CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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7番 その背中は私のもんだ

 

 

 祥子「フッ……お返しですわ!」

 

 飛んで来た放水は、少しだけ逸らした水色の髪スレスレを過ぎ去っていく。さきちゃんは華麗な回避を披露したまま、すかさず両手に構えた水鉄砲を撃ち返した。売店でわざわざ買った大型水鉄砲はレンタル品とは段違いで、バシュッと勢い良く放たれた水線は敵のポイを綺麗に貫いた。これで、バッティングしていた敵チームはまたしても全滅。

 ゲームが始まってかれこれ3チームと当たったけど、こんな感じでヒットアンドスウェイ(躱しながら攻撃)するさきちゃん1人がほとんど蹴散らしていた。さきちゃん無双である。

 

祥子「歯ごたえがありませんわね! もっと強い方々に出逢いたいものですわ! オーッホッホ!」

 

 安全エリアになったのをいいことに、高笑いを響かせる戦闘狂なお嬢様を尻目に、私たち4人は集まる。

 

そよ「障害物に隠れないからいい的なのに、反射神経と運動神経だけで圧倒するさきちゃんは流石だね」

睦「……一応、そよと立希が牽制してるおかげで、避けれる範囲に抑えられてるんだろうけど」

立希「ったく、敵チームやる気あんの? 祥子1人にいいようにされて……」

燈「た、立希ちゃん。どうして祥ちゃんの敵みたいなこと言ってるの……」

 

 さきちゃん1人の大活躍で勝ち進んでるのがたきちゃん的には面白くないらしい。さきちゃんの苦戦を期待してるのか、自分がほとんど何もしてないのがつまらないのか、何なのか。

 

祥子「みんな! ここはもう敵がいませんし、次の戦場に向けて前進しましょう! フォローミー(私に続け)、ですわ!」

立希「ケッ。イケイケに調子乗り過ぎて、イタイ目みればいいのに……」

そよ「はいはい、僻んでないでさきちゃんについていくよー?」

立希「僻んでませーん」

睦「……立希の気持ちも少し分かる。私もせっかく売店で買ったスナイパーライフル水鉄砲撃ちたいのに。祥が速攻で倒すから、全然活躍できない」

燈「き、きっとこれからあるよっ。睦ちゃんが買った水鉄砲、一緒に買ってた祥ちゃんにも負けないくらい大きくて凄そうだから……」

 

 この大会は水鉄砲の持ち込みができる。だから、運営からレンタルされるハンドガンタイプじゃ満足できない本気(ガチ)な参加者は、立派な水鉄砲を持参していた。まぁ、一般的な女子高生の財力を凌駕してる本物(ガチ)お嬢様2人は、チップ払ってイベントの楽しみを増やしてる感覚なのだろうけど。

 パシャパシャ水を踏みつけて先行したさきちゃんを追っていると、再びアナウンスが流れる。

 

『残り4チームです。1人の女の子に蹂躙されてる情けない戦況が目立ちますので、プライドをかけて対抗してください』

祥子「敵はあと3チームぽっちですか! 少々物足しませんでしたが、この調子で優勝してしまいましょう!」

 

 毒舌な報告により現状勢力を知ったさきちゃんは、気の早いことにもう勝った気でいるけど。

 そう簡単には問屋が卸さなかった。

 障害物の影から、さきちゃんに向けて、いきなり数本の水が飛んでくる。前進してくる私たちを待ち構えての奇襲は今までもあったけど、今回はその数が圧倒的に違った。

 

祥子「なっ、なんですのこの水鉄砲の数は!? とても1チームで出せる数では……」

「悪いな嬢ちゃん。どうも馬鹿正直にぶつかったら、あんたにやられそうなんでな」

「お主を強者と見込んでのことだ」

「恨むなら、好き勝手暴れ回った自分とムカツク煽りで報せてくれたアナウンスを恨み給え」

祥子「クッ!?」

 

 あらゆる角度から何本も同時撃ちされて、さしものさきちゃんも躱しきれないと判断して障害物へと走る。

 彼女と距離があった私たちはフォローのため近づきたいけど、身を晒してるとこちらにまで水鉄砲が飛んでくる。迂闊には障害物から出られなくて、さきちゃんを孤立させてしまった。

 仕方なく4人で様子を伺っていると、戦場を観察していたむつみちゃんがぼそっとつぶやく。

 

睦「……なるほど。10本以上の水鉄砲を見るに、残り3チーム全部結託したっぽい」

立希「マジ? 相手も敵同士なのに?」

そよ「さっきのアナウンスで警戒されちゃったみたいだね」

燈「それで……みんなで先に祥ちゃん倒そう、って?」

 

 女子高生1人相手に大人げない戦略だとは思うけど、そういうことなんだろう。

 現にさきちゃんは追い詰められてる。何とか僅かな隙を見て牽制してるけど、徐々に障害物で防げないコースから撃たれ始めてるから。全く動けないさきちゃんを仕留めようと、敵がにじり寄ってきてるんだろう。

 

睦「……戦いは数。どんなに強くても、1人じゃ限界がある」

立希「だからって……キタナくない? なんかムカツクんだけど」

 

 さっきまでブツブツ呪っていた通りさきちゃんのピンチが訪れたのに、さっき以上に気に入らない顔してるたきちゃん。このひねくれものからさきちゃんへの感情を正確に読み取るのは複雑過ぎるし面倒だから把握しようとも思わないけど。今彼女について分かっていればいいのは2点だけ。

 お姉さんと似た意味で特別なさきちゃんが、卑怯な手段で有象無象にやられるのは認められないことで。

 そして何よりも、そんな状況で指をくわえて眺めてるだけの自分が、我慢ならないのだ。

 

燈「あっ! 祥ちゃんの横から、敵が1人回り込んでる! 祥ちゃん気づいてない……」

 

 と、ともりちゃんが声をあげたときには、たきちゃんは私たちの傍から消えていた。

 一直線に刺客へ走り、撃たれた水鉄砲をジグザグに避けながら2丁の水鉄砲を乱射する。数撃ちゃ当たるといわんばかりに、その内の一発はなんとかポイを破いた。

 そのままたきちゃんはさきちゃんのいる障害物に辿り着く。苦い表情で抗戦していたさきちゃんは、助けに気付いて明るくなった。

 

祥子「立希!」

立希「敵が回り込んでる! 祥子はそっち警戒して!」

 

 状況を伝えながらさきちゃんと背中合わせになるたきちゃん。さっきまでじれったそうに濁らせていた目は、遠目からでも漲る精気で澄んでいるのが分かる。

 たきちゃんの乱入で様子見してるのか攻撃が緩まったのを見て、私たち3人も2人との距離を詰める。2人の話し声が聞こえるくらいまでは近づけた。

 

立希「調子に乗って1人で突っ走るから、こうやって追い詰められるんだよ。この無鉄砲女」

祥子「いざとなれば、立希が助けに来てくれると信じていたからこその果敢な特攻ですのよ? 貴女こそ、来るのが遅いのですわ」

立希「なんで私なんだよ……しかもせっかく助けてやったのにふてぶてしくて、可愛くないやつ」

祥子「今大事なのは、可憐さではなくこの状況を打破するための勝気ではなくて?」

立希「フン……。まぁ、ここまで出張っておいて負けたらダサいしね」

祥子「さて。どうやら残りチーム全員が囲んできてる以上、穴熊決め込んでもジリ貧ですわ。となれば、執る方針は自ずと限られますよわね?」

立希「……はぁ。結局、お前好みの戦略に打って出るしかないか」

 

 ニヤリと尋ねるさきちゃんに、いかにも不承不承な顔でたきちゃんは両手の水鉄砲を足下の水に突っ込む。これから行う激闘に向けて補給をしてるのだ。でもさきちゃんは少し険しい顔で抱きかかえるほど大きい水鉄砲を見つめる。

 2人の会話から作戦を察した私は、彼女が何を欲してるか分かった。だから、ともりちゃんの水鉄砲を貰って、私のと一緒に振りかぶる。

 

そよ「さきちゃん!」

 

 さきちゃんが振り向いた瞬間に、2丁の水鉄砲を真っ直ぐ投げる。彼女は一瞬驚き、すぐ理解してくれた。

 

祥子「ナイスですわ、そよ!」

 

 さきちゃんは同じ様に両手サイズの水鉄砲を山なりに投げながら、飛んで来た水鉄砲をそれぞれ片手で器用にキャッチ。敵陣のど真ん中で大暴れするんだから、取り回しづらい大型銃より小回りと手数重視の2丁拳銃が適してる。武器に憂いのなくなったさきちゃんは、快活に口角をあげながら水鉄砲を指でクルクル回す。

 そして、カチャ。たきちゃんに銃口を1つ向けて悪戯っぽく微笑んだ。

 

祥子「せっかくなんですから、一緒に踊ってくださいまし。それとも、ついてこれる自信がありませんか?」

立希「ほざけ。ライブでアドリブかますじゃじゃ馬キーボードに、誰が合わせてやってると思ってる」 

祥子「では今回も、私の演舞に安定した律動を与えてくださいませ。私のドラムさん?」

立希「誰がお前のだ、誰が」

 

 たきちゃんは漫才でツッコミがビンタするように、銃で向けられた銃口をペシッと払う。

 片方は背中を守られてる頼もしさからか自信満々な笑みを浮かべ、もう片方はクールな表情ながら凛とした目つきに深い集中力が伺える。

 まさにライブに臨むときの表情まんまの2人。そこに、ともりちゃんからまた声が飛ぶ。

 

燈「ふ、2人とも! また敵が、今度は両側から回ってきてるよ!」

立希「……祥子」

祥子「えぇ。その2人を皮切りに、残り12人もまとめて倒しますわよ」

 

 忍び寄る新たな刺客をギリギリまで引き付けた2人。

 やがて同時に飛び出してきた相手に、たきちゃんとさきちゃんも同時に障害物から飛び出しながらポイを撃ち抜く。

 その勢いのまま、2人は虎穴虎子な決戦へと走り出した。

 

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