うーん……オスの赤ちゃんイルカの名前は、なんでかついてないねー」
立希「なんでだよ。ちっちゃくて可愛い赤ちゃんにこそ名前つけてあげるべきでしょ、なんでそこだけ名付けないんだよ」
祥子「怒涛のツッコミですわね」
立希「いやおかしいと思うでしょ!」
海「何か、理由があるのかな……」
燈「こっちで勝手につけちゃっていい、とか……?」
そよ「たきちゃんつけてあげたら?」
立希「それこそなんでだよ」
睦「……1番こだわってるから」
立希「いや私はただ不自然さを追及したかっただけだし、ネーミングセンスないし……」
燈「ウィニー、ハッピー、……タッキー?」
立希「まさかの私!?」
祥子「いいじゃありませんか! 正式に名前がつくまでこの子はタッキーですわ!」
そよ「おぉ〜! なんだか急に愛着増してきたな〜♪ お母さんにベッタリで可愛いね〜タッキーちゃん♪」
睦「……見て。可愛いって言われて上機嫌に泳いでるよ、タッキー。可愛いね、タッキー。そう思うでしょ、タッキー」
立希「タッキータッキー連呼するな! あとどさくさに紛れて私をタッキー呼ぶな!」
〇シャチショー前の、シャチの解説を聞いて
睦「……燈。シャチはペンギン食べちゃうんだって」
燈「えっ嘘!? あのペンギンを!? あんなに可愛いのに!?」
祥子「燈がここまで驚愕するのも珍しいですわね」
晶「よっぽどショックだったんだろうね」
睦「……そんなシーン想像もできなかった燈のために、ここに写真があります」
燈「あ、あぁ……まさにペンギンがシャチに足食べられて、絶望してる……」
睦「……このペンギンの顔、間抜けで面白いよね」
燈「面白くないよっ!」
立希「悪辣過ぎるって、睦」
そよ「たきちゃんの言う通り。自重しなさい、むつみちゃん」
睦「……ごめん、燈」
燈「う、ううん。私も、食物連鎖の厳しさを分かってなかった。そっか、あれだけ可愛くても、食べられちゃうんだ……」
海「自分を愛くるしく見せて自己防衛してる動物もいるって聞いたことあるけど、ペンギンにそういうはないんじゃないかな……」
燈「ゑ?」
祥子「ペンギン愛が深すぎる燈には心底理解できなさそうですわね」
晶「もしかしたら、この食べられちゃったペンギンはファーストペンギンだったかもね」
燈「あ……。ペンギンは集団で海に飛び込むから、最初に飛び込むペンギンが勇気あるって言われてる……」
晶「その集団で飛び込むのも、天敵であるシャチやアザラシを警戒してだから。どうしたって最初に飛び込むペンギンはリスクが跳ね上がるよ。だからこのペンギンは、勇敢だった証かもね」
燈「晶さん……。励ましてくれたのは分かるんですけど、やっぱり悲しいです……」
晶「ご、ごめん、あんまり励ますの慣れてなくて……」
そよ「い、いえ! ともりちゃんにも気持ちは伝わってるみたいですから、しばらくそっとしてあげたら回復しますよ! ありがとうございます♪」
海「晶、お姉さんらしくて感心しちゃった。素敵だったな」
晶「も、もう海……。こんなの年上として普通だよ」
睦(またイチャつきだした……)
立希(手まで取り合ってるところ見てると、もしかしたら本当にそうな気してきた……)
そよ(みんな。間違っても指摘しちゃダメだよ)
祥子(指摘してたくても、おいそれと入っていける空気じゃありませんから安心してくださいまし)
燈(よく分かんないけど、綺麗な関係だね……)
そんな風に純粋な目で見れたなら。4人は燈の純真さを今だけは羨んだ。
〇お土産屋 CRYCHIC編
CRYCHICが退館するため出口を向かう途中、 お土産屋を見かけたので、7人は入ってみようとなった。
睦「……これは……!」
立希「あの不審者じゃん」
そよ「もう。囚人でしょ、たきちゃん」
晶「潜水服だって……」
海「晶がツッコでるの珍しい!」
睦「……たった1日で随分馴染みましたね」
晶(なんでだろう。素直に喜びづらい……)
睦「……そうだ。せっかくだから、これを祥にプレゼントしてあげる」
祥子「どうして私なんですの!?」
睦「……幼馴染の約束を叶えてくれたお礼」
祥子「だとしてもチョイスに悪意を感じますわ! 他のにしてくださいまし!」
睦「……我侭お嬢様め……」
立希「くだらないお願い事したお前は人のこと言えないでしょ」
燈「睦ちゃん……」
睦「……あぁ、燈にはペンギンのぬいぐるみにしよう。アデリーペンギンでいい?」
燈「うん……! ありがとう、睦ちゃん」
祥子「ちょっとちょっとちょっと! 私の幼馴染、ちょっと!」
そよ「さきちゃん、納得いかないのは良く分かったからもうちょっと落ち着いて……」
祥子「これが落ち着いていられますか! 私にはネタ物を押し付けようとしたのに、燈にはしっかり喜びそうなものを選んだんですのよ!?」
睦「……それも、幼馴染愛」
祥子「キ~~~! そんなふざけた愛要願い下げですわ~!」
そよ「落ち着いてって言ったのに、地団駄踏み出すんだから……」
海(えっと……この子って、凄いお金持ちのお嬢様じゃなかったっけ?)
晶(そう言ってたね。……この暴れっぷりを見てると、信じ難いけど)
睦「……仕方ない。燈同様、今度こそ可愛い海の生き物の人形を選ぼう」
祥子「まったく、最初から素直にそうしてくれれば……って、どうしてチンアナゴの人形を抱えてるんですの! まさかそれを私によこすつもりではないですわよね!?」
睦「……可愛いでしょ?」
立希「まぁな」
そよ「まぁね」
祥子「2人とも、その含み笑いは分かってて同調してますわね! その人形を見る度に、今日の恥ずかしいポーズを思い出すことになるじゃないですか!」
睦「……いつか、そんなこともあったって、笑い話に変わるから」
祥子「いい話風に締めようとしても騙されませんわー!」
立希「最後まで騒がしいやつ……。睦、私はハッピーターンの缶でいいから」
睦「……おかしい。立希に何か奢らなきゃいけない筋合いなんて、砂粒ほどもなかったはず……だけど、いいよ」
立希「おっ、マジ? 冗談でも言って見るもんだ——」
睦「……お菓子よりもっと喜ぶものを、立希には特別にプレゼントしてあげる」
立希「一応言っとくけど、さっきの不審者の人形だったら今後お前のボケには一切付き合わない」
睦「……くそぅ。立希に思考を完全に読まれるなんて……」
立希「いっつもそんあくだらないボケかましてきたら嫌でも読めるんだよ」
祥子「睦! 私へのプレゼントをうやむやにしようとしても、そうは問屋が下りませんわよ!」
睦「……自分で蒔いた種とはいえ、なかなかカオスになってきた……」
自業自得な少女の呟きを背中で聴きながら、そよは1つの商品を手に取ってみる。
燈ともっと仲良くなりたいという誓いの1歩目として、悪くないと思ったから。
レジで精算し、燈を探す。
そよ「ともりちゃん。あのね、これ……」
燈「あっ、そよちゃん。これ、よかったら、貰って欲しい……」
そよ「えっ?」
燈から渡されたのは、ベルーガのキャラクターが描かれた絆創膏だった。
燈「えっと……今日の記念というか……いつも優しくしてくれるお礼というか……」
そよ「ねぇ。どうして絆創膏を選んでくれたの?」
燈「えっ……えっと、その、何ていうか……」
そよ「当ててあげようか? ともりちゃんが好きなものを、私に共有して欲しかったじゃない?」
燈「どうして、分かったの?」
そよ「私も同じだから。はい、ともりちゃん。私からは……いつも凄い作詞をしてくれたり、CRYCHIC唯一の良心でいてくれたりしてくれるのが好きっていうか……あれっ? いざ言葉にするとなんだか難しいね。さっきのともりちゃんが言い悩んだ気持ちがよく分かるよ」
燈「これ……ティーバッグ……。そっか、そよちゃんも、本当に同じだったんだ……」
そよ「ともりちゃん、いつもありがとう。これからもよろしくねっ♪」
そよの改まった、少々気恥ずかしい想いの言葉に。
燈は同じくらいの想いをギュっと圧縮して、一切の照れがない微笑みに乗せる。
燈「うん。こちらこそ、大好き」
両想いだったことが嬉しいような、やっぱり照れくさいような。そよは堪えきれない衝動を誤魔化すように、スマホを取り出して燈と写真を撮ろうとする。お互いのプレゼントを手に笑顔を寄せた2ショットは、どこからどう見ても仲良しペアのにしか見えなかった。
〇 お土産屋 海×晶
海「流石にみんなの分買っていかないとなー。ルームメイトの福ちゃんとマリちゃんにも!」
晶「その2人のは私も出すよ。あと私は、小杉さんと沖野さんと寺泊さんと……」
海「去年の修学旅行で仲良くなったんだよね?」
晶「うん。あれからも結構話す機会が増えたから」
海「そっか!」
晶「海、嬉しそう」
海「うん。晶のこと好きな人が増えたのが、嬉しいな。……私の好きと一緒じゃ困るけど(小声)」
晶「えっ?」
海「う、ううん! なんでもない……」
晶「私も、友達……というか、話す人が増えたのは嬉しい。……不思議」
海「何が?」
晶「私、クラスでは音楽コンクールとか文化祭とかの準備にも声かけられなかったぐらい、前まで誰とも話すことなかったのに。クラスとか、先輩とか、海の友達とか。色んなところで少しずつ話す人が増えた」
海「そっか。……そうだったね。(そう言われると、ちょっとだけ妬けるけど。もう私だけの晶じゃ、ないみたいで……)
晶「全部、海のおかげ」
海「えっ?」
晶「海に会って、全部変わった。誰とも話さなかった私は海と関わるようになって。海に頼りながらルームメイトとも話すようになって。自分を好きでいてくれる海を喜ばせようと頑張る内に、クラスの人と話すようになって。海と一緒にいたくて近づいてたら、海の友達と仲良くなって。独りぼっちだった私の世界は、嘘みたいに変わったんだよ」
海「晶……」
晶「全部、海に出逢ってから変わったんだよ。海に出逢ったから、今があるんだよ。あの頃諦めてた私に教えてあげたい。人生で初めて、好きになった人に会えるから安心していいって。何にも疑わずに受け入れて、私も素直に大好きになっていいんだって」
海「……晶。私の方が、何万倍も晶のこと大好きなんだよ?」
晶「ふふ。その気持ちだけは、海にも負けないよ。私が世界で一番海の事愛してるって想いだけは、海にも負けないんだから」
海(分かってないな、晶は。人生が変わったのは晶だけじゃないんだよ? それまでの日々が嘘だったみたいに、世界が輝いてエネルギーが湧きっぱなしなあの感覚。みんなの目を気にして生きるだけのモノクロな人生が色づいた奇跡は、きっと一生忘れられないよ)
それを大勢の人がいる前で、言葉でも行動でも伝えるわけにはいかないから。
海は気持ちを精一杯抑えて、ささやかに手を繋ぐだけに留める。ギュッッッと、あらん限りの想いを込めて、囁くように告白する。
「晶……好きだよ。晶のお父さんよりも、人魚よりも。この星の誰にも負けないくらい、私が一番愛してる」
「海。私は海だけが好き。ずっと、これからもずっと傍にいたい。だから、離れていかないでね」
2人の想い合いが果たされるかどうかは分からない。
少なくともこれは、ずっと遠い将来になっても2人にとって忘れられない、特別な頃の青い記憶であることは、間違いなかった。