〇アスレチック
お昼を食べて休憩した私たちは、プール遊びを再開した。
午後一発目のアトラクションは、水上アスレチック。スポンジマットを並べた浮き橋エリアから始まり、上り坂の先で丸太橋が待っていて、最後に滑り台でプールに飛び込むコースとなっている。
こういったアドベンチャーチックなアトラクションに、目をキラッキラさせるさきちゃん。ワクワクドキドキ大好き系お嬢様が落ち着いていられるはずがない。
祥子「なんて楽しそうなアトラクションなんですの!? こんなものを前にしては、最速でクリアを目指す以外にあるでしょうか!」
立希「いや、あるに決まってるでしょ。ほら見なよ、そんな張り切ってる人1人も……って祥子!?」
そよ「あーあ……ついに1人で飛び出していっちゃったね」
燈「浮いてるマット、ヒョイヒョイ渡ってるね。軽業師みたい」
睦「……そのお嬢様チックな軽業師は、もう浮き橋エリア渡り終わりそうだけど」
軽快にマットと飛び移っていく様子に、なんとなく源義経の八艘飛びを連想して、甲冑姿のさきちゃんが船から船へと飛び継ぐ雄姿を想像してしまった。
彼女なら、例え急に戦国時代にタイムスリップしても逞しく戦い抜きそうだな。……あ、女の子なら戦に出ないか。
立希「まぁ、ここであのフライングお嬢を眺めててもしょうがないか。私達も行こう」
燈「あの、私……たぶん、遅い、から……」
そよ「私もゆっくり行きたいから、慌てなくていいよ。一緒に行こう♪」
睦「……同じく。休憩明けの体を慣らすためにも、のんびりしたい」
立希「燈。難しそうなら手貸すから、いつでも頼って」
燈「あ、ありがと……みんな」
立希「なんなら私が橋になるから、踏み越えてって」
燈「た、立希ちゃん。それは遠慮しとくね……」
睦「……よくそこまでキモいこと真顔で言えるよね。過保護過ぎてキモいよ?」
立希「2回もキモいゆーな!」
そよ「実際友達に踏まれようとしてるの、結構キモいよ? なんだかんだたきちゃんもテンションおかしくなってるね♪」
立希「わ、私は祥子みたいに浮かれポンチじゃないからっ!」
なんて和気あいあいとしゃべりながら、さきちゃんを追ってスタートした私たち。思ったよりグラグラする足場にキャイキャイ騒ぎながらマットへ飛び移ったり、プルプル震えながらバランス取るともりちゃんを応援したり、ホントに過保護にサポートしようとするたきちゃんをイジったりして遊んでいた。
祥子「…………」
ともりちゃんのペースに合わせて、浮き橋エリアを半分ほど超えたところだろうか。
4人でキャッキャッと騒いでいると、突然進行方向から猛烈なスピードで迫ってくる存在がいた。
その子はプールと同色の髪を振り回しながら叫ぶ。
祥子「私を独りにしないでくださいまし~~~!」
立希「お前が1人で突っ走ってったんでしょ!」
ごもっともな突っ込みに迎えられて、二つ結びにした髪もシュンと項垂れる。まぁそれでもこの子が私たちのムードメーカー。5人揃ったからには、元気でいて欲しい。
そよ「それじゃ、たまにはさきちゃんものんびり楽しもっか? ゆっくりでもみんなと一緒なら楽しいよ♪」
祥子「そよお母さま~!」
そよ「って、こんな不安定な足場で抱きついてこないでっ、バランス崩すから! あとお母さんやめてって何度も言ってるでしょ!」
私に飛びつくさきちゃんの勢いを殺しきれず、たたらを踏むと足下のマットが揺れる。
なんとか体勢を整えようと踏ん張ってると、更に不安定な状況に追い込まれることになる。
燈「わわわっ、マットがグラグラする……落ちるっ! 助けてそよちゃん!」
そよ「えっ、ともりちゃんも抱きついてきたら、余計にマットがグラグラしてバランスが……!」
立希「燈っ! 燈だけは守る! 他は知らん! むしろ落ちろ!」
そよ「守る言いながらたきちゃんも飛びついてるだけじゃない! も、もう自力じゃ持たない……むつみちゃん……!」
睦「……心配無用。ちゃんと分かってる」
そよ「良かった、私を支えてくれる……んじゃないの!? このドタバタに乗っかって抱きついてなんて……誰も言ってないじゃない~~~!」
4人が玉突き事故みたいに重なって来て、ついに私の踏ん張りはきかなくなった。どんどん傾いていくCRYCHICサンドイッチはついにマットから離れて、そのままプールへ落ちていく。
ザッパーン!
5人分の重みが重なって大きな水飛沫をあげながら、私たちは仲良く沈むのだった。
祥子「一度は失敗しましたが。なんとか丸太橋まで上ってきましたわね!」
そよ「もう抱きついてこないでね、さきちゃん。こんな高さから落ちたら、プールでも痛そうだから」
燈「た、たしかに……。私、がんばるっ!」
睦「……(うずうず)」
立希「睦。やる気になってる燈を見て手をワキワキさせるな。絶対落としたがってるでしょ」
睦「…………友達を落とそうなんて、とんでもない」
立希「目逸らしながら言うな。マジでやったら容赦なくここからぶっ飛ばす」
睦「……ヨヨヨ。立希が怖いこと言ってくる……」
そよ「むつみちゃんが悪いでしょ。泣き真似やめなさい」
睦「……ハイ」
祥子「さて、一段落ついたところで参りますわよ! みんなで手繋いで、ゴールのスライダーを滑りましょう!」
立希「やだよ恥ずかしいな……」
そんな子どもチックなこと本当にするかはともかく。私たちは一列になって、丸みを帯びた木のような足場を渡り始めた。順番はさきちゃん、むつみちゃん、たきちゃん、ともりちゃん、私。
さっきの浮き島エリアはアクシデントはあったものの、そんなに難しいレベルじゃなかった。だからこの丸太橋も似たようなものか、と軽く考えてた私は、一歩目で甘かったと思い知らされる。
そよ「この丸太……水が流れてて、ヌルヌルしてる!」
燈「す、すべる……足が踏ん張れなくて、これ以上歩けない……」
立希「これは、さっきの浮き島より難しいな……って、睦は意外と平気そうだな」
睦「……私はバレーを習ってる。バランス感覚は、結構ある」
祥子「私の心配はしてくださらないんですの?」
立希「この滑りやすい足場を後ろ歩きしてるお前のどこ心配すんの……」
ツルッツルの足場は少しでも体勢を崩したり足の踏み場を間違えると、すぐにスッテンコロリンからのボッチャーンしそうだった。ブルブル震えながら立ち往生するともりちゃんの極限状態はよく分かる。そんな場所を後ろ歩きするさきちゃんは最早人外かと思うくらいだ。
しかし。その化け物地味た安定感を誇る我らがリーダーが、なかなか頼りになることを言う。
祥子「そうですわ! ここは電車みたいに繋がって渡りませんか?」
睦「……繋がる? 肩掴んで、ってこと?」
そよ「それ名案だね! 流石さきちゃん♪」
燈「で、でも先頭のさきちゃんは、支えになる人がいないよ?」
立希「祥子には要らないでしょ。祥子先頭にしといてよかった。たまには良いこというじゃん」
祥子「一言も二言も余計なことを言う立希こそ流石ですが。ではCRYCHICトレイン、出発ですわ!」
睦「……おー」立希「はいはい、おー」燈「お、おー!」そよ「ふふっ、おー♪」
前の人の肩を掴んで繋がった私たちは、先頭のさきちゃんの「1,2っ、1,2!」という楽しそうな掛け声に合わせて一歩ずつ進んで行く。足元の滑りやすさは変わらないのに不思議と安定する。たぶん連結したCRYCHICの要であるさきちゃんがグラつかないからだと思う。なんて頼もしいリーダーだろう、一生ついていきたい♪
なんて、このままいけば楽に渡れそうだったのに。余計なことを言い出す悪戯っこが1人。
睦「……せっかくの最難関なのに。こんなに簡単でいいのだろうか」
立希「オイコラ睦、余計なことを……!」
祥子「睦もそう思いましたか!? 私ももう1つ、スリルがあってもいいと思っていましたの!」
そよ「思わなくていいって! 今度こそ落ちずにゴールできそうなのに、わざわざリスク負う必要ないでしょ?」
燈「う、うん。余裕そうなさきちゃんだけ難しくなるなら、いいかもしれないけど……」
睦「……なるほど、閃いた。祥、片足でけんけんしたら?」
祥子「良いアイディアですわね睦!」
そよ、立希「良いないからっ!」
そんなことしたら、けんけんの振動でこっちまで揺れるじゃない!
と止めたいのに、それより先にさきちゃんが片足立ちし始めた。
祥子「ふふっ、けんけんなんていつ以来でしょうか? けん、けん、と……」
睦「……おぉ。いい感じに揺れ始めた」
グラ、グラ、と彼女の跳び跳ねに合わせて揺れに襲われる私たちは、さっきまでの余裕が嘘みたいに慌てだす。
立希「ちょ、待てっ、睦、マジで、覚え、とけ!」
燈「わわわわっ! たきちゃん待って、あ、あしっ、足ついていかないっ!」
もうこの丸太橋も半分以上渡ったのに、また落ちるなんて溜まったものじゃない。私はバチッと本気モードに切り替わって叫ぶ。
そよ「さきちゃんせめて掛け声して! ともりちゃん、さきちゃんの着地に合わせて進めばまだ歩きやすいから! たきちゃんもともりちゃんが合わせやすいようにしてね!」
燈「わ、分かったっ!」立希「了解!」
祥子「では再び出発! けん、けん! けん、けん♪」
立希、燈、そよ「けん、けん! けん、けん!」
睦「……ぷぷっ、こんな真剣に掛け声しながら渡った人、いないだろうな」
それはそうなんだろうな。生き残るために必死で先頭に呼吸を合わせ、命からがら渡り切って倒れ伏す私たちを、その場にいたスタッフは怪訝と苦笑いの中間みたいな顔で見てきたから。
それからはさきちゃんが最初言った通り、みんなで仲良くお手手繋いでスライダーを滑ってゴール。乗り気じゃなかったたきちゃんと私から手を繋ごうと言い出して。
当然、要らない展開へもってったあの子を私たちで挟むことで、逃がさないようにするためだった。
睦「……うん、スリルあり、楽しみありのいいアスレチックだった。……ところで、立希とそよはなんでまだ手繋いでるの?」
立希、そよ「今からお仕置きするためだよ!」
睦「……oh……手柔らかに……」
生きるか死ぬかな緊迫感に襲われたのに、そんな手心加えてもらおうなんて、温水プール並みに温すぎる。
そんな彼女はたきちゃんによってプールにバックドロップされたり、私に思いっきり両頬を引っ張られたり。
みっちり制裁を受けてしおしおになったむつみちゃんに、私とたきちゃんは溜飲を下げ、許してあげるのだった。