「おい! ターゲットの嬢ちゃんとその仲間が、2人で特攻してきたぞ!」
「へっ、ノコノコ撃たれに来やがって。お前ら! 水着が透けるくらい水攻めにしてやれ!」
「こっちはまだ10人以上いるんだ、女2人で勝てるわけないだろ!」
飛んで火に入る夏の虫とでもいうように、敵チームが障害物を盾に武器を構えるのが、さきちゃんたきちゃんを後ろから見守る私からも見えた。
確かにただの女の子2人組じゃいいようにされて終わりだったと思う。でも残念、あなたたちが相手にするのは普通の2人組じゃない。
1年以上音楽と思い出を重ねてお互いを知り尽くし、負けん気の強さが同レベルだから波長が合う、勝負事においてはCRYCHIC1のコンビ。その2人を舐めてると、情けない醜態晒すのはそっちだと思う。
祥子「ハッ! まず1人!」
立希「こっちで2人目」
何本も飛んでくる放水を搔い潜りながら両翼に広がった2人は、一番手近な敵のポイを狙い撃つ。これで残り10人。
そこから2人は、尚も続く水鉄砲の雨を避けながら陣の真ん中に戻るように距離を取る。自然、背中合わせで隣り合う2人はワルツのようにクルクル回りながら双銃を放つ。私もさきちゃんと交換した水鉄砲で遠くから牽制に混じる。
敵は計5本の水線に妨害されていたとはいえ、恰好の的2人を落とせないのに苛ついたらしい。
「これ以上調子に乗せんな! まずは助太刀に来た黒髪の方から落とすぞ!」
そんな声が響いたと思ったら、3本の水がたきちゃんを襲う。
寸でのところで横っ飛びし逃れた彼女だけど、足を着いた瞬間を狙って撃たれた水鉄砲があった。
流石に対応できないのか焦った顔になるたきちゃんだったけど。
その水は、別角度から飛んで来た放水に阻まれてバシャっと弾ける。たきちゃんのポイに触れることなくボトボト落ちた。
たきちゃんは放水が飛んで来た方向を苦々しい顔で睨む。守られた側にかも関わらず、余計なことを、とでも言わんばかりに。
「まったく。世話が焼けるパートナーですわ」
涼しい顔したさきちゃんが、敵を牽制する片手間で、たきちゃんの致命傷となる水だけ撃ち消したのだ。いやツッコミ所多いけど、敵の銃撃を撃つって……それだけでもう人間技じゃないよ、さきちゃん。
しかし、そんな彼女も無敵ではない。なぜなら手は2本しかないし、後ろが見えるわけじゃないから。
今度はさきちゃんに向けて波状攻撃がされる。絶妙な間をおいて放たれる水の3連線を、さきちゃんはステップで避け、両手の銃で相殺しながら防ぐ。でもそれで終わらない。
さきちゃんがステップした瞬間、敵2人がさきちゃんの死角へ飛び出して迫っていたのだ。彼女の両足が宙にある間に2方向から撃つという、どんな人間でも逃げられない
「どの口が。普段からしょっちゅう世話焼かせてるのはそっちでしょ」
さきちゃんに迫る2人の敵はトリガーを引く前に、後ろからV字に飛んで来た水によってポイを破られる。残りの敵からの牽制攻撃をジグザグに走ったりスライディングしながら避けるたきちゃんが、最後にジャンプしながら2丁水鉄砲をババッとぶっ放したのだ。着地した瞬間も即その場から離れて隙を晒さない徹底ぶり。油断なくできることを確実に決めるのは、堅実なたきちゃんらしかった。
「お、おいおい……これでもう7人落とされたのに、こっちは嬢ちゃん1人も落とせてないぞ……」
「完璧に隙つけたはずだったのに……何なんだよあのJK共は!」
「ふふっ、悪くないリズムですが。もっとガンガン上げていきましょ、立希!」
「やられそうだったくせによく言うよ。調子に乗ってないでペース守れ、祥子」
相変わらず正反対なこと言い合うくせにこれ以上ないコンビネーションな2人。敵の攻撃が再び始まると、弾かれたように2人は散った。
——そこに、敵陣から見て反対側へ回り込んでいた伏兵が飛び出してくる。
今まで来なかった方向からの攻撃に、2人は注意すら向けてない。伏兵はほくそ笑んでいた。
でも笑うには早過ぎだし、流石に
「そよちゃん!」
「オッケーともりちゃん!」
私はともりちゃんが指さした方を狙い撃つ。矢のように射出した水弾が、伏兵のポイを遠くから撃ち抜いた。
伏兵は私たちとあの2人に挟まれた場所まで来ていたのだ。なら、索敵役のともりちゃんと私で対処しなきゃ仲間としてあり得ない。
私はカウントしていた残存勢力を2人に教えてあげる。
「あと7人だよ、2人とも!」
「祥ちゃん立希ちゃん、が、頑張って!」
「ナイス燈! 助かった!」
「貴女ね……露骨にそよをスルーするんじゃありませんわ」
あからさまに私をいないもの扱いしたたきちゃんに物申したいところだけど、どうやらそれどころじゃなくなった。
敵がさきちゃんたちを雑に撃って牽制しながら、何か言葉を交わすように顔を見合わせてる。
この戦況で、完全に余裕を失った顔色から想像するに……嫌な予感がする。
「今だ! 全員突撃!」
「2人で散々好き勝手しやがって……覚悟しろ!」
嫌な予想が当たってしまい、こちらがされて一番困る特攻に出られた。しかも、2人を360度取り囲みような陣形。被害度外視で、確実にたきちゃんさきちゃんを落とすつもりだ。
こっちは2人を失ったら戦力激減。ここまで2人が奮闘したのに最後は優勝できませんでした、は流石に気分良くない。私も助太刀にいくべきか逡巡したときだった。
「立希!」
その声も表情も、窮地に追い込まれたものじゃなかった。むしろ好機を言わんばかりに目を輝かせるさきちゃんは、片方の水鉄砲を空に放り投げながら、たきちゃんに手を伸ばす。
「……あ~もう! お前ってやつは、どこまでも無茶苦茶なリーダーだよ!」
たきちゃんもその意図を瞬時に受け取る。こっちは眉間に皺を寄せ悪態つきながらも、両手を上に放り出して空にする。
そしてさきちゃんの手を両手でガシっと掴み、足はその場で踏ん張らせた。そこまで見て、ようやく私は2人がやろうとしてることに気付く。
まさか女子がそんな荒っぽい手に出るなんて思わなかったから。
「絶対手離すなよ! ただでさえ濡れて滑りやすくなってるんだから!」
「貴女がヘマしなければ余裕ですわ!」
たきちゃんはさきちゃんをグルンと振り回したのだ。ジャイアントスイングだ。まさかの女子高生同士で。
振り回される側のさきちゃんは、組体操の扇みたいな恰好でたきちゃんの足首あたりに足を揃えながら……
ズパパパパパパッッ!!!
周囲を囲む敵目掛けて、絶え間なく水鉄砲を連射する。まるでスプリンクラーみたいな協力業は、1周目でカスるくらいまで狙いを近づけ、2周目で半分のポイに命中させ、3周目で確実に残りを撃ち落していた。
スイングを収束しながらさきちゃんを離したたきちゃんは、落ちてきた水鉄砲をパシパシッとキャッチしながら、3つ目を弾いてさきちゃんにパスする。さきちゃんは優雅にターンして体勢を整えながら、不敵な笑みで横薙ぎにキャッチした。
……何から何までスタイリッシュ過ぎる。アクション映画か何かかな?
そんな2人の周りには、信じられないものを見るような目でへたりこむ敵の姿が6人。
……6人? 残りは7人だったはずだけど。
「クソッ、サバゲーチームの俺たちが、1人も落とせねえなんて……」
「女相手に情けねぇ……
立希「どういうこと? 残りチーム全員結託してたんじゃ……」
祥子「どうやら……1人、高みの見物を決め込んでいた大物がいらっしゃるようですわね」
さきちゃんが敵陣の奥へと視線を向ける。その先から、スキンヘッドの大男が1人、水を派手に踏み散らしながら歩いて来た。
「やるじゃねぇか、嬢ちゃんたち。天晴だったぜ。……ここまではな」
さきちゃん達が買ったような大型水鉄砲2丁を、両手に1つずつぶら下げながら、ラスボスのような風体の大男は獰猛に笑う。
これで15人目。無事計算が合ったことを確認した私は、堂々と障害物の陰から出てパシャン、パシャンとさきちゃんたちの元に歩み寄る。慌てるようにともりちゃんもパシャパシャついてきた。
今度こそ、正真正銘の終わり。ここまで来たからには、なるべくみんなで固まって勝利の時を迎えよう。
「俺の可愛い子分達まで葬ってくれた礼だ。その綺麗な顔ごとポイを水浸しにしてやるから、覚悟して……」
そよ「お疲れさきちゃん、たきちゃん。映画か漫画みたいな立ち回りだったねー」
祥子「えぇ! 心踊る戦いでしたわ!」
燈「うん。2人が戦ってるの、本当に踊ってるみたいで綺麗だったよ?」
立希「そ、そう? まぁ私は祥子に合わせてあげただけだけど……ありがと」
「……って、何終わったみたいに和んでやがる! なめてんのか!」
大男は吠えながら大型水鉄砲を2丁ともぶっ放してきた。さきちゃんが買った水鉄砲よりも更に強く速い水撃が、ポイではなくその下、顔面へと奔ってくる。たぶん改造銃、と後々聞いて納得することになる。
そんな凶器的水圧に対して、さきちゃんが私を、たきちゃんがともりちゃんを、それぞれ肩を抱きながら回避させてくれた。躱さなくてもポイに直撃しないとはいえ、耳元で空気を裂く音していたあの勢いは痛そうだから助かった。
燈「あ、ありがと立希ちゃん」
そよ「さきちゃんもね」
祥子「流石にあれは手持ちの水鉄砲じゃ相殺できそうにありませんからね」
立希「そんなもんを燈の顔に撃ち込んできた報いは受けさせたいところだけど……」
大男「へっ、やっとこっち向いたか。姦しいお喋りは終いにして、そろそろ決着つけようや……」
祥子「その必要はありませんわ」
溜息混じりの被せ声に、大男のニヤつきが消える。
大物ぶって登場したくせに、勘が鈍いのか警戒心の足りない小物なのか。
険しい目つきで睨んでくる大男を、もはや私は少しも驚異に感じていない。
大男「どういうことだ?」
祥子「既に決着はついている、と言ってるのです」
大男「もう勝った気でいるなんて、めでたいオツムしてやがる」
立希「は? 慢心してるのはむしろそっちなんだけど」
大男「あ?」
そよ「大ヒントです♪ 私たちはまだ1人も脱落してませんよ?」
大男「……!?」
男の顔が凍りついた。その瞬間に、顔の上でポイがバシャッと大穴を開けた。
男は滴り落ちた水に顔を濡らしながら、ぎちぎちと振り返る。その先には、大仰な水鉄砲を構える女の子が1人。
派手に乱闘を繰り広げ始めた辺りで、密かに敵陣の裏へ忍び回り込んでいた、むつみちゃんだった。
睦「……チェックメイト、というには相手に品格が足りないかな」
立希「本当においしいところ持っていったし」
そよ「まぁここで活躍しなかったら、あのスナイパーライフルみたいな水鉄砲買っただけで終わっちゃうからね」
燈「これで、全員、倒した?」
祥子「えぇ! 私達CRYCHICの、優勝ですわ〜!」
そよ「おぉ〜♪」燈「お、おぉー!」立希「ふぅ、疲れた……」
大男「嘘だろ……女子高生相手に、完封される、だと……」
睦「……ドンマイ。あのトンデモお嬢様と……その子に置いてかれたくない平凡少女が相手だったのが、貴方たちの運の尽きだった」